[文書名] MSA協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定)
日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,
国際連合憲章の体制内において,同憲章の目的及び原則を信奉する諸国がその目的及び原則を支持して個別的及び集団的自衛のための効果ある方策を推進する能力を高めるべき自発的措置によつて,国際の平和及び安全保障を育成することを希望し,
千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約に述べられている日本国が主権国として国際連合憲章第五十一条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有するとの確信を再確認し,
千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の前文において,日本国が,攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章の目的及び原則に従つて平和及び安全保障を増進すること以外に用いられるべき軍備をもつことを常に避けつつ,直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを,アメリカ合衆国が期待して,平和及び安全保障のために暫定措置として若干の自国軍隊を日本国内及びその附近に維持するとある趣旨を想起し,
日本国のための防衛援助計画の策定に当つては経済の安定が日本国の防衛能力の発展のために欠くことができない要素であり,また,日本国の寄与がその経済の一般的な条件及び能力の許す範囲においてのみ行うことができることを承認し,
アメリカ合衆国政府が,前記の目的とするところを達成するためアメリカ合衆国による防衛援助の供与を規定する改正後の千九百四十九年の相互防衛援助法及び改正後の千九百五十一年の相互安全保障法を制定したことによりこれらの原則を支持したことを考慮し,
その援助の供与を規律する条件を定めることを希望して,
次のとおり協定した。
第一条
1 各政府は,経済の安定が国際の平和及び安全保障に欠くことができないという原則と矛盾しない限り,他方の政府に対し,及びこの協定の両署名政府が各場合に合意するその他の政府に対し,援助を供与する政府が承認することがある装備,資材,役務その他の援助を,両署名政府の間で行うべき細目取極に従つて,使用に供するものとする。いずれか一方の政府が承認することがあるいかなる援助の供与及び使用も,国際連合憲章と矛盾するものであつてはならない。アメリカ合衆国政府がこの協定に従つて使用に供する援助は,千九百四十九年の相互防衛援助法,千九百五十一年の相互安全保障法,この二法律を修正し又は補足する法律及びこれらの法律に基く歳出予算法の当該援助に関する規定並びに当該援助の条件及び終了に関する規定に従つて供与するものとする。
2 各政府は,この協定に従つて受ける援助を両政府が満足するような方法で平和及び安全保障を促進するため効果的に使用するものとし,いずれの一方の政府も,他方の政府の事前の同意を得ないでその援助を他の目的のため転用してはならない。
3 各政府は,相互間で合意する条件及び手続に従い,他方の政府に対し,この協定に基いて供与される装備又は資材(有償で供与される装備及び資材を除く。)で使用に供される当初の用途のために必要でなくなつたものの返還を申し出るものとする。
4 各政府は,共通の安全保障のため,この協定に従つて受ける装備,資材又は役務の所有権又は占有権を,これらの援助を供与する政府の事前の同意を得ないで,自国政府の職員若しくは委託を受けた者以外の者又は他の政府に移転しないことを約束する。
第二条
日本国政府は,相互援助の原則に従い,アメリカ合衆国が自国の資源において不足し,又は不足する虞がある結果必要とする原材料又は半加工品で日本国内で入手することができるものを,合意される期間,数量及び条件に従つて,生産し,及びアメリカ合衆国政府に譲渡することを容易にすることに同意する。その譲渡に関する取極に当つては,日本国政府が決定する国内使用及び商業輸出の必要量について十分な考慮を払わなければならない。
第三条
1 各政府は,この協定に従つて他方の政府が供与する秘密の物件,役務又は情報についてその秘密の漏せつ{前2文字強調}又はその危険を防止するため,両政府の間で合意する秘密保持の措置を執るものとする。
2 各政府は,この協定に基く活動について公衆に周知させるため,秘密保持と矛盾しない適当な措置を執るものとする。
第四条
両政府は,いずれか一方の政府の要請があつたときは,防衛のための工業所有権及び技術上の知識の交換の方法及び条件を規定する適当な取極であつて,その交換を促進するとともに,私人の利益を保護し及び秘密の保持を図るものを作成するものとする。
第五条
両政府は,アメリカ合衆国政府が実施する援助計画に割り当てられ,又は同計画から生ずるすべての資金について,差押その他の法律上の執行の手続を執ることが援助計画の目的の達成を妨げる虞がある旨をアメリカ合衆国政府から日本国政府に通告したときは,日本国政府が,いずれの人,法人その他の団体,その機関又は政府もその手続を行うことができないように,その資金を積み立て,他の資金から分離し,又はその資金に対する権原を確保するための手続きを設ける目的で協議するものとする。
第六条
1 日本国政府は,次のものを許与するものとする。
a この協定又はアメリカ合衆国政府と他の被援助国との間の同種の協定に基いて日本国の領域に輸入され,又はそこから輸出される資材,需品又は装備に対してその輸入又は輸出の際に課せられる関税及び内国税の免除(別段の合意がある場合を除く。)
b 附属書Eに掲げる日本の租税が,この協定又はアメリカ合衆国政府と他の被援助国との間の同種の協定に基く資材,需品,装備及び役務の調達のための日本国におけるアメリカ合衆国政府の支出金又は同政府が融資する支出金に影響するときは,その租税の免除又はその払いもどし
2 関税の免除並びに附属書Eに掲げる日本の租税の免除及び払いもどしは,相互防衛のための資材,需品,装備及び役務に対するアメリカ合衆国政府の支出金又は同政府が融資する支出金で,1に定めるもの以外のものについても行われるものとする。これらの支出金は,日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に適合して支出されるもの及び改正後の千九百五十一年の相互安全保障法又はその後同法を補足し,修正し,若しくはこれに代るべき法律に基くアメリカ合衆国政府の対外援助計画に適合して支出されるものを含む。
第七条
1 日本国政府は,アメリカ合衆国政府の職員で,この協定に基いて供与される装備,資材及び役務に関するアメリカ合衆国政府の責務を日本国の領域において遂行し,且つ,この協定に基いてアメリカ合衆国政府が供与する援助の進ちよく{前3文字強調}状況を観察する便宜を与えられるものを接受することに同意する。その職員(臨時に任用される職員を含む。)でアメリカ合衆国の国民であるものは,日本国政府に対する関係においては,アメリカ合衆国大使館の一部とみなされて大使館の長の指揮及び監督の下に行動するものとし,アメリカ合衆国大使館に属する相当級の他の職員と同一の特権及び免除を与えられる。
2 日本国政府は,この協定の実施に関連するアメリカ合衆国政府の行政事務費及びこれに関連がある経費として,アメリカ合衆国政府に随時円資金を提供するものとする。
第八条
日本国政府は,国際の理解及び善意の増進並びに世界平和の維持に協同すること,国際緊張の原因を除去するため相互間で合意することがある措置を執ること並びに自国政府が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基いて負つている軍事的義務を履行することの決意を再認識するとともに,自国の政治及び経済の安定と矛盾しない範囲でその人力,資源,施設及び一般的経済条件の許す限り自国の防衛力及び自由世界の防衛力の発展及び維持に寄与し,自国の防衛能力の増強に必要となることがあるすべての合理的な措置を執り,且つ,アメリカ合衆国政府が提供するすべての援助の効果的な利用を確保するための適当な措置を執るものとする。
第九条
1 この協定のいかなる規定も,日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約又は同条約に基いて締結された取極をなんら改変するものと解してはならない。
2 この協定は,各政府がそれぞれ自国の憲法上の規定に従つて実施するものとする。
第十条
1 両政府は,いずれか一方の政府の要請があつたときは,この協定の適用又はこの協定に従つて行われる活動若しくは措置に関するいかなる事項についても協議するものとする。
2 この協定の条項は,いつでも,いずれか一方の政府の要請があつたときは再検討することができ,また,両政府間の合意により改正することができる。
第十一条
1 この協定は,アメリカ合衆国政府が日本国政府から,日本国がこの協定を批准した旨の書面による通告を受領した日に効力を生ずる。
2 この協定は,いずれか一方の政府が他方の政府からこの協定を終了させる意思の書面による通告を受領した日の後一年を経過するまで,引き続き効力を有する。但し,第一条2,3及び4の規定並びに第三条1及び第四条に基いて締結される取極は,両政府が別段の合意をしない限り,なお引き続き効力を有する。
3 この協定の附属書は,この協定の不可分の一部とする。
4 この協定は,国際連合事務局に登録するものとする。
以上の証拠として,署名のために正当に委任された両政府の代表者は,この協定に署名した。
千九百五十四年三月八日に東京で,ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために
岡崎勝男(署名)
アメリカ合衆国のために
ジョン・M・アリソン(署名)
附属書A
アメリカ合衆国政府は,この協定の実施に当り,日本国及び他の国の使用に供すべき需品及び装備を実行可能な場合には日本国内において調達することを,並びに日本国の防衛生産の諸工業に情報を提供し,及びその諸工業の技術者の訓練を促進することを,他の条件の許す範囲内で,できるだけ考慮するものとする。この点に関連して,日本国政府の代表者は,アメリカ合衆国政府が日本国の防衛生産の諸工業の資金調達を援助するよう考慮するならば,日本国の防衛能力の発展は著しく容易になるべきことを述べた。
両政府は,アメリカ合衆国による日本国内における調達を容易にするため,両政府の間に十分な連絡手段を設けることが望ましいことを認める。
附属書B
日本国政府が第三条1に従つて執ることに同意する秘密保持の措置においては,アメリカ合衆国において定められている秘密保護の等級と同等のものを確保するものとし,日本国が受領する秘密の物件,役務又は情報については,アメリカ合衆国政府の事前の同意を得ないで,日本国政府の職員又は委託を受けた者以外の者にその秘密を漏らしてはならない。
附属書C
両政府は,標準化の原則から生ずる利益を認めて,型及び品質に関し,この協定に基いて供与される援助の効果的な使用及び維持を促進する程度の標準化を達成するため,実行可能な共同措置を執ることが望ましいことに同意した。
附属書D
日本国政府は,共通の安全保障のため,世界平和の維持を脅かす国との貿易を統制する措置を執ることについて,アメリカ合衆国その他の平和愛好国の政府と協力するものとする。
附属書E
日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,第六条の実施のため,次のとおり合意する。
1 第六条1b及び2にいう日本の租税とは次のものをいう。
a 物品税
b 通行税
c 揮発油税
d 電気ガス税
2 両政府は,この附属書に明示していない日本の現在の又は将来の租税で第六条に定める支出金について適用があると認められるものに関し,免除及び払いもどしを許与するための手続につき合意するものとする。
3 日本の租税の免除及び払いもどし並びに関税の免除は,アメリカ合衆国政府の適当な証明がある場合に行われるものとする。
4 アメリカ合衆国政府が,第六条に基いて関税又は租税の免除を受けて,日本国に輸入し,又は日本国内で調達する資材,需品及び装備は,日本国及びアメリカ合衆国の当局が相互間で合意する条件に従つて認める場合を除く外,日本国内で処分してはならない。
5 第六条及びこの附属書は,
a 日本国の法令で定める輸入又は輸出の手続の免除を必要とするものと解してはならず,また,
b 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定その他の現行の協定及び取極に従つて日本国の法令で定める関税及び内国税の免除に影響を及ぼすものと解してはならない。
附属書F
1 両政府は,この協定によつて供与される援助の進ちよく{前3文字強調}状況を観察するアメリカ合衆国政府の責務を第七条に従つて日本国において遂行するアメリカ合衆国政府の職員に対して日本国政府が与えるべき便宜に関し,その便宜が合理的なものでなければならず,且つ,日本国政府に不当な負担となつてはならないことに同意する。
2 両政府は,前記の職員で外交特権を与えられるべきものの数をできるだけ少なくすることに同意する。
3 両政府は,アメリカ合衆国政府の国籍を有する前記の職員でアメリカ合衆国大使館の一部とみなされるものの地位が,在日本国アメリカ合衆国大使館に属する相当級の職員の地位と同一であることに同意する。
当該職員は,次の三等級に区分される。
a 同大使館に配属される最上位の将校並びに陸軍,海軍及び空軍各部の先任将校並びにこれらの者の次席者は,アメリカ合衆国政府の適当な通告があつたときは,完全な外交官たる地位を認められる。
b 第二の等級の職員は,国際慣習により同大使館の特定の等級の職員に認められている特権及び免除(日本国の民事及び刑事の裁判権からの除外,公文書の捜索及び押収の免除,任国を自由に離れる権利,その職員がその個人的仕様及び消費のため日本国内に輸入する私有財産に対する関税若しくは類似の租税又は制限の免除で外国為替に関する現行法令を害しないもの,その職員の給料に対する日本の内国税の免除その他の特権及び免除)を享有するものとする。アメリカ合衆国政府は,第二の等級の職員については,外交官用自動車登録番号標,外交団名簿への記載,社交的儀礼その他の外交官たる地位に伴う特権及び儀礼を辞退することができる。
c 第三の等級の職員は,同大使館の書記と同等の地位を認められる。
附属書G
1 両政府は,日本国政府が第七条の規定に従つて随時提供すべき経費の価額を必要の最小限に制限することに同意する。
2 両政府は,また,日本国政府が,1の規定に掲げる経費を提供する代りに,必要な且つ適当な不動産,備品,需品及び役務を使用に供することができることに同意する。
3 両政府は,日本の毎会計年度において日本国政府が提供すべき金銭負担としての日本円の価額については,同政府が使用に供する金銭以外のものによる負担を考慮に入れた上で,両政府の間で合意すべきことに同意する。
4 日本国政府による負担は,両政府の間で合意することがある取極に従つて使用に供されるものとする。
5 両政府は,さらに,この協定の効力発生の日から千九百五十五年三月三十一日までの最初の期間において日本国政府が提供すべき金銭負担としての日本円の価額が,その期間において同政府が使用に供する金銭以外のものによる負担を考慮に入れて,三億五千七百三十万円(三五七,三00,000円)をこえないことに同意する。