[文書名] 沖縄返還問題(吉野・スナイダー会談)
<欄外左上>
極秘無期限10部の内9号{前12文字スタンプ、数字は手書き}
沖縄返還問題
(吉野・スナイダー会談)
昭和46.4.21
アメリカ局北米第一課
21日吉野アメリカ局長は、ワシントン会議出席後帰任の在京米大使館スナイダー公使と本件につき会談し、諸懸案を全般的にレヴューしたところ、要旨次の通り。(井川条約局長同席)
なお、スナイダー公使は、今般の会議により主要な問題点について米側関係者の合意がえられ、詳細な点を除き本21日正式な訓令にも接したところ、今後諸問題につき(イ)SUBSTANCEの詰めと、(ロ)DRAFTINGの作業を並行して行なうこととし、次回愛知大臣・マイヤー大使会議までに合意しうる問題(後述の陸軍情報学校、第三国人訓練問題の取扱い等)については合意に達しおくよう取り進めたい旨述べ、当方これを了承した。
1.外資系企業取扱い問題
(1) 先方より、米側は商務省関係者を含め本件進捗ぶりに総じて満足しているが、(イ)琉球外資法ライセンスのDE FACTO REVALIDATION (現実の業務内容ではなく、未使用の投資枠を含む免許の内容そのものの承認)、(ロ)在沖米企業の本拠を沖縄に限ることはやむをえないとしても本土における活動も承認すること、(ハ)米企業による国県有土地賃貸借の継続の保障、(ニ)自由業者の資格承認、(ホ)大企業取扱方針の確認、(ヘ)日本側トーキング・ペーパー備考欄「II」についての詳細な説明等未解決の問題については、交換公文により合意を図ることとしたく、またかかる一般的アシュアランスによつてカバーされない個々の問題点については、日本政府より各企業に対し個別に回答ありたい旨要請。{前102文字下線あり}
(2) これに対し当方より、(イ)琉球ライセンスのDE FACTO REVALIDATION は技術的にも困難であるが、日本の法令に従い、実質的には上記と同様の取扱いを行なう方針である、(ロ)また交換公文による合意という点については、日本側は愛知大臣発マイヤー大使あての一方的書簡をもつて処理するとの方針で諸般の準備を進めてきている、そもそも日本側がとるべき措置には立法の必要なものも含むので、立法措置にさきがけて交換公文により法的な合意を図ることは絶対にできない旨指摘。先方は書簡の形式については考慮の余地あるも、関係業者は本件の協定化すら望んでいるのであり、彼らが直接議会筋に働きかけるのを思い止まらせる等業者の説得に十分役立つ DEVICE が欲しく、いずれにせよ文書については事前に米側と協議ありたい旨述べた。
(3) 米側より INTERNATIONAL DAIRIES 社の問題に言及、当方より、農林省は従来の立場を譲つて、同社に対し100%外資の場合でも沖縄内に限り業務継続を認める(ただし、本土で営業を望むのであれば50‐50の条件を満す必要あり。)との立場を提示越した旨述べた(ただし、輸入クォーターについては、上記が本土の事業団を通じて割当てられるとの原則はまげられないので、同社の従来の実績は尊重されようが、確定的な保障はできない旨付言。)。
(4) 当方より、海運業につきカポタージュは認められない旨指摘。
2. 航空問題
(1) 先方より、米側はカポタージュ一般の承認方の要請は撤回するが、暫定期間としては7年(ノー・チャージ)を希望、また本土の地点と那覇間のGOVERNMENT CARGO、MILITARY{前1語の3文字目の箇所に1文字抹消しIと訂正あり} CARGO の運送は承認ありたい旨述べた。
(2) 当方より、部内協議の上話合いを開始すべきも、最終的合意は交渉全般との関連で行なわれるべき旨指摘。
3. VOA問題
(1) {1字抹消あり}先方より、米側は在沖縄VOAの無期限存続を望むものではあるが、日本側から「暫定継続」の具体案につき提示があれば、米側が移転費用並びに移転先での施設建設費用等を一切負担せずとの条件で、移転につき話合いに応ずる用意がある、ただし、(イ)移転先の問題については、VOA{1字抹消あり}が沖縄を追{1字抹消あり}い出され、他に移転先{2字抹消あり}を求めているといつた形{1字抹消あり}が表に出ると、いずれかの国に BARGAINIG POSITION を与えることとなるのでこれは避けたく、また(ロ)沖縄VOAが契機となつてフィリピン、台湾等極東地域全体にわたり、追い出しの圧力が強まるがごときことのないよう慎重を期する要ありと述べた。
(2) 当方より、新たな施設の建設費までをも日本が負担するのは法的に説明が困難であり、VOAの暫定期間内存続の点と併せ、国会の承認取付けはまず不可能なる旨説明。先方は、いずれにせよ、日本側の具体的提案をまつて細部についても協議したい旨述べた。
4. 施設・区域
先方より、総合参謀本部、CINCPAC の関係者とも話合つた結果なりとして、次の趣旨を述べた。
(1) 那覇軍港
同程度の港を他に建設するには50‐70百万ドルの費用を要し、上記は日本両国の負担限度をはるかに上回るものと思われる。また沖縄の兵站地域としての役割増大に伴い STORAGE の増加も必要となつているので、軍港部分の必要性は非常に高い。
(2) 那覇空港
P3の諸手続き及び普天間への移駐は考えたが、(イ)沖縄のP‐3は在日本、フィリピン間のASWのギャップを埋める対潜哨戒上の要衝{1字抹消あり}となつているので、本土移駐は無理であり、(ロ)嘉手納については、向う2年間、空軍は費用切詰のため台湾等の基地を縮小して嘉手納に統合を行なう方針であり、使用増大が見込まれるほか、必要施設(駐機場、エプロン、ハンガー、特殊機器機内施設)の建設(宿舎は別{2字抹消あり})に18百万ドルを要する、また{1字抹消あり}(ハ)普天間については、移転費用は16百万ドルであるが、滑走路、気象、地理条件等嘉手納に比して遜色がある等問題がある、むしろP3移駐については、復帰後合同委の枠内の問題として処遇することが、費用の面等からも得策ではないか。
(当方より、移転費用を日本側が負担する場合でもP3移駐は困難なりやと質したに対し、スナイダーは、それが自分の印象である旨回答。)
以上のほか米側より、仮に那覇空港を全面返還の場合でも、緊急の場合必要に応じての同空港使用の保障を{1字抹消あり}えたいと述べた。
(3) 与儀ガソリン・タンク
復帰日に返還の見込。
(4) マチナト住宅区域
同程度の住宅区域が米側が一切費用を負担せざる条件で他に建設されうる場合返還の用意あり。(当方よりの質問に対し200の枠外なりと回答。)
(5) その他の施設・区域
来週早々具体的に提示しうると思うが、米側は相当多額の施設・区域(一次使用演習地等を含む)の返還、面積削減を考慮している。
5.資産引継問題
明22日以降予定の資産引継交渉の席上米側より説明する由。
6.協定条文
スナイダーより、CONFIRMATIONを要するものもあるがと前置きの上次の趣旨を説明。
(1)前文
日本側案にて合意。
(2)第1条(返還領域)
合意議事録において適用範囲を経緯度で示すことをとしたく、その文言はあらためてことを提案する。(当方、これをただちに受諾するわけにゆかざる旨述べた。)
(3)第2条(条約の適用)
日本側案にて合意。
(4)第3条(施設・区域)
合同委における提供手続の遅延に備えなんらかのセーフガード条項が必要なりとの米側の立場は変らない。
(当方より、かかるセーフガード条項は不要であり、小笠原方式は採用しえないとの日本側立場は変らない旨再説。)
(5)第4条(請求権)
日本側が現地からの請求を合理的な範囲に整理されたことを高く評価するが、講和前補償等についても、政府は議会に対し将来追加支出はなかるべき旨コミットしおり、(なお、講和前補償費に関する米側合同委を通じ、琉球も上記コミットメントに参画しおる由付言。)、日本側請求権の支払いは遺憾ながら困難である。 EXPLORE すべき道としては面積157エーカー、価額約16百万ドルに及ぶ埋立地を日本が引継ぎ、海没地の復元補償等の支払いに充当する方策が考えられる(米側が上記埋立地を復帰前に売却することはしないと付言した。)。
(6)第5条(裁判引継ぎ)
日本側{1字抹消あり}努力を評価しており、最終的訓令には接していないが、日本側案を受諾しうるものと思う。
7. 労務、航空管理問題等
(1)スナイダーより、8日STG会合に際し、米側より提出せる労務問題米側合意案中ブランクになつている「退職金」の項については、明22日以降の資産引継交渉の際一案を提示すべき旨説明。
(2)わが方より、電気通信関係のものについては、次米側関係者に指摘したとおり、地位協定及び合意書以上の表現には出られない旨指摘。
8. 在沖米軍部隊
(1)当方より、最近国会等において、第7心理作戦部隊、第1特殊部隊群(グリーン・ペレー)、太平洋陸軍情報学校、SR71型機、陸軍混成サーヴィス部隊(USACSG)等のいわゆる特殊部隊が論議の中心となつており、愛知大臣等より専ら抽象的なラインで答弁を行なつてきたところ、諸般の事情からして、各部隊の実体につき差支えない範囲で説明を行なわざるをえない状況になつているので、必要資料の提供等配慮ありたい旨要請。
(2)さらに当方より、(イ)陸軍情報学校のごとく第三国の軍人に情報教育を行なうもの、及び一般に第三国人の訓練は安保条約の目的上も復帰後はこれを許容しえず(先方は、その点は日本側の意に沿うべく十分考慮しおる旨回答)、(ロ)SR71については、たとえば「同機の任務は合法的な偵察、気象観測等に限られ、領海、領空侵犯は一切行なつていない」との趣旨の米側文書(たとえば、U‐2機に関する1960年5月11日付大使書簡のごときもの。)をえたい旨要望(先方考慮方約す。)、また(ハ)第7心理作戦部隊のごとく本国のサイミントン小委の報告書ですら問題視されているものについては、国会審議に際しこれをDEFENDするのが困難なる旨指摘(先方は、サイミントンは米国政府の意見を代表するものではない、本部隊の任務は兵站、支援関係であつて、COMBAT OPERATIONを行なうわけではなく、かつ、日本にも分遣隊を有しており、安保条約の目的に反するものとは認められない。日本側がかかる部隊の撤去を要求するのであれば、佐藤・ニクソン共同声明中の韓国の安全云々にもかかわり、本国で問題となるべく返還交渉自体を撤回せざるをえなくなる、従つて本件は本国に報告しないと述べた。)。(ニ)米陸軍編成グループについても説明が必要と要望(先方は「LOGISTIC」活動なり」とのみコメント。)。
9. その他
防衛交渉(近々カーチス中将より施設庁に対しアプローチがある予定の由)、琉球赤字問題(米側は処理する意向なしと述べた。)等についても言及。
10. プレス対策
協議の結果、「本日は全般的に話合いをレビューし、協議を行なつたが、個々の問題については申し上げられない」との趣旨をもつて応答しおくこととし、また愛知大臣・マイヤー大使会談につき質問ありたる場合は、近日中に開催の予定とのみ回答。(後刻アメリカ局長より記者団ブリーフずみ。)
{刻の字の下から左下へ向かって斜線あり}