データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第三回日米貿易経済合同委員会共同コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1964年1月28日
[出典] 外交青書8号,36−39頁.
[備考] 
[全文]

  一

 第三回日米貿易経済合同委員会は,大平外務大臣司会の下に昭和三十九年一月二十七日と二十八日の両日東京で開催された。

 委員会は会議の初めに,今回の会議の開催を遅らせることとなったケネディ大統領の悲劇的な死を思い起した。ラスク長官はこの悲しみの時に日本政府と国民が寄せた同情と支持とに対し米国代表団の深甚な謝意を表明するとともに,ジョンソン政権は池田総理と故ケネディ大統領の指導のもとに両国間に発展しつづけてきた緊密なパートナーシップをさらに推進すると述べた。

 今回の会議の特色は,両国の委員が貿易と経済の分野における両国の利益と関心は世界情勢の発展によって世界的な視野から考慮されねばならないとの認識に終始たっていたことであった。

  二

 日米両国の貿易経済関係との関連において国際情勢を概観した後に,両国委員は広範な分野にわたり活発な意見の交換を行なった。相互の理解が大幅に増進した諸点は次のとおりである。

(一) 一九六三年に両国が達成した満足すべき経済発展と今後の政策の見通しとに基いて,委員会は一九六四年が日米間の経済交流の新しい記録を作る年となることを期待した。両国の経済政策と経済活動の水準が大幅に変わるときは,他方の経済に大きな影響を及ぼすので,委員会は日米両国政府が相互の経済見通しについてできるだけ早くまた詳細に情報を交換するとの合意を再確認した。

(二) 日米両国にとって,国際収支の動向は基本的な経済的関心事である。米国側委員は,一九六三年の上半期以降米国の国際収支の赤字が著しく減少したことを指摘し,米国政府は国際的義務に合致した方法で対外収支の均衡を回復する決意であることを重ねて表明した。日本側委員は利子平衡税が日本の国際収支に悪影響を及ぼすことについて重大な関心を表明し,日本には適用が除外さるべきであるとの日本政府の主張を重ねて表明した。種々討議の結果,一九六三年八月二日の共同声明に云う如く「もし,米国の予想に反して,日本で深刻な経済上の困難が生ずる場合には」,米国は証券の新規発行に対して平衡税をなんらかの形で免税するなど問題の解決のために適当な措置をとることを考慮するとの合意が再確認された。

(三) 一九六三年には三十億ドルをこえる記録的な水準に達した日米間の貿易量は,両国の雇用と生活水準にとって重要である。

 この意味で両国委員は,日米両国において貿易制限の動きがときとしておこることを指摘し,両国政府がこのような動きに適切に対処するよう希望した。

 委員会は,両国間には大規模な貿易が行なわれているのであるから,時には問題も生ずることを認めた。特定の困難に対処するに当っては,日米間の協調関係が貿易を持続的に,健全に拡大するための基礎となるものであるから,その保持に注意を払い,今後問題がおこる際は広い視野をもってこれを捉えることが両国政府の責務であることについて意見が一致した。これらの問題の多くについて,両国に満足のゆく解決は両国のそれぞれの事情について相互理解を一層深めることによって,促進され得ることが強調された。

(四) 委員会は,両国間の運輸および旅行に関する諸問題について意見を交換した。

(五) 国際経済問題に関する日米間の緊密な協力関係の重要性が強調された。

 イ, 双方は現在世界貿易を阻害している関税その他の貿易障害を軽減するためジュネーヴで行なわれる第六次関税交渉(ケネディラウンド)の持つ決定的重要性を強調した。両国は,完全な無差別の原則に則り,工業製品および農産物に対する関税および関税以外の障壁を実行可能な限り最大限引下げる可能性を検討するためにジュネーヴと両国の首都で緊密な連絡を保つことが合意された。

 ロ, 本年三月ジュネーヴにおいて開催される国連貿易開発会議に関して,日米双方の委員は,低開発国の輸出所得を増加するため,実行可能な方法を促進するよう協力することに同意した。同会議において起りそうな機構問題に関して,委員会は関税および貿易に関する一般協定(ガット)が世界貿易を一層拡大するために不可欠な手段であるとの両国の確信を再確認した。

 委員会は,同時に,現存の国連の諸機構は,この重要な作業を有効に補足しうるのではないかと考えた。

 ハ, 経済協力開発機構(OECD)に関して,委員会は,日本の早期加盟および同機構のすべての活動分野で日米両国が緊密に協力することを期待した。

 ニ, 低開発国に対する援助の必要性がひきつづき増大していることにかんがみ,委員会は,日米両国の援助努力を認め,両国が援助について一層緊密な双務的および多角的調整を行なっていくことが望ましいことを再確認した。米国側委員は,米国は多くの援助を行なっているが米国が今後ともこのような援助を持続し,あるいは増大しうるかは他の援助国がこの共通の努力に対しどの程度貢献するかによって影響されようと述べた。米国側委員はさらに援助供与が借款条件を一層均一化し,また,緩和することが必要であることを指摘した。

 日本側委員は,日本の援助努力と援助政策を説明し,日本はその能力に即して援助努力をさらに強化する意向であると述べた。

 また民間投資と技術援助が経済発展の過程に貢献し,また重要であることが認められた。

  三

 委員会は共産圏諸国との貿易について率直な意見を交換した。日本側委員は,共産圏諸国との貿易を政経分離の原則に基づき,コマーシャル・ベースかつ,自由諸国並みの条件で進めて行くのが日本の政策であると説明した。

 米国側委員は,米国が中共と経済関係をもっていない理由を説明した。米国が最近ソ連に小麦を輸出した問題が討議された。米国側委員は,また,米国のキューバに対する経済封鎖の戦略的理由を説明し,この点についての友好諸国の協力を希望すると述べた。

  四

 委員会は,人的および天然資源の分野で技術要員と調査結果を新たに政府レベルで新たに交換することが両国の利益となり得ることについて意見が一致した。

 この合意を推進する方法を討議するため,日米両国の政府職員は近く会合することとなった。

 このような計画による二国間の協力は,応用科学よりも主として理論科学の分野で行なわれている日米科学協力委員会の事業を有効に補足する上で役立つものと予想される。

  五

 委員会は,日米両国が共に関心を持っている国際漁業問題に対処する上で前進があったことを認めた。両国は,すべての関係国にとって満足できる解決を見出すために一層努力することとした。

  六

 委員会は,日米貿易経済合同委員会の年次会合が多大の意義を持つものであることについて完全な意見の一致を表明した。

 両国委員は,この委員会の次回会合における意見交換と政策についての協議を待ちのぞんでいる。

  七

 この委員会の日本側委員は,大平外務大臣,田中大蔵大臣,赤城農林大臣,福田通商産業大臣,綾部運輸大臣,大橋労働大臣,宮沢経済企画庁長官および黒金官房長官で,武内駐米大使と黄田外務審議官ほか関係各省庁の随員が同席した。

 米国側委員は,ラスク国務長官,ホッジス商務長官,ワーツ労働長官およびヘラー大統領府経済諮問委員会委員長,委員代理はブリット財務次官補,カー内務次官およびマーフィー農務次官で,ライシャワー駐日大使とマニング国務次官補ほか関係各省の随員が同席した。