データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 返還時におけるアメリカ合衆国の民政の諸権限の日本国への移行を容易にするための合意

[場所] 
[年月日] 1970年11月9日
[出典] 外交青書15号,423−428頁.
[備考] 
[全文]

 民政の諸権限の移行に関する米国提案について,代理会議及び関係小委員会における慎重な検討の結果,準備委員会は次のとおり合意した。

 1. 沖繩におけるアメリカ合衆国(以下米国という)の施政権は,返還の時までそのまま保持されるが,返還時における施政権の移転を円滑にするため,米国政府は,米国民政府の機能の一定のものを復帰以前に琉球政府に委任すること,及び琉球政府がこれらの追加された諸機能を遂行するのを援助するため,同政府の業務に対する日本国政府の職員の参加を増加することに同意する。さらに米国政府は,一定の諸機能の遂行を停止し,日本国政府は,相互に合意された態様でそれらの機能を行なう。また,米国政府及び日本国政府は,日本国政府が米国政府の遂行する一定の諸機能に参加することに合意する。これらの諸機能の遂行に日本国政府職員が参加するに当つての条件,琉球政府に対し諸機能を委任するに当つての条件及び米国政府が遂行を停止する一定の諸機能を日本国政府が行なうに当つての諸条件は,準備委員会において今後項目毎に交渉する。

 日本国政府は,前記諸機能の遂行に際し,返還前の沖繩の諸政策または慣行に重要な変更を必要とする助言と援助を行なう場合は,あらかじめ米国政府と協議しその同意をうる。

 返還の日まで米国政府に特に留保される民政の諸分野に関して,日本国政府が返還時における民政の諸権限の移行を円滑にするため琉球政府に対して助言と援助を行なう必要性のありうることが認められるが,日本国政府が,この分野で行なう助言と援助が返還前の現行の手続き,制度,あるいは業務の変更を伴う可能性がある場合には,米国政府の事前の同意をうることが合意される。

 2. 民政の諸機能の委任及び停止は,下記の段階に従つて行なわれる。

 (1) 第1段階

  現在から日本国及び米国間における返還協定署名の日まで。

 (2) 第2段階

  返還協定署名の日から必要な立法府の支持がえられる日まで。

 (3) 第3段階

  必要な立法府の支持がえられた日から返還の日まで。

 3. 準備委員会における交渉の結果,日本国政府は,前記第1項及び第2項の条件に従い,さらに下記の例外及び条件に従つて,米国政府が遂行を停止する下記リストの第1段階の機能を1970年12月1日より行なう。

 第2段階及び第3段階における,並びに第1段階に追加されうる諸機能の琉球政府への委任または日本国政府の行なう助言と援助の方式及び条件は後日決定される。

 (1) 琉球政府に対する日本国政府援助計画の管理に関する監督

  これには,日本国政府年次援助計画案の日本国政府大蔵省提出に先立つて行なわれる検討,承認の機能は含まれない。

 (2) 琉球政府農林局に対する助言と援助

  これには,返還まで米国政府が引続き行なう次の助言と援助は含まれない。

  (ア) 国連に提出する農業,林業及び漁業に関する年次報告書の作成及び提出についての助言と援助

  (イ) 米国政府琉球財産管理部に琉球政府が提出する林業年報の作成についての助言と援助

 (3) 琉球政府建設局に対する助言と援助

  これには,その資金の全部または一部が米国援助資金によつて支出されている建設プロジェクトについての助言と援助は含まれない。米国政府は,これらのプロジェクトのための支出が完了するまでこの分野における助言と援助を引続き付与する。

 (4) 琉球政府文教局に対する助言と援助

  これには,次のものは含まれない。

  (ア) 現在登録中の全学生が研修課程を終了するまでの米国資金による「琉球人奨学制度」に関する助言と援助

  (イ) 教育の分野における米国資金による建設プロジェクトが終了するまでこれらのプロジェクトに関する助言と援助

  (ウ) 米国資金による米国公法第480号「学校給食計画」が返還時に終了するまでのこの計画に関する助言と援助

 (5) 琉球政府裁判所,法務局及び検察庁に対する助言と援助

  米琉法案審査委員会の機能は,この機能に関する米国の助言と援助の停止によつていかなる制限を受けるものではなく,またこの停止には,琉球列島への出入に関する助言と援助の付与は含まれない。

 (6) 琉球政府総務局に対する助言と援助

  これには,琉球政府の立法案に関して米国政府が総務局に対して付与する助言と援助は含まれない。

 (7) 琉球政府通商産業局に対する助言と援助

  ただし,米国政府は,通商産業局に対して,外国貿易及び外資導入の管理に関する下記の助言と援助を引続き行なう。

  (ア) 外国貿易管理

   米国通貨以外の通貨による国際取引の承認,輸出入を規制するすべての琉球政府の公示の審査及び承認,ダンピング,リベート行為等を禁止するための公正取引に関する監視,米国外国資産管理令の施行及び現行の長期綿製品協定に規定されるごとき綿製品の対米国輸出に関する規制の実施。

  (イ) 外資導入管理

   すべての外資導入申請の承認,免許要件適用除外の可否の決定,免許業者の外国送金の権利の保護。

   米国政府は,通商産業局金融検査庁及び郵政庁に対し,返還まで引続き助言と援助を行なう。米国政府はさらに同局電気通信管理部に対する助言と援助を返還まで継続し,琉球列島内における無線局の免許及び無線周波数の選択と割当の承認または,不承認の決定を行なう。

 (8) 琉球政府厚生局に対する助言と援助

  これには,それぞれ明記された期日まで米国政府が引続き遂行する次の助言と援助の諸機能は含まれない。

  (ア) 現在施行中の事業計画が完了するまで(完了期限は1970暦年末)米国資金による保健所,保健所支所及び公衆衛生看護婦駐在所の建設に関する助言と援助

  (イ) 現在進行中の事業計画が完了するまで(完了期限は1970暦年末)米国資金による綜合病院,診療所及び結核,精神病,らい病の患者収容治療施設の建設及び設備充実に関する助言と援助

  (ウ) 米国の財政的支持が終了するまで,環境衛生事業計画の策定及び施設の整備を含む,米国資金による伝染病防除事業に関する助言と援助

  (エ) 1971会計年度末に完了するまで沖繩中部病院において実施されている米国資金による大学卒業後の医師研修計画に関しての助言と援助

  (オ) 1971会計年度末に完了するまで米国政府の母子家庭に対する現物による食糧援助事業に関しての助言と援助

 さらに,ここにおける機能の停止は,米国政府が返還まで引続き行なう次の助言と援助も含まれない。

  (ア) 国連保健機構が主催する保健職員研修制度及び相談業務についての立案,実施計画及び調整に関する助言と援助

  (イ) 琉球列島における麻薬消費量関係統計資料の収集に関する助言と援助。米国政府は引続き国連麻薬取締委員会に対し,琉球列島における麻薬消費に関する定期報告を提出する。

  (ウ) 琉球政府社会保険庁に係わるすべての事項に関する助言と援助。ただし,日本国政府は米国政府の助言と援助機能の遂行に参加する。

  (エ) 民間団体による琉球政府及び民間の福祉施設に対する金銭及び現物寄付についての必要な調整に関する助言と援助

 (9) 労働計画の管理及び労働組合の育成についての琉球政府に対する助言と援助

  これには,米国軍隊の権益を侵害する労働問題及び労働立法についての助言と援助は含まれない。米国政府は,返還まで引続き琉球政府のこの分野における業務の遂行に関し助言と援助を付与する。

 (10) 経済統計の収集,分析,報告及び予測についての琉球政府に対する助言と援助

  これには,米国政府が返還まで引続き遂行する次の助言と援助は含まれない。

  (ア) 国連に対する報告

   米国政府は,米国民政府が年次毎及び四半期毎に国連に提出するため必要とする統計資料の作成に関し,引続き助言と援助を行なう。

  (イ) 国民所得統計

   米国政府は,米国軍隊の支出に関する資料を提供して,琉球政府による国民所得推定に関し引続き助言と援助を行なう。

  (ウ) 人口動態統計

   米国政府は,米国軍事基地内に居住する非米国軍隊要員に関する資料を提供して,琉球政府による人口動態統計資料の収集に関し引続き助言と援助を行なう。

 (11) 琉球政府刑務所及び少年院に対する助言と援助

  これには,次の助言と援助の機能は含まれない。米国政府は返還まで引続きこれらの機能を遂行する。

  (ア) 琉球列島における刑務所または矯正施設に収容されている米国市民についての琉球政府に対する助言と援助

  (イ) 琉球政府警察本部に対する助言と援助

 (12) 琉球列島における消防関係部門に対する助言と援助

 (13) 米国の所有に属さない航路標識の運営と維持についての琉球政府に対する助言と援助

 (14) 琉球人が所有し,経営する企業に対する助言と援助

  これについては,次の助言と援助の機能は含まれない。米国政府は返還まで引続きこれらの機能を遂行する。

  (ア) 外国資産管理規則,通貨管理関係法令及び公正取引きを含む外国貿易における米国政府の規制措置の適用に関する助言と援助

  (イ) 長期綿製品協定のもとに定められた綿製品輸出制限割当高の適用に関する助言と援助

  (ウ) 琉球人企業が必要とする原材料の米国人供給業者に関する助言と援助

 4. さらに上記第1項及び第2項の規定に従い,日本国政府は米国政府の遂行する次の諸機能に12月1日から参加することに合意された。

 (1) 琉球政府予算編成についての琉球政府に対する助言と援助

 (2) 資金運用部資金の運営についての琉球政府に対する助言と援助

 (3) 租税及び歳入事項についての琉球政府に対する助言と援助

  租税及び歳入事項に関連する次の諸機能は引続き専ら米国民政府によつて遂行される。

  (ア) 琉球政府による租税立法案及び歳入推定額の最終的承認または不承認。

  (イ) 琉球列島における非琉球人及び非琉球人企業に影響のある租税制度の管理。

  (ウ) 琉球政府は,米国財務省外国資産管理規則の実施に引続きあたるが,米国政府は,これらの規則の適用にあたつての最終的決定権は復帰時まで留保する。

 5. 前記の民政諸機能の停止または委任の条件及び方式は,1970年10月1日以後における琉球政府内の機構改革によつて影響されないものと了解される。

 6. 関係政府間の合意に基づき,上記の諸機能以外にもこの予定表に追加される機能がありうることに合意した。

  米国政府代表   日本国政府代表   顧問

                      1970年11月9日