データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第8回日米貿易経済合同委員会共同声明

[場所] 
[年月日] 1971年9月10日
[出典] 外交青書16号,449−454頁.
[備考] 仮訳
[全文]

 第8回日米貿易経済合同委員会はワシントンにおいて1971年9月9日及び10日ウイリアム・P・ロジャーズ国務長官の議長のもとに開催された。

 1.率直かつ友好的な話し合いによつてしるされた会合において委員会は日米関係の主要な側面について検討した。委員会は日米関係が引続き相互信頼と友好という強固な基礎に基づいているとの結論に達した。委員会は世界の平和と繁栄に緊要なこの関係を強化するために共同で,また個別に努力する意図を再確認した。

 この関連において委員会は両国間の意思の交流を教育,科学及び文化的交流を一層拡大することによつて促進するとの提案を歓迎した。

 委員会は天皇,皇后両陛下が御訪欧の途上アラスカ州のアンカレッジを来たる1971年9月26日に御訪問されることを歓迎し,同地におけるニクソン大統領夫妻との会見が両国民の親善と友好のために更に寄与するものであることに合意した。

 委員会は沖縄返還の歴史的意義を再確認し,必要な立法府の支持を早期に得るとの両国政府の決意を表明した。

 委員会はインドシナ地域における戦闘行為の水準の低下が恒久的平和への真の動きを意味しているとの信念を表明した。委員会は同地域の経済的復興には幅広い国際的努力が必要であるとの希望を表明した。

 アジアの安定と繁栄が世界全体の平和と繁栄に重要な関連を持つことを認識して,委員会は来たるべきニクソン大統領の中華人民共和国訪問を歓迎し,この訪問がアジアにおける緊張の緩和に寄与することになるとの希望を表明した。

 2.委員会は米国及び日本の経済状況及び財政・金融政策につき検討した。米国側代表団は,インフレを抑制しつつ経済を刺激するために新経済政策のもとにとられた諸措置について説明した。日本側代表団は,健全かつ安定した米国経済は世界経済にとつて本質的である点にかんがみかかる努力が成功するようにとの希望を表明した。

 米国側代表団は国内のインフレを抑制するとの米国政府の決意を強調し,かつ8月15日に大統領によつて始められた新経済政策が広範囲に及ぶ性格のものであること,特に90日間の賃金,物価及び家賃の凍結,及びある種の計画に対する国内支出の削減及び経済を刺戟し米国の対外貿易関係における不衡正を除去する目的をもつて提案されている法案について説明した。

 日本側代表団は日本経済の最近の経済の停滞からの回復促進のためにとつている財政,金融措置につき説明した。

 米国側代表団はまた円をフロートさせるとの日本政府の決定に留意し,円を含む各国の為替レートの根本的調整が世界の貿易及び通貨の持続性の均衡樹立のための前提条件であると述べた。両国代表団は国際通貨体制の改革につき意見交換を行なうことに同意した。

 日本側代表団は米国の輸入課徴金が日本経済に深刻な影響を及ぼしたことを強調し,日本が変動為替相場に移行したことにより情勢が変つたとして輸入課徴金ができる限り早く撤廃されるよう要求した。

 日本側代表団は,もしも課徴金賦課が長期化する場合には,全世界的に保護主義を助長し,戦後における世界経済の拡大にとり決定的に重要であつた自由貿易体制を脅かすであろうと強調した。

 米国側代表団は課徴金が暫定的かつ無差別に適用される措置であることを再確認した。委員会はこの問題について2国間及び,多数国間で引き続き協議を行なうことに合意した。

 委員会はまた世界経済情勢の変化及び日米双方が多角的な枠内で両国経済関係の均衡回復に努力することの緊要性につき留意した。

 日本側代表団は,対外経済政策に関する8項目計画に関し,米国の新経済政策によつて生ずる情勢の変化の結果,その具体的措置については多少の調整が必要となる旨述べた。しかしながら日本側は同計画を引き続き実施するとのかたい決意である旨つけ加えた。

 両国代表団は,1970年に100億ドルを超え,歴史上,2国間の海を越えた貿易としては最大の量となつている日米貿易の強さ及びダイナミックな成長につき留意した。しかしながら,貿易収支における重大な不均衡の存在を認識し,委員会は双方が両国貿易関係の健全な拡大を促進する措置をとるべきことに合意した。

 日本側代表団は,日米間の貿易収支の変動は,主として両国における景気状況の差異に基づくものである旨日本経済が回復することに伴い,米国の対日輸出も増大することが十分期待しうる旨述べた。日本側代表団は,また,2国間の貿易収支問題は多角的な国際収支の背景のもとに考慮されるべきである旨述べた。

 米国側代表団は,日本の貿易及び資本に対する規制について引き続き深い関心を示し,日米経済関係において完全な相互主義を達成することの重要性を強調した。

 米国側代表団は,上記の点は,日本が残余の輸入数量制限及びその他の輸入規制のほか,非関税障壁及び輸出奨励措置をも可及的速やかに撤廃することを要するものであるとの立場を強く主張した。

 米国側代表団は,また,日本政府の資本自由化計画は,第4次資本自由化は完了したとはいえ,依然として米国の投資家に対し,日本の投資家が米国において与えられている権利と同等の権利を認めるものではないことに留意した。

 米国側代表団は過度に急速な輸出の拡大は時にして重大な攪乱及び政治問題を起し得るものであることに留意し,貿易の秩序ある展開の必要性を指摘した。

 日本側代表団は,8項目計画の枠内において,現在60品目の残存輸入制限は今月末までに40品目に削減される旨,さらに1972年の前半におけるいくつかの品目の自由化が積極的に検討されている旨述べた。日本側代表団は,対日投資を加速度的に自由化している旨を述べ,また,ケネディ・ラウンドに基づく関税譲許のくり上げ実施を行なつた旨指摘した。日本側代表団はさらに,日本政府としては所要手続きを条件として大豆を含むかなりの品目につき,関税の引き下げを行なう意図を有している旨述べた。

 日本側代表団は,米国における保護主義的見解の抬頭に強い懸念を表明した。また,同代表団は,米国政府が既存の貿易障壁の一層の軽減につき今後とも最善の努力を払うよう希望を表明した。日本側代表団は,また,米国がアンチダンピング法規及びその他の制度を貿易制限的に運用しないよう要請した。

 この関連において,委員会は,OECD,ガット及びUNCTAD等の国際的な場における貿易問題に関する話合いにおいて,両国政府は今後とも緊密に協力すべき旨述べた。委員会は,両国政府は,OECDハイレベル・グループ及びガットの枠内において,貿易障壁撤廃の主要な多角的解決の準備のための作業を行なう意図を有することに留意した。

 委員会は,国際投資紛争を裁定するための手続の発展を促進する方途を探究することにつき合意し,また発展途上国及び先進国の幅広い支持を得た国際的な投資保証計画を設定することが望ましい旨合意した。

 委員会は,発展途上国における合弁事業は,かかる諸国に対する投資の増大に役立ちうるとの見解を表明した。

 原子力エネルギーの分野においては,米国代表団側は,日本の原子力発電計画に要する濃縮ウラン燃料を今後とも供給する意図を表明した。

 米国側代表団は,また,米国政府は多角的なベースにおいてガス拡散方式によるウランの濃縮に関する特定の米国技術を販売することの可能性を日本及びその他の諸国と探求する意図を有する旨再確認した。

 委員会は,航空問題,海運及び旅行に関する最近の発展につき見直しを行ない,これらの問題について今後とも協議することに合意した。

 3.アジア諸国の経済開発及び社会開発を促進する問題について,委員会は,同地域内の諸国における着実な経済発展を歓迎し,このような開発を加速度的に進めるためには引続き外国からの援助が必要であることに留意した。

 日本側代表団はOECDの開発援助委員会によつて勧告されたとおり,開発途上国に対する援助の量を増大し,かつその質を改善することの重要性を強調した。米国側代表団は,米国が平和と安全保障のために肝要であると引続き考えている経済開発目標を達成するための,アジア諸国に対する援助計画を引続き実施するとの米国政府の決意を表明した。

 両国代表団は,アジア諸国間の地域協力が,東南アジア開発閣僚会議,及び,ASPAC,およびASEAN等の場において強力に進められてきたことに満足の意を表した。委員会は,世銀借款国及び協議グループがアジアの開発を刺激するにあたつて示した有効性を歓迎した。委員会は,また,アジア開発銀行がアジア地域の開発促進にあたつて重要な役割を果したことに留意し,その役割が更に強化されるべきであると合意した。

 日本側代表団は,OECDの開発援助委員会によつて作成中の援助アンタイング計画作成の完了を促進するという両国政府の政策を再確認した。米国側代表団は,将来,国際収支状況が改善されたあかつきにはアンタイングを更に進めることが可能となろうとの希望を表明した。

 委員会は,日本が1971年8月1日をもつて発展途上国に対する特恵関税制度を実施に移したことを歓迎した。

 4.委員会は,相互理解促進の手段として文化交流を増大することが極めて重要であることを再確認した。委員会は,両国における文化活動を促進することを,特に芸術家,科学者,学者の人的交流を増大することの必要性を確認した。

 両国代表団は,自然科学及び社会科学の分野における共同研究を拡大することの必要性に留意した。両国代表団は,米国における日本研究及び日本における米国研究を促進することの必要性についても合意した。

 委員会は,米国及び日本の専門家による職業共同研究の進展に満足の意を表するとともに,勤労者の職業安全及び衛生問題の検討の重要性を考慮し,本問題についても共同研究を行なうことに合意した。後者の研究の詳細は後日更につめられることとなつた。委員会は,国際貿易の雇用の関係を反映する前向きの雇用政策の必要性を強調した。

 委員会は,運輸問題調査の分野における共同研究が進展したことに留意した。実験安全自動車の開発のための多国間の努力において日米両国が協力すること,及び,超高速地上運輸システム,新都市交通システム,及び運輸機関の環境に与える影響を軽減する手段の如き諸分野における日米合同運輸研究パネルの活動に注意が払われた。更に委員会は航空安全の分野における協力について合意した。第一段階として自動レーダー管制装置の如き航空保安施設のための器材を米国から購入することの可能性を調査すること及び日本の航空管制官が米国で高度の訓練を受けることが合意された。

 委員会は,閣僚レベルで行なわれている環境問題に関する二国間協議に満足の意を表し,生態学的諸問題の解決のための科学的及びその他の協力を一層密接にしたいとの希望を表明した。委員会は,無公害車生産技術の開発に協力を図ることに合意した。委員会は,国際貿易における競争をゆがめることを回避するための環境基準と所要費用の分担についての一般的ガイドラインを作成しているOECD環境委員会において両国が協力していることに留意した。

 委員会は,天然資源の開発と利用の面における日米間の協力に関する年次経過報告書を採択した。委員会は,情報の交換ならびに,幾多の分野にわたる分科会の討議が活発に進められてきたことに満足した。委員会は,本協力計画が技術進歩に多大の貢献を行なつているとの報告書の結論を支持し,同分野における一層の協力を期待した。

 委員会は,米国において日米経済関係諮問委員会が,また,日本において日米経済協議会が最近発足したことを歓迎し,これらの新団体が,両国が関心を有する経済及び金融上の諸問題に関し,各々の政府に対し勧告することにより,有益な役割を演じるであろうとの信念を表明した。

 5.米国側代表は次のとおりであつた。

 ウイリアム・P・ロジャーズ国務長官,ジョン・B・コナリー財務長官,R・C・B・モートン内務長官,クリフォード・M・ハーディン農務長官,モーリス・H・スタンズ商務長官,ジェイムズ・D・ホジソン労働長官,ジョン・A・ヴォルピー運輸長官,ポール・W・マクラッケン経済諮問委員会委員長。

 ラッセル・E・トレイン環境問題諮問委員長,カール・J・ギルバート特別通商代表。アーミン・H・マイヤー駐日米国大使及び関係各省の補佐官が同席した。

 日本側代表は次のとおりであつた。

 福田赳夫外務大臣,水田三喜男大蔵大臣,赤城宗徳農林大臣,田中角栄通商産業大臣,丹羽喬四郎運輸大臣,原健三郎労働大臣及び木村俊夫国務大臣・経済企画庁長官。

 牛場信彦駐米国日本大使及び関係省庁の補佐官が同席した。

 6.委員会は,この会議で討議された諸問題の検討を続けるため及び両立し得る経済政策樹立の方向に向つて両国政府がとつて来た措置を評価するため,明年早々閣僚より下のレヴェルの協議が開催されるべきことにつき同意した。

 委員会は,また,委員会の次回会議が外交経路で決定されるべき相互に都合の良い時期に東京において開催することに意見の一致をみた。