[文書名] 対日MSA援助に関する日米往復文書
外務省発合衆国大使館宛往簡
外務省は,在本邦アメリカ合衆国大使館に敬意を表するとともに,相互安全保障法の適用によるアメリカ合衆国の諸外国への援助に関し,もし日本が欲するならば,アメリカ合衆国は,前記の援助を日本に供与する用意あるものと承知し,同省は本件のもたらす影響の重要性にかんがみ,諸般の角度からこの問題を検討してきた次第であるが,右に関連して,大使館が次の諸点についてアメリカ合衆国政府の公式の見解を明らかにされるよう要請する光栄を有する。
(1)相互安全保障計画によるアメリカ合衆国の諸外国への援助の基本目的は,自由世界の安全を維持し,かつ,増進することにありと承知するが,日本に援助が与えられる場合,日本国政府としてはこの援助により国内の治安と防衛とを確保することを得るに至れば,右基本目的は十分達成されたものと了解するがいかん。
(2)アメリカ合衆国政府が相互安全保障計画に基いてなさんとしている日本への援助が,日本の防衛努力の援助である限り,日本の防衛能力が考慮せられるに際しては,日本国政府としては,まず日本の経済が安定し,発展することこそ,その先決要件であると考えられるがいかん。
(3)日本国政府の了解するところによれば,前記の援助を受けるためには,相互安全保障法第五百十一条(a)の該当規定の適用を受けなければならないものと思われる。この点に関連して,次のように了解するが,その通りであるか。
(a)前記の第五百十一条(a)の(3)に規定されている「軍事的義務」履行の要件は,日本の場合には,日米安全保障条約によって日本がすでに引き受けている義務の履行をもって足りるものである。
(b)同条約(a)の(4)に関し「自国の防衛力を増進し,かつ,維持すること」という要件は,日本については,国内の一般的経済条件の許容する限度内で,かつ,政治的及び経済的安定を害することなく,これが実現されれば足りるものである。
昭和二十八年六月二十四日
合衆国大使館発外務省宛返簡
合衆国大使館は,外務省に敬意を表するとともに,合衆国の相互安全保障計画に関する千九百五十三年六月二十四日付外務省口上書において提起された問題に関し,合衆国政府の訓令に基き次のとおり申述べる光栄を有する。
一,相互安全保障計画に基く合衆国の援助は主として自由世界の安全を維持し,かつ増進することを目的とするものであり,かつ,この計画に基いて日本が受けることになる援助は,日本をしてその国内の治安を維持し,かつ,平和条約第五条(c)項において保証されている自発的な個別的または集団的自衛の固有の権利を一層有効に行使することを可能ならしめることにより,その計画の主要目的を達成しようとするものである。
二,日本に対する援助計画を策定するに当って,経済的安定が日本の自衛能力の発展のために考慮されるべき必須の要件である。相互安全保障計画は,各参加国が経済上の要請に関する自国の分担を完全に引き受けることを前提としているが,もちろん,被援助国はその一般的な経済条件及び能力の許容する限度においてのみ寄与をなすことができるものと諒解される。なお,日本が同計画に参加することを決定した場合には,相互安全保障計画のため必要な物資を合衆国が日本において買付ける可能性は増進するものと期待される。
三,相互安全保障法の下において与えられることのある援助は相互安全保障法第五百十一条(a)の規定に合致することを条件とするものである。援助を受領するための条件の一つとしての軍事的義務の履行の要件は,日本の場合においては,同国が日米安全保障条約の下にすでに引き受けている義務の履行をもって足りるものである。相互安全保障計画にも,または合衆国と日本との間に存在するいかなる条約上の義務にも,自衛のため以外に,日本の治安維持の部隊を使用することを要求しているものはない。第五百十一条(a)項(4)は,もちろん日本が「自国の政治的及び経済的安定と両立」し,かつ,「自国の人力,資源,施設及び一般的経済条件が許容する」限度の寄与をなすことだけを要求するものである。
相互安全保障の観念は,自由世界の目的達成のために,合衆国から援助を受ける諸国が,自らを助けること及びそれぞれの間及び合衆国との間において最高度に協力することに,全力を尽す限りにおいてのみ達成されるものであるという認識に基いている。相互安全保障への積極的成果を最大の効果並びに最小の遅滞及び費用をもって実現せしめるように,援助を受ける諸国の努力を結合する目的のために,合衆国の資源を続いて使用しようとすることは,合衆国の確固たる希望である。
千九百五十三年六月二十六日
東京においてアメリカ大使館