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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米繊維問題に関する官房長官談話

[場所] 
[年月日] 1971年3月8日
[出典] 外交青書15号,416−417頁.
[備考] 
[全文]

 政府は,対米繊維輸出自主規制問題については,自由貿易の維持と日米友好の増進のためこれを早急に解決することが望ましいとの立場から日米間の話合いにより解決策を探究することに懸命に努力してきたところであり,特に昨秋の佐藤総理とニクソン大統領との会談以後,牛場駐米大使とフラニガン大統領補佐官との間で合意を目途として鋭意交渉を行なつてきた。

 他方,わが国の繊維業界において,かねてより業界独自の立場から一方的輸出規制の実施をもふくめ問題解決のための方途が検討されてきたが,最近このような検討が急速に本格化し,その結果,本8日,谷口繊維産業連盟会長はわが国繊維業界として一方的に対米繊維輸出の自主規制を行なう用意ある旨を宣言した。

 政府としてはわが国業界が自主的に輸出規制の実施に踏切つたことを歓迎し,これによりこの困難な問題が円満に解決する見通しが立つたと考える。また,この新たな事態にかんがみ,牛場大使とフラニガン大統領補佐官との間で行なわれてきた日米両政府間の交渉はこれ以上継続する必要がなくなったものと考える。

 わが国としては米国の政府及び国民がわが国業界が種々の困難にもかかわらず大局的観点から少なからざる犠牲を忍んで輸出自主規制を決定した事情を理解し,米側としてもかかる規制措置の円滑な実施に協力し,また,繊維の輸入制限等の貿易制限措置に訴えることのないよう強く要望する。

 同時に,わが国繊維業界の輸出自主規制については,政府としても業界に対し出来る限りの協力を行なうとともに規制の実施にともなう国内業界,特に中小企業への影響を緩和するため所要の対策を講じたいと考えている。

 政府は,また,この問題の解決により日米両国が自由貿易の維持と発展のため相互に協力する基礎が再確認されると考えているが,自由貿易の維持のためには日米両国のみならず世界の主要貿易国の支持が不可欠であるので,これらの諸国の理解と協力をも強く要望する次第である。