データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 講和問題に関する吉田茂首相とダレス米首相会談,「わが方見解」

[場所] 
[年月日] 1951年1月30日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),385ー387頁.外務省および外交史料館所蔵文書.
[備考] 
[全文]

一九五一年一月三十日午後六時三十分

  松井秘書官からシーボルト大使

  井口次官からバンカー大佐  へ手交した「わが方見解」

和文は原文 手交したのは,むろん英文のみ

 注。以下に私見を開陳する。エス・ワイ

   提案議題

  一,領土

 一,琉球及び小笠原諸島は,合衆国を施政権者とする国際連合の信託統治の下におかれることが,七原則の第三で提案されている。日本は,米国の軍事上の要求についていかようにでも応じ,バーミュダ方式による租借をも辞さない用意がある。われわれは,日米両国間の永遠の友好関係のため,この提案を再考されんことを切に望みたい。

 二,信託統治がどうしても必要であるならば,われわれは,次の点を考慮されるよう願いたい。

(a)信託統治の必要が解消した暁には,これらの諸島を日本に返還されるよう希望する。

(b)住民は,日本の国籍を保有することを許される。

(c)日本は,合衆国と並んで共同施政権者にされる。

(d)小笠原諸島及び硫黄島の住民であって,戦争中日本の官憲により又は終戦後米国の官憲によって日本本土に引揚げさせられたもの約八千名は各原島へ復帰することを許される。

  二,安全保障

 安全保障に関する日本政府の見解は,次のとおりである。

 一,日本,国内の安全を自力で確保する。

 二,対外的安全保障に関しては,適当な方法によって,国際連合,とくに合衆国の協力を希望する。

 三,このための取極は,平等の協同者としての日米両国間における相互の安全保障のための協力を規定するものとして,平和条約とは別個に作成されるべきである。

  三,再軍備

 一,当面の問題として,再軍備は,日本にとって不可能である。

(a)再軍備を唱道する日本人はいる。しかし,その議論は,問題を徹底的に究明した上でのものとは思われないし,また,必ずしも大衆の感情を代表するものでもない。

(b)日本は,近代的軍備に必要な基礎資源を欠いている。再軍備の負担が加えられたならば,わた国民経済は立ちどころに崩壊し,民生は貧究化{究にママとルビ}し,共産陣営が正しく待ち望んでいる社会不安が醸成されよう。安全保障のための再軍備は,実は逆に,国の安全を内部から危殆におとしいれよう。今日,日本の安全は,軍備よりも民生の安定にかかることはるかに大である。

(c)わが近隣諸国が日本からの侵略の再現を恐れていることは,厳たる事実である。国内的には,旧軍国主義の再現の可能性に対して警戒する理由がある。さしあたって,われわれは,国の安全維持を再軍備以外の方途に求めなければならない。

 二,今日,国際の平和は,国内の治安と直接に結ばれている。この意味において,われわれは,国内の治安を維持しなければならず,そのためには,われわれは独力で完全な責任をとる決心をしている。これがため,わが警察及び海上保安の人員を直ちに増加し,また,その装備を強化する必要がある。

 三,われわれは,その中にあって積極的な役割を演ずることを熱望している自由世界の共同の防衛に対する日本の特定の貢献の問題について協議することを希望する。

  四,人権等

 一,日本は,世界人権宣言に全面的に賛成する。この宣言に掲げられた諸原則は,わが新憲法に完全に取り入れられている。日本がこの事項について宣言をする必要があると考えられるならば,われわれとしては異存はない。

 二,占領下に樹立された諸法令及び諸制度をそのまま恒久下することを意図するような規定を平和条約に設けることは,避けられたい。

 連合国は,もっぱら占領管理の目的のためにのみ執られた諸措置又は日本の実情にそわなくなった諸措置の廃止又は修正について,占領の終了前に考慮されたい。こうすることが,占領管理から平常の統治への移行を円滑ならしめ,また,日米間の友好関係の増進に資するゆえんであろう。

  五,文化関係

 われわれは,国際の文化の交流に積極的に参加することを許されるよう熱望する。日米間の文化の連帯の緊密化は,日米の親善関係に関する根本問題である。われわれは,両国間の文化的協力を増進するようあらゆる措置を執りたい。

  六,国際福祉

 日本は,従来から当時国であるこの分野のすべての戦前の国際協定を忠実に遵守する。われわれは,また,戦争中及び戦後締結された他の協定,たとえば,世界保健機関憲章,国際衛生条約等に加入する用意がある。