[文書名] 衆議院本会議「米国の繊維品輸入制限に対する抗議決議」採択
米国の繊維品輸入制限に関する決議案
(大久保武雄君外九名提出)
(委員会審査省略要求案件)
○西岡武夫君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。
すなわち,大久保武雄君外九名提出,米国の繊維品輸入制限に関する決議案は,提出者の要求のとおり委員会の審査を省略してこの際これを上程し,その審議を進められんことを望みます。
○副議長(小平久雄君) 西岡武夫君の動議に御異議ありませんか。
[「異議なし」と呼ぶ者あり]
○副議長(小平久雄君) 御異議なしと認めます。よって,日程は追加せられました。
米国の繊維品輸入制限に関する決議案を議題といたします。
米国の繊維品輸入制限に関する決議案
右の議案を提出する。
昭和四十四年五月八日
提出者
大久保武雄 宇野宗佑
浦野幸男 小宮山重四郎
藤井勝志 武藤嘉文
中村重光 堀 昌雄
玉置一徳 近江巳記夫
賛成者
天野公義 外二十九名
米国の繊維品輸入制限に関する決議
最近,米国は,繊維品の輸入制限への活発な動きを見せ,国際協定による輸出自主規制を各国に求める意図を明らかにしたが,これは,一貫して自由貿易主義を主唱してきた米国が自ら世界の自由貿易体制に逆行する方策をとることになり,明らかにガツトの精神に違反するものである。さらに,米国のかかる貿易制限的措置は,各国に自衛措置を余儀なくさせ,ひいては世界貿易の縮小をまねき国際協調をそこなうこととなる。また,米国繊維産業は,生産,販売,雇用とも好調を続けており,この現状からも米国のとらんとする措置はその根拠に乏しくきわめて遺憾とするところである。
米国において新たに輸入制限が実現すれば,わが国の対米繊維品輸出に重大な影響を及ぼし,構造改善,設備近代化を推進しつつある中小企業を主体とするわが国繊維産業及び関連産業に深刻な打撃を与えることは必至である。
よつて政府は,米国政府に対し,かかる輸入制限を企図せざるよう強く要請すべきである。
右決議する。
○副議長(小平久雄君) 提出者の趣旨弁明を許します。大久保武雄君
[大久保武雄君登壇]
○大久保武雄君 ただいま議題となりました米国の繊維品輸入制限に関する決議案につきまして,自由民主党,日本社会党,民主社会党及び公明党を代表し,提案の趣旨を御説明申し上げます。
まず,案文を朗読いたします。
米国の繊維品輸入制限に関する決議案
最近,米国は,繊維品の輸入制限への活発な動きを見せ,国際協定による輸出自主規制を各国に求める意図を明らかにしたが,これは,一貫して自由貿易主義を主唱してきた米国が自ら世界の自由貿易体制に逆行する方策をとることになり,明らかにガツトの精神に違反するものである。さらに,米国のかかる貿易制限的措置は,各国に自衛措置を余儀なくさせ,ひいては世界貿易の縮小をまねき国際協調をそこなうこととなる。また,米国繊維産業は,生産,販売,雇用とも好調を続けており,この現状からも米国のとらんとする措置はその根拠に乏しくきわめて遺憾とするところである。
米国において新たに輸入制限が実現すれば,わが国の対米繊維品輸出に重大な影響を及ぼし,構造改善,設備近代化を推進しつつある中小企業を主体とするわが国繊維産業及び関連産業に深刻な打撃を与えることは必至である。
よつて政府は,米国政府に対し,かかる輸入制限を企図せざるよう強く要請すべきである。
右決議する。
以上であります。
今回の米国における繊維品輸入制限の問題は,本年二月,ニクソン米国大統領が,全繊維品を対象として輸出国の自主規制を求めるため,主要国と協議を行なう旨の発言を行なったことに端を発したのであります。その後,スタンズ商務長官が全米繊維製造業者協会総会の席上,大統領の方針を実施に移す決意を明らかにしたのでありますが,同長官は,さらに本問題について,四月十一日より二十六日まで欧州諸国を歴訪して協議を重ね,五月十日,すなわち明日の夕刻には,本問題をひっさげて羽田に到着する予定となっている等,活発な動きを見せているのであります。もし,この米国の輸入制限が実現すれば,決議案中にありますごとく,わが国関係業界に広範かつ深刻な打撃を与えるものでありまして,わが国としては,全力をあげてこれを阻止しなければなりません。
以下,その理由のおもなるものを申し上げますと,
第一に,ガット及び綿製品国際貿易に関する長期取りきめとの関係についてであります。
米国が,今回強引に,国際協定による繊維品の輸出の自主規制措置を各国に求めようとしていることは,まことに遺憾であり,一貫して自由貿易を主唱してきた米国が,みずからその看板をおろして,世界の自由貿易体制に逆行する方策をとるものといわねばなりません。いわんや,残存輸入制限の撤廃,自動車産業の資本の自由化等,わが国が真剣に自由化努力をしているものに対してさえ門戸開放を強く迫りながら,みずからは繊維について貿易の門戸をかたく閉ざすということは,貿易政策の上からも著しい矛盾であるというべきであります。(拍手)
また,綿製品以外の化合繊,毛等の繊維品についてまでも米国が輸出の自主規制を強要するということは,明らかに,自主規制を綿以外の他の繊維品に波及させないという綿製品長期取りきめの第一条に違反することとなるのであります。綿製品の自主規制を求めた取りきめ自身がガットの精神に反するといわれているのに,その協定の第一条にうたわれた,綿製品以外には波及させないという原則すら,これを破り捨てるということであったならば,今後,自主規制の要求が電気製品等他の産業品種に波及しないという保障はなく,日米間の貿易は非常な混乱におちいるおそれなしとしないのであります。
第二に,繊維品貿易制限をめぐる日米間の経済事情の相違についてであります。
今回,米国が制限の対象として考えているのは,化合繊,毛混紡製品等であり,その対米輸出額は,これら製品の総輸出額の約四分の一を占めており,綿製品がすでに規制されている今日,さらにこれらについて自主規制が行なわれますならば,わが国の繊維品の輸出に深刻な影響を及ぼすことは明らかであります。
一方,米国側からこれを見るならば,米国内消費に占める輸入繊維品の比率は,昨年,綿,毛,化合繊で約七%,合成繊維のみをとるならば,わずかに三%にすぎず,わが国からの輸入はそのまた何分の一かにすぎないのであります。このわずかなわが国の繊維品の輸入が,どうして米国の繊維産業を圧迫しているということになるのでありましょうか。われわれはその理解に苦しむところであります。いわんや,米国の繊維産業は,近年かつてない繁栄を誇り,生産,販売,雇用とも順調な伸びを示しているという現実を見るならば,わが国の繊維品輸入が,米国繊維産業の繁栄をそこなっているという論拠は何ら見当たらず,今回の米国のとらんとする政策にはひとしお深い矛盾を感ずるものであります。(拍手)
第三に,わが国の繊維産業に及ぼす影響についてであります。
わが国の繊維産業は,すそ野の広い産業であり,中小企業,零細家内労働者を含めますと,従業者百八十万人,その家族を含めますと,実に数百万人にものぼるものと考えられるのであります。この繊維産業は,最近,労務者不足,賃金の上昇,発展途上国からの追い上げ等,これをめぐる内外の環境はきわめてきびしいものがあり,これに対処して構造改善,設備近代化を進めていることは御承知のとおりであります。かかる際に,米国から,自主規制の名のもとに輸入制限の一撃を受けましたならば,中小企業を主とするわが国の繊維産業及び関連産業は,合理化の途上において深刻な打撃をこうむることは必至であり,わが国の産業並びに社会の安定の上からもわれわれの憂慮にたえないところであります。(拍手)
以上申し上げましたような理由により,日米間の貿易の健全な発展を願うわれわれとしては,米国が現在とろうとしている繊維品に対する輸入制限の措置をすみやかに思いとどまるべきことを強く要望するとともに,政府が,本決議案の趣旨にのっとり,適切な措置をとられんことを期待して,本決議案を提出した次第であります。
何とぞ満場の御賛同をお願い申し上げて,提案の趣旨の説明といたす次第であります。(拍手)
○副議長(小平久雄君) 採決いたします。
本案を可決するに御異議ありませんか。
[「異義なし」と呼ぶ者あり]
○副議長(小平久雄君) 御異議なしと認めます。よって,本案は可決いたしました。
この際,外務大臣及び通商産業大臣から発言を求められております。順次これを許します。外務大臣愛知揆一君。
[国務大臣愛知揆一君登壇]
○国務大臣(愛知揆一君) ただいまの御決議に対しまして,政府の所信を申し述べます。
米国による繊維品の貿易規制の動きにつきましては,政府はこれまでも,米国繊維産業の現状から見て,このような規制を要求する根拠に乏しい旨を指摘するとともに,かかる規制を行なうことは,世界の自由貿易体制に逆行するものとして,反対である旨を明らかにしてまいりました。
政府といたしましては,このような反対の意向を,米国政府に対し,種々の機会に繰り返し申し入れるとともに,繊維品輸出に関心を有するヨーロッパ及びアジアの諸国とも連絡をとりつつ,繊維品貿易の国際規制のごときことが実現しないよう努力してまいった次第でありますが,今後とも,ただいまの御決議の趣旨を十分尊重いたしまして,御要望に沿うべく最善の努力をいたす所存でございます。(拍手)
○副議長(小平久雄君) 通商産業大臣大平正芳君。
[国務大臣大平正芳君登壇]
○国務大臣(大平正芳君) 米国の繊維品輸入制限の動きは,わが国の繊維産業にとりましてまことに重大かつ深刻な問題でございます。したがいまして,今日まで,政府といたしましても,その阻止のため多大の努力を払ってまいりましたが,ただいま議決されました御決議の趣旨を十分に尊重いたしまして,今後とも,なお一そうの努力を傾けて,所期の目的を達成するようにいたしたいと考えております。(拍手)