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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 琉球政府の放射能調査計画改善に関する日本政府の勧告について

[場所] 
[年月日] 1969年10月29日
[出典] 外交青書14号,416−419頁.
[備考] 記事資料
[全文]

1.政府は,米国政府の要望に基づき,5月19日から22日まで沖繩に放射能に関する調査団を派遣した。

2.その調査結果に基づき,琉球政府の放射能調査計画改善に関する日本政府の琉球政府に対する勧告を作成し,10月27日外務省より在京米国大使館に対し,文書をもつて,この勧告を琉球政府に伝達するよう申し入れた。その結果,10月29日,沖繩の米国民政府フィアリー民政官より屋良行政主席に対し日本政府の勧告が伝達された。

3.外務省の10月27日付対米申し入れおよび琉球政府に対する勧告はそれぞれ別添1および別添2の通り。

(別添1)

       昭和44年10月27日付対米申し入れ

1.琉球政府の放射能調査に対する日本政府の助言と協力を求めた昭和44年4月21日の在京米国大使館の外務省に対する要請に基づき,日本政府は,昭和44年5月19日から22日まで沖繩に調査団を派遣した。この調査団は,在京米国大使館,米国民政府および琉球政府の協力の下に,(イ)那覇,ホワイトビーチ両港の地形,海流,施設等の情況,および(ロ)琉球政府の放射能調査関係設備,その運用の実体等,事実関係を中心とした調査を行なうとともに,ランパート高等弁務官,カーペンター民政官,屋良行政主席をはじめとする米国民政府,琉球政府の関係当局者から沖繩における放射能調査体制の現状につき説明をうけた。

 なお,大浦湾については,これを原子力軍艦の寄港地として使用していないとの米側説明があつたため,今回の調査対象から除外した。

2.今回の調査を通じて次の事実が明らかとなつた。すなわち,

 (1)現在,琉球政府の行なつている放射能調査は,その設備およびその運用技術の両面において一応科学的に必要最小限度の水準を保つているものの,今後さらに設備,その運用技術両面において,改善すべき余地がある。

 (2)原子力軍艦入港中の海水の採取,分析等原子力軍艦の入港に伴う放射能調査のための米国当局と琉球政府の協力関係は制度的に確立されていないが,日本政府は,沖繩の米国当局が琉球政府に対し,原子力軍艦の入港について,琉球政府に時宜をえた通報を行なう意図を伝えたと承知している。

 (3)現在原子力軍艦の寄港地となつている那覇,ホワイトビーチ両港について,(イ)那覇港は(i)きわめて狭い上に河川水の流入がほとんどないため微量の放射性排出物でも港内に残存する傾向があり,また(ii)軍港地区と商港地区が隣接している等の事情があるのに対し,(ロ)ホワイトビーチについては,(i)那覇港と異なり直接外洋に面しているため,海流による拡散の効果が大きく,かりに放射性物質が排出されたとしても,なんらかの形で港およびその付近の水域に影響を残す可能性はほとんどなく,また(ii)軍港と住民居住地域が十分に離れている等の事情がある。

 (4)なお,那覇,ホワイトビーチ両港の条件は,横須賀,佐世保と比べてこのように極端に異なつているので,本土と全く同じモニタリング体制をそのまま適用するのは適当でなく,両港についてそれぞれの実情に適した方法を検討することが必要である。

3.上記調査結果を検討した結果,日本政府は琉球政府に対し,別紙のとおりの勧告を行なうことが必要と認めたので,これを米国民政府を通じて琉球政府に伝達するようお願いする。

 また琉球政府が上記勧告を受諾する場合に,米琉両政府より一致した要望があれば,日本政府としても利用しうる予算の範囲内で,技術的な協力を行なう用意があるので,この点もあわせ琉球政府に伝達方お願いする。

4.なお,日本政府は,米国政府が放射能問題に対する沖繩住民の特殊な感情を理解し,琉球政府の放射能調査に今後いつそうの協力を行なうことを希望する。

(別添2)

    琉球政府の放射能調査計画のための琉球政府に対する勧告

                       昭和44年10月27日

 沖繩における原子力軍艦入港に関連する琉球政府の放射能調査の技術水準を,本土と同じ水準のものに引き上げるため,日本政府は琉球政府が日米両政府と協議しつつ下記のとおりの措置をとることを考慮するよう勧告する。

 なお,琉球政府がこれらの勧告を受入れる場合には,日本政府は専門家の派遺,研修生の受け入れ,情報,資料の提供等による技術指導,採取した試料の分析および措置および設備の提供等の協力を行なう用意がある。

                 記

1.技術の向上

 琉球政府による放射能調査の正確さと迅速性を向上させることが望ましく,それは一定の技術水準を高めることにより達成しうる。琉球政府は,日本政府と協議しつつ,次のとおりの具体的な措置をとることを考慮すべきである。

 (1)試料の採取,処理,保管方法,測定器の使用方法,測定室の管理等の基礎技術の改善。

 (2)現在那覇にある琉球政府の測定室で使われているシンチレーション検出器をより大型のものに変える等の測定室の装置設備の改善。

 (3)調査関係者の技術能力の向上および分析装置維持のための技術者の養成。

2.那覇港に対する基礎調査の実施

 那覇港の海底土の放射能汚染の実体およびその人体への影響の可能性を正しい方法で,かつ,正確に測定し,あわせ今後の調査体制整備のための基礎資料とするため,次の調査を行なうことを勧告する。

 (1)先行調査

 現存する放射能の程度および種類を測定し,あわせて測定方式を検討するため,放射能汚染の可能性のある周辺水域を含めて,那覇港の海底土,海産生物を採取し,試料を本土と沖繩とで分析する。

 (2)海底土の組織的調査

 海底土汚染の実態を測定し,将来の調査地点を定めるために,港内全域にわたつて海底土の組織的な調査を行なう。

(例,100〜150m間隔のマス目毎に調査点を設け,その海底土を採取,分析する。)

 (3)海産生物の調査

 港内の海産生物(魚,貝,海草)を採取し分析する。

(注)上記諸調査の正確さを高めるため,日本政府の専門家がこれら調査に参加すること,および技術的助言を琉球政府に与えることについて,琉球政府から要望がある場合には,日本政府としては,上記要望に好意的に応ずる用意がある。

3.定期調査の実施

 原子力軍艦入港の有無にかかわらず,那覇港について,海水,海底土および海産生物について,年4回程度の定期調査を行なうべきである。

 試料の採取地点,採取すべき海産生物の種類等については,基礎調査の結果をみて定める。

 なお,ホワイトビーチについては,必要に応じて海産生物の調査を行なうべきである。

4.モニタリング

 特定のモニタリング方式とその装置については,日米琉3政府が地形,海流,住民居住地域の港からの距離等,種々の港の実情を十分考慮しつつ,協議すべきである。

 原子力軍艦入港時における海水のモニタリングについては,次の2つの方法のうちの1つを適用することができる。すなわち,(イ)一定の時間的間隔をおいて海水を採取するか,(ロ)連続モニタリングを行ない,それにより記録されるカウント数が一定の量を越えた場合に,海水を採取する。なお,予備調査の結果では,ホワイトビーチについては,海流による拡散効果の大きいため原子力軍艦入港時の海水のモニタリングは不必要と考えられる。