[文書名] 日本国に対する戦後の経済援助の処理に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定
1.日本国に対する戦後の経済援助の処理に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定
アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)は,千九百四十五年九月二日から千九百五十二年四月二十八日までの間に,日本国政府に対し,経済援助を提供したので,
この援助は,日本国における民生の安定及び日本国の経済に寄与したので,
日本国政府及び合衆国政府は,この経済援助に関し日本国政府が合衆国政府に対して行なう支払の額及び条件を単一の協定で定めることを希望して,衡平なかつ双方にとって満足な了解に到達したので,
よって,両政府は,次のとおり協定した。
第一条
1 日本国政府は,第六条に定義する戦後の経済援助の提供から生じ又はこれになんらかの関連があるすべての懸案となっている問題の最終的処理として,合衆国政府に対し,ここに四億九千万合衆国ドル(四九0,000,000ドル)の額の債務を負うものとする。
2 日本国政府は,ここに,四億九千万合衆国ドル(四九0,000,000ドル)の元金の額及びこの協定の効力発生の日以後の随時の未払元金残高につき年二分五厘の率で半年ごとに支払われるべき利子を支払うことを約束する。この協定の効力発生の日から六箇月後に始まり,その後半年ごとに,最初の二十四回は各二一,九五九,一二五ドルの賦払金を,次の六回は各八,七0一,六九0ドルの賦払金を支払うものとする。これらの賦払金は,まず,生じた利子に充当し,その残額は,元金に充当するものとする。
3 元金及び利子は,ワシントン・D・Cの財務省またはニュー・ヨーク連邦準備銀行に合衆国の法貨により支払う。
4 日本国政府は,いつでも,この協定上の未払元金の全部又は一部の支払を繰り上げることができる。合衆国政府に対して行なういずれの前払金の支払も,合衆国ドルによらなければならない。この前払金は,期限の到来後未払となっている利子又は元金がある場合には,まずその支払金に充当するものとし,その他の場合には,元金のすべての未払賦払金に均等の割合で充当するものとする。
5 元金又は利子のいずれかの賦払金の迅速なかつ全額の支払が履行されなかった場合において,合衆国政府が選択するときは,この協定上の未払元金の全部及びその支払が行なわれる日までのこれに対する利子は,期限が到来し,かつ,支払うべきものとなる。いずれかの特定の不履行に関してこの権利を行使しないことは,当該不履行又は他の不履行に関してこの権利を放棄することとはならない。
第二条
両政府は,不利な経済的事情又は他の理由により,利子若しくは元金の賦払を延期し若しくはその延期を取りきめ,又は利子若しくは元金の支払に関するこの協定のいずれかの規定を変更し若しくはその変更を取りきめることが両政府の共通の利益であることをいつでも決定するときは,書面による相互の合意により,これらの延期又は変更を取りきめることができる。
第三条
1 第六条に定義する戦後の経済援助の提供から生じたアメリカ合衆国及びその国民に対する日本国及びその国民のいかなる請求権も,千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第十九条(a)の規定によって放棄されていることが,了解され,かつ,合意される。
2 日本国政府は,連合国最高司令官と大韓民国との間の清算勘定で千九百五十年四月一日前に存したものの残高及び連合国最高司令官と琉球との間の清算勘定の残高に関し,今後はいかなる請求権をも合衆国政府に対し提起しないことに同意する。
第四条
合衆国政府は,ここに,第六条に定義する戦後の経済援助の提供から生じた日本国政府及び日本国民に対する合衆国政府のすべての請求権を,それらの請求権が日本国政府に対し第一条に定める額より多額の支払を行なうこと又は同条に定める期限前に支払を行なうことを要求する限度において,放棄する。
第五条
1 合衆国政府が日本国の通貨を日本国における合衆国政府のいずれかの又はすべての支出の支払の用に供することを希望するときは,合衆国政府は,日本国政府に対し,総額二千五百万合衆国ドル(二五,000,000ドル)をこえない額を限度として,いずれかの賦払金若しくはその一部又は第一条4の規定に基づき日本国政府が支払ういずれかの前払金を合衆国政府又は合衆国政府が指定する者若しくは機関に日本国の通貨により支払うよう要請することができる。この条の条件に基づき日本国の通貨の支払が行なわれる場合には,支払われた額の合衆国ドルの等価額が,合衆国政府が日本国の通貨による支払を要請した賦払金又は前払金に充てられるものとする。
2 1の規定に基づく支払に関して用いられる為替相場は,法定の複数為替相場がない限り,日本国政府が設定し,かつ,国際通貨基金との間で合意された平価で,その支払の日に適用されているものによるものとする。
第六条
この協定の適用上「戦後の経済援助」とは,占領地域の行政及び救済に適用される合衆国歳出法の規定によって認められた計画に基づく経済援助並びに他のすべての経済援助(ある種余の剰物資を含む。)で,合衆国政府が千九百四十五年九月二日から千九百五十二年四月二十八日までの間に日本国政府又は日本国民に対して提供したものをいう。
第七条
この協定は,それぞれの政府がこの協定の効力発生のための国内法上のすべての要件を満たした旨の文書による通告が両政府の間で交換された日に効力を生ずる。
以上の証拠として,下名の代表者は,各自の政府からこのために正当な委任を受け,この協定に署名した。
千九百六十二年一月九日に東京で,ひとしく正文である日本語および英語により本書二通を作成した。
日本国政府のために
小坂善太郎
アメリカ合衆国政府のために
エドウィン・O・ライシャウァー
2.支払金の一部円貨払に関する交換公文
(合衆国側書簡)
(訳文)
書簡をもって啓上いたします。本使は,本日署名された日本国に対する戦後の経済援助の処理に関するアメリカ合衆国と日本国との間の協定に言及するとともに,アメリカ合衆国政府と日本国政府との間で到達した次の了解を本国政府に代わって確認する光栄を有します。
アメリカ合衆国政府は,アメリカ合衆国の国務長官が歳出を認められることを条件として,前記の協定第五条1の規定に従い,アメリカ合衆国と日本国との間の教育および文化の交換の目的のため使用する二千五百万合衆国ドル(二五,000,000ドル)の等価額を日本国の通貨により支払うことを日本国政府に要請する意思を有する。
本使は,さらに,閣下が前記の了解を貴国政府に代わって確認されることを要請する光栄を有します。
本使は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向かって敬意を表します。
千九百六十二年一月九日
エドウィン・O・ライシャウァー
日本国外務大臣 小坂善太郎閣下
(日本側書簡)
書簡をもって啓上いたします。本大臣は,日本語による訳文が次のとおりである本日付けの閣下の書簡に言及する光栄を有します。
(合衆国側書簡)
本大臣は,さらに,閣下の書簡に述べられた了解を日本国政府に代わって確認する光栄を有します。
本大臣は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向かって敬意を表します。
千九百六十二年一月九日
日本国外務大臣 小坂善太郎
日本国駐在アメリカ合衆国特命全権大使
エドウィン・O・ライシャウァー閣下
3.支払金の使途に関する交換公文
(日本側書間)
書簡をもって啓上いたします。本大臣は,本日署名された日本国に対する戦後の経済援助の処理に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定に言及するとともに,日本国政府とアメリカ合衆国政府との間で到達した次の了解を日本国政府に代わって確認する光栄を有します。
1 合衆国政府は,適当な立法措置を経ることを条件として,前記の協定に基づき合衆国政府が受領する資金の大部分を,低開発諸国に対する経済援助に関する合衆国の計画を促進するために使用する意図を有する。
2 両政府は,東アジアの諸国の経済のすみやかなかつ均衡のとれた発展が日本国及び合衆国が深い関心を有する同地域の安定と平和に不可欠であること,及びこれらの諸国がこのような発展を遂げるためにはこの目的に寄与する開発援助が緊要であることを認める。よって,両政府は,関係諸国が表明する意向を十分考慮しながら,この目的に従い引き続き随時相互に密接な協議を行なうものとする。
本大臣は,さらに,閣下が前記の了解を貴国政府に代わって確認されることを要請する光栄を有します。
本大臣は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向かって敬意を表します。
千九百六十二年一月九日
日本国外務大臣 小坂善太郎
日本国駐在アメリカ合衆国特命全権大使
エドウィン・O・ライシャウァー閣下
(合衆国側書簡)
(訳文)
書簡をもって啓上いたします。本使は,英語による訳文が次のとおりである本日付けの閣下の書簡に言及する光栄を有します。
(日本側書簡)
本使は,さらに,閣下の書簡に述べられた了解をアメリカ合衆国政府に代わって確認する光栄を有します。
本使は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向かって敬意を表します。
千九百六十二年一月九日
エドウィン・O・ライシャウァー
日本国外務大臣 小坂善太郎閣下
4.支払金の一部円貨払に関する合衆国政府の要請の通報並びにその受領の確認
(ライシャウァー駐日米国大使の通報)
(訳文)
拝啓
本使は,本日署名された日本国に対する戦後の経済援助の処理に関する合衆国と日本国との間の協定第五条1の規定並びに合衆国と日本国との間の教育及び文化の交換の目的のため使用する二千五百万ドルの等価額を日本国の通貨により支払うことを同条の規定に従い日本国政府に要請する合衆国の意思に関し両政府間で交換された書簡に言及いたします。
従来の会談において,われわれは,日本国及び合衆国の双方の利益の見地から,協定第一条2の条件に基づき合衆国に対して行なわれるべき第一回目および第二回目の賦払金のうち二千五百万ドルの等価額を日本国政府が日本国の通貨で支払うことを合衆国が要請することが望ましいことについて討議しました。本使は,合衆国政府が,協定の効力発生の時に,日本国政府に対し,協定第一条2の条件に基づき合衆国に対して行なわれるべき第一回目の賦払金のうち一二,五00,000ドルの等価額を,および第二回目の賦払金のうち,一二,五00,000ドル等価額を日本国の通貨で支払うよう要請する意図を有する旨を貴大臣に欣然通報いたします。
敬具
千九百六十二年一月九日に東京で
エドウィン・O・ライシャウァー
外務大臣 小坂善太郎閣下
(小坂外務大臣の受領の確認)
(訳文)
拝啓
本大臣は,千九百六十二年一月九日に署名された日本国に対する戦後の経済援助の処理に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定第五条1の規定並びに日本国と合衆国との間の教育及び文化の交換の目的のため使用する二千五百万ドルの等価額を日本国の通貨で支払うことについて同日交換された書簡の実施の方法に関する千九百六十二年一月九日付けの貴大使の書簡を受領したことを確認いたします。
本大臣は,協定第一条2の条件に基づき合衆国に対して行なわれるべき第一回目の賦払金のうち一二,五00,000ドルの等価額を,及び第二回目の賦払金のうち一二,五00,000ドルの等価額を日本国の通貨で支払うよう協定の効力発生の時に日本国政府に対して要請する旨の合衆国政府の意図を承知したことを欣快に存じます。
敬具
千九百六十二年一月十日東京で
外務大臣 小坂善太郎
日本国駐在アメリカ合衆国特命全権大使
エドウィン・O・ライシャウァー閣下