データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 包括的・戦略的パートナーシップに関する日・フィリピン共同声明:「未来を共に織りなす:平和、繁栄、可能性」

[場所] 
[年月日] 2026年5月28日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

 日本政府の招待により、フェルディナンド・ロムアルデス・マルコス・ジュニア・フィリピン共和国大統領は、2026年5月26日から29日まで国賓として日本を訪問した。2026年5月28日、高市早苗総理大臣とマルコス大統領は東京で首脳会談を行い、日本とフィリピンの国交正常化70周年を温かく祝した。

1. 両首脳は、感謝の念を込めて、数十年にわたる幅広く実りある協力と人的交流によって育まれてきた日本とフィリピンの長年の緊密な友好関係を想起し、両国及びより広い地域の利益のためにこの関係を更に深化させるという共通のコミットメントを再確認した。

2. 両首脳は、2011年以来、日・フィリピン戦略的パートナーシップがその深さと範囲の両面で顕著な進展を遂げてきたことを指摘した。両首脳はまた、多岐にわたる懸念事項により国際的な安全保障環境が一層厳しさを増す中、日本とフィリピンが協力を緊密化し強化することはこれまで以上に重要になっているとの戦略的見解を共有した。両首脳は、志を同じくする海洋民主主義国家として、日本とフィリピンの関係はプラチナ時代に入り、前例のない水準の信頼、協力及び戦略的連携によって特徴付けられる、最も緊密な同志国の一つとなったとの認識を共有した。こうした背景と共通認識を踏まえ、両首脳は二国間関係を包括的・戦略的パートナーシップへと格上げすることで一致し、これにより両国の友情はこれまでよりもはるかに高いレベルに位置付けられることとなった。

3. 両首脳は、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)及びインド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)の実現の重要性を再確認し、航行及び上空飛行の自由、紛争の平和的解決、主権、主権的権利、領土保全の尊重を基盤として、国際法を遵守する、開かれた、透明性のある、強靱で包摂的かつルールに基づく地域的枠組みを促進するに当たり、FOIPとAOIPが基本的な原則を共有していることを再確認した。地政学的・戦略地政学的な変動の中で、両国が自らの運命を自らの手で決めるために必要な自律性、強靱性を経済、社会、安全保障全ての面で強化することの重要性を改めて強調した。マルコス大統領は、進化したFOIPの下で、自らの責任を果たし、法の支配に

包括的・戦略的パートナーシップに関する日・フィリピン共同声明:「未来を共に織りなす:平和、繁栄、可能性」基づく国際秩序の構築に貢献するため、これまで以上に積極的な役割を果たすとの日本の決意を歓迎した。両首脳は、インド太平洋及びその他の地域における平和、安定、自由、繁栄を促進し、もってFOIPの実現を促進するため、日本とフィリピンが、これら価値を共有するパートナーと共に、協力を強化し、具体的な協力イニシアティブを進めることで、引き続き緊密に連携することを確認した。

安全保障協力

4. 両首脳は、自衛隊(JSDF)とフィリピン国軍(AFP)との協力及び交流の効率性を向上させた、2025年9月11日の日・フィリピン部隊間協力円滑化協定(RAA)の発効を歓迎した。両首脳はまた、RAAの発効後、既に複数の演習に適用されていることを歓迎した。さらに、両首脳は、2026年1月15日の日・フィリピン物品役務相互提供協定(ACSA)の署名及び可能な限り早期の発効に向けた緊密な調整を歓迎した。加えて、両首脳は、二国間の安全保障・防衛協力を更に深化させるとともに、両国間及び他のパートナーとの相互運用性を向上させる上で重要な枠組みであることを認識し、秘密軍事情報の保護に関する協定の交渉を開始することで一致した。

5. 高市総理大臣は、特に海洋分野において、AFPの能力構築に貢献するという日本のコミットメントを再確認した。両首脳は、防衛装備品・技術移転協定や政府安全保障能力強化支援(OSA)を念頭に、護衛艦、TC-90及びレーダーシステムを含む防衛装備移転を一層促進するため、引き続き緊密に協力していくことで一致した。また、両首脳は、防衛産業協力の進展を期待し、これが相互に有益な産業能力の発展を支援し、サプライチェーンの強靱性を高め、相互運用性及び長期的な防衛即応態勢に資することを指摘した。この文脈において、フィリピンは、新たに改正された日本の防衛装備移転三原則及び運用指針を歓迎し、また、これらの取組が地域の平和と安定にも寄与することを確認した。

6. 両首脳は、共通の戦略的利益を認識し、二国間パートナーシップの強固な基盤を構築している、近年における両国の防衛当局間の協力の著しい深化を歓迎した。戦略的連携を更に強化し、効果的なハイレベルの政策協議を確保するため、次回の日・フィリピン外務・防衛閣僚会合(「2+2」)の早期開催で一致した。

経済協力

7. 両首脳は、日本の政府開発援助(ODA)を通じたフィリピンのインフラ連結性と強靱性の強化が、フィリピンの経済成長のみならず地域の安定にとっても不可欠であることを認識した。両首脳は、質の高いインフラ整備、防災、デジタル化、農業・農村開発、及びアジア健康構想に資するヘルスケアといった分野におけるプロジェクトを推進することの重要性、並びに、パートナー国と緊密に協力しつつ、ルソン経済回廊(LEC)構想の下で、鉄道、港湾近代化、クリーンエネルギー及び半導体のサプライチェーンとその展開、デジタル連結性、アグリビジネス、民間港湾の高度化など、インパクトの大きいインフラプロジェクトへの投資を促進することの重要性を強調した。また、地域の経済枠組み及びサプライチェーンの強靱性にとってのルソン経済回廊の重要性を認識しつつ、ルソン経済回廊をグローバルなサプライチェーンを強化し、経済開発を加速させ、相互の経済的繁栄をもたらす世界水準の経済ハブへと変革するという強いコミットメントを再確認した。日本は、繁栄し、包摂的かつ強靱な社会の実現に向け、フィリピンの次の開発段階を通じて、経済・社会の変革を達成するための高品質で強靱かつ持続可能なインフラ整備を引き続き支援するとのコミットメントを再確認した。

8. 両首脳は、日・フィリピンのビジネス関係の強化を評価しつつ、ビジネス環境の一層の改善の重要性を認識し、自由で開かれ、かつルールに基づく貿易枠組みを堅持することの重要性を再確認した。この観点から、両首脳は、日・フィリピン経済連携協定(JPEPA)、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定、及び地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が、両国間の貿易及び投資の自由化を促進してきたことを認識した。両首脳は、二国間及び地域の貿易・投資を一層促進し、イノベーションを育み、成長機会を創出するため、これらの協定の完全かつ効果的な実施及び活用に向けて協力することで一致した。これに関し、両首脳は、これらの協定における見直し規定の重要性を認識した。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の第9回TPP委員会において、フィリピンがオークランド原則に沿った加入要請エコノミーの一つとして特定され、適切であれば2026年に加入手続が開始される可能性があると確認されたことを認識した。フィリピンは、本年中のできるだけ早期に加入プロセスを開始するため、締約国との関与を更に進める意図を再確認し、日本は、CPTPPの高い水準を堅持するとのフィリピンの確固たるコミットメントを歓迎し、加入プロセスの早期開始に対する支持を表明した。さらに、両首脳は、現行の租税条約に代わる、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とフィリピン共和国との間の条約」の署名を歓迎した。両首脳は、両国間の投資・経済交流が一層促進されることへの期待を表明した。

9. 両首脳は、経済安全保障の分野で協力を強化するとの認識を共有した。両者は、あらゆる形態の経済的威圧、非市場的な政策及び慣行、並びにグローバル・サプライチェーンに重大な悪影響を及ぼし得る輸出入規制に対する懸念を表明した。両首脳は、重要鉱物、半導体・電子機器、再生可能エネルギー、自動車等の発展を通じたものも含め、サプライチェーンの強靱性強化に関する協力を深化させ、信頼できるパートナー間で、透明性があり、多様化され、安全で、持続可能かつ信頼性のあるサプライチェーンを促進することで一致した。両首脳はまた、倫理的な開発及び活用や安全なネットワーク等を含め、人工知能(AI)等の戦略的に重要な先端技術に関する協力を深化させるとともに、過度な依存の低減に向けて取り組むことで一致した。この目的のため、両首脳は、日ASEAN・AI共創イニシアティブを通じ、アジアの多様な言語と文化を反映したAIモデルの開発促進を含め、双方のAIに関する自国の能力を強化し、安全、安心で、信頼できるAIエコシステムを構築するために協力することで一致した。両首脳はまた、「FOIPデジタル回廊構想」に沿って、海底ケーブルや5GオープンRANを含むデジタルインフラに関して協力するとの認識を共有した。両首脳はさらに、サプライチェーンの強靱性強化、産業の高度化の促進、及び互恵的な経済成長の促進における重要性を認識し、自動車や半導体産業等、フィリピンの製造サプライチェーン及び産業エコシステムの発展への日本企業の積極的な参画を奨励した。

10. 両首脳はまた、「パワー・アジア」(アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ)の下での様々な協力を深化させる意図を再確認した。この文脈において、両首脳は重要物資サプライチェーンの強靱性を強化すること並びに日本がフィリピンの国家石油備蓄制度の発展及びASEANの共同石油備蓄取決めへの支援を提供することで一致するとともに、中東情勢に起因する地政学的リスク及び世界のエネルギー需給に対する混乱の影響を緩和することが両国にとって有益であることを確認した。

11. 両首脳は、安定的なエネルギー供給を確保しクリーンエネルギーを促進しつつ、気候変動への対処、経済成長の促進、エネルギー安全保障が重要であることについて一致した。両首脳は、地域の多様な事情を考慮し、エネルギーレジリエンスの観点を加え、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の下で協力を推進するコミットメントを再確認した。また、この協力には幅広いエネルギーの選択肢が含まれること、具体的には、フィリピン側の進展に応じて、民生原子力、液化天然ガス(LNG)、洋上風力発電の分野における協力の推進が含まれることを確認した。本年のASEAN議長国としてのフィリピンの重要な役割を踏まえ、両首脳は本年後半にAZEC首脳会合を共催することで一致した。

12. 両首脳は、技術革新を活用した開発と協力が持続的な繁栄に不可欠であるとの認識を共有し、食料安全保障の達成に向けて、宇宙及びデジタルトランスフォーメーション(DX)の分野での協力を深化させることにも一致した。この観点から、両首脳は、今回署名された、日本国農林水産省とフィリピン共和国農業省との間の農業協力に関する協力覚書に基づき、フィリピンの農業・水産部門における生産性向上のための支援を推進することで一致した。

海洋協力

13. 海でつながる隣国である日本とフィリピンは、国際法の尊重に支えられた海洋協力を通じて、平和、安定及び相互の信頼を一層促進する必要性を再確認した。この観点から、両首脳は、地域の法的安定性を高めるため、国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)の関連規定に従い、また、関連する国際判例を参照しつつ、両国間の排他的経済水域及び大陸棚の海洋境界を画定するための正式交渉を開始することを決定した。

14. マルコス大統領は、巡視船の供与を含むフィリピン沿岸警備隊の能力強化に向けた日本の継続的な支援を歓迎した。両首脳は、インド太平洋において海上の安全を確保し、法の支配を堅持するため、合同訓練及び能力向上支援を含む海上法執行機関間の相互交流を更に促進することで一致した。

その他の二国間協力

15. 高市総理大臣は、ミンダナオにおける和平プロセスに対する日本の揺るぎないコミットメントを再確認し、2026年9月の第2月曜日に予定されている史上初のバンサモロ議会選挙に向けた最近の進展を歓迎した。マルコス大統領は、和平プロセスへの日本の継続的な支援に感謝の意を表明した。

16. 両首脳は、女性・平和・安全保障(WPS)アジェンダの原則、目標、経験も含め、和平調停の専門知識と能力開発における協力を強化することで一致した。

17. 両首脳は、日本とフィリピンの関係の緊密化に伴う、観光を含む人的交流の活性化を歓迎し、両国間の人的交流の促進に向けて引き続き協力していくことを確認した。両首脳はまた、両国間の領事分野における協力の一層の強化について意見交換を行うため、2026年5月に第5回日・フィリピン領事当局間協議が開催されたことを歓迎し、次回協議をフィリピンで開催することで一致した。

18. フィリピンは、残留日系人二世の国籍取得及び日本への一時帰国を支援する日本政府の取組を認識し、フィリピンにおける関連手続の円滑化に協力する。

19. 両首脳は、インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)及び自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に沿って日・ASEAN間の協力を更に強化することの重要性を再確認し、地域の強靱性、持続可能な成長、ASEAN主導の地域枠組みを強化するASEAN+3における協力を含むASEAN主導のメカニズムと協力の継続的な重要性を認識した。高市総理大臣は、フィリピンがASEAN議長国として果たす役割及び平和、安定、持続可能な開発、地域統合の促進に向けたASEANの取組を前進させるためのリーダーシップに対する日本の全面的な支持、並びにASEAN中心性・一体性を支えるAOIPへの日本の揺るぎない支持を表明した。

20. ミャンマー情勢に関し、両首脳はミャンマーにおける政治危機に対処する上で、「5つのコンセンサス」が引き続き主要な準拠すべき文書であることを改めて表明し、暴力の即時停止、効果的で包括的な人道支援の実施の促進、そして包摂的で建設的な国民対話に資する環境の醸成に向けて、関係する全ての当事者が具体的な行動を取るよう要請した。両首脳は、「5つのコンセンサス」の実施に向けてステークホルダーと関与するASEAN議長の特使の取組を歓迎した。

21. 両首脳は、東シナ海及び南シナ海の情勢に深刻な懸念を表明し、平穏に確立された現状を力又は威圧により変更しようとするあらゆる一方的な試みに対して強く反対することを再確認した。両首脳は、航行及び上空飛行の自由、適法な海洋の利用、妨げられない商業活動、国際法、特にUNCLOSに従った海洋に関する紛争の平和的解決を堅持することの重要性を強調した。両首脳は、最終的かつ紛争当事者を法的に拘束する2016年の南シナ海に関する仲裁判断への支持を改めて表明した。仲裁判断の発出から10年が経過したことを踏まえ、両首脳は、国際法の重要性と、UNCLOSの下に義務的紛争解決手続を通じて適法に下される決定及び判断を紛争当事者が遵守する重要性を再確認した。両首脳はまた、UNCLOSが海洋及び海におけるあらゆる活動を規律する包括的な法的枠組みとして、普遍的かつ統一的な性格を有することを再確認した。両首脳は、南シナ海を利用する全ての関係者の正当な権利及び利益を損なうことなく、海上の当事者の行動を効果的に規律する、国際法、特にUNCLOSに従った実効的で実質的な行動規範(COC)の重要性を認識した。両首脳は、また、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の対話による平和的解決を促した。

22. 両首脳は、地域の安定のため、日フィリピン米の協力を強化することの重要性を再確認した。両首脳は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するため、オーストラリアやインドといった志を同じくするパートナーとの連携を更に強化していく意向を確認した。

23. 両首脳は、中東情勢について協議した。イランをめぐる情勢については、ホルムズ海峡における自由かつ安全な航行と安定的なエネルギー供給網の確保の重要性を強調した。両首脳は、事態の早期沈静化と地域における恒久的な平和を実現するためには、継続的な外交努力が不可欠であることを再確認した。パレスチナ情勢については、両首脳は平和構築の取組に貢献し、国際社会との緊密な連携を継続することを決定した。両首脳は、7月にマニラで開催されるASEAN関連外相会議の機会に、パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)閣僚級会合を共催する意向を確認した。

24. 両首脳は、グローバル・サウスにおける三角協力を推進するため協力することで一致し、第三国のパートナーが開発上の優先課題に取り組むことを支援するため、両国の強み、専門知識、能力構築の経験を結集することとした。

25. 両首脳は、北朝鮮の核・ミサイル問題及び悪意あるサイバー活動に対する深い懸念を共有し、北朝鮮の完全な非核化に向けたコミットメントを確認するとともに、拉致問題の即時解決の重要性を再確認した。

26. 両首脳は、2022年3月2日付けの国連決議(No.ES-11/1)で示されたように、ロシア連邦によるウクライナ侵略は最も強い言葉で非難されるべきであるという原則的見解を共有し、また、状況を沈静化するためのあらゆる努力を用い、紛争を解決し、国際の平和と安全を維持し、民間人及び軍人の死傷者の増加を止め、更なる人道危機を回避するために対話と外交を継続する必要性を強調した。

27. 高市総理大臣は、国連を含む国際場裡において、フィリピンが平和、安定、開発の促進と貢献に果たしてきた積極的な役割を評価し、本年の国連安保理非常任理事国選挙におけるフィリピンの立候補に対し、日本の確固たる支持を確認した。

結語

28. 両首脳は、世界的な不確実性の中、日本とフィリピンとの間の揺るぎなく永続的な信頼関係を拡大し深化させるという目標を確認した。両首脳は、基本的価値と原則を共有し、現在及び将来の課題や機会に共に立ち向かう用意のある同志国かつ「包括的・戦略的パートナー」として、持続可能で多層的なパートナーシップを強化し発展させるというコミットメントを強調した。