[文書名] 日米行政協定第17条改定に関する議定書(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十七条を改正する議定書)
千九百五十一年六月十九日にロンドンで署名された「軍隊の地位に関する北大西洋条約当事国間の協定」は,千九百五十三年八月二十三日にアメリカ合衆国について効力を生じたので,また,
日本国は,前記の協定の相当規定と同様の刑事裁判権に関する協定を,千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十七条1の規定に従い,アメリカ合衆国との間に締結することを希望するので,
ここに,日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,前記の行政協定第十七条の現行規定を廃止して,次の規定と置き換えることを合意した。
第十七条
1 本条の規定に従うことを条件として,
(a)合衆国の軍当局は,合衆国の軍法に服するすべての者に対し合衆国の法令により与えられたすべての刑事及び懲戒の裁判権を日本国において行使する権利を有する。
(b)日本国の当局は,合衆国軍隊の構成員又は軍属及びそれらの家族に対し,日本国の領域内で犯す罪で日本国の法令によつて罰することができるものについて,裁判権を有する。
2(a)合衆国の軍当局は,合衆国の軍法に服する者に対し,合衆国の法令によつて罰することができる罪で日本国の法令によつては罰することができないもの(合衆国の安全に関する罪を含む。)について,専属的裁判権を行使する権利を有する。
(b)日本国の当局は,合衆国軍隊の構成員又は軍属及びそれらの家族に対し,日本国の法令によつて罰することができる罪で合衆国の法令によつては罰することができないもの(日本国の安全に関する罪を含む。)について,専属的裁判権を行使する権利を有する。
(c)本条2及び3の適用上,国の安全に関する罪は,次のものを含む。
(i)当該国に対する反逆
(ii)妨害行為(サボタージュ),ちよう報行為{ちょうに強調}又は当該国の公務上若しくは国防上の秘密に関する法令の違反
3 裁判権を行使する権利が競合する場合には,次の規定が適用される。
(a)合衆国の軍当局は,次の罪については,合衆国軍隊の構成員又は軍属に対して裁判権を行使する第一次の権利を有する。
(i)もつぱら合衆国の財産若しくは安全のみに対する罪又はもつぱら合衆国軍隊の他の構成員若しくは軍属若しくは合衆国軍隊の構成員若しくは軍属の家族の身体若しくは財産のみに対する罪
(ii)公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪
(b)その他の罪については,日本国の当局が,裁判権を行使する第一次の権利を有する。
(c)第一次の権利を有する国は,裁判権を行使しないことに決定したときは,できる限りすみやかに他方の国の当局にその旨を通告しなければならない。第一次の権利を有する国の当局は,他方の国がその権利の放棄を特に重要であると認めた場合において,その他方の国の当局から要請があつたときは,その要請に好意的考慮を払わなければならない。
4 本条の前諸項の規定は,合衆国の軍当局が日本国の国民又は日本国に通常居住する者に対し裁判権を行使する権利を有することを意味するものではない。但し,それらの者が合衆国軍隊の構成員であるときは,この限りでない。
5(a)日本国の当局及び合衆国の軍当局は,日本国の領域内における合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族の逮捕及び前諸項の規定に従つて裁判権を行使すべき当局へのそれらの者の引渡について,相互に援助しなければならない。
(b)日本国の当局は,合衆国の軍当局に対し,合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族の逮捕についてすみやかに通告しなければならない。
(c)日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は,その者の身柄が合衆国の手中にあるときは,日本国により公訴が提起されるまでの間,合衆国が引き続き行うものとする。
6(a)日本国の当局及び合衆国の軍当局は,犯罪についてのすべての必要な捜査の実施並びに証拠の収集及び提出(犯罪に関連する物件の押収及び相当な場合にはその引渡を含む。)について,相互に援助しなければならない。但し,それらの物件の引渡は,引き渡す当局が定める期間内に還付されることを条件として行うことができる。
(b)日本国の当局及び合衆国の軍当局は,裁判権を行使する権利が競合するすべての事件の処理について,相互に通告しなければならない。
7(a)死刑の判決は,日本国の法制が同様の場合に死刑を規定していない場合には,合衆国の軍当局が日本国内で執行してはならない。
(b)日本国の当局は,合衆国の軍当局が本条の規定に基いて日本国の領域内で言い渡した自由刑の執行について合衆国の軍当局から援助の要請があつたときは,その要請に好意的考慮を払わなければならない。
8 被告人となつた者が本条の規定に従つて日本国の当局又は合衆国の軍当局のいずれかにより裁判を受けた場合において,無罪の判決を受けたとき,又は有罪の判決を受けて服役しているとき,服役したとき,若しくは赦免されたときは,他方の国の当局は,日本国の領域内において同一の犯罪について重ねてその者を裁判してはならない。但し,本項の規定は,合衆国の軍当局が合衆国軍隊の構成員を,その者が日本国の当局により裁判を受けた犯罪を構成した作為又は不作為から生ずる軍紀違反について,裁判することを妨げるものではない。
9 合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族は,日本国の裁判権に基いて公訴を提起された場合には,いつでも,次の権利を有する。
(a)遅滞なく迅速な裁判を受ける権利
(b)公判前に自己に対する具体的な訴因の通知を受ける権利
(c)自己に不利な証人と対決する権利
(d)証人が日本国の管轄内にあるときは,自己のための強制的手続により証人を求める権利
(e)自己の弁護のため自己の選択する弁護人をもつ権利又は日本国でその当時通常行われている条件に基き費用を要しないで若しくは費用の補助を受けて弁護人をもつ権利
(f)必要と認めたときは,有能な通訳を用いる権利
(g)合衆国の政府の代表者と連絡する権利及び自己の裁判にその代表者を立ち会わせる権利
10(a)合衆国軍隊の正規に編成された部隊又は編成隊は,第二条に基き使用する施設及び区域において警察権を行う権利を有する。合衆国軍隊の軍事警察は,それらの施設及び区域において,秩序及び安全の維持を確保するためすべての適当な措置を執ることができる。
(b)前記の施設及び区域の外部においては,前記の軍事警察は,必らず日本国の当局との取極に従うことを条件とし,且つ,日本国の当局と連絡して使用されるものとし,その使用は,合衆国軍隊の構成員の間の規律及び秩序の維持のため必要な範囲内に限るものとする。
11 この協定の第二十四条の規定が適用される敵対行為が生じた場合には,日本国及び合衆国のいずれの一方も,他方の国に対し六十日前に予告を与えることによつて,本条のいずれの規定の適用も停止させる権利を有する。この権利が行使されたときは,日本国及び合衆国は,適用を停止される規定に代るべき適当な規定を合意する目的をもつて直ちに協議しなければならない。
この議定書は,署名の日の後三十日で効力を生ずるものとする。
以上の証拠として,両政府の代表者は,このために正当な委任を受け,この議定書に署名した。
千九百五十三年九月二十九日に東京で,ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国政府のために
岡崎勝男
犬養健
アメリカ合衆国政府のために
ジョン・M・アリソン