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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能問題について

[場所] 
[年月日] 1968年10月22日
[出典] 外交青書13号,81−82頁.
[備考] 外務省情報文化局発表
[全文]

 本年5月6日米国原子力潜水艦ソードフィッシュ号の佐世保寄港中同港において平常と異なる測定値が検出されたことに関連し,5月29日原子力委員会は,国民の不安を除去するため,4点について政府において善処すべきであるとの見解を発表した。

 佐世保港において検出された右の測定値自体については,それが放射能によるものであっても人体に実害を及ぼすものでないことは5月14日付の原子力委員会の見解においても,また5月29日付の同委員会の見解においても明確に指摘されているところである。しかしながら政府としては,原子力委員会の見解を尊重するとの基本的立場から,右の4点のうち3点については,外務省が米側との話し合いを進め,またわが国の放射能調査体制の整備強化を図る点については,科学技術庁を中心として措置を進めることとした。よって,6月3日,三木外務大臣はジョンソン在京米国大使に対し,米側が前記の原子力委員会の見解に述べられた3点の措置をとるよう強く要請し,その後これにつき外務省と在京米国大使館との間で討議が行なわれてきたが,その結果,10月22日行なわれた三木外務大臣とジョンソン大使との会見において,別添のとおりの会談覚書を作成し,これを相互に確認した。

              会談覚書

                        昭和43年10月22日

1 5月29日に発表された佐世保港における放射能調査についての日本原子力委員会の見解について,外務省と米国大使館との間で一連の討議が行なわれた。とくに,同委員会が政府において善処すべきであるとした諸点について,外務大臣は,日本国民の不安を解消するために,(1)原子力軍艦の日本寄港中は,原子炉の1次冷却水が艦外へ放出されないこと,(2)1次冷却水以外のあらゆる系統(たとえば,ドレイン系統など)からも放射性物質が排出されることのないよう従来よりいっそうその管理が厳重になされること,および(3)原子力軍艦の寄港中は米国側においても環境モニタリングを行ない,必要に応じ測定結果が日本側に提示されるようにすること,を強く要請した。

2 大使は,米国政府としては佐世保港における5月6日の平常と異なる測定値はいずれの米国原子力軍艦の行動によるものでもないと確信しているが,外務大臣の要請に留意し,日本原子力委員会の見解に照らして,日本国民一般の不安の解消に寄与するため最善を尽くす旨を述べた。

3 とくに,外務大臣が述べた第1点および第2点について,大使は,昭和39年8月24日付の口上書に添付された「外国の港における合衆国原子力軍艦の運航に関する合衆国政府の声明」に言及し,この声明においてなされている約束は,日本の港へのすべての寄港の際に厳格に履行されてきており,今後の寄港の際にも厳格に履行される旨を述べた。第1点について大使は,寄港中における1次冷却水の放出は例外の場合であり,従って今後日本の港においては通常1次冷却水が放出されることはなく,これが現在の実施方式に即したものである旨を述べた。第2点について大使は,日本の港においては米国原子力軍艦により,すべての放射性廃棄物の取扱いにつき従来に引き続き今後とも厳重な管理が行なわれる旨を述べた。

4 外務大臣は日本の港における放射能調査体制の整備強化のため日本政府のとった措置に言及した。大使は,米国側としては,引き続き海水および海底土の試料の定期的分析を行ない,その結果を日本当局に提供する旨および米国側は引き続き原子力軍艦の艦上の放射線管理および同軍艦の直接の近傍における環境放射能のモニタリングについて責任を負う旨を述べた。