データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 池田特使・ロバートソン国務次官補会談(1953年10月5日−30日),十月二一日付合衆国覚書

[場所] 
[年月日] 1953年10月21日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,238−241頁.外務省文書.
[備考] 
[全文]

十月二一日付合衆国覚書

 十月十九日付の日本側文書に対する合衆国の左のコメントは,一体として考慮されているものであつて,個々独立に成立するものではない。各項の番号は日本側文書の各項に対応するものである。

 一,(一)合衆国側代表は,日本の防衛力建設に対し(イ)法律的,(ロ)政治的,(ハ)経済的,及び(ニ)物理的の四つの制限の存在することを認める。合衆国代表は前記(イ)及び(ロ)については何ら論評を加えない。蓋し憲法改正及び国論という問題は,日本の政府及び国民が,自己のやり方で処理せねばならぬからである。(ハ)及び(ニ)の点は以下に検討を加える。

 (二)(イ)合衆国は,日本が創設することあるべき陸上海上及び航空部隊に対する軍事装備の主要なものを供給することによつて,日本がその部隊を発展せしめることを援助することを考慮している。

 この米側の提案は次の三つの制限を条件としている。即ち部隊を創設し支持しようという意志のあること,必要な合衆国議会の承認,及び提案される援助を正当化するに足る日本側自らの防衛努力がこれである。かかる理由なくしては議会の承認を得られないであろう。

 合衆国の援助計画の見地から,日本の防衛努力はどの程度が十分であるかは日本の実際の経済的情況と関連して随時検討されねばならない。日本の一九五四会計年度については,合衆国の会談者は,日本自身の防衛に対する予算上の寄与が円にして二千億,日本の一九五五会計年度に2千三百五十億円でない限り合衆国議会に対して弁護できないとの意見である。

 会談者が暫定的に約三十二万五千から三十五万の地上部隊建設という目標を受諾することを示唆する。

 これらの部隊の発展の正確な構成及び時間的にらみ合せは,東京の当該合衆国代表との間で周到に作成されるであろう。その目的は,二千億円及び二千三百五十億円が今後の日本の二会計年度にわたつて最も賢明に使用され得る方法を決定することにある。

 池田氏の日本の防衛計画に関する研究は,現会計年度において保安隊の地上部隊のいかなる増加をも規定してない。

 合衆国の会談者は,日本が現会計年度中に二万四千また次会計年度中に四万六千地上部隊を増加し,かくして地上部隊を十八万に増強することを考慮することを勧告する。

 海軍に関しては一般に,日本は自己の負担において,小型機雷掃海艇や敷設艇の如き小軽艦艇を建造すべきであると示唆する。合衆国は,駆逐艦や駆逐護衛艦の如き艦艇を貸与の形で供することを考慮する意志がある。空軍力の構成及び創設の時期的段階もまた,利用できる資源を勘案して詳細に考慮されるであろう。

 東京においてなされるべき計画は,単に日本の部隊の構成及び時期的段階のみならず,三軍の間における利用しうる円基金及び合衆国の軍事援助の最も適当な配分をも考慮に入れるであろう。合衆国の現会計年度中に,合衆国は,今後数年間の兵力目標に関する基本的了解が得られれば,日本人が現存の日本地上部隊の装備を完成することを援助し,且つ,航空部隊を含む人員の訓練を援助する意志があることが既に示されている。

 (ロ)合衆国は,合衆国軍隊の支持に対する日本の寄与分担が日本自身の兵力の増強により正当化される限度で減少すべきことを妥当と考える。

 (ハ)合衆国側会談者は,日本において日本人が自国の防衛に対し一層の責任を感ずるような環境をつくり出すことが必要であること,これは第一義的に日本政府の責任であることに同意する。

 (ニ)以上に述べられた如き日本側の計画が樹てられれば,合衆国は,日本が日本を防衛する能力を発展させるに従い,その兵力を引揚げることができるであろうと考えられている。

 (三)(イ)日本は,合衆国の立法の下において,「防衛支持」即ち経済援助を受けられるが,次のことを強調する。(A)経済援助はその必要性があるか否かによつて与えられること,(B)協力国をして,その国が支持できるだけの兵力を発展させるよう奨励するのが合衆国の政策であること,(C)日本に対する経済援助のために何らの資金もこれまで要請又は支出予算として承認されておらず,従つて資金は他の何らかの計画の犠牲においてのみ利用できるものであること,及び(D)合衆国が特殊の支出をしているため,日本は現在のところ有利な国際収支上の地位にあり,従つて経済援助を正当化する根拠はない。

 (ロ)相互安全保障計画に基く合衆国の現会計年度における日本における域外買付の実際の額は,日本の防衛建設の範囲と程度,同意されることあるべき対日軍事援助計画,及び完成品を調達する能力如何にかかつている。合衆国の関係諸機関は,一億ドルという暫定的数字を念頭においている。

 (ハ)合衆国は,五千万ドルが,相互安全保障法第五五○条の基準に基く対日農産物売却の妥当な目標額であると信ずる。但し通常の市場売買に対する追加であることを明示する必要がある。

 現地通貨による売上金のうち最低四千万ドルが日本ないし極東の他の友好諸国の軍隊による使用のため日本において軍事装備及び備品の調達に使用されるであろう。前項において示された一億ドルの域外買付見込額は,第五五○条の手続に基き合衆国により取得された円貨をもつてする四千万ドルの調達分を含むものである。この四千万ドルに当る現地通貨が,引渡に対する前渡金として,備品生産の発展を援助するために使用されうるかどうかの可能性については更に検討を要する。さらに,合衆国は,日本における充分な産業動員の基礎発展のために前記の現地通貨による売上金のうち一千万ドルに及ぶ額を供与するであろう。但し第五五○条の要件及びそれに関連ある防衛支持活動を含む特別の取極に調印することが必要である。

 二,(一)合衆国は,賠償問題の解決を,若し役に立つと考える場合には,その外交機関を通じて援助する用意がある。日本側代表は,合衆国が与え得る援助は,相手国によつて異同があることを了解している。合衆国は,日本が賠償を当該地域の経済的発展に関連せしめることに関して両国が演じ得るいかなる妥当な役割をも喜んで考慮するであろう。

 (ニ)合衆国は,日本と東南アジア地域間の貿易量増大から生じうる重大な利益を認識している。合衆国は,日本が同地域の貿易及び経済発展の増進のために日本が演じ得る役割に関して日本政府が提案するいかなる特定の構想についても討議する用意がある。しかし,かかる複雑な問題の検討のためこれまでわれわれが討議してきているその他の事項に関し明確な了解に到達することを遅らせてはならない。

 三,合衆国は,朝鮮における政治的解決のあるまでは,共産中国との貿易については高度の統制を維持することが重要であると信ずる。合衆国は,共産中国との貿易について,ヨーロッパ諸国よりも厳格でない統制を維持したいという日本の願望を了解し日本の提案した幾つかの品目を禁輸品目表から除くことについて,目下日本政府と協議中であり,又その他の品目についても削除の可能性について検討中である。かかる削除はこれまでに幾つか公表せられており,在日合衆国大使館は現在その他の品目についても訓令を受けている。しかし合衆国は,中共に対する経済的圧力は,これを緩和しても害がないようになるまでは,これを維持することが重要であると痛感しており,われわれは,この問題に関して日本政府が引続き協力されることを多とする。

 四,合衆国は,一九五四年一月に議会が再開される前に,約二十億ドルに達するガリオア請求権問題の解決が公表されることを最も重要と考える。従つて合衆国は,その解決のため一般的合意が以下の線に沿つて本討議中に成立するよう提案する。

 日本国は,通常の三十五年賦,年利二・五%,七億五千万ドルを返済し,この七億五千万ドルの内約四千三百万ドルは,余剰物資方式に従うこと。

 合衆国及び日本の代表が必要な文書を確定し署名するために,十一月十五日ころ東京で会合することを提案する。

 五,合衆国議会は,日本政府が,外国の投資について元本及び果実の双方につき,外貨送金を全面的に認める意図があること,投資者間で交渉される場合を除いては,民間企業における外国人の所有権に対していかなる比率上の制限をも課さない意図があること,及び日本政府が,生産的な民間投資を日本人および外国人双方にとつて魅力あるものとするために可能なその他のあらゆる措置を検討する意図があるものと了解している。

 六,合衆国側の会談者は,インフレーションを抑制し,且つ,世界市場において競争できる地位を維持するために,日本側においてより強力な措置をとることが両国間の有効なる協力にとり必須であると考えるものであることを強調した。

 従来の討議において詳細に述べられたこれらの措置の中には,次のことが含まれている。

 (イ)インフレーションをくいとめ且つ円の価値を守るための充分な措置。

 (ロ)生産原価,特に輸出品原価の引下げに対する充分の配慮。

 (ハ)生産的な企業,特に輸出企業への投資の流入をみちびくための適切な手続。

 (二)輸入を日本経済が賄いうる水準に維持するための直接間接の措置。

 かかる措置がとられない限り,日本の国際収支上の地位は改善されずに悪化し,合衆国の域外買付は減少し,日本の国際信用上の立場は害され,そして,合衆国の軍事援助の根拠が困難となるであろうというのが合衆国政府の確信するところである。                (同右)