データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 対日講和条約草案に対するソ連修正提議

[場所] 
[年月日] 1951年9月5日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),417‐419頁.松本俊一「モスクワにかける虹 日ソ国交回復秘録」,176‐9頁.
[備考] 
[全文]

一、第二条に対しては

 (1)(b)及び(f)項の代りに次の項を含めること。すなわち、「日本国は、満州、台湾及びこれに接近するすべての諸島、澎湖諸島、東沙島、南沙群島、マクスフィールド堆、並びに、西鳥島を含む新南群島に対する中華人民共和国の完全なる主権を認め、ここに掲げた地域に対するすべての権利、権原及び請求書を放棄する。」

 (2)(c)項は、次のように修正する。すなわち、「日本国は、樺太の南半部及びこれに近接するすべての諸島並びに千島列島に対するソヴィエト社会主義共和国連邦の完全なる主権を認め、これら地域に対するすべての権利、権原及び請求書を放棄する。」

二、第三条に対しては

 第三条は、次のように修正することとする。すなわち、「日本国の主権は、本州、九州、四国、北海道並びに琉球諸島、小笠原群島、西之島、火山列島、沖之鳥島、南鳥島、対馬及び、第二条に掲げられた諸地域及び諸島を除いて一九四一年十二月七日以前に日本国の一部であつたその他の諸島に及ぶ。」

三、第六条に対しては

 「(a)」項を次のように修正することとする。すなわち、「すべての連合国の軍隊は、できる限りすみやかに、且ついかなる場合にもこの条約の効力発生の日から九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。また、それ以後はいかなる連合国及び他の外国も、日本国の領土上にその軍隊または軍事基地を保有してはならない。」

四、第十四条に対しては

 「(a)」項の本文及び同項の一は、次の案文におきかえることとする。すなわち、「日本国は、連合国に対する軍事行動により、及び、ある連合国の領土の占領により生じた損害を補償することを約束する。日本国によつて支払われるべき賠償の額及び源泉は、関係諸国の会議において検討されるものとする。この会議には日本国の占領下にあった諸国、すなわち中華人民共和国、インドネシア、フィリピン、ビルマは、必ず参加招請するものとし、この会議には日本国も招請される。」

五、第二十三条に対しては

 (a)及び(b)項の代りに、次の項を入れるものとする。すなわち、「この条約は、日本国を含めて、これに署名する国によつて批准されなければならない。この条約は、批准書が日本国により、且つ、アメリカ合衆国、ソヴィエト連邦、中華人民共和国及びグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国を含んで、次の諸国、すなわちオーストラリア、ビルマ、カナダ、セイロン、フランス、インド、インドネシア、オランダ、蒙古人民共和国、ニュー・ジーランド、パキスタン、フィリピン、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、中華人民共和国及びアメリカ合衆国の過半数により寄託された時に、その時に批准しているすべての国に関して効力を生ずる。この条約は、その後これを批准する各国に関しては、その批准書の寄託の日に効力を生ずる。」

六、第四章中の新しい条文として、次の一条を新たに加えることとする。すなわち、「日本国は、日本国人民の間の民主主義的傾向の復活及び強化に対するすべての障碍を除去し、且つ、人種、性、言語または宗教について差別なく、人権の享有、並びに、表現、新聞及び出版、宗教的崇拝、政治的意見及び集会の自由を含む基本的自由の享有を日本の主権の下にあるべての人に保証するために必要なすべての手段をとることを約束する。」

七、第四章に次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「政治的、軍事的、または半軍事的のいずれを問わず、その目的が国民からその民主主義的権利を奪うことにあるファシスト及び軍国主義者の組織が日本国領土上に復活することを許さないよう約束する。」

八、第八章に、次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「日本国は、武力をもつて対日戦争に参加したいかなる国を対象とする連合または軍事同盟にも加入しない義務を負う。」

九、第三章に次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「日本の陸、海、空軍の軍備は自己防衛の任務にのみ供されるように厳格に制限されるべきである。従つて、日本国は、国境警備隊及び憲兵を含めて次にのべる範囲内の軍備を有することが認められる。

 (1)対空砲兵を含め、総数一五万人の兵力を有する陸軍

 (2)総数二万五千人の兵力、総トン数七万五千トンの海軍

 (3)海軍航空部隊を含めて戦闘機及び偵察機二〇〇機、予備機を含めて、輸送機、海空遭難救助機、練習用及び連絡用飛行機一五〇機を有し、総数二万人の兵力を有する空軍。日本国は、機体内部に爆弾積載装置をもつ爆撃機たることを本来の目的として設計されたいかなる航空機をも所有し、または獲得してはならない。

 (4)日本軍隊の有する中型及び大型戦車の総数は、二〇〇台を越えてはならない。

 (5)軍隊の兵力は、それぞれの場合に戦闘員、補給整備員及び事務要員を含むものとする。」

一〇、第三章に次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「日本は、日本の武装兵力の規模を定めている本条約の関係各条によつて維持することを許されている兵力の必要条件を超える程度には、いかなる形式の住民の軍事訓練を行なうことも禁ぜられる。」

一一、第三章に次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「日本は、次の諸武器を所有し、製造しまたは実験してはならない。

 (I)すべての原子力兵器、ならびに、細菌兵器、化学兵器を含む他のすべての大量殺傷のための手段

 (II)一切の自動発進式若しくは誘導式の投射物、あるいはこれらの発射に関連する装置(ただし、本条約によつて保有を許される海軍艦艇の魚雷、同発射管で通常の海軍装備と認められるもの以外のもの)

 (III)射程三〇キロメートルを超える一切の大砲

 (IV)接触によらず自動感応装置によつて爆発する機雷または魚雷

 (V)一切の人間操縦魚雷」

一二、第四章に次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「日本の平和産業の発展、または諸外国との通商の発展あるいは日本の平和経済に必要な原料の入手に対しては一切制限が課せられないものとする。同様に日本の産業海運ないし商船の建造にも制限が課せられないものとする。」

十三、第三章に次の新しい一条を加えることとする。すなわち

 「(1)宗谷海峡、根室海峡の日本側全沿岸及び津軽海峡及び対馬海峡を非武装化する。右の諸海峡は、常にあらゆる国の商船に対して開放されるものとする。

  (2)本条一項に挙げた諸海峡は、日本海に隣接する諸国に属する軍艦に対してのみ開放されるものとする。」