データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ファクト・シート:次世代に向けた日本インドネシア二国間協力の強化

[場所] 東京
[年月日] 2023年12月16日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 本日、岸田総理は、日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議に出席するために訪日中のジョコ・ウィドド大統領と首脳会談を行った。日本ASEAN友好協力50周年であると同時に日本インドネシア外交関係開設65周年に当たる本年9月、両国は、長年の友好関係や様々な分野での協力関係の進展を踏まえ、両国関係を包括的・戦略的パートナーシップに格上げし、両国関係を更に発展させていくことで一致した。

 日本とインドネシアの二国間協力の進展は、これまで特に経済関係や経済協力を通じてインドネシアの発展に貢献してきた。現在、インドネシア全土で事業を展開している約2,000社の日系企業は、約720万人のインドネシア人雇用者と協働し、合わせてインドネシアのGDPの約8.5%、輸出の25%近くに貢献している。また、両国がインドネシアの持続的成長に向けて緊密に協力する中、日本はインドネシアにとって最大のODA援助国であり、累計ベースでインドネシアは日本のODAの最大の受取国の一つとなっている。

 もとより、両国の協力関係は、こうした分野に加え、「自由で開かれたインド太平洋」及び「インド太平洋に関するASEANアウトルック」の推進、気候変動・エネルギートランジションへの対応、安全保障協力の強化、次世代に向けた人と人との絆の深化等、多岐にわたっている。

 日本は、以下に例示した二国間の協力・取組やその実績を更に発展させていくことを含め、インドネシアとの包括的・戦略的パートナーシップの下、将来に向けた両国の協力関係を一層発展させていく。

・ 輸送・交通連結性強化

 - ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の整備:MRT南北線の延伸につき、引き続き支援する。また、MRT東西線についても協力を推進する。

 - パティンバン港の整備:ジャカルタ首都圏の港湾能力・物流改善のために整備中のパティンバン港につき、港の拡張工事、アクセス高速道路の整備、運営・維持管理支援等の技術協力を推進する。また、日本とインドネシアの企業による共同運営を推進する。

 - 自動車認証試験場:ブカシ県に自動車認証試験場を建設中であり、パティンバン港開発事業と両輪となってインドネシアで生産された自動車の輸出を促進する。

 - 駅前・沿線開発(TOD)の技術協力:TOD型都市開発におけるインドネシア政府の調整能力の向上を支援する。

・ 海洋・離島開発協力

 - 巡視船及び漁業取締船の供与:インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)に対し、大型巡視船1隻の供与を決定(本日、両首脳立会いの下、両外相間で交換公文を交換)、また、海洋水産省に対し、水産庁所有の漁業取締船を整備・改修し、本年6月と10月にそれぞれ1隻ずつ、計2隻を無償贈与した。引き続き海上法執行能力強化のための支援を推進する。

 - 漁港・市場の整備:ナツナ(リアウ諸島州)、サバン(アチェ州)、ビアク(パプア州)、モロタイ(北マルク州)、モア(マルク州)、サウムラキ(マルク州)といった国境付近の離島や、リクパン(北スラウェシ州)といった地方漁港・市場の整備に加え、水産物の高付加価値化といった技術協力を推進する。

・ 新首都「ヌサンタラ」開発協力

 - 技術協力支援:新首都での基礎インフラ整備の施工品質向上を支援するとともに、新首都、バリクパパン、サマリンダを含む東部カリマンタン州の地域開発マスタープランの策定を支援する。また、新首都への投資に関心を有する日系企業への情報提供等を継続する。

・ 法制度整備支援

 - ビジネス環境整備分野の技術協力:ビジネス環境改善のため、法案起草者の能力向上及び紛争解決機能強化や知的財産に関する支援を実施している。

・ 情報通信協力

 - 防災情報システムの構築:インドネシアにおける津波等の防災情報の早期伝達システムの構築を図る。

 - サイバーセキュリティ分野の技術協力:インドネシア大学向けにサイバーセキュリティ専門の人材育成講座を提供している。

・ 農業協力

 - 灌漑施設の整備:西ジャワ州のルンタン地区及び南スマトラ州・ランプン州のコメリン地区において潅漑施設の整備を継続して推進する。

 - 農業分野の技術協力:ジャカルタ特別州及び西ジャワ州における農産物流通システム改善のための支援を推進する。

・ 科学技術協力

 - 日ASEAN間における国際共同研究や研究人材交流・育成等を支援するための新たな事業を立ち上げたところ、これを活用してインドネシアとの研究協力関係を強化する。

 - 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)において、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症の4つの研究分野を対象に、日本とインドネシアの大学等の研究機関による共同研究を推進する。

 - 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進する戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)において、インドネシアに生物資源・生物多様性分野で拠点を設置し、共同研究を推進している。

・ 保健協力

 - 日本政府は、日ASEAN統合基金(JAIF)を通じて、インドネシアにも補助事務所が設立されるASEAN感染症対策センター(ACPHEED)設立を支援している。

 - 医療機材の供与:AI機能付き移動式X線装置をインドネシア全国各地の102の病院に引き渡した。また、インドネシア大学附属病院及びハサヌディン大学附属病院に遠隔ICUを供与した。

 - 草の根・人間の保障無償資金協力の案件として、南パプア州における救急車整備等、保健医療分野を中心に協力を実施している。

 - 母子保健分野の技術協力:1990年代初頭より30年にわたりインドネシアにおける母子手帳の支援を実施してきた。現在では、インドネシア全国で約80%普及していることに加え、インドネシア政府自らが、他国にも研修を実施している。

・ 経済連携の強化

 - 本日、両首脳は日インドネシア経済連携協定の改正交渉が大筋合意に至ったことを確認した。

・ 経済協力開発機構(OECD)に関する協力

 - インドネシアのOECD加盟意図表明を歓迎し、加盟に向けたプロセスの進展を後押しすべく、OECDを通じた支援や技術協力を推進する。

・ スタートアップ企業支援

 - 日本政府は、ASEAN各国において、当該各国や日本の大企業がスタートアップ企業と協業したいテーマを設定し、スタートアップ企業からの提案を公募するイベントを開催した。ジャカルタでは、日インドネシア官民経済対話の具体的な協力事業の一環として開催し、日系企業及びインドネシア企業計8社(AEON MALL、Jak Lingko/Nippon Koei、Credit Saison、Bank Danamon/Adira、PERTAMINA、Sinarmas Land/Living Lab Ventures、Lippo Group/Siloam Hospitals、Bluebird)がテーマを設定し、それに対し世界中から約140件の提案が集まり、そのうち23社がプレゼンを実施した。

・ インドネシア商工会議所(KADIN)との協力

 - 日本政府は、日系企業が抱える諸課題の解決等につきKADINとの連携・協力を引き続き推進する。

・ エネルギートランジション協力

 - 「アジア・ゼロエミッション共同体」構想(AZEC):本年3月のAZEC閣僚会合に際して両国間で締結された覚書12件に基づく案件を着実に推進する。また、本年9月に設立につき合意したAZECに関する両国間のジョイントタスクフォースにて、カヤン水力発電所やムアララボ地熱発電所等の脱炭素プロジェクトに係る議論等を実施している。12月18日に東京で開催予定のAZECに関する首脳会合の結果を踏まえ、引き続き協力を推進する。

 - 公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP):11月21日にJETPの実現に向けた筋道や具体的な投資案件が示された包括的投資・政策計画 (CIPP)が発表された。今後、具体的支援を検討する。

 - 再生エネルギー:アサハン第三水力発電所(北スマトラ州)、プサンガン水力発電所(アチェ州)、ルムットバライ地熱発電所(南スマトラ州)等を通じて、引き続きインドネシアの再生可能エネルギー導入・エネルギートランジションの分野での協力を推進する。

 - 日系企業事業による二酸化炭素削減効果:日本貿易振興機構(JETRO)は、日系商工会議所であるジャカルタ・ジャパン・クラブと連携し、ジャカルタの日系企業217社が実施する554件の脱炭素化事業を特定し、これらの事業による二酸化炭素排出削減効果を年間3000万トンと試算。

・ 環境協力

 - 環境協力に関する協力覚書及び包括環境協力パッケージに基づき、マングローブ保全、廃棄物管理の協力を実施されており、引き続き気候変動対策、環境汚染対策、循環経済、生物多様性保全を含む包括的な協力を推進する。

 - 二国間クレジット制度(JCM):これまでにインドネシアにおいて55件のJCMプロジェクトが実施されている。日本政府は、パリ協定6条に沿ったJCMルールの整備と更なるJCMプロジェクトの形成支援を行う。

 - マングローブ協力:1990年代からバリ島を中心に累次にわたる技術協力やマングローブ情報センターの設置・改修の実施、及びマングローブ保全・管理の向上を支援する。

 - 下水道施設の整備:ジャカルタの下水道整備を通じ、ジャカルタ首都特別州における住民の生活・衛生環境の改善及び水環境保全を推進する。

・ 廃棄物管理協力

 - 廃棄物発電:西ジャワ州バンドン市等6自治体を対象としたレゴックナンカ廃棄物処理施設の整備、及びブカシ県など3自治体からなるブカルプール(ブカシ-カラワン-プルワカルタ)廃棄物処理事業を推進する。

 - 廃棄物管理の技術協力:西ジャワ州及び東ジャワ州における適切な廃棄物管理のための協力を実施している。

・ 防災協力

 - 火山防災施設の整備:2021年、2022年の2年連続の火山噴火により著しい被害が生じたスメル山(東ジャワ州)等への火山防災対策のための施設を整備する。

 - 海岸保全対策の整備:バリで海岸侵食や砂浜消失が問題となっているクタ海岸やチャンディダサ海岸等の海岸保全や海岸維持管理を担う組織の能力強化を引き続き推進する。

 - 中部スラウェシ地震復興支援:2018年9月に地震・津波の被害を受けた中部スラウェシ州パル市における復興等のため、パル第4橋を含むインフラ施設の再建・新設や建設重機の供与を実施する。

 - 洪水対策:ジャカルタ首都圏を含む洪水被害に脆弱な都市において、河川改修やダム再生、マスタープラン策定等の技術協力を通じて、洪水被害軽減のための協力を推進する。

・ 安全保障・防衛協力の強化

 - 本年2月と5月、海上自衛隊の練習艦と護衛艦が、インドネシア海軍との親善訓練を実施するとともに、ビトゥンやジャカルタに寄港した。

 - 本年8月、陸上自衛隊は、昨年に引き続き米軍及びインドネシア国軍との実動訓練「スーパー・ガルーダ・シールド」に参加した。

 - 本年6月、国連平和維持活動要員の能力構築支援の枠組である国連三角パートナーシップ・プログラムの下、国連活動支援局がインドネシアで実施する教官養成のための重機操作訓練に、陸上自衛官等を教官として派遣した。

 - 防衛省は、インドネシアの日本語教官の能力を向上させ、自ら高度な指導が可能となるよう、インドネシア国防省語学学校に対して日本人教師を派遣している。また、インドネシア国防省及び国軍に対し、人道支援分野・災害救援での知見の共有を実施し、インドネシアの災害対処能力向上に寄与している。

・ テロ・国際犯罪対策協力の強化

 - 本年10月、日インドネシア・テロ対策協議を開催した。

 - 国際犯罪の脅威が高まる中、本年1月、両国の警察は、協力関係を深化させるべく、協力覚書に署名した。

 - 20年以上にわたりインドネシア国家警察に対する支援を継続しており、支援内容はこれまでの市民警察活動の強化・普及から、犯罪抑止対策に移行してきている。

 - 日本警察は、インドネシア国家警察の若手幹部候補生に対する日本警察での研修を実施している。

・ 人材育成の強化

 - インドネシアの経済発展を支える「人づくり」への協力として、技能実習制度で58,478人(2023年6月末時点)、特定技能制度で25,337人(2023年6月末時点)のインドネシア人材が日本に在留している(ベトナムに次いで第2位)。日本で活躍するインドネシア人材の育成と規模拡大のため、漁業分野や介護従事者の人材育成の技術協力を支援する。

 - 日本の高等教育機関に在籍するインドネシア出身留学生は4,709人(うち国費1,024人)(世界第5位)であり、国費に限れば、国別でインドネシアが第1位(2022年5月1日時点)。こうした中、2023年4月に教育未来創造会議が2033年までに40万人の外国人留学生の受入れを目指すことを提言したことを踏まえ、教育及び研究を軸とした国際交流に係る政策パッケージ「せかい×まなびのプラン」においてインドネシアを含むASEANが重点地域としており、インドネシアでも留学生説明会が積極的に実施されている。また、「アジア高校生架け橋プロジェクト+」や「さくらサイエンスプログラム」により、インドネシアから多くの若い世代を招へいしている。

 - 1991年から中央政府・地方政府の行政官の日本の大学院への学位取得を目的とした留学支援、日本及びインドネシア国内での短期の実務研修を行っており、今までに約3,000人のインドネシア人行政官等が日本の大学院等に留学した。

 - 本年9月、秋田大学とトリサクティ大学は共同研究室を開設。地下資源に関する共同研究や学術交流強化を図る。

 - 労働省及び工業省と連携し、インドネシア政府内の生産性向上のためのトレーナー育成を実施。また、インドネシアの製造業企業の生産性改善活動を実施することにより、トレーナーの指導力向上のための研修を実施。

 - インドネシアにおける教育及び思想の形成にイスラム寄宿塾(プサントレン)が重要な役割を果たしていることに鑑み、イスラム寄宿塾教師を招へいし、異文化・異宗教間対話や教育交流を通じて、多元的共存や寛容等への理解を促進してきており、引き続きこれを実施していく。

・ 青年交流等

 - JENESYS(Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths)では、2007年からこれまでに5,400名を超えるインドネシアの若者を招へいし、約300名の日本人をインドネシアに派遣した。

 - JETプログラム(Japan Exchange and Teaching Programme)では、2023年時点でインドネシアから7名の交流員が日本国内各地へ派遣されている。

 - 国際交流基金は、インドネシアにおける日本語学習支援を積極的に実施しており、日本語パートナーズ事業では、2014年度以降これまで累計で933名をインドネシア各地へ派遣した。

 - 国際交流基金は、インドネシアのイスラム教育機関で日本語教育及び文化交流を推進するため、2023年9月、インドネシア宗教省と協力覚書を締結した。今後、これに基づく事業を実施する。

 - 国際交流基金は、「文化のWA」プロジェクトの後継として、インドネシアをはじめとする日ASEANの次世代の担い手を中心に、双方向の知的・文化交流、日本語パートナーズ等を通じた包括的な人的交流の取組を実施予定。

 - 2009年以降これまで13回にわたり、ジャカルタにおける官民協力を通じた最大の日本文化イベントであるジャカルタ日本祭り(JJM)が開催され、直近5回のJJMではのべ20万人を超える市民が参加した。

・ スポーツ交流

 - スポーツを通じた国際交流・協力を行うスポーツ・フォー・トゥモローにおいて2022年までに228件の事業において170,943人のインドネシア人が参加等を通じて裨益者となった。

・ 観光協力

 - インドネシアからの訪日客数は、2023年1月~10月までで323,500人であり、コロナ禍前の2019年の316,363人を超える水準となった(日本政府観光局(JNTO)統計)。こうしたことも踏まえ、JNTOは、2024年度に、インドネシアにおいて、訪日旅行博や、現地旅行会社等が参加する訪日旅行商談会を開催することを検討する。また、インドネシア国内各地で開催される旅行博への出展及びPR等を実施することを検討する。

・ 次世代のネットワーク構築

 - JICAは、本年11月、今後の両国友好関係を担う若手リーダーの発掘とネットワーク構築を目指し 、日本インドネシア外交関係開設65周年を記念したシンポジウム「Next Generation Leaders Seminar Connecting Indonesia and Japan」を開催し、今後の日本インドネシア関係の課題等につきパネルディスカッションを実施した。