データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 七月六日総理、外務大臣、在京米大使会談録

[場所] 
[年月日] 1959年7月6日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(2.1960年1月の安保条約改訂時の朝鮮半島有事の際の戦闘作戦に関する「密約」問題関連),文書2-1
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告の際に公開された文書。公開された文書は外務省縦罫紙に手書き。漢字、ふりがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は、本文の前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外上>

大臣※{※は花押}

次官※{※は花押}

条約局長※{※は花押}

次長※{※は花押}

条約課長※{※は花押}

下田公使※{※は花押}

極秘{囲み線あり}

<1ページ目 欄外右>

米局長※{※は花押}

参事官※{※は花押}

<1ページ目 欄外下>

回覧番号 米保 1883{前10文字不鮮明}



七月六日総理、外務大臣、在京米大使会談録{東郷の印あり}

日時 昭和三十四年七月六日午前九時五分―十時十分、於総理官邸

出席者 岸総理、藤山大臣、森米局長、米課長

マックァーサー大使、レンハート公使、ハーツ書記官

大使 御多忙中なるべきにつき早速吉田・アチソン交換公文に関しお話いたしたし。昨年十月四日初めてお話した際、米上院筋では本件ノートは条約改正に影響されない了解でおり、又、ダレス国務長官も本件ノートは平和条約と一体をなすものであるから条約改正の影響はうけないと考えておる旨既に申上げた事を御記憶あると思う。その后の外務大臣とのお話において、日本側では本件ノートは安保条約の付属として取扱{1文字黒塗りあり}はれ、従つて、新{1文字黒塗りあり}たな交換公文により存続せしめざる限り{1文字黒塗りあり}現行条約と運命を共にするが、コミットメントは国連軍協定により存続すべきものなる次第を承つた。訓令は、新たな交換公文でなく、第二の点に関するものである。

日本側では、新条約が発効すれば、吉田・アチソン交換公文は、安保理{1文字黒塗りあり}事会の決議に基き現に朝鮮{がを二本線で抹消あり}でとられている国連の活動のみをカヴァーするものであると了解され、又「サポート」は補給活動に限{1文字黒塗りあり}られるもので、事前協議なしの作戦行動は含まないと了解されるお考えであると承{1文字黒塗りあり}知する。米国政府は右の第一点、即ち本件ノートは朝鮮において共産側が戰斗を再開した場合に限り、極東の他の地域における国連の未来の活動には及ばないとする点は(ここにおいて大使は吉田・アチソン交換公文の一節を引用す{1文字黒塗りあり})、交換公文の字句に拘りなく日本側の了解に同意する用意がある。しかしながら第二点、即ち日本にある米軍が朝鮮にある国連軍を積極的に助ける必要が生じた場合{3文字黒塗りあり}、日本側に事前に協議しなければならないという約束はなし得ない。蓋し、朝鮮においては既に国連の決議に基{1文字黒塗りあり}いて国連軍が現に存在しており、萬一共産側が戰斗を再開するような場合は、フォーミュラでいつている普通の作戰行動とは自ら別種のものである。

昨秋自分がワシントンで両党領袖に話した際も、{何れもを二本線で抹消あり}各領袖はこの問題は{1文字黒塗りあり}重要視していた{1文字黒塗りあり}ところである。米側でも此の問題は最高レヴェルでの話になっているので、特に総理に直接お話せよとの訓令があったものと考へる。米国としては国連に対する義務の見地よりも、又他の国連諸国に対する約束からしても、この点は重要な問題で、更に米軍が各地の基地から何時でも飛んで行けるということが侵畧の再開に対する強力な抑制力を成すものである。なお日本側がこのコミットメントを引続いて引受けられたとしても、新条約において米国が引{きを二本線で抹消あり}受けるコミットメントを何等歪曲しようとするものでないことははつきり申上げられる。

 要するに米国政府は(1)吉田・アチソン交換公文は朝鮮において共産側が戰斗を再開した場合に限るものである事は同意するが(2)既に国連が措置をとつている朝鮮においては、非常の場合日本側と協議する事なく行動する事あるべきを、留保せざるを得ない。條約改訂問題は既に一昨年総理御自身ワシントンで採上られ、其の後藤山大臣より{△の記号あり}ダレス長官に対し極めて適切に話を進められて今日に及んだ所であるが、今{○に♯を重ねた記号あり}回の条約交渉において米側としては新条約が日本国民に{○に×を重ねた記号あり}アクセプトされるのみならず眞に支持されるようにするため出来るだけの努力はして来たと信ずる。他方米国としても萬一共産側が侵略を再開した場合国連軍を助ける事が出来る状態になければならないのである。

総理 (外務大臣に対し)問題の焦点は始めてきいた訳だが研究しようではないか。

外務大臣 (総理に対し)米国は吉田・アチソン交換公文が現在及び將来に亙り極東における国連の活動全般に及ぶ形であるのを朝鮮だけに限り、それをフォーミュラとの関係で共産側の侵畧の再開の場合の非常措置に限定し、問題をしぼつて来たものであるが、米側の言つている事は実質的には、差支えないと思う。我方でも検討して総理出発までに回示する事としたい。

総理 問題は実は具体的には始めて聞いた事である。米側の趣旨はよく理解出来たから早速研究し、出発までに我方の考えをまとめる事としたし。

大使 多とする。行政協定の二、三の点を残し、条約協定の交渉はgood shapeにあると思う。今朝政府与党間で打合がある様新聞で承知しているが、此の際タイミングについての総理のお考えを承れればありがたい。

総理 お話の如く今朝重要閣僚と党と打合をやる事になつている。自分は八月十日頃帰国するが、臨時国会を何時開き得るか問題であり、九月中は困難の見透しである。そうなると臨時国会ではヴィエトナム{1文字黒塗りあり}賠償問題もかかるので、條約審議には充分時間がなく、新条約を国会に出すのは通常国会が適当であるとの考え方もある。余り早く署名すると、充分の時間がないのに臨時国会に出せとの議論も生ずるので、若し、通常国会に出すと決まれば署名の時期もそれに見合つた適当な時期がよいという事になる。急いで署名することは必ずしも得策ではないので、国会の時期とも睨み合わせて決める事としたい。

大使 署名の時期については米国側から日本側に御都合の悪いような事を申し出る考えはない。唯上院は予め委員会などで手をつける事はあつても承認は日本の国会の承認があるまでは行わないであろう事を申上げておく。今后具体的になつたら又御連絡願い度い。

総理 外務大臣より隨時連絡いたすべし。

(以下ビルマの問題、北鮮帰還問題に移つて会話を終えた。)