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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 佐藤・ニクソン会談についての江田社会党書記長見解

[場所] 
[年月日] 1969年12月16日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),905−907頁.「社会新報」,12月21日.
[備考] 
[全文]

 一,まず,背景説明の全体をつうじてジョンソン次官はコミュニケとナショナル・プレスクラブでの佐藤首相の演説とが一体のものであることをくりかえし強調し,まだ演説が行なわれていない時点で演説内容の要所要所を引用しながら,コミュニケの意味を解説している。これは,きわめて異例発表形式{前4文字ママとルビ}といえよう。

 しかも,記者団との問答のなかでジョンソン次官が告白しているように,ニクソン大統領との会談の過程で,佐藤首相の方から「自分はこういうことを演説するつもりだ」と話があり,アメリカ側はそのことを考慮にいれながら,コミュニケの内容に同意したといういきさつがあったことが明らかにされている。

 さらに,佐藤首相は「コミュニケのなかにまぜて説明するよりも,多くの面で効果が高い」とのべたというが,これは国民をごまかすうえで効果が高いというふうに解するほかない。つまり首相の演説が,会談のなかで打ち合わせずみのものであり,日米会談の内容は,単に共同声明だけでなく,ナショナル・プレスクラブでの首相演説がプラスされたものが「本もの」であることが明らかにされたことを注目しなければならない。

 二,また,ジョンソン次官は,いたるところで日本側がつぎの三点をはじめて公式に声明において確認したことをもっとも重要な点として,くりかえし強調している。

 1.極東の平和と安全とくに朝鮮および台湾の名前をあげて,その安全確保が日本の安全に直接関係があること。

 2.日本の安全は,極東全般におけるアメリカの義務遂行の能力に直接関係があること。

 3.問題の事前協議に,日本が緊急事態発生の場合にどのような態度をとるかは,右の二点にもとづく一般的認識を基準にして決定すること−

 以上のことと関連して,ジョンソン次官は,事前協議について米国側は「日本の立場がいかなる場合においてもつねにノーであることを前提としていない」とのべており,さらに日本政府の態度についてジョンソン次官は,佐藤首相および外相が,事前協議では「ノーだけでなく,イエスということがあるのは当然である」ことを公式に発表していることを説明のなかでも確認し,強調している。これはわれわれが指摘してきた極東防衛の完全な肩代りと,事前協議の重大な変更を立証したものである。

 三,佐藤首相はプレス・クラブで,韓国で万一のことがあった場合,事前協議にたいし「前むきに,かつすみやかに態度を決定する」と演説しているが,ジョンソン次官は「肯定的に,かつ敏速に態度を決定する」と佐藤首相が演説するはずだとのべており,日本政府が事前協議で「イエス」とのべる「心証」をはっきり米国側に与えている。また核の持ち込みについてジョンソン次官は,緊急事態の場合,日本政府の同意を得れば「沖縄だけでなく,日本本土南東部の米軍基地に関してもそれが適用される」のであって,これが従来と変わった点であると指摘している。これは「本土への核持ち込み」の意図を明らかにしたものといえよう。

 四,また現在の日米安保条約について両国政府は,はっきりと「無期限延長」にすることをはじめて公式に再確認したことをジョンソン次官は強調している。この点も,日本政府がわれわれにたいして発表したこととまったく異なっている。

 五,沖縄返還予定時に万一ベトナム戦争が終結していない場合,共同声明では,「そのときの情勢に照らして十分協議する」とされているが,ジョンソン次官は,「協議」は沖縄返還に先立って行なわれる協議であって,沖縄を返すかどうかをふくむ協議であることを明らかにしており,沖縄の返還が決して確定したものでないことを明白に示している。

 六,とくに注意すべきことは,日本政府の基本的態度の変化として,ジョンソン次官は,日本が日本だけの防衛でなく,他の地域の防衛についても日本が責任をもつという態度を示していることをあげ「これがこんどの重要な出来事だ」と強調していることである。これは安保の「アジア安保」への変質を日本政府が進んで提起したものである。

 七,ジョンソン次官は,沖縄返還後の米軍の自由行動の余地について,沖縄基地については現在よりも狭くなるかもしれないが,他方,本土の基地については拡大されるのだから,両方を考えあわせるべきだという重大な発言を行なっている。これは,われわれが本土の「沖縄化」といって追及してきた事実を,はっきり裏付けたものにほかならない。

 八,以上の指摘にたいして政府・自民党は,社会党は日本政府の発表を信じないで,米国のいうことを信用していると非難するかもしれないが,問題はだれを信ずるとか,信じないとかの問題ではない。われわれは,入手しうるあらゆる資料を国民の前に洗いざらい提出して,国民とともに誤りのない判断をくだしたい。

1.は本文では黒マル1