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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 佐藤・ニクソン会談についてのジョンソン米国務次官の背景説明

[場所] ホワイトハウス
[年月日] 1969年11月21日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),897−905頁.「社会新報」,12月21日.
[備考] 
[全文]

       ジョンソン政治担当国務次官 

       東部標準時間 午前11時40分

       1969年11月21日,金曜日

    注:文中の小見出しは編集部。

 ジーグラー(大統領報道官) むろんみなさん,共同コミュニケをおもちですね。ジョンソン国務次官がコミュニケについて話をし,みなさんの質問に答えるため,ここにおみえです。国務次官の発言は政府筋の発言と書いてください。また発言は直接引用の形で書かないでほしいと次官の要望です。

 質問 この会見をそのまま記事にしていけないのはどういうわけですか?

 ジーグラー 背景説明のたびにお答えしているように,それが背景説明のさいの方針だからです。ジョンソンさん,どうぞ。

   事前協議は肯定的・敏速に決定

 ジョンソン ジーグラーさんどうもありがとう。私は,共同コミュニケの内容に何事かつけくわえ,あるいは削るというのでなく,ただどの点が勘どころか,を申しあげてご参考に供したいと思うだけです。

 まず最初に,修辞や雄弁でなしに私はこんどの日米会談を歴史的できごととよんでよいと思います。それはよくある儀礼的なコミュニケの中身はなにもない政府首脳の訪米とは異なり,交渉,それも首相と大統領の会談をへてはじめて決着のついた交渉だったのです。

 さきほどホワイト・ハウスの庭で大統領がいったように,会談は日米関係に新時代をひらきました。対日関係に関するかぎりこんどのことは一九五一年に条約が結ばれていらいのもっとも重要なできごとでしてコミュニケにみられるとおり,いわば戦後時代のおわりを画するもの,また大統領の言葉をかりれば日米関係新時代の開幕を画するものという事実を確認しているのがこのコミュニケであります。

 これについて背景を少しばかり申しあげると,こんどの会談およびこのコミュニケはいくつかの意味において一九六七年十一月の佐藤・ジョンソン会談にまでさかのぼるといってよいわけです。数年間のうちに沖縄返還を実現するよう努力すべきことがそのとき事実上合意され,そして将来の返還をめざしてなにがしかの措置が当時とられたことを想起されることと思います。首相と大統領は,琉球諸島の施政権返還の目標に即し,かつ両者間に交わされた討議に照らしつつ,同島の地位について日米の継続的検討をつづける旨,当時声明されました。具体的に行なわれたことの一つに,諮問委員会の設置があります。この委員会は沖縄における最高権限の一つをあたえられた返還の実現を期し,かつ返還までの移行を円滑にするのを助けるためのものです。

 本日のコミュニケの意義についてですが一つはお手もとのコミュニケ,もう一つはきょう正午,佐藤首相がプレス・クラブにおいて行なう予定の演説,この二つの材料があります。掘り下げた記事を書くつもりの諸君は,コミュニケといっしょに首相の演説のほうも読まれるようおすすめします。というのは,両者はきわめて一体的なものだからです。演説は正午に発表されます。そのなかのいくつかの点に私はふれるつもりですが,演説がはじまりプレス・クラブで公表されるまでは記事にしないようお願いします。

 コミュニケ全体をつうじて,最初に私は数点の重要箇所をあげてみたいと思います。第三項において,日本政府の公式声明としてははじめてのことですが,日本の安全は極東の平和と安全に関係があり,かつ日本以外の極東諸国に対する義務をアメリカが履行する能力と直接の関係があるということが確認されています。これは,日本の安全およびアメリカの極東における防衛義務と日本の安全に関する一般的な声明です。

 つぎに第四項にいきます。ここにのべられていることはプレス・クラブの演説においても再確認されるはずです。首相は,とくにつぎのことをのべます。「現実の国際情勢のもとでは極東における平和と安全なしには日本の安全を適切に保つことはできない」。また首相は,こうもいいます。「これらの施設−つまり日本および沖縄にあるアメリカの施設のことですが−および区域の使用に関する事前協議にたいする日本の回答を,日本を含む極東の安全維持の必要に照らして決定することが,われわれの利益−つまり日本の国益という意味ですが−にかなうであろう」。

 さてコミュニケの第四項にあるのは朝鮮にたいするはじめての言及です。韓国の安全が,日本自身の安全にとって緊要(essential)である旨の,きっぱりした声明がそこで行なわれています。

 プレス・クラブの演説で佐藤首相は,韓国にたいして,もし武力攻撃があれば,日本の安全は重大な影響をうけるだろうとのべ,つづけてこういいます。「したがってこうした万一の場合においてアメリカが日本国内の施設区域を武力攻撃に対処するための戦闘作戦行動の基地として使用する事態が生じたさいは,前述の認識のうえに立って事前協議にたいし肯定的*かつ敏速に態度を決定する方針である」(*訳注=positivelyという言葉が首相演説の日本語テキストでは「前向き」という表現になっている)

   台湾への武力攻撃に日本も対処

 第四項はつぎに台湾に言及して,台湾における平和と安全の維持もまた日本の安全にとってもっとも重要な要素であることが言明されています。

 プレス・クラブの演説では,この言明をくりかえして首相はこういいます。「台湾地域における平和の維持または日本自身の安全にとってもっとも重要な要素である」「この点について私は,中華民国にたいする条約上の義務を順守するとのアメリカの決意を十分に評価しなければならないと考える。しかし万一,不幸にしてこの条約義務を外部からの武力攻撃にたいし実際に発動しなければならない事態が生じた場合,かかる事態は日本を含む極東の平和と安全にたいする脅威である」「それゆえわれわれは,わが国の国益にかんがみて,アメリカの防衛義務履行にかんする前述の認識にもとづいてかかる事態に対処するつもりである」。

   ベトナム戦続けば返還を再協議

 コミュニケ第四項がつぎに言及しているのはベトナムについてです。つぎの言葉にご注意ねがいたい。万一,平和が「沖縄返還予定時にいたるも実現していない場合は,両国政府は,南ベトナム人民....確保するためのアメリカの努力に影響をおよぼすことなく沖縄返還が実現されるように,そのときの情勢に照らして十分協議する」。

 ここで協議というのは,返還に先立って行なわれる協議のことであって,安保条約にいうところの協議ではない点に留意しておきたいと思います。

   安保の無期限継続を公式に確認

 つぎに第五項ですが,ここでは安保条約を事実上無期限に継続するという両国政府の意図の表明に注目したい。これは安保の無期限継続の意図について両国政府による初めての公式の再確認です。ご存じのとおり安保条約は一九七○年六月二十三日以降,アメリカが結んでいる他の条約の多くと同様,廃棄条項をもつことを定めています。いずれかの政府が廃棄の行為に出ないかぎり条約は無期限に継続されます。そのようにすべきだとの両国政府の意図の表明がなされたわけです。

 第六項には,極東の情勢に関連しての沖縄駐留米軍の重要性について明確な認識がのべられています。第六項のまんなかへんからあとのところですが,このコミュニケは沖縄にかんする最終的な協定でなく,沖縄返還の具体的な取り決めにかんし両国政府がただちに協議にはいること,目標は一九七二年であること,その時点でおこなわれる返還は一ここにきわめて重要な条項があることを指摘したいのですが−「立法府の必要な支持を得て前記の具体的取り決めが締結されることを条件とする」ことなどをコミュニケでのべているわけであります。

 ここでアメリカ側は,立法府の支持が必要と認められる事柄について,その支持の障害となるようなことはなにもしておりません。上院の批准が必要だとするバード決議案のことはご承知のとおりです。もちろん別のやりかたもありうるでしょうし,合同の決議ということも考えられるかもしれませんが,立法府との問題にぶつかるのは具体的取り決めが結ばれてからのことなのです。この取り決めにかんする交渉は長期間にわたり,かつ委曲をつくしたものになるでしょう。いちばんうまくいっても,早くとも一九七一年なかばまでに交渉が完結するとは私は考えていません。議会の措置が問題になるのはそのあとです。

 第七項も同じく重要ですが,書いてあるところで,すでに意味は明確だとおもいます。

   「ノー」を前提にしていない“核”

 第八項は核問題についてです。ここでのべられているのは要するに,アメリカは沖縄に核兵器を貯蔵する権利を沖縄返還実現のさい,つまり一九七二年に行使しないということです。ただしお気付きと思いますが,第八項は,特別の事態にさいしアメリカがもし必要と認めれば日本と協議をおこなうというアメリカの権利をきわめて慎重に留保しており,しかもこのことが核兵器に適用されることは明確であります。

 この点について万一,緊急事態が発生してこの問題をアメリカが考慮することとなる場合,アメリカが事態をそのように深刻にうけとり,他方,日本はアメリカと同じように深刻にはみないという想定にアメリカは必ずしも立ちません。また第八項にいう協議は,日本の答がいかなる場合においてもつねにノーであることを前提としているわけではありません。

 日本側がイエスともノーとも決定できるというのが協議の意味するところです。このことについては日本の首相および外相がこれまでになんどか言明していると思います。

 第九項は,両国政府間において解決さるべききわめて技術的,財政上経済上の問題が数多くあることに留意したもので,また現に沖縄にあるアメリカ企業の利益にもふれて,それがこんごの細目交渉においてしかるべくとりあげられる問題であることにも留意しています。

 第十項は,東京にある日米協議委員会が細目交渉の責任を負うことを定めています。この委員会はマイヤー大使と外務大臣によって構成されます。これにくわえて琉球に準備委員会が設けられ,日本からは大使級の代表,アメリカは高等弁務官−いまはランパート中将がその任にありますが−が参加します。琉球政府も役割りをもつことになります。

 第十二項をみてください。ここで首相は日本の貿易および資本についての制限の縮小を促進するとの日本政府の意図を明示し,それについていくつかの明確な言明をしています。第十三項において首相はアジアにおける援助計画の拡大と改善を図るとの日本政府の意向を表明し,またそのおわりのところでベトナムの戦後復興のために相当な寄与をおこなうとの日本政府の意向も表明している。これらの問題についてはきょうの首相演説で重ねていわれる事柄もあります。

 最初に申し上げておかなければならなかったのですが,このコミュニケは長い交渉の末できたものです。はじまりは実にことし四月にさかのぼります。ご承知のようにそのころ対日関係および沖縄問題について国家安全保障会議の会合があり,ある決定がそこで内定されました。

 つづいて国務省のスナイダー氏がこの問題の交渉でマイヤー大使および日本政府と作業するために派遣されました。交渉場所は東京で,マイヤー大使およびスナイダー氏が主としてこれにあたったわけです。しかし最終決定は大統領が佐藤首相と会談したときまで下されませんでした。会談は長時間にわたり,かつ,きわめて親密なものでした。大部分の時間は二人だけの会談にあてられたのですが,ご存知のとおり両者はずっと以前からの知り合いで個人的に近しい仲にあり,そのことが両国政府の直面する複雑な問題を解きほぐすうえに大いに役立ったと思います。

 以上を申し上げて,質問があればお答えすることにします。

質問 繊維についてコミュニケはなにものべていませんが,これについて会談の内容を説明してくれませんか。

 ジョンソン 繊維についてはジュネーブにおいて目下交渉がおこなわれていることは御承知のとおりです。いくらかの進展が現になされていると思います。

 質問 万事うまくゆくとして,核兵器撤去の時期的目標は返還実現のときですか。

 ジョンソン 返還が実際におこなわれるまでは,アメリカは現在有しているすべての権限およびすべての特権をひきつづき行使するということを申し上げておきたい。コミュニケからしてむろん完全にはっきりしていると思いますが,返還後,アメリカが沖縄基地から撤収するという問題はないどころか,われわれはひきつづき沖縄にある基地および施設を利用していくわけです。

 質問 「事前協議」の意味をもっと念を入れてはっきりさせる試みがなにかおこなわれたでしょうか。ご承知のようにこれまで日本側は,この言葉を同意の意味に解しがちだった一方,アメリカ側は「日本政府に知らせること」の意味に解釈しがちでした。

   核持込みの協議は本土にも適用

 ジョンソン 事前協議は両国政府間の同意を意味する旨,一九六○年の岸・アイゼンハワー共同声明において意見が一致しています。それを変更する試みはなかったし,事実そのことは討議されませんでした。しかしながら,ご覧のとおりコミュニケの全体的な背景は,協議の問題が生じたばあい日本政府が具体的な問題についてどういう態度をとるかに関して日本政府がある立場をとり,ないしはある意向を表明していることを基礎にしているのです。これらの特別の事態において,日本政府の態度が協議にたいし否定的であることを必ずしも意味しないのだと日本がのべていることはコミュニケ全体の文脈からしてまったく明らかだと思います。

 質問 私がおたずねしたかったのはそのことなのですが,はっきりさせておきたいと思います。緊急事態にさいしてアメリカが日本および沖縄の基地に核兵器が必要と認め,協議を経て日本政府がそれにたいしてノーといえば,アメリカは核兵器持ち込みをしないことに同意し,また実際に持ち込まない−こういう意味ですか。

 ジョンソン 日本政府の同意を得たときにのみ持ち込みをおこなう,こういうことです。その点はこれまでもずっと同じだったわけで,何の変更もありません。しかしつぎのことも指摘しておきたいと思います。朝鮮,台湾等等に関して協議がおこなわれるさいの日本の態度についてコミュニケに一般的な声明がなされているわけですが,それはたんに沖縄に関して適用されるだけでなく,日本本土南東部の米軍基地(our base in Southeast Japan proper ) に関しても同様に適用されるのであって,この点でなにがしかの変化があります。

 質問 核条項に関連して,核拡散防止条約の調印について日本とどんな了解がありましたか。

 ジョンソン 近く調印するとの意向を日本側は表明しました。コミュニケではとくにふれていませんが,日本が近く調印することを期待したいと思います。

 質問 朝鮮および台湾が攻撃されたばあい日本は,日本および沖縄の基地から核兵器および部隊を動かすことをアメリカに許すとの暗黙の同意以上のことをするつもりがある,そういうなにかの示唆をアメリカはうけていますか。

 ジョンソン いいえ,うけていません。

 質問 それ以上のことはなにもないというのですか。

 ジョンソン そうです。ただし私はつぎのことを大いに強調したいと思います。それは,沖縄返還後は日本は,日本本土の防衛についてと同じ責任を沖縄防衛についても徐々に負っていく旨コミュニケにのべられていることです。日本本土の局地的防衛の主要な責務が日本にあることはご承知のとおりです。この日本の防衛責務が琉球地域に広がる,つまり地理的にさらに広がるというわけです。

 質問 沖縄が攻撃された場合のことについておききしたのではないのです。

 ジョンソン わかりました。

 質問 NATOでやっているような核兵器配分についてはどんな取り決めになっているのですか。

 ジョンソン そういう条項はありません。

 質問 核兵器の完全廃棄はどうですか。

 ジョンソン 討議されませんでした。そういう取り決めはありません。

 質問 次官がふれられた第七項の最後のところに,国際義務の効果的遂行ということが出てきます。「効果的遂行」という言葉の含蓄はなんですか。核兵器の効果的使用にもあてはまるでしょうか。

 ジョンソン そういうふうに私はいいたくない。基地を効果的たらしめるのに必要なすべてのことを意味するわけで,それが核兵器のばあいもあるかもしれないし,そうでないばあいもありうるということです。

 質問 沖縄防衛を肩代りするには日本の軍隊をどの程度増強する必要があるのですか。

 ジョンソン 日本は現在予算上の計画を練っているところです。そのことについてなにか発表があったと思います。正確にどれだけのものが必要になるか私は知りません。ご承知のように日本はすでに防衛費をいくらか増やしつつあり,私の記憶ではことしの額は約十四億ドルです。現在の防衛五ヵ年計画は一九七二年におわり,つぎの五ヵ年計画がひきつづき実施に移されることになっています。新しい五ヵ年計画は現行計画の二倍の規模になるという日本の当局者の公式発言を読んだことがあります。この点に関連して申し上げたいのですが,自国の防衛力に関するかぎり日本は無防備状態にあるとの一般の印象は全然正しくありません。

 さきに私は日本がいまでは局地的防衛の主要な責任を負っていると申しましたが,日本は約十三個師団の地上部隊をもっています。保有ジェット機はおよそ八百機で,このなかには日本で生産されたF104もはいってます。F4の国産化が現在進行中ですしナイキ・ハーキュリーズおよびホークの国産化も進められています。海軍の艦艇は現在約十五万トンです。

 自国の局地的防衛に関するかぎり,日本は非常に大きな戦力をもっています。ある程度の増強が必要なことはもちろんですがそのことを日本は考慮しつつあります。いうまでもないことですが,日本が沖縄について局地的防衛の役割りを引き受ける度合いに応じてそれだけその面でのアメリカの負担がなにほどか軽くなるわけです。

 質問 日本の部隊は沖縄の米軍基地防衛の責務を負うことになりますか。

   日本も在日米軍基地防衛の責務

 ジョンソン 日本本土におけると同じ意味では,多分そういえると思います。日本本土の局地的防衛−つまり日本にはアメリカの基地があり,日本は自国防衛に関して役割りをもってます。その役割りを日本が果たすかぎりにおいて同時にアメリカの基地をも防衛することになるわけです。

 質問 どのような了解が日米間にできるにせよ日本では国会の承認を必要とすると次官はお考えですか。

 ジョンソン その点について私はくわしい話はしませんでした。日本側としては国会の承認が必要と考えていると思います。

 質問 核兵器について攻撃用と防御用といった区別がされているのですか。コミュニケの第八項の用語で.....。

 ジョンソン お話の途中ですが,ノーです。両者の区別もされませんでしたし討議もされませんでした。ただし,協議の問題がおこったさいには両者の区別が問題になる可能性がありうることはもちろんです。もっともそのことについて討議したわけではありません。

 質問 次官のうけとっているところではいまや日本政府の考えかたが変わりつつあり対空ないし対ミサイル兵器の保有を望むことを可能にするかもしれない方向に向かっているのでしょうか。

 ジョンソン 別々の事柄,つまりアメリカの兵器体系と日本の兵器体系の二つのことが話のなかにはいってきましたが,私がいま申したのはアメリカの兵器体系だけについてです。

 質問 防御用の核兵器なら日本国内に保有できるというのが日本側の考えかただとすると,アメリカがそれを日本国内の基地においておく可能性が生じないでしょうか。

 ジョンソン 日本側の考えかたはまだそこまでいっていません。その問題はたいへん活発に議論されてはいるのですが。

 質問 首相が言明したように解することによってコミュニケはある立場にあなたがたをいくぶんかしばることになります。もし立場が変わればまた新しいコミュニケがあとで作られるのですか。

 ジョンソン 協議という方式がそこに道をあけているわけで,それが協議方式の目的なのです。

 質問 輸入数量制限を解除される個々の品目について話し合われましたか。またベトナム再建に日本政府が全体の何割程度寄与するつもりか具体的な話がありましたか。

 ジョンソン 輸入制限については経済関係の担当者間で多くの細目討議がありました。トレザイス氏が一ヵ月か六週間前に日本へ行きましたし,さらにワシントンでも事務レベルの話し合いが行なわれました。

 正直に申し上げて,個々の品目についてどの程度話し合われたか私は十分に存じません。品目ごとの話は大いにおこなわれたのですが,どの程度個々に検討されたかということになると,正確には承知していないのです。

 援助の増大についてですが,金額や日本の負担比率をあげての話はありませんでした。しかし日本政府の意向の真剣な表明としてアメリカ側はうけとったわけで,援助の中身は相当のものであると考えます。

 質問 日本が国際監視下でベトナムに平和維持部隊を派遣する可能性も含んでいますか。

 ジョンソン 申し上げておけばよかったのですが,首相はきょう正午の演説でこういうこともとくにのべるはずです。これももう一つの新しいことです。「思うに日本の役割りは当然のことながらインドシナ半島の経済復興開発に協力することだと信ずる。敵対行為の停止後に設置されること,あるべき国際的平和維持機構に日本にもっともふさわしい形で参加しあるいはこれと協力することを求められるならば....」−あとはちょっと省略しますが,首相がここでのべていることは,ベトナムになんらかの国際的平和維持機構が設けられれば,日本はそれに参加するということなのです。これは演説のほうにはいっています。重ねて申し上げておきますが,演説は実際に首相がやるまでは公表禁止です。私がこれを使っているのは,コミュニケと演説の両方を一体のものとして理解してもらうようみなさん方を手助けするためです。

 ジーグラー プレス・クラブの午餐会に出かけたい諸君もいると思います。それらの諸君は退室されて結構です。もう少し残りたい方はそのままいてくださって結構ですが,時間がありませんので質問はあと二つか三つにねがいます。次官の時間はあと五分ほどですから。二〜三問ということでどうぞ。

   朝鮮の防衛には日本の基地使用

 質問 日本の軍隊が朝鮮防衛のために使用されうるという含みはコミュニケにあるのですか。

 ジョンソン ありません。私はコミュニケにそういう含みを読みとりません。その問題にコミュニケは全然ふれていません。ただ重要なことは,朝鮮の防衛は日本自身の安全に直接に関係がある旨,日本側が具体的に認めていることだと思います。

 質問 それはどういう意味ですか。

 ジョンソン コミュニケの目的とするところに関するかぎり,これは日本および沖縄にあるアメリカの基地および施設の使用を意味します。現在のところはそれ以上のことをこのコミュニケから読みとるのはまちがいだと思いますが,しかし私としてはこれはこういった問題にたいする日本の公式態度の多少とも大きな変化を示していることに注目したいと思います。

 質問 沖縄返還の取り決めはいつできあがるのですか。そのなかで韓国および台湾の防衛になにかふれますか。

 ジョンソン 細目取り決めの内容がどんなものになるか,またコミュニケに含まれているような事柄をどういう具合にそこに織り込むかはこれからの問題です。それはマイヤー大使とスナイダーさんが東京で日本の外務省を相手にやる仕事です。われわれはまだその問題に本格的にとりくむにいたりません。

 質問 しかし原則ができたのではないでしょうか。つまりアメリカ側が緊急事態と認めても日本側が同じように緊急事態と認めることに同意しないかぎり,日本側がはっきりと同意しないかぎり,防衛行動に沖縄を使用することについてアメリカの手は縛られているという原則ではないでしょうか。

 ジョンソン ちがいます。ご質問の意味が全然わからないのですが,なにも変更はないのです。思い出していただけると思いますが,安保条約の協議に関する条項ならびに同関連文書はなによりもまず核兵器持ち込みあるいは日本領土から直接におこなわれる戦闘作戦行動にたいして適用されます。ベトナム戦争のあいだ,むろんアメリカは在日基地を利用してきましたが,それはベトナムへの直接の戦闘作戦行動のためでなく,ベトナムの米軍にたいする後方支援のためでした。部隊の交代や補給が日本からおこなわれました。

 この問題について私は言葉の解釈に深入りしたくないのですが,一般的にいって両国政府は戦闘作戦行動ということを,暗黙の了解と申し上げたいのですが,これまでつぎのように了解してきたのです。つまりアメリカの飛行機が日本の基地から飛び立ち,他の領域を爆撃し,そして日本の基地に戻ってくる,こういう明確かつ具体的な意味に解釈するという了解です。このばあい以外は日本からの直接の戦闘出撃を含まない部隊の移動,航空機の移動,艦艇の移動はこの解釈に含められず,従って両国政府による協議もしくは同意を要しないわけです。

 質問 私がふれたのはそのことでして,日本領土,あるいは日本から飛び立って他の飛行機(訳注=領域の誤りか)を爆撃する問題です。一九七三年以降そういうことは日本のはっきりした同意を要することになるのですね。

 ジョンソン そのとおりです。

 質問 そしてもし日本が同意しないばあいはアメリカはやれないのですね。

 ジョンソン そのとおりです。ただしこのコミュニケは,日本側が態度を決定するにあたって使用しかつ適用するところの尺度というか,基準を定めています。それがこのコミュニケの重要なところです。

 質問 日本側が自動的にノーとはいわないということがそれほど重要でしょうか。それは,この場合,日本本土の基地自体より戦略的価値のほうを大きく考えてあなたが議論にもちこまれた枠組みですよ。

   日本は他の地域の防衛にも係り

 ジョンソン ある問題では,より戦略的であり,別のところではそうではないということがあるのかどうか私にはわかりません。ご承知のようにこれまで日本は一般に,安保条約とアメリカの基地はただ日本防衛のためだけのもので日本としては日本以外のいかなるものの防衛にも関心がないという態度をとってきたのです。その日本が他の地域の防衛に関心をもち,かかわりをもつということ,これがこんどの重要な出来事なのです。

 質問 そうするとそれで全体の姿ができあがっているわけですね。

 ジョンソン そうです。アメリカの行動の理論上の態様についてある程度はいうことができます。沖縄および日本の政治的現実を考慮にいれなければならないこともあって,理論上のというのですが,理論上はアメリカの行動は沖縄にかんしては制限されるかもしれません。しかし在日基地にかんしてはアメリカの理論上の行動は理論上拡大されることになるのです。そういうわけで,この両面を勘案しなければならない。

 質問 次官は首相のプレス・クラブでの演説をコミュニケと同等の重要性をもつものとされましたが。

 ジョンソン そのとおりです。

 質問 よそでおこなわれる外国の閣僚の演説についてホワイト・ハウスで説明がなされるというのはやや異例のことと思います。演説に示される気持がなぜコミュニケ自体のなかで表明されないのですか。

 ジョンソン はっきりさせておきたいのですが,プレス・クラブの演説は両国間の交渉事項ではありませんでした。交渉の過程で首相が自分はこれこれのことをいおうと思っていると発言し,そしてアメリカ側は首相がこれこれのことを演説する意向である事実を考慮に入れた次第です。一国の首相が自分自身の政策について一方的に発言することと,こんどのようなコミュニケにおいて共同の声明をおこなうこととはそれぞれ別のことなのです。総理大臣が政府の首長としてこんどのような発言を日本政府の政策の声明としておこなうほうがコミュニケのなかにまぜて声明するよりも多くの面で効果が高い,こう首相がお考えになったのでして,私も同感です。私がコミュニケと演説の両方をとりあげたのは,この二つが一体のものであり,またコミュニケにおいてアメリカが同意したことに同意するにあたっては,首相が日本政府の名において政策声明の演説もおこなう予定だったという事実を考慮したからです。

 質問 こんにちの核戦争の現実からすると,あの地域での核兵器の基地および貯蔵に関する事前協議について論ずることが果たして現実的でしょうか。

 ジョンソン 私は現実的だと思います。これらのことは.....発展しない......。

 質問 次官は戦略警報時間を前提しているのですね。

 ジョンソン そうです。もちろん一般的には,ご存知のように,沖縄に核兵器を貯蔵するアメリカの権利は戦略核より戦術核のほうにより重要な関係があります。ですから,こういうことがはっきりしていなければならないと思います。つまり,反撃するまでの時間的余裕がいくらか増えることがあるかもしれない一方で,同地域全体におけるアメリカの構えについていえば,抑止力に関するかぎり問題をできるかぎり少なくするような新しい配置および新しい取り決めをおこなうことができるということです。その結果,同地域におけるアメリカの戦争抑止体制に重大な低下が生ずることになると北京あるいは平壌が思いこむとは私は考えません。

 質問 EC−121やプエブロの事件にかんがみて日本基地よりする偵察活動の問題が表に出たのではないですか。またアメリカはこれについて日本との協議は不要との態度をとりましたか。

 ジョンソン いいえ,その問題は出ませんでした。

  (東部標準時間午後十二時十七分終了)

 編注 本文書は社会党が独自に入手したもの。冒頭の説明・注(一部略)は社会新報編集部によるもの。