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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 核装備艦の領海無害通行等に関する衆議院予算委員会質疑

[場所] 
[年月日] 1968年3月11日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),769−771頁.衆議院・参議院および各委員会議録「官報(号外)」.
[備考] 
[全文]

 (前略)

○楢崎委員 そのこと(編注)をまず指摘をいたしまして,本論に入りたいと存じます。

 私が過去に二日間にわたって特にお時間をいただいて指摘をしてまいりましたのは,総理が提唱なさっておるいわゆる非核三原則がはたして実効のあるものであろうか,これをみんなで考えたかったわけです。そこで,私はまず冒頭にこの非核三原則に関連をしまして,私どもにとっては非常に重要であると思われることをお伺いをいたします。総理もそのつもりで御答弁をいただきたいと存じます。

 まず,外務大臣,一月二十九日に午後三時から外務大臣は佐藤総理と木村官房長官など首脳部がお集まりになって,いわゆる事前協議の問題について具体的な,いろいろな打ち合わせをされたということが新聞に載っております。そこで,私は一点だけお伺いをしておきます。いいですか,外務大臣,一点だけ。そのときに,あなた方は,もし第七艦隊でも核を装備しておれば,当然装備の重要な変更になるから,入港はお断りする。ただし−いいですか,ここです。ただし,領海の無害航行はこれに含まず,そういう御見解でございますか。下段のほうを私は特にお伺いをいたします。領海の無害航行は核装備をした軍艦でも,これは事前協議の対象にならず,つまりこれは認める,こういう御見解ですか。

○三木国務大臣 認めるということは,いかにもこれは適切な表現ではない。公海上における行動に対して,われわれがとやかく言うことはできない。(「領海は」と呼ぶ者あり)領海はいけない。領海は断じていけない。

○楢崎委員 よろしゅうございますね。じゃ,領海の場合は無害航行でもいけない。よろしゅうございますね。もう一ぺん確認をしておきます。これは重大ですから,ひとつ正確なところを答えてください。

○三木国務大臣 私の答弁,訂正することをお許しを願いたい。従来,従来の政府が,領海内の無害航行に対しては事前協議の条項にかからないという答弁をいたしておるのでありますから,私もその解釈に従うものでございます。

○楢崎委員 それみてごらんなさい。これは重大な問題なんですよ。それはあれですか,私が一日目に質問しましたアメリカとのゼントルメンズアグリーメントでそうきめられておるのですか。

○三木国務大臣 これはアメリカのゼントルマンアグリーメントというよりかは,ゼントルマンアグリーメントという話も,これは安保条約の話のときにあったと思いますけれども,とにかく,一般的にそのように日本が解釈をしておるということでございます。

○楢崎委員 外務大臣,いまの答弁はおかしいですよ。一般的な問題はあたりまえですよ,領海の無害航行は。そんなことを私はことさらここで時間をかけて聞きますか。重大な事前協議の事項にかかわる,核の持ち入れの問題と関連をして聞いておるのですよ。一般的な問題を聞いておるのじゃないのですよ。そういうあいまいな答弁では困ります。有害航行がありますか。核の有害航行なんといったらたいへんなことですよ。冗談じゃありませんよ。

○三木国務大臣 国際法上の解釈としてそういう解釈をとっておるということでございます。

○楢崎委員 私は国際法のことを聞いておるんじゃないですよ。日米安保条約の第六条,事前協議事項との関連においてお伺いをしておるのです。

○三木国務大臣 日米安保条約の第六条も,こういう国際法の解釈によって,事前協議の対象にしないという解釈をとっておるわけでございます。

○楢崎委員 そこで問題があるのですよ。じゃ,ポラリスが領海内に入ってくることは,無害航行の場合はいいというのですか。そうですか。

○三木国務大臣 条約局長から答えさせます。

○楢崎委員 これは政府の最高政策に関することですから,ひとつ外務大臣からお願いします。

○三木国務大臣 それは領海の無害航行の場合はいいということでございます。

○楢崎委員 これは私はたいへんな問題であろうと思います。そこで私は,こういうことがあろうかと思って,引き続いて,この前質問できませんでしたけれども,総理に,総理の非核三原則の適用の範囲はどうですかということを聞いたわけです。この問題があったからです。あなたは領土,領海,領空とおっしゃいました。つまり施政権の及ぶ範囲には核は入れない,持ち込まない。だからそれを聞いたのです。領海だって無害航海だったらいいというのですか。核の有害航行なんというのはないのですよ。これは領海に入っていいかどうかの問題です。有害か無害かの問題ではありません。総理から御答弁をいただきたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 この領海内の無害航行,これは国際法上ちゃんと認められた,各国に与えられたる権利です。そういうものはひとつ私どももそのまま認める,さような立場でございます。

○楢崎委員 全く,総理,だから私は重大だと思ったのですよ。無害航行という名によって領海の中に入ってくることはお認めになるのでしょう。これはそういうことになるのですよ。これは非常に危険な解釈だと思います。それじゃ,あなたのおっしゃる非核三原則と完全に矛盾する。これはほんとうに重大な問題ですから,もう一度総理の御見解を承りたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 ただいま私,政府の立場をはっきり申しましたが,国際法上各国が認めておる事柄でございます。したがって,わが国におきましても,この領海内の無害航行,これは認めざるを得ないということであります。

○楢崎委員 この事前協議事項は日米安保条約の第六条の問題ですよ。一般国際法の問題ではないのですよ。一般国際法の概念でそういうことをお許しになるならば,まさに事前協議というものはなきにひとしいではありませんか。そして,あなたのおっしゃる非核三原則というのは,まさにごまかしではありませんか。そういうことになるではありませんか。そういう答弁ではだめですよ。納得できませんよ。

○三木国務大臣 領海内においても,無害航行の場合はこれを事前協議の対象にしない国際法の慣行によって,これをしないというのが政府の態度でございます。

○楢崎委員 私はこのことを当初から心配をしておったのです。というのは,いいですか,総理はだんだん答弁が変わってきたのですよ。最初あなたは,核の政策で,非核三原則とアメリカの核抑止力ということばを使われております。そして,いいですか,三月二日の松本善明委員の質問に対して,さらにあなたはやや具体的になりました。非核三原則を国会決議するようなことがあれば,安保条約を拘束するとあなたはおっしゃいました。私はその議事録を読んでもよろしゅうございます。いいですか,正確に言いますと,あなたはこうおっしゃいました。「ただいまのような約束をすることは,」これは国会決議であります。「おそらく安全保障条約の中身について拘束を加えることになるのじゃないか,」安保保障条約のどこを拘束するのですか。それを明らかにしてください。

○佐藤内閣総理大臣 私は,核政策については,一つだけの,禁止三原則だけ,核兵器についてだけの決議にはどうも賛成しかねるということを申しましたが,ただいまのお話で,これはやはり法律的な問題じゃございませんが,政治的に何だか規制,安全保障条約に影響をもたらす,こういうような意味ではないかと実は心配しているのです。

○楢崎委員 たいへん総理のおことばはあいまいであると思います。この問題は,私どもの審議の一つの中心であったわけです。それで私は,御答弁は正確に表現をしていただきたいと思うのです。なぜならば,安保条約の中身を拘束するということであれば,われわれはすぐ思うのは第六条の事前協議事項です。事前協議事項を拘束するとあなたはお考えではないか,−いや,そうなんです。だからいま,領海の中も無害航海だったらいいのだ,こういうことになってくる。そうして,さらにあなたは,三月六日の外務委員会において穂積委員の質問に答えて,さらに今度は具体化されました。どう答えておられるかというと,非核三原則を決議することはポラリスの日本近海行動を制約する,こう変わってきたのです。非常に明白になってきました。いいですか。だから私どもは,こう思わざるを得ません。推理が違っておったら違っておると言ってください。沖縄の核につき返還の問題について,もうメースBは七◯年で撤去される。三BといわれるICBMをあそこへ置くということは考えられない。残るのは何か。ポラリスです。あなたは沖縄の返還問題について,基地をどうするか,この際あなたは,このポラリスの自由寄港,これでいわゆる妥協をされようとしておるのではないか。いままでの答弁を整理してみますとそうならざるを得ないのです。だから私は,このポラリスの問題をいまお尋ねをしておるんです。そして,日本の領海には入っていいということは,まさに日本も沖縄も,いずれはポラリスの寄港にこれは通ずる突破口の見解である,こう思わざるを得ないんです。どうでしょう。

○佐藤内閣総理大臣 これはたいへん想像をたくましくしておられるようですが,私どもはいまそういうことは考えておりません。私どもはただいまそんなことを考えておりません。

   (後略)

編注:楢崎議員は質問の冒頭,「機密漏洩問題」および「政産軍の結合」について指摘し,佐藤首相が答弁した。