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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 文化および教育の交流に関する第二回日米合同会議の最終コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1963年10月22日
[出典] 外交青書8号,32−36頁.
[備考] 
[全文]

 文化および教育の交流に関する第二回日米合同会議は,第一回会議のあとを受けてその後の実績を検討し,新しい問題の所在を究明し,将来の必要とその対策を研究するため,一九六三年十月十六日から二十二日までワシントンにおいて開催された。

 無知と誤解とが恐怖と疑惑とを生むように,知識と理解とが信頼と友情とを生むことを認識して,本会議は両国間の文化および教育の交流の範囲を拡大するための新たな方途を探究した。

 新渡戸稲造博士は,かつて,太平洋を文化的に結ぶ橋をかけるべきであるといわれた。橋というものは両端からささえられなければならず,どちらに向かっても渡ることができ,また主として人間の交流を促進するものであるから,博士の使われたひゆは適切である。文化および教育の交流は,両当事者の要求を満たし,双方によって支持されるに値しなければならない。さもなければ交流は失敗となろう。

 太平洋を越えるこのような交流は,両国の文化に力強い活力を与えることとなろう。一つの文明が他の著しく異なる文化と接触した場合,刺激と多様性と芸術的創造力とが生まれるものである。

一 第一回会議以降の実績検討

 第二回会議は,その定めるところに従い,第一回会議で採択された六項目の優先的勧告に関し,前もって準備された米国および日本の双方における最近の実績を概観する報告書を検討し討議した。

 両会議の勧告は,勧告を行なった代表団の精神的知的支持を背景としているが,勧告の相手である両国政府,民間諸団体ないしは各関係者を拘束するものではない。

 第一回会議では,教育および文化の交流を支援するため新しい種類の二国間機構を設置すること,芸術の交流をいっそう強調すること,そして翻訳を通じて日本の思想および学術的研究の成果の紹介を多くするため,新たな努力をすることが勧告されたが,特にこれらの勧告に関連してすでに進歩がはあったことを第二回会議は喜びとした。英語および日本語の教育あるいはアメリカ研究および日本研究というさらに広い分野においても大きな進歩があった。

 第一回会議の勧告は引き続き存続しており,第二回会議は,日米間の文化関係の改善のために努力しているすべての個人および機関が,引き続きこれらの勧告に注目し関心を寄せることを望むものである。

 第二回会議の議事日程に採択された四議題は,すべて第一回会議の勧告に含まれていた。四議題とは,教育文化テレビ番組の交換,日本の思想および学術的研究の翻訳および抄訳,日本におけるアメリカ研究および米国における日本研究ならびに舞台芸術の交流であった。

 最近,両国でいくつかの準備会議が開催され,その結果いっそう多くの文化的指導者の協力が得られたことは,これらの準備会議の成果と勧告とともに,一九六二年一月の第一回会議の最も有益かつ重要な成果の一つであった。

二 教育文化テレビ

 本会議は,テレビ番組の自由な交換が日米両国民間の相互理解を進めるための最も有効な手段の一つであり,きわめて重要であることを認めた。日米両国は,ともにテレビ聴視者の数において世界有数であり,両国ともよく発達した全国的規模のテレビ放送網を有し,ともに番組編成に関するかなり豊富な経験をもっている。しかし,同時に,両国間の良質なテレビ番組の交流をはるかに有効なものとする余地もある。

 テレビ番組の交流をいっそう促進するためには,なおいくつかの障害がある。その中でも最も大きな障害は,日米両国とも,現在のところ相手国の番組の全ぼうについてじゅうぶんに知っていないという事実がある。さらに通関手続き,著作権および追究的権利,番組使用料ならびに交換用番組の編集,吹き替え,サブタイトルのそう入に関連して種々の問題がある。テレビ関係者および研究成果の交流もじゅうぶん行なわれていない。最後に交換に適するものを見いだし,これを相手国の配給網にのせる組織的な方法が現在のところ確立されていない。しかし,これらの諸問題は解決できないものではない。

 これらの問題を解決し,かつ,この重要な分野において従来よりも広範で効果的な相互交流を促進することに専念するクリアリング・ハウスまたはセンターを日米両国に設立することを,両国の専門家の準備委員会はいずれもほぼ同様な表現をもって強く勧告した。準備委員会において,また今回の会議において,テレビの問題に最も通じている人々は,このようなクリアリング・ハウスは日米双方が努力すれば早期に設立しうるとの所信を表明した。

 本会議は,テレビ番組の交流促進が必要なことと,上記提案にそった努力の有効なことを確信し,教育文化テレビ番組の交流のためのクリアリング・ハウスを日米両国に設立するよう勧告することに,全会一致によりかつ熱意をもって同意した。さらに本会議は,おそくとも一九六四年四月までに,できうれば東京における欧州放送連盟会議の際に,具体的な計画およびその実施方法について合意に達するため,合同会議を開くよう準備を進めるべく,両国においてそれぞれ教育者,商業放送および公共放送の関係者からなる作業委員会をできるだけ早い機会に設置することを勧告した。

三 翻訳および抄訳

 日本文化の大きな部分は文筆活動によって創作され,伝達される。したがって,日本以外では翻訳だけを通じて広く利用される。翻訳家の仕事は,労が多く報いられることの少ないものであるから,学者も一般社会も,これをより高く評価すべきである。日本に対する関心が高まるにつれ,商業ベースで出版可能な翻訳の数は増加するであろうが,それでもなお,外国に理解されなければならないという日本の必要を満たすには決してじゅうぶんでなく,また米国が日本の思想から学びとるという必要を満たすにもじゅうぶんとはなり得ないであろう。日本語から英語への翻訳の質と量とを向上させるための政府公共団体および慈善団体の援助は,両国において必要である。

 日本の思想の翻訳ならびに抄訳を米国人に提供するに際しての主要な問題は,,主として事前の連絡調整がじゅうぶんに行なわれないために生ずる。翻訳すべき分野および文献を選択し,翻訳の高い質的水準を確保し,出版および頒布を手配し,かつ,翻訳の成果を評価するにあたっては,両国内および両国間において,またすべての関係者による緊密かつ不断の連絡が必要である。

 本会議は,日本の著作の翻訳を奨励し,日本側の努力をさらに効果があるようにするため,日本にクリアリング・ハウスを設立すべきであるとの合同準備委員会の提案を強く支持した。

 同時に,このようなセンターは米国側諸機関と密接な連絡をとって作業すべきであるということに一同意見が一致し,米国側の関係ある個人および研究機関の協力を求めた。また,本会議は,アジア研究協会のような特定の団体が日本のクリアリング・ハウスとの連絡に主として責任をもち,今後ももち続けることが望ましいことを認めた。

 イースト,ウエストセンター,米国大学出版連盟等いくつかの機関による翻訳支援のための努力は,特に多とされた。

四 アメリカ研究および日本研究

 日本と米国との関係のように,国家間の関係が非常に重要である場合には,相互の文化の本質的要素を研究しなければ健全で自主的な判断を下すことは困難である。それゆえ,第二回会議は,第一回会議同様米国における日本研究および日本におけるアメリカ研究の強力かつ多面的発展が必要であることを強調した。

 米国における日本研究および日本におけるアメリカ研究には,共通な基本的問題がある。すなわち,日本語または英語が母国語である教師につかないでそのことばを修得することの困難,研究分野が過度に専門化された大学に総合的な地域研究を導入することの困難,政府,公共団体および民間の援助の獲得の困難,研究対象となっている国への旅行に伴う経費調達および諸準備の困難,必要な研究材料の入手および整理の困難,研究の対象となっている国の学者の協力を得ることの困難等がある。

 これらが共通の問題点であるが,それらは両国において異なった形態または段階において現われる。したがって,日米代表双方とも,平行的発展および相互的交流を目標として討議したが,両国に関する具体的な提案においては若干の相違を示した。

 日本にとって現在最も切実に必要とされるものは,教育者と学者にとっての研究施設であり,共通の会合の場であり,かつ所要の財政的,精神的援助を提供するような「アメリカ研究所」を設置することであることが合意された。

 他方,米国においてはすでに多くの大学の研究プログラムとして日本研究が確立されているが,本会議は,特に共同研究等において,日本の学者といっそう緊密に協力すべきこと,および日本から研究材料がもっと豊富に供給されるべきことを強調した。

五 舞台芸術

 日本文化のうち,その最も豊かな一分野は舞台芸術である。したがって,舞台芸術は日米間の文化交流にとって重要にして必要欠くことのできない分野である。

 舞台芸術の交流は主として三つの目的をもつものである。すなわち,芸術的創造活動に刺激を与え,対人関係において意義ある接触をもたらし,また一般大衆がこの種の芸術に接する機会を増大することである。創造活動に刺激を与えることは,長期間にわたりきわめて重要な意義をもつものであるから,交流計画を進めるにあたって優先的に考慮を払うべきであるということが,本会議の一致した意見であった。

 日米両国相互の舞台芸術の創造活動を,実り多く発展させるためには幾多の方策が必要である。たとえば,舞台出演者グループの交流を実現化すること,芸術家個人を交流し,また台本,原本,録音,楽譜,翻訳および展示品を交流すること,一方の国において原作上演されたものを他方の国において上演したり,または両国共同上演をすることなどの方策が考えられる。本会議は,利用しうる限定された資金で最大の効果をあげるために,舞台芸術交流を援助しうる立場にあるグループが,以上のあらゆる方策をそれぞれの場合に応じて適切に活用すべきことを勧告した。

 舞台芸術のための資金には限度があるから,交流を困難にしている障害を除去することが重要である。繁雑きわまりない著作権処理,税金処理,両国に存在する特殊事情,すなわち,巡回演奏の組織の問題,宣伝の問題,批評の問題,観客動員の問題等である。もし,これらの障害のいずれかが軽減されるか除去されるならば,公演団体の採算の可能性は増大し,したがって,交流の数は増すであろう。そして利用しうる資金によって,より有効な結果が得られることになろう。本会議,両国において,現状を分析し,実際的な対策を打ちたてるために,これらの諸問題を検討することを勧告した。

 本会議は,舞台芸術に関する両国の準備委員会により作成された報告書を,この問題に関心をもつすべての団体に強く推奨した。

六 次回会議

 本会議は,文化および教育の交流に関して引き続き検討することが両国にとって有意義であることに同意し,今後の実績の検討と新しい問題の究明のために,第三回会議をおよそ二年後に日本で開催することを勧告した。さらに,第三回会議の議題としては,人物の交流,視覚芸術,言語教育,および両国民からなる諸団体,姉妹都市,姉妹大学等,団体間の提携関係の討議が示唆された。

 同時に,本会議は,第二回会議のために設けられた各準備委員会が,今後も活動することおよび両国政府が,関係民間団体との協力のもとに本会議の勧告を実施するために,財政的および行政的措置を含むあらゆる可能な方途を構ずべきことを強く要請した。

 本会議は,また,第三回会議のための各準備会議および実績報告作成のための措置をとることを要請した。