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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 重光外務大臣とダレス米国務長官の共同声明

[場所] 米国務省
[年月日] 1955年8月31日
[出典] 情報公開法に基づき外務省から開示された文書
[備考] 訳文(外務省)
[全文]

 共同声明

 日本国副総理兼外務大臣重光葵は、国務長官ジョン・フォスター・ダレス及び他の米国政府高官との間の三日間にわたる会談を終了した。

 外務大臣と同席した主な人々は、農林大臣河野一郎、日本民主党幹事長岸信介、駐米大使井口貞夫、国際連合日本政府代表部長加瀬俊一大使及び内閣官房副長官松本瀧蔵である。

 外務大臣及びその一行と会談した米国の官吏には、国務次官ハーバート・フーヴァー・Jr、国防次官ルーベン・B・ロバートソン・Jr、統合参謀本部議長アーサー・W・ラドフォード海軍大将、国際協力庁長官ジョン・ホリスター、国務副次官ロバート・マーフィー、国防次官補ゴードン・グレイ、駐日大使ジョン・M・アリソン、国務次官補代理ウィリアム・J・シーボルトが含まれていた。

 最近の国際情勢、特にジュネーヴにおける「頂上」会談の意義、国際連合における軍縮問題に関する現在の討議、及びジュネーヴにおける来るべき外相会議について世界的な観点から、自由な、かつ、忌憚なき意見の交換が行われ、また、極東情勢についても討議が行われた。ダレス長官は、全般的な平和の増進に導くべきあらゆる方途を忍耐強く探求しつつ、確乎として自由を支持する米国の政策を説明した。重光外務大臣は、ソ連邦及び中国における自らの経験に徴し、時刻の政策を解明した。国務長官及び外務大臣は、大規模な戦争の急迫した危険は遠のいたようであるが、国際情勢、特に極東の情勢には、いまだ不安定な要素が残つており、平和のより良い見通しを維持するためには、自由世界が引続き結束することが必要であるという見解に一致した。

 外務大臣は、日本が、その外交政策の礎石として、米国及び自由世界との協力を維持する決意を表明した。これに関連して、国務長官と外務大臣は、極東における安定及び永続的平和を確保するために、日米両国間において、一層緊密な協力が行われることが望ましいことを認め、両国政府が共通の関心を有する諸問題について引続き協議すべきことに意見が一致した。

 日本の安全保障に関する基本的諸問題が討議された。外務大臣は、日本の防衛力が現在相当の水準に達したことを指摘し、日本の能力の範囲内において防衛力漸増の政策が継続されるべき旨の堅い決意を表明した。外務大臣は、日本の防衛当局が最近作成した日本の防衛能力増強に関する諸計画を説明した。これらの諸計画は、東京における日米防衛関係に関する継続的な協議の過程において検討され、かつ、戦略上の要請に照して随時再検討されるべきことに意見が一致した。

 日本が、できるだけすみやかにその国土の防衛のための第一次的責任を執ることができ、かくて西太平洋における国際の平和と安全の維持に寄与することができるような諸条件を確立するため、実行可能なときはいつでも協力的な基礎にたつて努力すべきことに意見が一致した。また、このような諸条件が実現された場合には、現行の安全保障条約をより相互性の強い条約に置き代えることを適当とすべきことについても意見が一致した。

 さらに、このような条約を締結することを目標として、東京において防衛問題に関する日米両国代表間の協議を行うべきこと、及びその協議に当つては、日本自体の防衛力が増大するに伴い、アジアにおける関連した事態を考慮しつつ、米国の地上部隊を漸進的に撤退させる計画を樹立することについて考慮を払うべきことに意見が一致した。

 在日米軍の支持のための日本の財政的寄与の問題に関しては、今後数年間にわたる漸減に関する一般的方式を設定することが望ましいことについて意見の一致を見た。

 外務大臣は、日本が諸外国、特にアジアの諸国との貿易を伸張させる必要があることを強調し、また、日本がガットの正式加盟国となるために米国が与えた援助に対して謝意を表明した。

 ダレス長官は、米国の法律の基くアジアの自由諸国の経済発展のための援助に関する現在の構想を述べた。目下計画されている諸措置は、日本の経済的地位を改善し、生活水準の向上を達成しようとする日本の努力を容易にするであろうということが認められた。同長官は、外国民間投資が日本及びアジア地域内の他の諸国において経済開発に寄与することができることを強調した。

 外務大臣は、米国の管轄権の下にある戦争犯罪人の早期釈放を要請した。国務長官は、問題の複雑性を述べるとともに、戦争犯罪人釈放の問題を継続的にかつ緊急に検討すべき旨を表明した。

 占領期間中日本に供与された経済援助の処理については、なんら大きな障害が残つていないこと、及び東京における本件に関する両国政府間の交渉を早期に妥結させるため極力努力することに意見が一致した。

 今次会談を通じ、日米両国の代表は、日本はアジアの大国として、アジアの安定と平和に貢献するため、他のアジア諸国と友好的に協力して積極的役割を果すべきであると認めた。両国代表は、日本が国内安定の確立、国民経済の再建及び防衛能力の強化に努力していることにかんがみ、日米両国間の継続的協力のため一層強固な基礎が存在することに意見が一致した。重光外務大臣及びダレス国務長官は、両国が相携えて、かつ、他国とともに世界の平和と自由の強化のための任務を遂行しうるために、この協力関係をさらに拡大せんとする両国政府の決意をあらためて確認した。