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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第9回 日本・メコン地域諸国首脳会議共同声明

[場所] マニラ
[年月日] 2017年11月13日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.2017年11月13日,日本国,カンボジア王国,ラオス人民民主共和国,ミャンマー連邦共和国,タイ王国及びベトナム社会主義共和国の首脳は,フィリピンのマニラにおいて,第9回日本・メコン地域諸国首脳会議のために一堂に会した。

2.首脳は,2017年8月6日に開催された第10回日・メコン外相会議及び201

7年9月10日に開催された第9回日・メコン経済大臣会合における議論及び成果を評価し,様々な枠組みを通じて,メコン地域の開発,連結性及び持続可能性のための協力を更に推進していくとのコミットメントを再確認した。

3.首脳は,「『新東京戦略2015』の実現のための日・メコン行動計画」,「日・メコン連結性イニシアティブ」及び「メコン産業開発ビジョン(MIDV)」とその行動計画といった具体的な計画によって支えられる「新東京戦略2015」の実施が進捗していることを高く評価した。「新東京戦略2015」の実施に関し,日本は,コミットした7,500億円の支援のうち3分の2以上を実施した。メコン諸国の首脳は,各国の開発優先課題及び自主性を尊重する日本の支援に謝意を表明し,「『新東京戦略2015』の実現のための日・メコン行動計画」の完全な実施に期待を表明した。メコン諸国の首脳は,「質の高い成長」の実現及び開発格差の縮小に向けた日本の取組が地域に重要な貢献をしてきたことに満足の意を持って留意した。メコン諸国の首脳はまた,地域の持続可能な開発につながり,経済回廊を活性化させる,日本の民間セクターによる雇用創出及び人材育成を評価した。加えて,メコン諸国の首脳は,エーヤワディー・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)マスタープランの実施における日本の補完的な役割を歓迎した。

4.首脳は,東南アジア諸国連合(ASEAN)設立50周年を祝し,ASEANが主導するメカニズムにおけるASEANの一体性及び中心性の維持及び強化の重要性を強調した。首脳はまた,政治対話,並びに政治及び経済・貿易課題,防衛・安全保障協力並びに人的交流を含む共通の関心・懸念事項に係る協力に関する協議を通じて,日本とASEAN,特に日本とメコン諸国との間のパートナーシップを更に強化する決意を表明した。本年はまた,日本の国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の形成につながった,カンボジアにおける,日本にとり初めての本格的な平和維持活動への参加から25周年となる。首脳は,インド太平洋地域において,ルールに基づく自由で開かれた海洋秩序を守り,同地域の安定及び繁栄の推進に共に取り組むことの重要性を強調した。この点に関し,メコン諸国の首脳は,日本が,メコン地域及びそれを越えた地域の連結性の推進にも資する,「自由で開かれたインド太平洋戦略」といった新たなイニシアティブを通じて,地域及び世界での協力及び発展に積極的かつ建設的に貢献することを歓迎した。

「生きた連結性」の実現を通じたメコン地域の発展への貢献

5.メコン諸国の首脳は,「質の高いインフラパートナーシップ」及び「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」の実施を通じて「生きた」連結性を実現するために日本が実施したプロジェクト及び日本のコミットメントを歓迎した。

6.「ハード連結性」に関して,最近の空港及び港の整備・拡充事業により,2015年以来,空と海の連結性が強化されてきている。そのような事業には,カンボジアにおけるシハヌーク港新コンテナターミナル整備計画や,ミャンマーにおけるティラワ地区インフラ開発計画が含まれる。陸の連結性について,日本は,ミャンマーにおいてヤンゴン・マンダレー鉄道整備計画に取り組んでいるほか,バンコク-チェンマイ高速鉄道を含むタイにおける様々な鉄道プロジェクトでの協力を継続し,さらに,ベトナム及びラオスと共に,ビエンチャン・ハノイ間の陸路輸送による連結性強化に取り組んでいる。首脳は,質の高いインフラ推進に向けたメコン諸国の取組を称え,東西経済回廊に沿って輸送インフラを整備することの重要性を強調した。このため,首脳は,官民連携パートナーシップ計画(PPP)を推進する必要性を強調するとともに,開かれ,透明性があり,排他的でない形で,かつ質の高いインフラのための国際スタンダードに従って,インフラ投資を行うことの重要性を強調した。

7.首脳は,「ソフト連結性」の強化が,各国及び地域における効果的な物流システム及び産業の更なる発展の鍵であるとの認識を共有した。第10回日・メコン外相会議では,通関手続の円滑化やインフラ管理・都市計画分野での人材育成を始めとする「ソフト」インフラに関する課題に取り組むことが決定された。この点について,メコン諸国の首脳は,東京にて「ソフト連結性」に係る第2回ワークショップを開催するという日本の意図及びこれらの分野に従事する専門家に学習及び議論の機会を提供するため「ソフト連結性」に特化した複数の研修及び招へいプログラムを実施するという日本の提案を歓迎した。メコン諸国の首脳はまた,メコン諸国における様々な分野での「ソフト連結性」強化のための日本による長年の技術協力を評価した。日本の首脳は,2017年に国際協力機構(JICA)が実施した調査により特定された結果及び課題を考慮しつつ,更なる支援を検討する意図を表明した。メコン諸国の首脳も,それぞれの取組を加速する意図を共有した。

8.首脳は,持続可能な質の高い成長の鍵として人材育成の重要性を強調した。首脳は,日本が2016年度に1万2千人以上に対し能力構築支援を行った「産業人材育成協力イニシアティブ」の進捗を評価した。日本の首脳は,「イノベーティブ・アジア」の下での学生受入れについて,これまでの進捗に満足の意を表明した。

9.首脳は,第9回日・メコン経済大臣会議で採択された「つながるメコン産業開発」のコンセプトを,政府・産業間の連携を通じたMIDVの更なる実施に向けた日・メコン間の経済及び産業分野での協力の将来的な方向性として歓迎した。同コンセプトは,「つながる産業」,「つながる物流」及び「つながる人材」の3つの要素から構成される。同コンセプトを実現するため,メコン諸国の首脳は,次に挙げる分野における日本の具体的な支援を評価した:a)産業構造の高度化及び新産業育成,b)地方における経済競争力の強化,c)質の高いインフラ投資の促進及びインフラ連結性の強化,並びにd)同地域のインダストリー4.0を推進するための能力構築支援を含む,産官学連携による人材育成及び中小企業のIT能力強化。加えて,メコン諸国の首脳は,日本が,タイとの連携の下,メコン諸国の加工分野における技術向上のための第三国研修プログラムの枠組を通じて,人材育成を支援してきたことについて,感謝の意を持って留意した。メコン諸国の首脳は,「つながるメコン産業開発」コンセプトの実施を通じて,メコン圏をアジアのバリューチェーンネットワークの核とするというコミットメントを再確認した。

10.首脳は,東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA),アジア開発銀行(ADB),日本ASEANセンター及び他の関連する国際機関と更に連携していく意図を新たにした。この見地から,首脳は,OECD東南アジア地域プログラムの進捗及びタイにおけるOECD国別・プログラムの開始を歓迎し,タイが同プログラムを最大限に活用することへの期待を示した。首脳はまた,タイ・カンボジア国境からカンボジア国道5号線に至る事業の効果的な実施に向けた,日・タイ間,特にJICAとタイの周辺諸国経済開発協力機構(NEDA)間の協力の進捗について,満足の意を持って留意した。首脳はまた,メコン諸国における人材育成及び持続可能な開発目標(SDGs)の実施に向けた日・タイの共同の取組に焦点を当てた,タイ国際開発協力機構とJICAとの間のパートナーシップ合意が2017年9月15日に署名されたことも評価した。

11.首脳は,自由で公正な貿易及び投資がASEAN地域の経済成長及び繁栄及び世界の経済にとって不可欠であること,また,いかなる保護主義的傾向も克服されるべきであることを強調した。この文脈で,首脳は,日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP),東アジア地域包括的経済連携(RCEP)及び環太平洋パートナーシップ協定(TPP)といった経済連携協定は,経済統合を深化させ,サプライ・チェーンの成長を推し進めるべきであると認識した。メコン諸国の首脳は,メコンが力強い経済成長及び潜在性を有する魅力的な投資先であり続けていることを踏まえ,日本企業からの投資を歓迎し,ビジネス環境の改善のために協力することを確認した。

人間の安全保障及びグリーン・メコンの実現を含む持続可能な開発に向けた措置

12.首脳は,メコン諸国における生活水準の改善は持続可能な開発によって達成されるとの見方を共有した。メコン諸国の首脳は,グリーン成長に向けた日本の支援並びに日・ASEAN統合基金(JAIF)の活用及びERIAとの連携によって,廃棄物処理,持続可能な都市,排水処理及び海洋汚染,化学物質並びに生物多様性に対処する質の高い環境インフラ整備を含む様々な分野での環境協力を更に推し進めることを目指した「日ASEAN環境協力イニシアティブ」を歓迎した。首脳は,洪水,干ばつ及び塩害といった自然災害による被害に懸念を表明し,気候変動による自然災害の様々な影響に速やかに対処すべきであるとの見方を共有した。この観点から,日本は,カンボジアにおける洪水防止・灌漑整備計画,ベトナムへの地球観測衛星のための施設供与及び2013年以降540名以上に対し行ってきた災害リスク管理訓練プログラムを含め,2016〜2017年度で1,450億円(2017年10月現在)相当の災害リスク管理及び気候変動対策に関する事業を実施してきた。加えて,首脳は,自然災害に起因するリスクに対抗するために,「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」を設立するというカンボジア,ラオス,ミャンマー及び日本の間で共有された意図を歓迎した。首脳は,2018年2月にタイ及び日本が共催し,特に気候変動及び災害リスク管理について議論され得る,第5回グリーンメコンフォーラムの準備に向けて協力することを再確認した。

13.首脳は,水資源の持続可能な利用及び管理並びにメコン河の環境保全の高い重要性を強調し,特にメコン河委員会を始めとする地域及び国際機関との緊密な協力を再確認した。メコン諸国の首脳は,洪水及び干ばつ管理並びにメコン河の環境保全に関する事業を通じた日本の支援に対し,謝意を表した。メコン諸国の首脳はまた,特に持続可能な水資源管理並びに水資源及び環境管理に関する能力構築の分野で,日本からの継続的かつ貴重な支援に対する期待を表明した。

14.首脳は,包摂的で持続可能な社会経済開発を目指して,メコン地域においてより良い保健制度を提供する意思を表明した。首脳は,「新東京戦略2015」の採択以降,地域における「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の実現に向けた進捗が見られていることを認識した。メコン諸国の首脳は,UHCにコミットしており,よって他のアジア諸国のモデルとなる,選ばれた国の保健分野の政策立案者及び管理職に対する能力構築,カンボジアにおけるサンライズ・ジャパン病院の開設,ミャンマーにおけるマグウェイ総合病院整備計画並びに日本とメコン諸国の病院間の技術協力の進捗を含む,官民双方によるこの分野での日本の取組を称えた。メコン諸国の首脳はまた,相互主義的及び相互互恵的アプローチを通じて,人材育成,必要な保健制度の推進及び医薬品アクセスの向上等を含む,地域包括ケアシステム及び自立支援型介護の促進を目的とした,日本の「アジア健康構想」について,関心を持って留意した。

15.首脳は,地域の安定を維持するため,各国における法執行能力の強化が不可欠であると改めて表明した。この文脈で,メコン諸国の首脳は,巡視船の供与を含む海洋法執行能力の強化並びに入国管理局及び他の関連機関の人材育成,並びにテロにつながる暴力的過激主義への対策を通じた東南アジアにおけるテロ対策能力の強化のための日本の支援を高く評価した。

16.首脳は,日本とメコン諸国との間の相互理解及び信頼を深めるに当たり,文化的及び人的交流が果たす役割を強調した。首脳は,JENESYS2017,日本語教育支援及び双方向の芸術文化交流を推進する「文化のWAプロジェクト」,並びに東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた,「SportforTomorrow」プログラムを通じたスポーツ分野での協力といった事業の実施を評価した。さらに,首脳は,アセアン工業系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)が日本及び東南アジアの学者及び学会間の結びつきの強化に貢献していることに,満足の意を持って留意した。同時に,首脳は,人的交流の増加から生じる課題に対処する用意があることを表明した。この文脈で,メコン諸国の首脳は,2017年6月6日に日ベトナム間で,また2017年7月11日に日カンボジア間で,技能実習制度の適正な実施に関する協力覚書が署名されたことを歓迎した。首脳は,かかる覚書が日本と他の関係国との間で速やかに署名されるよう,引き続き協力していくとの意図を確認した。

地域・国際情勢

17.首脳は,朝鮮半島における緊張の高まりに対する重大な懸念を改めて表明し,これまでの核実験及び弾道ミサイルの発射に加え,9月3日に北朝鮮が実施した核実験を非難した。首脳は,北朝鮮に対して,全ての関連する国連安保理決議の下での義務を完全かつ即時に遵守するよう強く求めた。北朝鮮側の具体的な行動が非核化に向けた真剣な対話に戻るための重要な措置となる。日本の首脳は,北朝鮮との対話のための対話を求めるべきではなく,北朝鮮が核・ミサイル計画の廃棄にコミットし,対話を求めてくるよう,北朝鮮の圧力を最大限まで高めるべきと述べた。首脳は,平和的な方法による,朝鮮半島の完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な朝鮮半島の非核化への支持を改めて表明した。メコン諸国の首脳は,朝鮮半島の平和及び安定に貢献するため建設的な役割を果たす用意があることを改めて表明した。首脳は,拉致問題の即時解決を含め,人道上の懸念に対処することの重要性を強調した。

18.首脳は,とりわけ,国連海洋法条約を含む国際法に基づく,地域における自由で開かれたシーレーンの維持・促進等を通じた海洋安全保障及び海上安全の重要性を強調した。メコン諸国の首脳は,「自由で開かれたインド太平洋戦略」を通じたものを含め,開発及び域内協力への日本の建設的な貢献に留意した。首脳は,能力構築支援,共同訓練,海洋状況把握(MDA)を含む情報共有といった海洋法執行機関間の協力の強化の重要性に留意した。

19.首脳は,南シナ海に関連するいくつかの事項への懸念を議論するとともに,ASEANと中国との関係における前向きな進展に留意した。首脳は,南シナ海行動規範(COC)の枠組みの採択に勇気付けられ,関係国に対し,実質的かつ実質的なCOCの可能な限り早期の策定を強く求めた。首脳は,第20回中ASEAN首脳会議におけるCOCの実質的な交渉開始の発表を歓迎した。

20.首脳は,南シナ海における平和,安全保障,安定,海上安全及び海洋安全保障,ルールに基づく秩序,並びに航行及び上空飛行の自由を維持し,促進することの重要性を再確認した。この点に関し,首脳はさらに相互信用及び信頼の強化の必要性を再確認し,非軍事化及び「南シナ海行動宣言(DOC)」において言及された事項を含む,南シナ海における状況を更に複雑化し,緊張を高め得る,クレイマント国及びその他の国による全ての活動の自制の重要性を強調するとともに普遍的に認識された国際法の諸原則及び国連海洋法条約に基づく紛争の平和的解決を遵守する必要性を強調した。

21.首脳は,将来の日・メコン協力について議論し,第10回日・メコン首脳会議を2018年に日本で開催する意図を確認した。