データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 沖縄返還問題(吉野、井川、スナイダー会談概要)

[場所] 
[年月日] 1971年6月5日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査報告対象文書(4.1972年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」問題関連),文書4-6
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査報告の際に公開された文書。公開されたものはタイプによる文書。漢字、送りがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は本文前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外右上>

極秘 無期限 10部の内 10号{前13文字スタンプ}

沖縄返還問題

(吉野、井川・スナイダー会談概要)

昭和46.6.5

アメリカ局北米第一課

6月5日朝行なわれた会談概要次のとおり。

(当方:吉野アメリカ局長、井川条約局長、橘参事官、千葉北米第一課長、宮川安保課長、中島条約課長

先方:シャーマン参事官、シュミッツ法務官ほか同席)

(※5日OECDあて電報せる事項)

1.FEBCその他電波関係※

(1)わが方より、愛知大臣、井川大臣と再度協議した結果であるとして、2周波(1波は日本語放送、1波は英語放送)を認めるが、英語放送用周波数については暫定的に3年間に限り認可し、さらに更新の申請があれば、日本語の方は更新を許可し、英語の方は2年間につきSYMPATHETIC CONSIDERATIONを払う(実際には認める)との案を提示した。これに対し米側より、英語用周波数が暫定的に認められるにすぎない点について本国政府がいかなる反応を示すか不明なるも、上記案にて請訓してみると述べた。しかしながら、同席の藤木電波監理局長より、実際問題として3年後の審査は委員会により行なわれることとなり、政府はこれをコントロールできない状況にあるので、むしろ現行法を本件のために改訂するより有効な手がなく、従つて英語放送については5年間暫定的に認めるという特別措置法を制定する以外に道がない。この特別措置法の立案趣旨を法制局その他に説明するための便宜として、日米間で文書により5年の期間を明らかにする必要があると述べた。よつて目下懸案になつている愛知大臣・マイヤー大使書簡において、(イ)FEBCは日本語放送のため引き続き1波を保有する、(ロ)そのほかに英語放送のため5年間に限りもう1波を与えられるという趣旨を謳う必要があるということで、日米双方合意し、その文案についてさらにつめることとなつた。

(2)軍用補助アマチュアー無線については、本土における終戦後の例にならい、返還後2年間基地外の操作も許可することに合意した。

(3)米軍●{前1文字解読不能}沖縄において最近新設したラジオ放送第2波については、わが方がこの廃止を求めたところ、先方はもう一度再考するよう関係方面を説得する旨応答した。

2.防衛に関する取決め※

(1)スナイダー公使より、29日に安保協議委を開催するということで、本件取決めを上院議員等にSELLできると思うが、そのためには新聞発表等のアナウンスメントのみならず、なんらかのフォーマリティー、たとえば愛知外務大臣、マイヤー大使間の書簡交換が必要であり、文言としては"S.C.C.APPROVED THE ARRANGEMENTS CONCERNING THE TRANSFER OF DEFENSE RESPONSIBILITIES AS EMBODIED IN KUBO‐CURTIS AGREEMENT"といつた表現が考えられると述べた。

(2)これに対しわが方より、安保協議委においては本件取決めを承認(または採択)する(取決めの内容は公表される)のであり、米側の要求するような大臣・大使レベルの署名は必要なかるべし、しかし米側がフォーマリティーを強く望むのであれば、「6月29日の安保協議委は日米両国防衛当事者間の討議の結果を承認(または採択)する。」との趣旨を取決めの前文として付け加え、そのAUTHORITYの下に久保防衛局長、カーチス中将がサインを了するという手続で十分である旨述べた。結局今後上記両案につき事務レベルで至急検討を進めることとなつた。

3.航空

 スナイダー公使より、本国の訓令接到、コンチネンタルに関するCAB決定が遅れている(ただし、署名に間に{前1文字挿入(手書き)}合うと思う)ので表現振りに問題あり、追つて事務当局同志に協議せしめたし、と述べた。

(注:後刻ランデ参事官より北米一課担当官に対し、上記訓令は大使館としても不適当と思い、目下本国に強く押し返している旨連絡があつた。)

4.国連軍施設・区域

 スナイダー公使より、在沖米軍施設の若干(4)を復帰後国連軍協定により、国連軍施設としてDESIGNATEしうるとの点を確認したしと述べた。当方より、まず米軍施設・区域が確定することが先決であり、従つて(イ)返還協定署名後に、(ロ)使用の具体的目的につき説明を受ける等協議を行なつた上、(ハ)復帰日以降国連軍協定合同委でFORMALIZEすべきものである旨指摘。先方は従来本土において行なつてきたと同様にして処理することとしたしと述べ、本件については今後引続き検討することとした。

5.外資系企業

 スナイダー公使より、若干の問題につき追つて事務当局同志で協議せしめたしと述べた。

(注:後刻ダットン書記官より、保険代理店セーガー及びヘンドリックス弁護士の取扱いについて要望あり、当方より、セーガーの件については米局長より大蔵省保険部長に検討方申入れずみ、弁護士については、法務省としてはヘンドリックスが継続して弁護士業務に従事していることを自ら証明すれば、問題は解決するとの立場であると述べおいた。

6.UNITED SEAMANS SERVICE CENTER (USS)

 スナイダー公使は米本国からUSSをリストAに"NON‐APPROPRIATED FUND ACTIVITIES"を行なう米軍機関(すなわち、地位協定/5条機関)への改組を条件とする旨のANNOTATIONを付して、記載すべしとの強い訓令に接している(米側は本団体をニューヨークのUSS(親たる公益法人)から切離し、利用者も地位協定の規定に適合するようにしぼるとの意向)として配慮方要請。当方より、現在軍関係の機関でないものを施設・区域のリストAに記載することは困難であるが、米側のたつての望みであれば、「復帰日前までに地位協定の定める要件を充足する機関となるよう必要な改組を行なうことを条件として、Aリストへの記載を認める。」旨をトーキング・ペーパー等で確認する、あるいはAリストに同趣旨のREMARKSを付することが必要なる旨述べた。

7.バックナー記念碑

 当方の質問に対し、スナイダー公使より、昨日の事務レベル連絡をもつて日本側から承ることはすべて終り、自分の方からも在沖米側に対し、日本側の手配完了までKEEP QUIETするよう要請した、と述べた。

8.P−3※

 スナイダー公使より、昨日条約局長より移転費の早期支出についてのお話は早速ワシントンに電話しておいたが、この問題はなんとかなると思う。ただし、台風等予見しえざる事由で工事が間に{前1文字挿入(手書き)}合わなくなつた場合は、暫定的に那覇空港をAリストに移すこととしたく、この点たとえば書簡の交換(非公表)等なんらかのCAVEATが必要である、と述べた。当方より、米海軍当局が工事促進に協力してもらえるか否かにもよることであると指摘したところ、先方は技術的に工事計画明細を早期に確定することは困難であり、かつ、復帰の日も決つたわけではないからとして、上記のごとき文書を是非必要とする旨述べ、結局文言につき双方でさらに検討することとした。

9.請求権※

 わが方より、日本側は外務、大蔵両省とも非常に立場がはつきりしている旨述べたところ、スナイダー公使は、本国において種々努力中であり、愛知大臣・ロジャーズ長官会談以前に国務長官に結果を報告する手筈となつている。なお、国務省の法律専門家は、財源について議会のAPPROPRIATIONの過程を避けることを可能とする新方式を発見した模様であると述べた。

10.FBIS

 吉野局長より、FBISについては復帰までに軍の運営にかかるものとなつていることが必要なる旨指摘、スナイダー公使は、目下必要なペーパーワークを行ないおり、近く完了の予定であるが、北海道千歳のFBISと同様のものとすれば、問題なかるべし(その場合、現行の在沖米軍基地の表示もそれに合せて変更する。)と述べた。

11.合同委員会で決定さるべき事項

 当方質問に答えスナイダー公使より、協定署名後できる限り早い時期に協議、確定したいと述べた。

12.与儀POLタンクの返還

 スナイダー公使より、本件につきまだ本国より最終訓令がきていないが、ESSOの新施設工事完了の上与儀を返還する予定のところ、ESSOの工事が復帰日までに完成しない場合は、これをカバーするなんらかの文言が必要であろう、と述べた。アメリカ局長より、与儀は数少ない目玉商品の1つであり、わが方がこれが復帰時において返還されることを強く望んでいる点を米側として常にKEEP IN MINDしてほしいと強調した。

{本文中の数字は手書きによる}