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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米技術協定(防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定)

[場所] 東京
[年月日] 1956年3月22日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),737−739頁.外務省条約局「条約集」,第34集第28巻.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,

 千九百五十四年三月八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定において,いずれか一方の政府の要請があつたときは両政府間に工業所有権及び技術上の知識に関する適当な取極を作成することを合意しており,

 相互防衛援助協定に基く特許権及び技術上の知識の交流を容易にし,かつ,促進することにより,防衛のための装備及び資材の生産を一般的に援助することを希望し,また,

 私人たる特許権者及び私人たる技術上の知識の所有者の権利がそのような特許権及び技術上の知識に適用される法令に従つて完全に承認され,かつ,保護されるべきことを認めて,

 次のとおり協定した。

    第一条

 各政府は,防衛生産を不当に制限し,又は阻害することなく実行することができるときは,次の方法により,第八条に定める特許権の防衛目的のための使用を容易にし,かつ,同条に定める技術上の知識で私有のものの防衛目的のための流通及び使用を奨励するものとする。

(a)一方の国における前記の特許権及び技術上の知識の所有者と他方の国におけるこれらの特許権及び技術上の知識の使用権者との間の現存の商業上の関係を通ずること。

(b)前記の関係が現存しないときは,所有者及び使用者がこのような商業上の関係を設定すること。

 もつとも,そのような取極は,秘密の情報に関する場合には,防衛上の秘密保持の要件に反してはならず,また,これらのすべての取極の条項は,両国の関係法令に従うものとする。

    第二条

 防衛目的のため一方の政府が他方の政府に対し単に情報として技術上の知識を提供し,かつ,そのことが提供の時に明示されたときは,その提供を受けた政府は,その知識を内密に知らされたものとして取り扱い,かつ,その知識の所有者のその知識に対する特許その他の法令上の保護を受ける権利を害するおそれのあるいかなる方法によつてもその知識が取り扱われることがないように最善の努力を払うものとする。

    第三条

 一方の政府が合意される手続に従つて防衛目的のため他方の政府に提供した技術上の知識が,提供国で秘密に保持されている特許出願の対象たる発明をあらわすものであるときは,その特許出願に相当する他方の国でされた特許出願は,類似の取扱を受けるものとする。

    第四条

(a)私有の技術上の知識が,

 (i)その所有者により又はその者のためにその者の属する国の政府に伝達され,かつ,

 (ii)その後その政府により防衛目的のため他方の政府に知らされ,かつ,他方の政府によりその所有者の明示の又は黙示の同意なしに使用され,又は漏らされた場合において,

最初にその伝達を受けた政府がその所有者に補償金の支払を行つたときは,両政府は,その支払が両政府間における補償の責任の分担に関して両政府間で行われることのある取極を害するものでないことに同意する。第六条の規定に基いて設置される技術財産委員会は,その取極に関し討議し,及び両政府に勧告する。

(b)防衛目的のため一方の国の国民が他方の国の政府の要請によりその政府に対し技術上の知識を提供し,かつ,その後その政府が防衛のためであるかどうかを問わずいずれかの目的のためにその知識を使用し,又は漏らしたときは,その知識の提供を受けた政府は,これを使用し,又は漏らしたことについてその国内法令に基きその所有者が受けるべき限度において迅速な,正当な,かつ,有効な補償を行うため,その知識の所有者の要請により,国内法令上可能な措置を執るものとする。

    第五条

 一方の政府又はその政府の所有し,若しくは管理する団体若しくは機関が発明若しくは技術上の知識を所有し,又はその使用を許す権利を有しており,かつ,他方の政府がその発明又は技術上の知識を防衛目的のため使用するときは,これらを使用する政府は,これらにつき確立された利益を有する私人に対して負うことのある責任の限度で負担するものを除くほか,費用を負担することなくその発明又は技術上の知識を使用することができる。両政府は,その使用に先だち,使用する政府がその発明又は技術上の知識についてのいかなる確立された利益に関しても通報を受けることを確実にするように協力するものとする。

    第六条

 各政府は,技術財産委員会を構成する委員各一人(各二人以上とすることができる。)を指名するものとする。この委員会の任務は,次のとおりとする。

(a)この協定の内容に関する事項でいずれかの政府が委員会に付託するすることのあるものについて審議し,及び両政府に勧告すること。

(b)防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流又は使用に関する問題でいずれかの政府が委員会の注意を喚起するものについて両政府に勧告すること。

(c)適当な場合には,防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の使用のための商業上その他の取極の交渉を援助すること。

(d)防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の使用のための商業上その他の適切な取極に注意を払い,また,必要かつ適当な場合には,その取極が受諾しうるものであるかどうかについての両政府の意見を求めること。

(e)適当な場合には,実施許諾を得ることを援助し,及び防衛目的のため使用された発明又は技術上の知識に関する補償金の支払について両政府に勧告すること。

(f)両政府の防衛当局間の技術上の協力に関連して特許権及び技術上の知識の交流及び使用を容易にすること。

(g)前条の規定に該当し,又は今後該当するすべての発明又は技術上の知識の防衛目的のための使用に関するすべての問題を常に検討すること。

(h)防衛目的のため提供された技術上の知識に関する補償の規制等についての両国の諸原則における相違を調整する方法に関し,個個の事例について又は一般的に両政府に勧告すること。

    第七条

 各政府は,要請があつたときは,他方の政府に対し,次の目的のため必要なすべての情報の提供その他の援助を実行可能な範囲で行うものとする。

(a)防衛目的のため提供された発明又は技術上の知識の所有者に対し,その者がその発明又は技術上の知識に関して有することのある権利を保護し,及び保持する機会を与えること。

(b)防衛目的のため提供された特許権及び技術上の知識の使用から生ずる支払及び裁定の額を評価すること。

    第八条

(a)この協定において「技術上の知識」とは,その知識の所有者及びその知識について所有者と特殊な関係にある者が創案し,又はそれらの者に限り知得している知識で,一般に入手することができないものをいう。

(b)「特許権」とは,この協定の日本国における適用については同国の特許法又は実用新案法に基き与えられた権利をいい,アメリカ合衆国における適用については同国の特許法に基き与えられた権利をいう。

(c)「使用」という語は,政府による製造又は政府のための製造を含む。

(d)この協定のいかなる規定も,原子力の分野における特許権,特許出願及び技術上の知識には適用されない。

(e)この協定のいかなる規定も,両政府間の現行の又は将来の安全保障に関する取極に優先しないものとする。

    第九条

(a)この協定は,日本国がその国内法上の手続に従つてこの協定を承認したことを通知する日本国政府の公文をアメリカ合衆国政府が受領した日に,効力を生ずる。

(b)この協定の条項は,いつでも,いずれか一方の政府の要請があつたときは,再検討することができるものとし,また,両政府間の合意により改正することができる。

(c)この協定は,千九百五十四年三月八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定が終了した日と,いずれか一方の政府が他方の政府からこの協定を終了させる意思の書面による通告を受領した日以後六箇月を経過した日とのうちいずれか早い方の日に終了する。ただし,その終了は,その時にこの協定の条項により生じている義務及び責任に影響を及ぼすものではない。

 以上の証拠として,両政府の代表者は,署名のため正当に委任を受け,この協定に署名した。

 千九百五十六年三月二十二日に東京で,ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

 日本国政府のために

   重光葵

 アメリカ合衆国政府のために

  ジョン.M. アリソン