データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2030年に向けたSDGsのための日メコンイニシアティブ

[場所] タイ,バンコク
[年月日] 2019年11月4日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

序文

 2018年10月に開催された第10回日メコン首脳会議では,持続可能な開発のための2030アジェンダを完全に履行すべく,メコン地域においてSDGsを達成するために協力するとの決意を表明した東京戦略2018を採択した。「2030年に向けたSDGsのための日メコンイニシアティブ」は,日本とメコン各国の間の協力分野の概要を示すものである。日本とメコン各国は,2009年に採択された「グリーン・メコンに向けた10年」イニシアティブのための行動計画の様々なプロジェクトにおいて得られた進展と,メコン地域の発展と繁栄への貢献に満足を示した。同行動計画は,本イニシアティブに包含される。

1 将来の展望:イニシアティブの目的

 メコン地域は,豊かな自然と人的資源に恵まれている。メコン地域は,安定した経済成長のさなかにある活力に満ちたアジア太平洋地域の中心に位置している。また,メコン地域は,東アジアと南アジアを結ぶ回廊であると同時に,太平洋とインド洋とを結ぶ陸の橋でもある。メコン地域は,発展と繁栄のための地理的優位性を享受している。日本は,全てのメコン地域の国が,持続可能な形で各々の成長戦略を最適化し,着実な経済成長を実現し,人々の生活を改善することができるよう,メコン地域の持つ潜在能力を引き出すため,数十年にわたりメコン各国と協力を行ってきた。日本とメコン各国は,メコン地域の永続的な繁栄を達成するため,緊密な協力を継続する。

 このイニシアティブの目的は,2030年までのSDGsの達成に向けメコン各国を支援することである。このことは,「我々」だけでなく日本及びメコン各国の双方の将来の世代のためにも死活的に重要である。SDGsとは,また,「人と自然のつながり」や「次世代へのつながり」だけでなく,「人と社会のつながり」,「人と人とのつながり」を強化する鍵となる手段である。

2 メコン地域における課題

 メコン地域は,地域横断的であり,結束した行動を必要とする様々な課題に直面している。

2.1 汚染と気候変動への取組

 急速な工業化は経済成長を促したが,産業廃棄物汚染,海洋ごみなどの国境を越えた汚染と気候変動をもたらした。これらは,SDGsのうち以下の目標の実現を阻害している。

目標11:住み続けられるまちづくりを

目標12:つくる責任つかう責任

目標13:気候変動に具体的な対策を

目標14:海の豊かさを守ろう

2.2 持続可能で効率的な資源の利用を確保する

 メコン地域の豊かな資源は人々の暮らし向上を支えたが,その持続可能性は効率的利用にかかっている。適切な資源管理は,メコン地域の肥沃な土壌と豊かな自然を活用した持続可能な発展を実現するために重要である。また,効率的な資源の利用は,以下の目標の実現に不可欠である。

目標6:安全な水とトイレを世界中に

目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに

目標8:働きがいも経済成長も

目標15:緑の豊かさも守ろう

2.3 包摂的な成長を達成する

 経済成長が多くの人に良い影響を与えている一方,その利益を十分に享受していない人々も存在している。包摂的な成長は,以下の目標の実現に特に重要である。

目標3:すべての人に健康と福祉を

目標4:質の高い教育をみんなに

目標5:ジェンダー平等を実現しよう

目標16:平和と公正をすべての人に

3 協力の優先分野/優先目標

 上述の課題と持続可能な開発目標を考慮しつつ,以下の分野に優先的に取り組まれなければならない。以下に記述された日メコン協力の下での優先分野は,2019年6月のG20大阪サミットで承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」等の文書で言及されている,開放性,透明性,経済効率性,借入国の債務持続可能性といった,適用可能な限り全ての協力に適用される,質の高いインフラ投資に関する国際スタンダードに従って促進される。

3.1 環境・都市問題

 環境・都市問題に取り組むため,日本とメコン各国は,環境保護と経済発展の調和を追求し,社会の強靱性を強化する。

3.1.1 廃棄物処理・循環型社会(目標11,12)

 効率的で環境に安全な廃棄物管理と3R(リデュース,リユース,リサイクル)社会は,人々の健康と福祉を確保し持続可能なコミュニティを構築するために重要である。廃棄物発電などの効果的な廃棄物管理やリサイクルのための質の高いインフラの開発,情報共有,能力構築や廃棄物管理に関する政策立案を促進することが必要不可欠である。日本は,金融面や技術面からの支援を通じて,メコン地域の廃棄物管理に貢献していく。

3.1.2 海洋プラスチックごみ・水及び河川汚染(目標14)

 海洋プラスチックごみは環境及び人々の生活にとって重要な問題となっている。日本とメコン各国は,G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組に則った更なる具体的な行動を認識しつつ,G20大阪サミットにて共有された海洋プラスチックごみによる追加的な汚染を2050年までにゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向け,海洋環境の研究,モニタリングと観測,環境上適正な廃棄物管理,海洋ごみの回収,イノベーションの促進において協力する。メコン地域においては,とりわけ,河川のプラスチックごみに取り組む必要がある。この点において,メコン河を守るため,メコン河委員会(MRC)との協力を促進することが重要である。日メコン協力は,ASEAN+3海洋プラスチックごみ協力アクション・イニシアティブ等のASEANの関連するイニシアティブに沿って進展している。日本は,海洋プラスチックごみの流出防止及び対処についての意識向上のための知見やグッドプラクティスを共有するため,海洋ごみのモニタリングに関する人材育成及び研修を実施し,また,情報集積の拠点となるナレッジセンターを設立することを計画している。

3.1.3 防災・災害管理(目標11)

 自然災害は持続可能な開発を阻害し得る。それゆえ,SDGsの実現のためには,災害リスクを予防し減少させることが重要である。「仙台防災枠組2015-2030」に沿って,日本とメコン各国は,災害リスク削減の観点を開発政策立案の中に盛り込み,将来の損失を防ぐための災害リスク情報を考慮した上での費用効率の良い投資を盛り込む「災害リスク削減の主流化」を促進する。さらに,日本とメコン各国は,災害後の復旧段階において,災害に備えてより強靱なコミュニティを創り出す「より良い復興(Build Back Better)」アプローチを適用する。日本は,メコン河に関連する自然災害削減のためにMRCの活動を支援し,能力構築支援を,特にメコン各国の人道支援や災害救助分野で行う。この観点から,日本とメコン各国は,開放性,透明性,経済効率性,借入国の債務持続可能性といった国際スタンダードに基づいた質の高いインフラ投資の促進を継続する。

3.1.4 温室効果ガス排出削減と気候変動への強靱性向上(目標13)

 気候変動は最も重要で緊急性の高い環境問題の一つである。日本とメコン各国はパリ協定を完全に履行するとの強いコミットメントを再確認した。メコン地域での低排出及び脱炭素化技術を促進するため,日本とメコン各国はHFCライフサイクルマネジメントを含む二国間クレジット制度(JCM)を促進し続けていく。さらに,日本はメコン各国と共同でイノベーションを進める。日本は,温室効果ガスの排出削減及び気候変動に対し強靱な社会創造に貢献するプロジェクトを支援する。

3.2 持続可能な天然資源の管理と利用

 メコン地域における持続可能な発展には,現在及び将来の需要の調和をとりつつ,最も効率的で持続可能な方法で天然資源が管理,活用されることが必要である。日本とメコン各国は,同地域の天然資源の効率的で持続可能な利用と豊かな自然環境の保全に努める。

3.2.1 農業生産性(目標8,12)

 農業はメコン地域にとって重要なセクターであり続けている。メコン地域において,収入格差を縮め,経済的繁栄を促進するためには,農業生産性の向上が必要である。この点において,灌漑,農業の機械化,農作物加工,ICTのような改善された設備を通じた農業の近代化が重要である。日本は,フードバリューチェーンの分野における能力構築を含む,農業生産性強化に対するメコン各国の取組への支援を継続する。日本とメコン各国は,ICTを活用することで小規模農家の収益増加に取り組む。

3.2.2 水資源の管理(目標6,7)

 水資源管理,とりわけメコン河の水資源管理は,メコン地域の発展のために極めて重要である。この地域の持続可能な開発を確保するため,日本とメコン各国は,統合的な水資源管理を含む水関連の問題に取り組み,MRCを含む国際機関と連携する。日本は,MRCと協力して灌漑施設の整備と技術的運用への支援を継続する。メコン河の水資源開発を改善するため,日本とメコン各国は,メコン河におけるデータ収集,調査,環境モニタリング,洪水と干ばつの管理に関する協力を強化する。さらに,水処理施設の拡大や配管網の改善により,水供給サービスを構築するための取組が行われる。

 メコン地域の持続可能な開発のためには,汚水管理も重要である。効果的で持続可能な汚水管理の達成に向け,水インフラの整備及び汚水管理に対する意識の向上やモニタリングが必要である。日本は,汚水処理の発展を支援し,メコン各国へ技術支援を提供する。

3.2.3 持続可能な森林経営(目標15)

 持続可能な森林経営は,豊かな生物多様性を保全し,メコン各国の経済的成長に貢献し続けるために不可欠である。日本は,FAOやITTOなどの国際機関,研究機関,民間企業と協力し,持続可能な森林経営に関連する活動を支援している。これらの活動は,REDD+の促進,日本の知見に基づく技術の提供・開発・普及,現地の人々の生計向上のための能力構築及び貧困削減の支援を目指している。

3.3 包摂的な成長

 包摂的な成長は,誰ひとり取り残さない社会を実現していくために必要不可欠である。日本とメコン各国は,メコン地域における包摂的な成長を確保するため,「個人」に焦点を当てた取組を前進させる。

3.3.1 教育と人的資本投資(目標4)

 教育と人的資本投資は社会の基礎である。G20持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブで強調されていたように,日本とメコン各国は,人的資本に投資し,包摂的で公平な教育を確保し,全ての人に対し,生涯学習の機会を促進する。さらに,STEM(科学,技術,工学,数学)教育と職業訓練へのアクセスを改善しつつ,質の高い初等及び中等教育の提供も含む,女子や女性の教育及び訓練に対する支援を継続することも重要である。

 産業人材育成は,メコン各国の産業化を前進させるための鍵となる。日本は,「産業人材育成協力イニシアティブ2.0」を通じたものを含め,メコン各国における産業関連の人材開発を継続して支援していく。

 人材育成奨学計画(JDS)の修了生たちが,彼らの経験やSDGsを実現させるための政策立案ノウハウを共有できるようにするため,JDS修了生のネットワークを強化していく。さらに日本は,文化,教育,金融,公害防止管理,食料関連産業等の様々な分野における人的資源開発支援を継続する。

3.3.2 保健と社会福祉(目標3)

 健康的な生活は人間の基本的な欲求の一つである。日本とメコン各国は,メコン地域における全ての人々,とりわけ障害者や高齢者などの脆弱なグループの健康的な生活と福祉を実現するために必要な措置を講じる。日本とメコン各国は,ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)を促進し,2030年までに全ての人の健康的な生活と福祉を達成するための努力を強化する。この点において,日本とメコン各国は,メコン地域における効果的なヘルスケアシステムのために,全てのヘルスケア産業を支援する。日本とメコン各国は,UHCのコミットメントの説明責任の向上のための人的資源の能力構築とともに,途上国におけるUHCファイナンス強化の重要性に関するG20共通理解に関連し,メコン各国においてUHC促進のための保健財政を強化していくために協力する。

3.3.3 ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(社会的地位の向上)(目標5)

 ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを促進することは,調和のとれたコミュニティの実現,持続可能性と社会経済的発展のために重要である。日本とメコン各国は,様々な分野での女性と女児のエンパワーメントにコミットする。この点において,日本は,メコン各国を含むアジアの国々における女性起業家を支援するためにマイクロファイナンスを提供する。日本とメコン各国は,人身取引,とりわけ女性,女児,子供の人身取引の根絶のために,引き続き共同で取り組む。

3.3.4 法律及び司法の協力(目標16)

 メコン地域における平和,正義及び強固な制度を実現するため,日本とメコン各国は,法の支配及びグッドガバナンスの強化に向け,法律及び司法の改革並びに刑事司法の実務家及び法律専門家の能力構築を推し進めるための緊密な協力を促進していく。

3.3.5 包摂的で持続可能な産業の促進(目標9)

 中小零細企業は持続可能な開発を達成するための主要な原動力であることを認識し,日本とメコン各国は中小零細企業に関する協力を強化すると共に,ビジネスマッチングを行い日本とメコン各国が持つ技術ノウハウを共有し,そして,中小零細企業の展示会を開催するとの決意を示した。

3.3.6 観光協力(目標8)

 観光部門はメコン地域における社会経済発展において極めて重要な役割を担う。日本とメコン各国は,SDGsの目標を達成するために,雇用を創出し,市場の拡大と多様化をもたらし観光部門における持続可能な発展に貢献する地方文化や製品を促進するような,持続可能な観光を引き続き促進する。

4. 協力のためのアプローチ

 日本とメコン各国は,以下のアプローチがメコン地域におけるSDGsの達成に必要不可欠であるとの認識を共有する。加えて,日本とメコン各国は,これらのアプローチは,発展格差を狭め,「ASEAN共同体ビジョン2025」と「持続可能な開発アジェンダ2030」との間の補完性を促進するために現在行っている取組を含むASEANのSDGsに関係する取組と軌を一にしていることを確認した。

4.1 地域横断的アプローチ

 メコン地域の直面する課題は,グローバル化の発展に伴い,ますます多様化・複雑化している。それゆえ,地域横断的なアプローチは,「生きた連結性」と自由で開かれたインド太平洋を維持・強化するための取組に加え,この地域においてSDGsを実現するために必要である。日本は,地域横断的なアプローチの一部として,インド太平洋に関するASEANアウトルックの実施等を通じたメコン各国間の連携強化を奨励し支援する。

4.2 開かれたアプローチ

 メコン地域の持続可能な発展のため,地域外の多様なパートナーが広範囲にわたる開発ニーズを満たすために関与してきた。この地域におけるSDGsを推進するため,多種多様なドナーと,民間企業を含む利害関係者の力を合わせ,そしてその他全ての適切な関係者の取組を結びつけ,また,地域内,地域的及びその他の戦略との間での相乗効果を追求,活用することが求められている。日本とメコン各国は,多様な主体との連携を強化し,複数の開発イニシアティブや活動との相乗効果を追求していく。この観点から,本枠組とASEANの下での取組が相互に補完することが重要である。

4.3 官民連携アプローチ

 先端技術や知識の効果的な活用は,様々な側面においてSDGsの促進に資する環境を作り出すことを可能にすることを認識し,日本は,メコン地域においてSDGsを実現するために,環境及び気候変動関連の課題を含む開発関連の諸問題に対処するため,技術と知識を完全に活用していく。また,日本とメコン各国は,国際スタンダードを考慮しつつ官民連携を強化し,より効率的で効果的な協力を実現させるため,互いの知識と経験を完全に活用していく。

民間資金額は,発展途上国に対する政府開発援助額を上回る。PPP(官民連携)の増加という国際的な潮流に見られるように,経済成長を促進する民間資金を巡る状況は劇的に変化している。開発援助が触媒となって民間投資を引きつけ,結果的として地元社会の発展と貧困削減につながっている。この援助と投資の生産的なサイクルを加速させることが重要である。

5. フォローアップとレビュー

5.1 日メコンSDGsフォーラム

 日本とメコン各国は,日本とタイによるグリーン・メコン・フォーラムの共催という継続的な貢献を評価した。日本とメコン各国は,官民の取組の相乗効果を追求するトラック1.5のメカニズムとして,グリーン・メコン・フォーラムを日メコンSDGsフォーラムに格上げすることを決定した。

本イニシアティブの中長期的な実施を確保するため,日メコンSDGsフォーラムは,日本とメコン各国によって行われている具体的な活動をフォローアップするために定期的に開催される。

5.2 事務レベル会合/専門家会合

 本イニシアティブとその下での取組をレビューするため,事務レベル会合を定期的に開催する。必要があれば,事務レベル会合からの指示に基づいて,技術的問題を議論するために,専門家会合も開催される。

(了)