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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米安全保障条約改正問題に関するソ連政府の声明についての近藤晋一外務省情報文化局長談話

[場所] 
[年月日] 1958年12月3日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),897−898頁.外務省情報文化局「外務省発表集」第8号,62−8頁.
[備考] 
[全文]

(1)わが国は憲法に定められた自由民主主義と平和主義の原則をその国策の基本としており,それ故に日本政府は国連憲章の原則と精神に基き世界の平和と安全のためあらゆる努力をしてきたし,今後もその立場を堅持する。したがつて,わが国の政策は他のいかなる国をも脅威するものでないことは明らかである。

(2)現行安全保障条約は日本の固有の自衛権に基いて防衛力をもたなかつたわが国が米国と協力して自らの安全を守ろうとする純粋に自衛的性格のものである。ソ連は中ソ同盟条約は防衛的であるといいながら,日米安全保障条約を攻撃的であると云つているが,これはおかしなことであり承服出来ない。又本年八月のフルシチョフ,毛沢東の共同声明においては中ソ同盟条約を強化することを唱つていることを指摘したい。

(3)ソ連は声明の中で,現行条約は日本国民の意思に反して結ばれたものであると云つているが,現行条約は当時日本国民の間で論議をつくし国会の承認を得て結ばれたものである。しかし其の後の客観情勢の変化に伴つて現行条約を現情に沿うようこれを合理的に改正しようとの日本国民の要望が強くなつたので,政府はこの国民的要望に応じて,改正の為米国と交渉を始めたものである。

(4)わが国が自らの安全を守るために,いかなる道をえらぶかは,日本国民自らが決定するところである。現在の国際情勢の下でいかなる国も自国のみでその安全を守り得ないという現実を,日本国民の大多数は認識している。現在の改正交渉はこのような日本国民の認識の上に立つて行われているものであつて,而もその交渉の目的は安全保障条約の防衛的性格を変えようとするものではない。従つてソ連の非難は日本国民からみれぱ甚だまと外れであるという外はない。

(5)ソ連は声明の中で日本に中立をとれといつている。然しながら自由民主主義を信奉する日本として,志を同じくする他の自由主義国と協力し,世界平和に貢献することを基本的方針としておることは既に述べたとおりであつて,日本を無力化し孤立化せしめようとする如何なる企図にも,日本国民の大多数が反対するであろう。

(6)わが国は自由民主主義の国として他の自由諸国との協調を基本的方針としているが,同時に,社会体制の異なる国との善隣関係を維持することを希望している。しかしながら他国の外交政策に対して容かいするが如き今回のソ連政府の声明は,われわれの希望するような善隣関係の促進に役立つものとは考えられない。