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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第11回日本・メコン地域諸国首脳会議共同声明

[場所] タイ,バンコク
[年月日] 2019年11月4日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.2019年11月4日,日本国,カンボジア王国,ラオス人民民主共和国,ミャンマー連邦共和国,タイ王国及びベトナム社会主義共和国の首脳は,タイのバンコクにおいて,第11回日本・メコン地域諸国首脳会議のために一堂に会した。

2.日本とメコン各国の首脳は,タイ・バンコクにおいて,2019年8月3日に開催された第12回日メコン外相会議及び2019年9月9日に開催された第11回日メコン経済大臣会合における成果を評価し,「東京戦略2018」の下で,メコン地域の持続可能な開発のための協力を更に推進していくとのコミットメントを再確認した。

東京戦略2018の三本柱の下での進展

生きた連結性

3.首脳は,東京戦略2018に沿って,メコン地域において,「ハード連結性」,「ソフト連結性」及び「産業連結性」を更に強化する重要性を再確認した。この点において,首脳は,日ASEAN協力及び日メコン協力の更なる強化のため,また,ASEAN連結性マスタープラン2025(MPAC2025)と,日ASEAN運輸パートナーシップ,質の高いインフラパートナーシップ,東京戦略2018等の様々なリージョナル,及びサブリージョナルな連結性戦略との相互効果を高めるものとして,第22回日ASEAN首脳会議での連結性に関する共同声明の採択を歓迎した。首脳は,3本柱の下での,旗艦事業又は早期に実施できるプロジェクトを特定することの重要性に留意した。メコン各国の首脳は,日ASEAN統合基金(JAIF)の下でのJAIF2.0への10億円の追加拠出(2019年3月)を通じた,ASEANの発展に向けた日本の継続的な支援及び貢献を評価すると共に,その強化への期待を示した。

4.首脳は,メコン地域においてスマートシティを実現するため,メコン各国と日本による努力を更に強化するための意志を共有した。この点に関し,首脳は,2019年10月に横浜において開催された日ASEANスマートシティ・ネットワーク・ハイレベル会合を歓迎した。メコン各国と日本は,ASEANスマートシティ・ネットワークの枠組みに基づき,持続的な経済社会発展及び環境保護を促進するためにスマートシティを実現するため,緊密に連携していく。

ハード連結性

5.首脳は,陸の連結性・海の連結性・空の連結性について,メコン各国内及びより広域な地域において「ハード連結性」強化に貢献するインフラ整備の進展を歓迎した。関連して,首脳は,2019年6月に開催されたG20大阪サミットで承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を始めとする文書で言及され,適用可能な限り全ての協力に適用され,開放性,透明性,経済効率性,借入国の債務持続可能性といった質の高いインフラ投資の国際スタンダードの重要性を確認した。

6.首脳は,メコン地域の経済発展に補完的な推進力をもたらす持続可能なエネルギー及び質の高いエネルギーインフラ開発の維持・促進のために,メコン各国と連携して行う日米共同プログラムである日米メコン電力パートナーシップ(JUMPP)を歓迎し,期待を示した。

ソフト連結性

7.首脳は,「ソフト連結性」強化に貢献する様々なプロジェクトを歓迎した。この点について,首脳は,情報通信技術(ICT)が,メコン各国の連結性強化における最も重要な要素の一つになったという認識を共有した。メコン各国の首脳は,サイバーセキュリティや放送における協力のようなICT分野における日本が拠出する様々なプロジェクト及びアジア・太平洋電気通信共同体(APT)の様々な活動への日本の貢献を評価した。メコン各国の首脳は,特にセキュリティ及び貿易円滑化分野における税関職員に対する能力構築プログラムに関する技術協力への日本の貢献を認識した。また,首脳は,電子政府,スマートシティ,郵便のネットワーク及びサービスの近代化のような郵便分野における協力促進を歓迎した。

産業連結性

8.首脳は,「産業連結性」を強く促進するものとして,第11回日メコン経済大臣会合においてメコン産業開発ビジョン2.0(MIDV2.0)が採択されたことを歓迎した。また,首脳は,デジタル経済の進展や持続可能な開発への要請のような新たな課題に対応するための努力は,メコン産業開発ビジョン2.0を実現し「イノベーションを通じた生活の質」を向上させるためには,必要不可欠な要素であることを明確化し,また,デジタル化に向けた挑戦,生産性向上のための人材開発,スタートアップ企業を含む中小零細企業の競争力強化に取り組むべきであると強調した。

人を中心とした社会

9.首脳は,日本とメコン各国の相互理解の深化と共に人々の交流の加速を促進した「日メコン交流年2019」イニシアティブへの評価を示した。首脳は,日メコン交流年記念事業として既に120件以上の事業が認定・実施されたことに留意した。さらに,首脳は,日本とメコン各国の間で文化的及び知的交流を促進する国際交流基金アジアセンターの取組を歓迎するとともに更なる貢献に対する強い期待を表明した。

人材育成

10.首脳は,人を中心に据えた取組がメコン地域における経済発展をよりバランスが取れ,持続可能なものにすることを強調した。この観点において,首脳は,世界の成長センターとなるためのメコン各国の努力を更に後押しする「産業人材育成協力イニシアティブ2.0」の下で,アジアにおける約8万人の産業人材育成進展の支援のため日本が打ち出したイニシアティブの重要性を強調した。特に,首脳は,ASEANと日本政府との間で新たに交わされた技術協力協定の下で実施される研修事業に対する高い期待を示した。また,メコン各国首脳は,グローバル金融連携センター(GLOPAC)を始めとするニーズに応じた研修及びフェローシップ・プログラムを通じた,メコン各国における金融規制当局や中央銀行の職員への日本の継続的な技術協力も歓迎した。メコン各国の首脳は,研修コースを通じて,農業関連の従事者や公務員の能力強化を行う「アセアン地域の農業分野におけるキャパシティ・ビルディング支援事業」を評価した。また,メコン各国の首脳は,日本の文化遺産保護分野における人材育成促進に対する日本の長きに渡る貢献を評価した。日メコン交流年記念事業として,メコン各国と日本は人材育成に資する様々な事業を実施した。

ヘルスケア

11.首脳は,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けた進展を加速させることを再確認した。この観点から,首脳は,アジア健康構想(AHWIN)の下,ERIAと連携し,医療,介護,予防及び健康な生活を実現する社会づくりを含むヘルスケア関連産業を振興するための全ての取組を強化する意図を共有した。この文脈で,2019年7月,ベトナムと日本はアジア健康構想に関する協力覚書に署名した。

教育

12.首脳は,アジアの若い世代に対し,日本最先端の科学技術を経験する機会を提供する,日本・アジア青少年サイエンス交流事業を歓迎した。

法律及び司法協力

13.メコン各国の首脳は,法律及び司法分野における,日本のメコン各国に対する法制度・司法改革のための技術協力並びに刑事司法実務家及び法律専門家の能力構築に関する技術協力を評価した。首脳は,日本において,2020年,京都で,第14回国連犯罪防止刑事司法会議が開催されることに注目した。

グリーン・メコンの実現

14.首脳は,メコン地域でのSDGsの実現において不可欠な要素であるグリーン・メコンの実現の重要性を再認識した。メコン各国の首脳は,質の高い環境インフラ整備,生物多様性の保護,海洋汚染及び河川水質汚染に取り組むためのメコン各国の努力を日本が支援する日ASEAN環境協力イニシアティブを評価した。首脳は,2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有し,「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組み」に参画する機会を認識した。首脳は,2019年7月8日にバンコクにおいて,タイと日本の共催の下,幅広い世代と分野の参加者が,メコン地域でSDGsを促進するため課題に関して議論し意見交換を行った第6回グリーン・メコン・フォーラムのインプットを歓迎した。さらに,首脳は,2021年の第12回持続可能な都市ハイレベルセミナーのラオスでの開催を歓迎した。首脳は,2019年10月28-31日にハノイにおいて,日本,ベトナム,国連地域開発センターの共催で開催されたアジア地域での環境的に持続可能な交通(EST)の実現を目指すアジアEST地域フォーラムを歓迎した。

防災及び気候変動

15.首脳は,自然災害及び人為的災害が持続可能な開発に与える深刻な影響について認識を共有した。この観点から,首脳は,「仙台防災枠組2015-2030」を考慮しつつ,メコン地域における防災及び減災に緊密に連携して取り組むことを誓った。首脳は,東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)の最初の成果である,ラオス及びミャンマーを対象とした自然災害リスク保険プールが,今年の運用開始に向け順調に調整が行われていることを歓迎した。首脳は,対処能力の強化と同地域の気候変動に対する共同対処のための取組を再確認し,各々の「自国が決定する貢献(NDC)」を通じ,パリ協定を完全に履行するとの強いコミットメントを改めて表明した。この文脈で,首脳はハイドロフルオロカーボン(HFC)ライフサイクルマネジメントを含めた二国間クレジット制度(JCM)の推進に関する協力を継続する。

水資源管理

16.首脳は,メコン河流域における持続可能な水資源管理や開発を含む,水に関する問題に対処するために,日メコン協力とメコン河委員会(MRC)その他の地域機関との連携を強化するとのコミットメントを強調した。首脳は,メコン各国の水資源管理における能力強化及び先端技術の適用強化のための各国の取組を再確認した。首脳は,深刻な洪水や干ばつという共通の問題に直面している全てのメコン各国にとって,この分野での日本の知見は極めて有益で時宜を得たものであるという認識を共有した。

循環経済

17.首脳は,アジア太平洋3R推進フォーラム第9回会合における「3R及び循環経済によるプラスチックごみ汚染防止に向けたバンコク3R宣言」の採択に留意した。

東京戦略2018の下での協力の方向性

18.首脳は,東京戦略2018の下での日メコン協力は,SDGs,自由で開かれたインド太平洋(FOIP),エーヤワディー・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)マスタープラン(2019-2023)の実現との相乗効果により実現されることを再確認した。

SDGsの実現

19.首脳は,2020年までの「グリーン・メコンに向けた10年」のための行動計画の様々なプロジェクトの進展への満足を示し,同行動計画を「2030年に向けたSDGsのための日メコン・イニシアティブ」に格上げした。首脳は,メコン地域におけるSDGs実現に向け,「2030年に向けたSDGsのための日メコン・イニシアティブ」を採択した。首脳は,SDGsの実現は,メコン各国及び日本の将来世代のため,非常に重要であることを確認した。SDGsは「人間と自然」と「将来世代に向けた」つながりと同様に,「人と社会」と「人と人」とのつながりを強化する重要な手段である。

日メコン協力と自由で開かれたインド太平洋

20.首脳は,自由で,開かれた,透明性のある,包摂的で,ルールに基づく地域的枠組を維持するための継続的な努力の重要性を再確認した。この文脈で,首脳は,インド太平洋地域における協力のためのASEANの原則を再確認した第34回ASEAN首脳会議における「インド太平洋に関するASEANアウトルック」の採択を歓迎した。この観点から,メコン各国は,「インド太平洋に関するASEANアウトルック」に沿ったメコン各国による取組を支援するとの日本のコミットメントを歓迎した。

21.首脳は,平等,共益並びに国連憲章及び国際法の尊重という原則に基づくメコン各国間の経済的結びつきが,より緊密な経済協力の促進のためには不可欠であるという認識を共有した。

22.首脳は,インド洋及び太平洋を結ぶメコン地域は,自由で開かれたインド太平洋の実現からより大きな利益を得ることのできる地理的優位性を有していることを強調した。この観点から,メコン各国の首脳は,地域及び世界の平和,安定及び繁栄に貢献する自由で開かれたインド太平洋を促進する日本のビジョンを評価した。首脳は,自由で開かれたインド太平洋の促進に貢献し,またそれを補完する日メコン協力事業を着実に実行する決意を表明した。

エーヤワディー・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)

23.メコン各国首脳は,ACMECSマスタープラン(2019-2023)の実現に貢献するため日本が公式にACMECS開発パートナーになったことを歓迎し,ACMECSと,日メコン協力と他の地域内及び地域的な協力枠組との間の相乗効果を促進するとのコミットメントを再確認した。首脳は,さらに,2019年7月29日に開催された日ACMECS高級実務者会議の成功を歓迎した。

地域・国際情勢

24.首脳は,全ての国連加盟国による全ての関連する国連安保理決議を完全に履行するためのコミットメントを改めて表明した。この文脈で,首脳は,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な非核化を実現するための国際的な取組にコミットする。首脳は,北朝鮮に対し,北朝鮮が表明した完全な非核化へのコミットメント並びに最近のミサイル実験を含む,更なる核及びミサイルの実験を自制するとの約束を履行することを引き続き求めた。いくつかの国の首脳は,拉致問題の解決を含む国際社会の人道上の懸念に対処することの重要性を強調した。

25.首脳は,非核化された朝鮮半島の恒久的な平和及び安全を実現するため,全ての当事者による継続した平和的な対話の重要性を強調した。首脳は,全ての当事者に対し,平和的な対話を再開するとともに,米国と北朝鮮の首脳による共同声明,板門店宣言文及び平壌共同宣言の完全かつ迅速な実施を通じたものを含め,非核化された朝鮮半島の恒久的な平和及び安定の実現に向けて引き続き取り組むことを強く求めた。首脳は,当事者による平和的な対話に資する雰囲気を促進する上でアジア地域フォーラムといったASEANが主導するプラットフォームの重要性を強調した。首脳は,非武装地帯(DMZ)において行われた米国と北朝鮮の首脳の最近の面会及びストックホルムにおける双方の事務レベルでの交渉再開を歓迎した。

26.首脳は,1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)等の国際法の遵守を通じたものを含め,地域におけるルールに基づく秩序を推進することの重要性について議論した。首脳は,南シナ海における平和,安全保障,安定,安全並びに航行及び上空飛行の自由を維持・促進する重要性を再確認し,南シナ海を平和,安定及び繁栄の海とすることの利益を認識した。首脳は,南シナ海に関する事項について議論し,信用及び信頼を損ない,緊張を高め,また,この地域における平和,安全保障及び安定を損ない得るこの地域における埋立てや活動に対する懸念に留意した。首脳は,2002年の南シナ海行動宣言(DOC)全体かつ実効的な履行の重要性を強調し,効果的で実質的な,UNCLOSを含む国際法に整合する南シナ海における行動規範(COC)の早期妥結に向けた交渉に留意した。首脳は,相互の信用及び信頼を高め,活動の実施に当たっては,自制し,状況を更に複雑化させ得る行動を回避し,UNCLOSを含む国際法に従った紛争の平和的解決を追求する必要性を確認した。また,首脳は,非軍事化及びクレイマント国やその他の国々による全ての活動の自制の重要性を強調した。

27.首脳は,ベトナムで2020年に第12回日メコン首脳会議を開催する意図を確認した。首脳は,2020年に日本で第13回日メコン外相会議が開催されることを歓迎した。