データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米共同声明と安保沖縄問題での共産党の質問主意書と政府の答弁書

[場所] 
[年月日] 1969年11月29日,12月29日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),908−924頁.「赤旗」,1970年1月3日.
[備考] 
[全文]

 既報,共産党の春日正一参議院議員が昨年十一月二十九日提出した「日米共同声明と安保・沖縄問題に関する質問主意書」と,政府が佐藤首相の名で十二月二十九日回答した答弁書の内容はつぎのとおりです。

 一,「極東の安全」問題について

 【質問】

 佐藤総理とニクソン大統領との会談で発表された日米共同声明は,安保条約と沖縄問題という日本の主権と安全,アジアの平和にかかわる重大な内容をもっている。しかも,きわめて重要な問題について,日米両国の見解が異なるなど,看過できないものがあるので,その全容をあきらかにするため以下,当面解明することの必要な若干の問題について質問する。

 1 共同声明では,佐藤首相が極東における米国の防衛条約上の義務を「十分に果たしうる態勢にあることが極東の平和と安全にとって重要であることを強調」し,「米国の極東における存在がこの地域の安定の大きなささえとなっているという認識」を表明した。そして,「極東の諸国の安全は日本の重大な関心事である」として,沖縄の施政権返還にあたっては,「日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものでない」ことを条件とされている。米政府筋は二十一日,「今度の佐藤・ニクソン共同声明全体の文脈からいえば,事前協議はいつも否定的とはいえない」とのべている。

 共同声明で佐藤首相が表明している以上のような立場からいえば,米国が事前協議をもちだすのは,当然,極東で負っている国際義務の遂行上の必要を理由としてくることは明白であり,日本政府がそれを拒否すれば,米国が「防衛条約上の義務」を「十分に果たしうる態勢にある」とはいえなくなる。したがって,事前協議で拒否することは実際上できないのではないか。

 【答弁】

 1 わが国の安全の維持は,極東の平和と安全なくしては十全を期しえないものであり,したがってわが国としては,極東諸国の安全に重大な関心を持たざるを得ない。これは現行安保条約締結以来政府が有してきた基本的認識である。御指摘の共同声明の表現は,いずれもわが国の安全との関連においての極東情勢の一般的認識あるいは沖縄の本土なみ返還と日本を含む極東諸国の防衛のために米国が負っている国際義務の効果的遂行との全般的関係についてのわが方の見解を示したにとどまり,沖縄返還の条件とか個個の具体的な事前協議の際におけるわが方の判断基準を述べたものではない。したがって,かかる認識や見解のゆえに事前協議に際してのわが方の自主的判断が妨げられることはない。

 【質問】

 2 佐藤首相はナショナル・プレス・クラブでの演説で「事前協議について日本を含む極東の安全を確保するという見地に立って同意するか否かを決めることが,わが国の国益に合致する」とのべている。これは,これまでの政府見解と明らかにくいちがっている。すなわち,一九六○年五月十二日,当時の岸首相は「事前協議にあたっての日本の態度は,日本の平和と安全に直接に,また極めて密接な関係をもつ事態に対しては米軍に基地使用を認めるが,そうでない場合は拒否する考えである」(衆議院・安保特別委員会)と答弁し,愛知外相も本年六月十七日,「国家の安危に関するもの,そうして,日本国の安危に直接関係するような周辺の事情,こういうことが国益の基準として,ケース・バイ・ケースに判定されるべきではないか」(参議院外務委員会)とのべている。今回の佐藤首相の発言は,これまでの事前協議における応諾を与える基準についての,政府見解を大幅に拡大し,極東の安全,即ち日本の国益として,米軍の自由行動の道を大きくひらいたものといわなくてはならないと思うがどうか。また,これは,安保条約第六条の実施に関する交換公文で取決められた事前協議制度の実質的変更であり,したがってまた日米安保条約の事実上の改定を意味するものではないか。

 【答弁】

 2 極東の安全なくしてはわが国の安全を十分に確保しえないことは政府の従来からの一貫した認識である。「事前協議について日本を含む極東の安全を確保するという見地に立って同意するか否かをきめる」ということは,かかる認識の下に,極東の安全に関係する事態を常にわが国自身の安全との関連において判断し,わが国の安全に直接,またきわめて密接な関係を有するかどうかを基準にして事前協議に対処するという趣旨であり,これは,御指摘の現行安保条約締結時における岸総理の答弁あるいは本年六月の愛知外務大臣の答弁の趣旨となんら矛盾するものではない。

 【質問】

 3 佐藤首相は,本年六月十九日の衆院{前2文字ママとルビ}内閣委員会で「沖縄返還後,事前協議でイエスをいえば沖縄の米軍だけでなく東京も攻撃をうけることになるから,事前協議にたいするイエス,ノーはよほど慎重でなければならない」と答弁しているが,佐藤首相のナショナル・プレス・クラブにおける事前協議に関する見解は,あきらかに「イエス」ということである。これは佐藤首相の先の発言にてらせば,米国が戦争する相手国から日本が攻撃される危険を意味していると思うがどうか。

 【答弁】

 3 御指摘の総理大臣の答弁中において東京への攻撃云々と述べたのは,全くの理論上の可能性の問題として触れたものに過ぎず,右答弁の趣旨は,戦闘作戦行動のための基地としての施設・区域の使用につき事前協議において米国政府に対して許諾を与えるか否かは,日本の国益を守るという立場から慎重に行なわねばならず,当該施設・区域が本土にあろうと返還後の沖縄にあろうと,その間において右の立場に相違があろうはずはないことを述べんとしたものであり,この点についての政府の見解には,従来から何の変更もない。

 なお,事前協議において施設・区域の使用につき許諾を与えることが直ちにわが国を戦争に巻き込むこととなり,これを拒否すれば戦争に巻き込まれないと考えるのは正しくなく,わが国の国益に照らして事前協議を適正に運用していく姿勢を保持することこそ侵略に対する効果的な抑止力を維持し,もって日本の安全を確保するゆえんである。

 【質問】

 4 今回の日米首脳会談を前にして続けられていた秘密交渉のなかで,米国側は返還後の沖縄を含めた日本からの米軍の自由発進の保証について,緊急時を想定した百ちかくにのぼる膨大な具体例をリストにして日本側に提出して検討を進めたと報じられているが,その全容はいかなるものであるか。

 【答弁】

 4 御指摘のような事実はない。

 【質問】

 5 共同声明で日本が米国の防衛条約上の義務を「十分に果たしうる態勢にあること」を重要であると認め「米国の負っている国際義務の効果的遂行」をうたったことは,日本が調印していない米国の相互防衛条約の義務の遂行を保障する役割をはたす約束をしたことを意味するものではないか。このような重大な約束をおこなってくることは,許すことのできない越権行為であると思うがどうか。

 【答弁】

 5 共同声明第三項において,総理大臣が,極東における防衛条約上の義務を「米国が十分に果たしうる態勢にあることが極東の平和と安全にとって重要であることを強調した」のは,極東情勢に関する一般的な意見交換の過程において極東における米国の効果的な抑止力の維持の必要性という見地から,侵略を未然に防止するためには,米国が日米安保条約を含む既存の条約上の約束は必ず守るとの決意を必要なときにはいつでも実証しうるような態勢にあることが望ましいとの考え方を示したものである。また,共同声明第七項において,「沖縄の施政権返還は,日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではない」との総理大臣の見解が述べられているのは具体的な事前協議にあたってのわが方の判断基準を示したものではなく,わが国の安全との関連において極東諸国の安全に重大な関心を有するとの日本政府の一般的認識がある以上,安保条約及びその関連取決めを変更なしに適用するという形で沖縄を返還しても,それは,前述の米国の国際義務の効果的遂行と相互に矛盾するはずのものではないとのわが方の基本的見解を述べたものである。

 右に述べたとおり,引用の共同声明の表現は,いずれも,日米安保条約以外の米国の防衛条約上の義務の遂行をわが国が保証したというような性質のものではない。

 【質問】

 6 共同声明でうたっている「韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要である」「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素である」との見解は,沖縄の施政権返還後はもちろん,それ以前,すなわち,現在の日米安保条約の運用にたいする日本政府の態度をも示したものであると考えるがどうか。

 【答弁】

 6 韓国や台湾地域の安全は,わが国の安全にとって重大な関心事であり,万一これが直接害されるような事態が発生すれば,わが国の安全にとって由々しいことである。この点は佐藤総理大臣の所信表明においても説明したとおりであるが,これは現行安保条約締結以来政府が有してきた基本的認識である。

 【質問】

 7 「韓国」,台湾,サイゴンのかいらい政権をアメリカの軍事行動に追随してあくまでも守ろうとする共同声明にうたわれた政府の態度は,朝鮮人民,中国人民,ベトナム人民の民族自決の権利にたいする不当な侵害であり,内政干渉ではないか。

 【答弁】

 7 共同声明の関係部分の趣旨は,わが国の安全との関連における韓国及び台湾地域の安全に対するわが国の認識及び南ヴィエトナム人民の民族自決についてのわが国の立場を表明したものであり,御指摘の諸地域における民族自決の権利に対する侵害であるということはなく,内政干渉とするのはあたらない。

 【質問】

 8 共同声明では,日米安保条約の堅持とともに,「両国政府の日本を含む極東の平和と安全に影響を及ぼす事項及び安保条約の実施に関し緊密な相互の接触を維持すべきことに意見の一致をみた」ことを明らかにしている。これは,「日米共同作戦」態勢の質的な強化,拡大のために,日米統合司令部などの設置を含む広範な軍事協議の恒常化を意味するものではないか。

 もし,愛知外相の説明どおり「これはいままでと同様」であるとするならば,今日まで「日本を含む極東の平和と,安全に影響を及ぼす事項」について「緊密な相互の接触」をおこなっていた協議機関,その構成,協議の内容について明らかにされたい。

 【答弁】

 8 共同声明に述べられているところは,いずれも従来から通常の外交経路や安全保障協議委員会等の場を通じてすでに実行されている性質のものであって,これを今回総理と大統領の間においてあらためて確認したものにすぎない。

 通常の外交経路の接触は当然のこととして,日米間ではこれまで,総理訪米時における米国政府首脳との会談をはじめとする,政府要人の会談において安全保障問題につき不断に意見交換が行なわれているが主たる協議の場を挙げれば次のとおりである。

 安全保障協議委員会

 構成 日本側 外務大臣及び防衛庁長官

    米 側 駐日米大使及び太平洋軍司令官

 この協議委員会は,時宜により,日米安保条約第四条の協議及び同条約第六条の規定に基づく交換公文所定の事前協議を行なう協議機関として設置されたものであるが,さらに日米両政府間の理解を促進することに役だち,及び安全保障の分野における両国間の協力関係の強化に貢献するような問題で安全保障問題の基盤をなし,かつ,これに関連するものを検討することもできることとなっている。この協議委員会は,これまでに十回開催されている(但し,事前協議はこれまで行なわれていない)。

 安保保障に関する事務レベル非公式会談

 日米相互に関心のある安全保障問題について,事務レベル要人の往来の機会等をとらえ,これまで数度非公式な意見交換を行なってきたが,常設的機構ではない。

 【質問】

 9 有田防衛庁長官は,本年十月八日,衆院内閣委員会で,外国の攻撃にたいして,自衛隊を「公海,公空で排除する体制」にしたいと言明し,他の場所では「公海や公空でこれを排撃できるのは当然であり」「今後は陸上も大事だが,海空に力を入れなくてはならないと考え,そういう方向で四次防を作れと指示した」(十一月六日付「朝雲」紙)とのべている。

 (1)いったい,自衛隊が公海,公空まで出動できるとする根拠はなにか。

 【答弁】

 9(1)自衛隊法上,自衛隊は,侵略に対して,わが国を防衛することを任務としており,わが国に対し外部からの武力攻撃がある場合には,わが国の防衛に必要な限度において,わが国の領土・領海・領空においてばかりでなく,周辺の公海・公空においてこれに対処することがあっても,このことは,自衛権の限度をこえるものではなく,憲法の禁止するところとは考えられない。

 【質問】

 (2) また,その際の公海,公空の範囲はどこに限度があるのか。

 【答弁】

 (2) 自衛隊が外部からの武力攻撃に対処するため行動することができる公海・公空の範囲は,外部からの武力攻撃の態様に応ずるものであり,一概にはいえないが,自衛権の行使に必要な限度内での公海・公空に及ぶことができるものと解している。

 【質問】

 (3) 防衛庁は,すでに護衛艦への艦対艦,艦対地ミサイルの装備,原子力潜水艦の保有やファントムジェット戦闘機に爆撃装置をつける必要について検討していると報じられているが,これらは,有田防衛庁長官のいう方向での四次防の方針にそうものかどうか。

 【答弁】

 (3) 艦載ミサイルについては,軍事技術の進歩に伴って従来の艦載砲がミサイル化される傾向にある。四次防に建造する護衛艦については,この傾向をも勘案しつつ,いかなる装備をすべきか,今後検討することになろう。

 原子力潜水艦については,船舶の推進力として原子力利用が一般化していない現状において,これを保有する考えはない。

 また,F−4EJの爆撃専用装置については,同機は要撃に主用するものであり,これを装備することは考えていない。

 【質問】

 (4) また「国家安全保障会議」を設置する考えはあるか。

 【答弁】

 (4) 現在,「国防に関する重要事項」を審議する機関として,内閣に,国防会議が置かれており,政府としては,これ以外に国の安全保障に関する特別の機関を設ける考えはない。

(一)朝鮮問題について

 【質問】

 1 共同声明では「朝鮮半島に依然として緊張状態が存在する」ことに,佐藤首相とニクソン大統領は一致して「注目」している。しかし,この「緊張状態」はプエブロ号事件,EC121型機事件などで明らかな通り,アメリカの日本を拠点とした侵略的軍事挑発行為と,朝鮮「国連軍」という名の在「韓」米軍と,「韓国」軍の挑発策動によってひきおこされたものにほかならない。にもかかわらず,政府はこの明白な事実をおおいかくし,「北朝鮮の武力統一方針」なるものを宣伝して(総理府発行「日本の安全を守るには」),その責任を朝鮮民主主義人民共和国におしつけようとしている。たが,朝鮮民主主義人民共和国は,最近の金日成首相の発言(昨年九月の共和国創建二十周年記念報告,本年九月のフィンランド民主青年同盟代表団の質問にたいする回答)などでも示されているように,一貫して「自主的,民主的原則にもとづく,平和的統一」の方針を明らかにしており,「武力統一方針」などは,一度もとったことがない。いったい政府は「朝鮮半島の緊張」の根源は何であると考えているのか,またその根拠を具体的に明らかにされたい。

 【答弁】

 (一)1 北朝鮮の基本政策及び現実の行動の両面よりして,朝鮮半島における緊張状態は依然として存続していると考えざるを得ない次第である。

 【質問】

 2 佐藤首相は共同声明で,朝鮮における「国際連合の努力を高く評価」している。そして,「韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要である」とのべ,ナショナル・プレス・クラブでの演説では,「万一韓国に対し武力攻撃が発生し」米軍が,日本国内の基地を使用する際には,「事前協議にたいし,前向きにかつすみやかに態度を決定する方針である」と公言している。また,帰国直後の記者会見で佐藤首相は朝鮮での事態を「対岸の火災視できない」との前提から,「国連軍が攻撃された場合には,日本の立場と国際協力の立場から対処する」旨を表明している。いうまでもなく,「韓国」の「国連軍」とは事実上,米軍と変わらない。

 (1) このことからして,政府は「韓国」における「国連軍」としての米軍には,他の地域の米軍との間に区別を設け,事前協議における諾否の基準をさらにゆるめ,事実上「イエス」を予約していると考えられるがどうか。安保改定当時,岸首相は「国連軍」の場合は,「ある種のゆとりをもって考えるべきである」(一九六○年五月十二日衆議院安保特別委員会)と答弁しているが,佐藤内閣の態度はどうか。

 【答弁】

 2(1) 引用の共同声明第四項の表現は,現在の極東情勢の下において,わが国の安全との関連で韓国の安全を一般的にどのように認識しているかを明らかにしたものであり,事前協議の問題とは直接の関係がない。また,ナショナル・プレス・クラブにおける演説等の中での総理大臣の発言は,いずれも,米国政府との関係において直接・間接に事前協議における許諾を予約したというような性質のものではなく,事前協議に際しての対処振りに関する日本政府自身の考え方を述べたものである。したがって,この結果,米国政府との関係で,具体的事案にあたってのわが国の自主的な諾否の決定が妨げられるというようなことはありえない。

 なお,国連軍としての行動に対しては,日本の平和と安全との関係と国連協力の立場との双方を勘案するとの従来の答弁は,現在においても政府の考え方を正しく反映したものである。

 【質問】

 (2) さらに「日本の立場」で国連に協力するという場合に,自衛隊の協力をも含めていると思うがどうか。「国連協力」という名での自衛隊の海外派兵は絶対にないと断言できるかどうか。また,「公海,公空で排除する」という有田防衛庁長官の発言があるが,海上自衛隊,航空自衛隊が朝鮮海域,空域に出動することはありえないか。

 【答弁】

 (2) 国連協力という名目で,自衛権の限界をこえることとなるいわゆる「海外派兵」を行なうことはない。

 【質問】

 3 政府はこれまで「韓国」における「国連軍」が軍事行動を起こすには国連における新しい決議が必要であるとしてきたが,国連軍の「自衛権の行使」としての軍事行動は,国連の決議をまたずに起こすことができると考えるか。

 【答弁】

 3 国連軍の軍事行動に関する政府の従来の答弁は,侵略の再発という新たな事態に対処するために国連が改めて集団的措置をとるまでの間,国連軍として当然とることあるべき防衛的行動までも排除されていることを意味したものではない。

 【質問】

 4(1) 「国連軍」が「自衛権の行使」として軍事行動を起こした場合,政府は,「国連軍」(米軍)の在日米軍基地の戦闘作戦行動での使用を事前協議で認めるか。

 (2) 国連の新しい決議にもとづいて「国連軍」が軍事行動を起こした場合はどうか。

 (3) また,米「韓」相互防衛条約第三条(武力攻撃に対する措置)が発動した場合はどうか。

 それぞれについて明確に答えられたい。

 5 佐藤首相は「韓国に武力攻撃が発生し」た場合に,米軍の基地使用を「前向き,かつすみやかに態度を決定する」とのべているが,もし「韓国」軍が休戦ラインをこえて「北進」した場合にも,同様の態度でのぞむのかどうか。

 【答弁】

 4(1)(2)(3)及び5 政府としては,韓国に対する武力攻撃,すなわち,組織的・計画的な武力の行使が行なわれるという事態となれば,戦闘作戦行動の発進基地としての施設・区域の使用についての事前協議に対しては,前向きに態度を決定するとの方針であるが,右以外の種々の武力紛争をわが国の安全との関連でどのように評価し,事前協議に際しどのように対処すべきかについては一概に予断しえず,個個の具体的事案に即して判断するよりないと考える。

 【質問】

 6 朝鮮で「国連軍」(米軍)が軍事行動を起こした際,「国連軍」(米軍)による日本の基地の自由使用に制限を加えることは,「米国が負っている国際義務を米国が十分に果たしうる態勢にある」ことにならなくなるのではないか。

 【答弁】

 6 前記一(一)5に述べたとおり,引用の共同声明の表現は,個個の事前協議にあたってのわが方の判断基準とは直接関係がない。

(二) 台湾問題について

 【質問】

 1 佐藤首相は共同声明で「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素である」とのべ,ナショナル・プレス・クラブでは,米台条約が発動されるような事態は「わが国を含む極東の平和と安全を脅かすものとなる」として,事前協議では「日本を含む極東の安全を確保するという見地に立って同意するか否かを決める」という「認識をふまえて対処して行く」とのべている。このことは,米台条約発動の際は米軍の日本からの戦闘作戦行動を認めることを意味するものと考えざるをえないがどうか。

 【答弁】

 (ニ)1 引用の共同声明第四項の表現は,現在の極東情勢の下において,わが国の安全との関連で台湾地域の安全を一般的にどのように認識しているかを明らかにしたものであり,事前協議の問題とは直接関係がない。

 また,ナショナル・プレス・クラブにおける総理大臣演説の御指摘の「認識」とは,「事前協議について,日本を含む極東の安全を確保するという見地に立って同意するか否かを決める」とのくだりを受けたものではなく,直前の,米華条約上の「義務が発動されなくてはならない事態が不幸にして生ずるとすれば,そのような事態は,わが国を含む極東の平和と安全を脅かすものになると考えられます。」との文章を受けたものであり,これは,かかる場合に事前協議において施設・区域の使用を直ちに許諾するという意味ではないが,万一かかる事態が現実の問題となった場合には,わが国を含む極東全域の平和と安全に及ぼす深刻な影響を十二分に認識して対処すべきものであることを述べんとしたものである。

 【質問】

 2 かって岸首相は,「金門,馬祖のような事態であるならば,日本の平和と安全に直接密接な関係があるとは考えない」(一九六○年四月一日衆議院安保特別委員会)と答弁したが,今回の共同声明の「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素である」との文言とは明らかに相違がある。台湾地域にかんして事前協議の解釈を拡大したものと考えるがどうか。

 【答弁】

 2 共同声明にいう「台湾地域」とは,米華条約に基づき米国が防衛義務を負っている台湾及び澎湖諸島を指し,金門・馬祖は含まれていない。

 【質問】

 3 米台条約が発動した際,米軍の日本の基地使用に制限を加えることは,「米国が負っている国際義務の効果的遂行」を妨げることにならざるをえないではないか。

 【答弁】

 3 一5において述べたとおり,引用の共同声明の表現は,沖縄の返還と米国の極東における防衛条約上の義務の効果的遂行との一般的関係についてのわが方の考え方を述べたものであり,個々の具体的事前協議について述べたものではない。

(三) ベトナム問題について

 【質問】

 1 現在,米軍による南ベトナムのクアンガイ省ソンミ村での大量虐殺事件が全世界に衝撃を与え,アメリカのベトナム侵略戦争の本質があらためてさらけだされている。ところが,佐藤首相は共同声明において,米国のベトナム政策を全面的に支持し,ナショナル・プレス・クラブでは「米国が払ってきた犠牲」と「誠実な努力」に敬意を表するとともに,「米国の立場に深い理解を抱いた」とのべている。首相は帰国後の記者会見でも「十一月三日のニクソン大統領の演説をはっきり確認してきた」とのべている。

 (1) 政府はソンミ村の大量虐殺事件におけるアメリカの凶悪な残虐行為をも支持し,敬意を表するのか。もし,この残虐行為を認めないならば,ただちに米国政府に抗議すべきだが,その意思があるか。

 (2) このような大量虐殺事件はソンミ村だけにとどまらない。アメリカのベトナム戦争そのものが,ベトナムの全住民を敵とする非道,邪悪な侵略戦争にほかならない。今回の事件は,このことをだれの目にもはっきりと露呈したが,日本政府はなおかつ残虐行為をかさねるアメリカのベトナム侵略戦争を支持し,協力しつづけるつもりか。

 【答弁】

 (三)1(1)(2) わが国は,南ヴィエトナム人民が民族自決の原則によりその将来を決定しうるような環境を作るという米国のヴィエトナム政策を支持し,そのために米国が払ってきた犠牲と努力に敬意を表するものであるところ,ソンミ村事件については,米国陸軍当局が現在調査を進め,事件関係者の軍法会議を開くこととなっており,その司法的結論が出される前にわが国としての立場を表明することは適当でないと考える。

 【質問】

 2 (1) B52による無差別爆撃,毒ガス,細菌兵器,ボール爆弾その他の凶悪兵器の使用などは,ソンミ村大量虐殺と同じベトナム人民にたいする非道,凶悪な残虐行為にほかならない。わが国の領土沖縄からのB52出撃をただちにやめさせるべきだが,政府はいかなる措置をとったか。

 (2) 共同声明では,B52の沖縄からの発進に反対する意思表示すらされていない。沖縄の施政権返還にあたっても,「南ベトナム人民が外部からの干渉を受けずにその政治的将来を決定する機会を確保するための米国の努力に影響を及ぼすことなく」との留保条件がつけられているが,現在,ベトナム爆撃をつづけているB52の沖縄からの発進を日本政府は「米国の努力」として評価しているのか。

 【答弁】

 2 (1)(2) 政府は,B−52の問題については沖縄住民の不安を除くよう米側に配慮方つ{前2文字ママとルビ}とに申し入れてきており,この点についての政府の方針には今後も変りがない。

 御指摘の共同声明中の「米国の努力」とは,ヴィエトナム問題解決のため米国が払っている全体としての努力を述べたものであり,そのための個個の具体的手段の是非を論じたものではない。

 【質問】

 3 佐藤首相はナショナル・プレス・クラブでの演説で,インドシナ地域における役割として「国際平和維持機構にも求められれば日本の国情に合致した方法で参加,協力すべきもの」とのべているが,この「国際平和維持機構」とは具体的にいかなる内容のものをさしているのか。また「日本の国情に合致した方法」とはどういう方法か。

 【答弁】

 3 現在ヴィエトナム及びカンボディアにおいては,一九五四年のジュネーヴ協定,またラオスにおいては一九六二年ジュネーヴ協定に基づき各各休戦監視機構が設けられている。インドシナ地域に将来どのような平和維持機構が設けられるか,たとえば現行の国際休戦監視機構が強化されるかあるいは全く新しい国際機構が設立されるか,将来の平和維持機構の任務,権限,規模等は関係当事国により決定されるものである。わが国としては従来よりインドシナの平和と安全を強く希望する立場から,求められればわが国国内法制上の許す範囲内でかかる機構に参加する用意があることを明らかにしてきたのである。

 【質問】

 4 共同声明では日本政府の「アジアに対する援助計画の拡大と改善を図る意向」と,「ベトナム戦後におけるベトナムその他の東南アジアの地域の復興を大規模に進める」ために「相当な寄与をおこなう」意図を明らかにしているが,その具体的構想を明らかにされたい。

 【答弁】

 4 わが国は開発途上国なかんずくアジアの開発援助の課題に積極的に取り組む方針であり,既にいくたびもこの方針を内外に明らかにしている。具体的には,わが国の経済力の許す限り援助量の増大と条件の緩和を促進し,あわせて援助の効率化を図る考えである。二国間援助については,アジア諸国の実情を勘案しつつ,案件ごとに民間ベースの協力を含め適切な協力を行なうこととし,多数国間援助については,アジア開発銀行,特に同銀行の特別基金の充実強化を図って行く方針である。他方,東南アジア開発閣僚会議,メコン開発計画等アジアにおける地域協力の育成強化を進めて行きたい。

 ヴィエトナム戦後のヴィエトナムをはじめ戦争による被害を蒙った近隣諸国への援助は,難民救済や戦災復興のための応急的な復旧援助及びその後に来るべき経済復興,開発援助が考えられるが,これらの援助については,有償,無償の援助を適宜組合わせ,また,アジア開銀,世銀グループ等国際機関の資金も活用しつつ,援助の実効をあげてまいりたい。

 いずれにしても,わが国はヴィエトナム戦後援助について,わが国の国際的地位にふさわしい協力を行なう考えであるが,援助額がどの程度になるかは,ヴィエトナム及びその周辺諸国の援助必要額や他の援助諸国の援助意向等を勘案しつつ決定されるべきものであり,現在のところいまだ決める段階ではない。

 二,沖縄問題について

 【質問】

 1 沖縄は,サンフランシスコ「平和」条約第三条を唯一の根拠にして,アメリカに全面占領されてきた。しかるに,同条約は「領土不拡大の原則」を取り決めたカイロ宣言,ポツダム宣言に完全に違反し,国連憲章にさえ明白に違反したものであり,アメリカの沖縄占領はまったく不法不当なものである。したがって,日本国民は沖縄の即時・無条件・全面返還を要求する完全な権利をもっている。

 ところが,共同声明では,「極東の諸国の安全は日本の重大な関心事である」との日本政府の認識を表明し,「沖縄にある米軍が重要な役割を果たしている」ことを認めたうえで,「日本を含む極東の安全をそこなうことなく」,また極東で「米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではない」ことを条件に,「一九七二年中に沖縄の復帰を達成するよう」「具体的取り決め」にかんして協議することに合意している。

 ここには,一九七二年返還が明記されていないばかりか,この時期までにベトナム戦争が終結しない場合には再協議するとの留保条件がつけられている。しかし,「沖縄の局地防衛の責務」を日本が負うことや,膨大な米軍基地の存続とその「機能を有効に発揮すること」(愛知外相説明)の承認が欠かせない前提とされている。

 これは,条件つき返還ではないか。これらの条件,前提が満たされなかった場合,「七二年の施政権返還」は延期されるのか。

 2 共同声明において,沖縄の施政権返還は「日本を含む極東の安全をそこなうことなく」との条件がつけられているが,カイロ宣言,ポツダム宣言にてらせば,沖縄はいかなる条件もつけずに日本に全面返還されてしかるべきものである。不法なサンフランシスコ「平和」条約第三条においてさえ,沖縄返還に「極東の安全」の条件をつけるなんらの根拠もない。

 いったい,共同声明において,「日本を含む極東の安全をそこなうことなく」との「条件つき」で沖縄の施政権返還の協議をはじめることに合意した根拠はどこにあるか。

 【答弁】

 1,2 御指摘の共同声明の表現は,現在の極東情勢の下におけるわが国を含む極東の安全保障についてのわが国の基本的見解,沖縄における米軍の存在の一般的意義に対するわが方の評価,沖縄返還と米国の域内における防衛条約上の義務の履行との一般的関係,返還後の沖縄の防衛についてわが国が当然負うべき責務の遂行の意図等を述べたものに過ぎず,いずれも沖縄返還のための条件というようなものではない。

 【質問】

 3 共同声明では,「沖縄返還予定時」にベトナム戦争が継続している場合には,「米国の努力に影響を及ぼすことなく」再協議することに合意している。この協議は,沖縄の施政権返還の時期をさらにおくらせるか,それとも復帰後の沖縄からのB52出撃など米軍の基地の自由使用をひきつづき認めるかのどちらかにならざるをえない。

 (1) もし,政府のいうように,「七二年返還」が確実ならば,この協議で米軍の基地自由使用を認め,日本がアメリカのベトナム侵略戦争の公然たる参加国となることを意味している。また,この際,もしB52の出撃をはじめ米軍基地の自由使用を拒否すれば,「米国の努力に影響を及ぼす」ことになり,さらに「米国が負っている国際義務の効果的遂行」の妨げとならざるをえない。したがって,「七二年返還」により,政府は,沖縄の米軍基地からの出撃を認めざるをえないと考えられるがどうか。

 【答弁】

 3 (1) 政府としては,沖縄の返還予定時までヴィエトナム戦争が現在のような形で続いているということは,だれにとっても望ましくないことであるのみならず,実際問題としてまず起らないものと考える。しかしながら,現在パリ会談を通じて北越側と和平交渉を行なっている米国としては,特定の時点までに必ず戦争を終結させることを一方的にコミットしうる立場にないことも当然であり,さればこそ,現在の時点で,一九七二年になっても依然としてヴィエトナムにおける平和が実現していないという事態を可能性の問題として全く排除したり,また,排除したと解されうるような立場を公に表明することはできないわけである。

 したがって,共同声明においては,万一そのような事態が起った際には,その時点での諸般の情勢を考慮しながら日米双方が十分協議をして対処しようということになった次第である。その場合には,そのときの和平の見通し,ヴィエトナムにおける軍事情勢等を慎重に検討して判断することとなろう。

 【質問】

 (2) もし,「施政権返還」後の沖縄からのB52など米軍のベトナム出撃を認めることがあるとするならば,それは,日米安保条約の「フィリピン以北」とされている「極東の範囲」を拡大することになると思うがどうか。

 【答弁】

 (2) 施政権返還後の沖縄からのB−52の出撃という事態はないと確信している。

 なお,安保条約における極東は,日米両国が平和及び安全の維持に共通の関心をとくに有する区域として捉えられており,沖縄の施政権返還により,わが国が前記のごとき意味において関心を持つ区域が自動的に広くなるというようなことはなく,政府としては,極東の範囲に関する従来からの統一見解を変更するつもりはない。

 もっとも,一般的にいえば,安保条約に基づき米軍がわが国の施設・区域を使用して行動する範囲が必ずしも条約にいう極東に局限されるわけではないことも,従来から政府の統一見解として明らかにされているところである。

 【質問】

 4 米台相互防衛条約の付属交換公文では,「両国の共同の努力及び貢献の所産である軍事力は,相互の合意なくして,第六条に掲げる領域の防衛力を実質的に低下させる程度までその領域から移動しないものとする」と明記されている。いうまでもなく,この交換公文にいう「第六条に掲げる領域」には,現在,沖縄が含まれている。したがって,米国は沖縄の「防衛力を実質的に低下させる程度まで」「移動しない」義務を負っており,ニクソン大統領は共同声明において「中華民国に対する条約上の義務」の順守をうたっている。しかも,佐藤首相は,共同声明で,米国の極東における「防衛条約上の義務」を「米国が十分に果たしうる態勢にあることが極東の平和と安全にとって重要である」ことを強調し,さらに,沖縄の施政権返還が「米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではない」との見解を表明している。

 (1) 以上のことからして,米台条約上の義務について,日本政府は無関係ではありえず,また,沖縄の施政権返還において,現在の沖縄の米軍基地と米軍の全機能をそのまま維持することが前提条件にされていると考えざるをえないがどうか。

 【答弁】

 4 (1) 御指摘の米華条約の付属交換公文の趣旨は,「両国の共同の努力及び貢献の所産である軍事力」との表現に明らかなとおり,台湾及び澎湖諸島からの軍事力の移動についての合意であり,沖縄にある米国の軍事力につき同国が中華民国に対しなんらかの法的義務を負ったものと解されない。

 いずれにせよ,共同声明の表現は,沖縄における米軍の具体的な配備振りや個個の基地の機能を論じたものではなく,従って,「沖縄の米軍基地に米軍の全機能をそのまま維持することが前提条件にされている」というようなことはない。

 【質問】

 (2) 愛知外相は,沖縄基地の「整理統合」をいっているが,現在,沖縄では米軍基地の増強工事があいついでおこなわれており,そのなかには,核基地の強化,拡大工事も含まれているといわれている。政府は,これら米軍基地の増強工事をやめさせる意思はないか。

 【答弁】

 (2) 沖縄における米軍の存在が,施政権返還後も引き続きわが国及びわが国を含む極東の安全に重要な役割りを果すと考えられることを念頭におきつつ日米安保条約及び地位協定適用準備のための日米間協議及び施政権返還後の日米協議を通じて実質的に妥当かつ可能な範囲で現存基地(増強工事があればそれを含む)の整理統合を行なう所存である。

 【質問)】

 (3) 共同声明では,沖縄の施政権返還にあたり,「日米安保条約及びこれに関連する諸取り決めが変更なしに沖縄に適用される」とされているが,この「諸取り決め」とは具体的になにをさすか。そのすべてを列挙されたい。また,当然「地位協定」も「変更なしに」適用されると思うがどうか。

 【答弁】

 (3) 安保条約に関連する諸取決めとは安保条約とともに国会の承認を得ている条約第六条の実施に関する交換公文,すなわち事前協議の取決め,吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文,相互防衛援助協定に関する交換公文及び地位協定を指す。

 従って,地位協定が沖縄返還後も変更なしに適用されることは言をまたない。

 【質問】

 (4) さらに,安保条約と関連取り決めを現在の沖縄の米軍の「機能をそこなわない」ように「適用」するために,国内法の改定を考えていると思われるが,防衛二法,警察法その他の改定を考えているかどうか。また「機密保護法」その他の治安立法の制定はあり得ないと断言できるかどうか。

 【答弁】

 (4) 御説のような趣旨での国内法改正その他の立法措置は考えていない。

 【質問】

 5 (1) 共同声明において,佐藤首相は「復帰後は沖縄の局地防衛の責務は日本自体の防衛のための努力の一環として徐々にこれを負う」意図を明らかにした。これは,愛知外相の説明では「最善のペース」で実現されるとしているが,共同声明によれば,沖縄の施政権返還は「日本を含む極東の安全をそこなうこと」は許されないのであり,「日米両国共通の安全保障上の利益は,沖縄の施政権を日本に返還するための取り決めにおいて満たしうることに意見が一致」していることからして,当然,今回の日米交渉において,「沖縄防衛」の構想や日本の「防衛力」増強計画が提示されたものと考えられる。その「沖縄防衛」構想,「防衛力」増強計画,および日米間で協議されている「日米共同防衛」態勢について具体的に明らかにされたい。

 【答弁】

 5 (1) 返還後わが国の施政権の下にもどる沖縄をわが国が自ら防衛するのは当然のことである。共同声明の中で,総理が「返還後の沖縄の局地防衛の責務を.....徐々に負うとの日本政府の意図を明らかにした」のは,かかる政府の意図を明らかにしたものであり,愛知外務大臣が「政府は最善のペースで徐々にこれを実現していく」と説明したことも,このことを一般的に述べたものであって,今回の首脳会談において,米側に対し「沖縄防衛構想」,「防衛力増強計画」又は「日米共同防衛態勢」を具体的に示した事実はない。

 【質問】

 (2) また,沖縄の施政権返還にかんする「具体的な取り決め」には,軍事的内容,すなわち,これら日米間で協議された「沖縄防衛」構想の内容も含まれると考えるがどうか。

 【答弁】

 (2) 沖縄の施政権返還に関する具体的取決めの中に御指摘のごとき沖縄防衛構想の内容は含まれない。

 【質問】

 6 二十四年間にわたるアメリカの沖縄占領は,沖縄県民の生命,財産に重大な危害を加えた。沖縄返還にあたって,政府はなによりも沖縄県民の意思を尊重し,利益を擁護しなければならない。しかるに,共同声明では,沖縄県民の即時,無条件,全面復帰の声を無視しただけでなく,施政権返還の準備作業は,「日米協議委員会」に責任を負わせ,それへの「報告及び勧告」をおこなう「日米準備委員会」に「琉球政府」主席を“顧問”として加えているにすぎない。

 (1) これは,沖縄問題のなによりの当事者である沖縄県民の意思が,復帰にともなう諸措置の決定過程からあらかじめ排除されていることを示すものではないか。

 【答弁】

 6 (1) 沖縄の本土復帰のための準備は,全体として日本の内政問題的色彩の強いものであるが,これらの復帰準備が行なわれる間,沖縄は依然として米国の施政権下にあるのであり従って復帰準備のための諸施策も完全にわが国の内政問題とはいい切れず,その実施にあたっても,施政権者たる米国の同意を得てこれを行なうことが必要である。

 佐藤・ニクソン共同声明の第十項において沖縄における復帰準備につき,日米両政府が協議し,協力することを述べ,そのための機構の整備を定めているのもこの故である。

 なお,共同声明第十項は,復帰準備についての日米両国の政府レベルの協力のあり方についての原則を述べたものである。

 実際問題として復帰準備については日本政府が琉球政府と連絡を密にし,またその要望を日本政府のとる復帰施策に出来るだけ反映せしめるよう配慮して行くのは当然である。

 両国の政府レベルの協議機関としての準備委員会に琉球政府の行政主席が顧問として参加することを予定しているのは,沖縄における復帰準備についての日米両政府間の協議に出来るだけ沖縄住民の意向を反映せしめんとする配慮に出たものである。

 【質問】

 (2) また,沖縄の施政権返還にともなう「財政及び経済上の問題」においては「米国企業の利益」についてのみ明記し,完全に弁償すべき沖縄県民の損害については,なんらふれられていない。政府は,これまでに沖縄県民がこうむった損害の補償についていかなる措置を考えているか。

 【答弁】

 (2) 沖縄においては,米国の施政権の下においても各種の損害補償のための措置がとられてきている趣であるので,政府としては沖縄県民がこれまで被った損害がどのようなものであったのか,これについてどの様な補償がなされているのかといった実態を調査した上で,検討していく所存である。

 【質問】

 (3) 沖縄の施政権返還の「取り決め」を締結する際,アメリカにたいする正当な請求権を放棄した「小笠原返還協定」のような,卑屈な対米従属の態度は許されない。当然アメリカに損害補償を請求すべきだが,どうか。

 【答弁】

 (3) 沖縄の場合に多くの人口が長期間にわたり米国の施政権下におかれて法律関係も複雑多岐にわたっている実情にあることは事実であり,政府としては,かかる事実を十分念頭において公正妥当な解決に努める所存である。

 【質問】

 (4) また,沖縄における米国資産の「買い取り」は認めるべきでないと考えるが,どうか。沖縄米軍基地の建設費はじめ,極東侵略のための投資,不当な占領下で沖縄県民が搾取された結果の米国資産などを,日本国民が「買い取る」ことは,二重三重の米国への従属的行為ではないか。

 【答弁】

 (4) 沖縄における米国資産の処理については,米側の主張が明らかでない現在,わが国としての考え方を述べるのは適当ではないと思われるが,基本的には米側の主張を訊し,わが国の主張を理解させたうえで公正かつ衡平の原則により筋のとおった処理をいたしたい。

 三,核問題について

 【質問】

 1 政府は,共同声明によって,「本土の非核三原則がそのまま沖縄に適用される」「沖縄の核ぬき返還が明らかにされた」「有事核持ち込みはあり得ない」とのべている。

 しかるに,共同声明第八項では,総理大臣が「日本政府の政策」を説明し,大統領がこれに「理解」を示したというにすぎず,沖縄からの核兵器撤去も,非核三原則も明記されてはいない。佐藤首相もまた,「あるともないともいわないのが核だ」と「核かくし」の態度をくりかえし明らかにし,沖縄における核兵器存続の道をのこしている。

 さらに,「日本政府の政策に背馳(はいち)しない」という大統領の「確約」にしても,「日米安保条約の事前協議制度に関する米国政府の立場を害することなく」との条件がつけられている。

 このことは,米国務省筋が「これは緊急時に米国が再び核を持ち込み得ることを意味するものだ」と説明し,米政府筋も「緊急事態発生のさい,事前協議で日本側がいつも否定的な態度をとるとは限らない」と発言していることから明らかなとおり,日本政府が「有事核持ち込み」を容認したことを示しているといわざるを得ない。

 いったい,沖縄からの核兵器撤去,施政権返還後の核兵器持ち込み禁止にたいする保障はどこにあるか。

 【答弁】

 1 総理は,核兵器に対する日本国民の感情を背景とする政府の政策,すなわち非核三原則について詳しく説明し,これに対し,大統領が,「深い理解を示し,.....沖縄の返還を右の日本政府の政策に背馳しないよう実施する旨を確約した」のであるから,米国としては,沖縄に核兵器が置かれているとすれば返還前にこれをすべて撤去することになるわけで,前記の大統領の言明は,米国政府の最高責任者たる大統領の「確約」であるからには,これ以上の明確な保証はないと考える。「米国政府としては,事前協議制度に関するその立場を害することなく」というのは,返還後の沖縄への核兵器の導入は安保条約に基づき事前協議の対象となるべき性質の問題であることを,米国政府の立場として念のため確認したものである。これは,現在の日本本土の場合と異ならない。

 返還後の沖縄に対しても非核三原則を本土と異なるところなく適用するというのが政府の方針である。

 【質問】

 2 佐藤首相は,ニクソン大統領に説明した「日本政府の政策」が「非核三原則」であるかのようにのべている。

 しかし,これまで政府が国会を通じて明らかにしてきた「核政策」とは,けっして「非核三原則」だけが単独でうちだされたものではない。

 すなわち,昨年一月,佐藤首相が表明した「核政策の四本柱」では,とりわけ「日米安保条約にもとづくアメリカの核抑止力に依存する」ことが優先されており,「非核決議」をすることは,「安全保障条約の中身について拘束を加えることになる」「アメリカの行動を制限することになる」(昨年三月二日衆議院予算委員会,松本善明衆議院議員にたいする佐藤首相答弁)とまで公言し,共産,社会,公明三党が共同提案した「日本の非核武装と核兵器禁止にかんする決議案」に反対している。また,本年一月には「沖縄を含めて,米国の核抑止力があったから非核三原則をうちだせた」との見解を積極的に明らかにした。

 (1) いったい佐藤首相は,ニクソン大統領との会談で,「アメリカの核抑止力に依存する」との政策は放棄し,「非核三原則」だけを「詳細に説明した」のかどうか。

 【答弁】

 2 (1) 政府の非核三原則についての考え方はすでに国会等において十分説明されているとおりである。そのような考え方に立って総理は非核三原則を説明したのである。

 【質問】

 (2)また,もし政府が「非核三原則」をきびしくまもる立場であるなら,いっさいの核武装と核兵器および核運搬手段のいっさいの使用,実験,製造,貯蔵と,外国からのあらゆる形の持ち込みを禁止する「核兵器禁止法」を制定すべきであるがどうか。

 【答弁】

 (2) 原子力基本法第二条は,「原子力の研究,開発は,平和の目的に限る」旨規定しており,核兵器の実験,製造などはできないことになっている。

 核兵器の持ち込みについては,政府はこれを認めない原則を貫く考えであり,御説のような「核兵器禁止法」を制定する必要を認めない。

 【質問】

 3 共同声明にいう「日米安保条約の事前協議制度に関する米国政府の立場を害することなく」とは,愛知外相の説明によれば,核兵器の日本への導入は「事前協議の対象となるべき性質の問題であること」を確認したものであるとし,その際,日本政府は非核三原則により「これを断わる」との方針をのべているが,それが明らかになっているなら,米政府筋が,この項に関連して「佐藤首相も愛知外相も事前協議はイエスもノーもありうるとしばしばいっている」と言明するはずもない。

 ここでは明らかに,核兵器の持ち込みについては事前協議ですべて拒否するとのこれまでの政府の方針をくつがえし,応諾することもあり得ることを認めたとしか考えられない。

 (1) もし,そうでないなら,なぜ共同声明に核兵器の日本導入を拒否すると明記できなかったのか。

 (2) また,米政府筋が公言していることが,共同声明の内容に相違しているというのであれば,なぜ米国政府に公式に抗議し,その発言を取り消させないのか。

 【答弁】

 3 (1)(2) 施政権返還後の沖縄に対しては,安保条約及びその関連取決めが,本土と異ることなくそのまま適用されることとなるので,核兵器の持込みの問題も現在の本土と全く同様に扱われることとなる。

 御指摘の米政府筋の言明として伝えられたところは,事前協議に関し「イエス」も「ノー」もありうるという事前協議制度の本質について述べたものと思われ,然りとすればこの言明が共同声明の内容に相違していることはない。

 返還後の沖縄に対しても,非核三原則を本土と異なるところなく適用するというのが政府の方針であることは,既述のとおりである。

 【質問】

 4 (1) 現在,沖縄に存在する核兵器のうち,旧式になったメースBを近く撤去し,これによって政府は「沖縄に核がなくなった」と宣伝しようとしている。しかし,「あるともないともいわないのが核だ」と佐藤首相自身は言明している。「絶対に核がなくなった」ということを,政府は具体的になにによって証明できるのか。また「返還時に核がなくなる」ということを,政府はいかなる方法で確認できるのか。

 【答弁】

 4 (1) 三,1の答において詳しく述べたとおり,大統領自らが沖縄の返還をわが国の非核三原則に背馳しないよう実施する旨確約したのであり,また事前協議制度が適用になる沖縄にひそかに核兵器を存置しておくが如きことは,事前協議制度を含む安保条約の趣旨に明白に反する行為であるので,米国がこのような重大な不信行為をおかすことはありえない。

 【質問】

 (2) また,「施政権返還にあたっては,日米安保条約及びこれに関連する諸取り決めが変更なしに沖縄に適用される」とされているが,今日本土に適用されている「諸取り決め」においても,政府は「現在公表していない基地はない」としながらも,「軍事的性格により,一部公表しないこともありうることを予想していることは事実である」(岩間正男参院議員の質問主意書にたいする本年一月十六日の政府答弁書)と答弁している。したがって,「諸取り決め」上は,沖縄の施政権返還時に,公表されない米軍基地もあり得ると解されるが,政府は沖縄の施政権返還時に米軍に提供するすべての基地を公表すると公約できるか。

 【答弁】

 (2) 政府は現在本土において米軍に提供している施設及び区域についてはすべて公表しているが,施政権返還後沖縄において米軍が引続き使用する施設及び区域についても同様に措置する考えである。

 【質問】

 (3) さらに,事前協議は,すべて国民の前に明らかにすることが,国民に責任を負う政府のとるべき態度である。しかるに,一九六○年の安保改定当時,政府は「差しつかえない範囲内で国会に明らかにしようと考えている」「原則として明らかにする」(岸首相)とあいまいな態度を示している。

 政府が核兵器の持ち込みをいっさい認めないとの立場をつらぬくならば,米国側から事前協議の申し出があった際,核兵器持ち込みの場合であろうとも,そのつどすべてを公表すべきであり,また,できるはずだが,佐藤内閣にすべて事前協議を公表する意思があるか。公表できない場合があるとすれば,それはいかなる理由の場合であるか。

 佐藤首相は,核の所在を知ってもこれを国民に知らせる必要はないと考えるか。

 【答弁】

 (3) 条約第六条の実施に関する交換公文に基づく事前協議は政府の責任においてなすべきことであり,逐一その微細な内容を公表するという性質のものではないが,国会に報告するなどの方法によって差しつかえのない範囲内において公表することとしたいと考えている。

 【質問】

 (4) 核については,米原子力法で「原子兵器の設計,製造または利用」を「機密資料」の第一にあげ,「原子兵器の軍事利用に重要な関係があると決定した機密資料」の最終決定権は大統領にあり,外国にたいする通報権も大統領にあるときめている。したがってニクソン大統領が核の所在を明らかにしないかぎり,日本は核の有無について知ることはできないのではないか。

 右質問する

 【答弁】

 (4) 特定地域における核兵器の存否が米国にとって重要な軍事上の機密事項であり,容易にこれを外部に示しえないことは,想像しうるところであるが,他方,米国政府の責任者の決定に基づき正当な権限を有する官憲が同政府を代表してわが国政府に対し,沖縄からの核兵器の撤去ないし沖縄における核兵器の不存在を確認することを禁ずるような法律上の制約が存在するとは承知していない。

 なお,米原子力法についていえば,同法に定める秘密資料の外国政府への通報の禁止又は制限の規定は,技術情報(核兵器に関しては,その設計,製造,利用方法)に適用されるものと解され,本件のごとく,特定の地域における核兵器の配備の有無に関する情報にまで適用があるとは解しえない。