データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米通商協議に関する共同発表および往復書簡

[場所] 
[年月日] 1972年2月10日
[出典] 外交青書16号,463−468頁.
[備考] 
[全文]

1.国際経済関係に関する共同発表(仮訳)

 日米両国は,本日次の宣言を行ない,その宣言をガット事務局長に対し締約国団への伝達のため通報することに合意した。他の締約国が,それぞれ適当と考える範囲内で,また,適当と考える時期に,この宣言に参加することを歓迎する。

 日米両国は,近年生じた構造的変化に照らし,国際経済関係の改善について交渉するため,その包括的な検討を行なうことの必要性を認める。その検討は,特に,貿易のすべての要素(農産物,原材料及び工業品の貿易を妨げ又はゆがめる措置を含む。)を対象とするものでなければならない。開発途上にある国の諸問題に対しては,特別の注意が払われなければならない。

 日米両国は,貿易問題でその除去が現在の貿易上のゆがみを軽減するであろうものを解決するため,ガットにおいてあらゆる機会を利用するよう努力し,また,現在ガットの工業品貿易委員会及び農業委員会で討議されている諸問題について一層の前進が図られるように努力する。日米両国は,1972年にガットにおいていくつかの問題の解決に前進が図られることが,より長期的な貿易問題を取り扱うことを目的とした大きな動きを新たにガットにおいて開始するための道を容易にするものであることに合意する。このため,日米両国は,世界貿易のすべての要素に影響を及ぼす長期的な諸問題に関する多角的交渉のための種々の技術及び方法を1972年にガットにおいて分析し,かつ,評価することについても合意する。

 日米両国は,世界貿易の拡大及び自由化,通商関係を律するための国際的な枠組の改善及び世界の人々の生活水準の改善を目的として,1973年にガットの枠内において多角的かつ包括的な交渉を開始し,かつ,これを積極的に支持すること(ただし,必要な国内的授権を条件とする。)を約束する。これらの多角的交渉は,全般的な相互主義に従つて相互の利益及び相互の約束を基礎として行なうものとし,工業品貿易及び農産物貿易を対象とする。これらの交渉は,できる限り多くの国の積極的参加を伴うものでなければならない。

2.日米通商協議に関する日本側書簡仮訳

 拝啓

 昨年12月のホノルルにおける日米会議以降,短期通商問題に関し,日米両国間で話合いが続けられて来ました。これらの話合いの終結にあたり,日本国政府が1971年9月1日以降既に実施し,あるいは近く実施の意図を有する関税引下げ及び輸入自由化を含む貿易及び資本に関する主要措置は,別添文書に述べる通りであることを通報します。

 これらの措置は,物及び資本の自由な国際取引を促進するため,1971年6月,日本国政府が採用した総合的対外経済政策である8項目計画の一環としてとられているものであることを付言します。             敬具

         総合的対外経済政策計画の進展状況

                       1972年2月9日

 日本国政府は,総合的対外経済政策計画に基づき,物及び資本の自由な国際取引を促進するため次の措置をすでに実施し,あるいは実施する予定である。

 1. 輸入自由化の推進(割当の撤廃)

 日本国政府は輸入自由化を強力に推進してきた(付表A参照)。

 (a) 1971年10月1日には,20品目(ブラッセル関税分類4桁)につき輸入割当が撤廃され,さらに5品目につき輸入割当が部分的に撤廃された。

 これらの品目には,※生きている牛,※生きている豚,※豚肉,マッシュ・ポテト,スィートコーン罐詰,チョコレート菓子,ディジタル・アナログ変換器,計数型電子計算機用切換え式制御装置等の米国関心品目が含まれている(付表B参照)。

 (b) 1972年2月1日には軽飛行機,航空機用のレーダー及び航行機器,計数型電子計算機の周辺装置(記憶機及び端末装置を除く)について輸入割当が撤廃された(付表C参照)。

 (c) さらに日本国政府は1972年4月1日に,トマト・ピューレー及びトマト・ペースト,※ハム及びベーコン,※精製糖,※配合飼料,※硫黄,軽油及び※重油について輸入割当を撤廃する意図を有する。

 ※関税の手直しを伴なう。

 2. 輸入割当枠の拡大

 可能な限り輸入割当枠を拡大することが日本国政府の一般的な政策であり,1972会計年度においては,生鮮オレンジ,果汁及び高級牛肉について輸入割当枠(全地域向)が拡大されることとなろう。

 3. 関税の引下げ及び撤廃

 国会の承認を条件として,238税目につき大規模な一方的関税引下げが1972年4月1日に実施されよう。この関税引下げは1971年4月1日に実施された124税目についての一方的関税引下げに追加して行なわれるものである。

 提案されている関税引下げの対象品目には大豆,牛脂,サフラワーの種,大豆油かす(これら税目について提案されている関税率はゼロである),七面鳥(生きているものを除く),植物性油脂,エックス線用乾板及びフィルム,カラープレート及びフィルム,エアーコンデイショナー,工作機械,冷蔵庫,真空掃除機,乗用自動車,電気カミソリ,計数型電子計算機及び若干の同周辺装置,写真機,映写機及び腕時計のごとき品目が含まれている。これらの品目のうちのあるもの,たとえば乗用自動車,冷蔵庫,カラープレート及びカラーフィルムのごとき品目の関税は僅か1年の期間をおいて再度一方的に引下げられる点につき留意されるべきである。

 さらに,1972会計年度には肥育素牛につき生産者団体に対する無税関税割当(全地域向)が設定されることとなろう(付表D参照)。

 4. 資本自由化の促進

 最近の日米両国間の話合いの過程において次の説明が行なわれた。

 (a) 電子計算機関連産業

 電子計算機(周辺機器,端末装置,部品及び付属品を含む)又は電子計算機制御自動機構の製造,販売又は賃貸業は1974年8月をもつて外資比率50%までの自由化業種となる。

 (b) 販売,サービス及び流通業

 日本国政府は,原則として,輸入及び卸売活動(卸売及び小売への販売業)に従事する外資比率100%の販売子会社の設立を認可するであろう。但し,電子計算機及び同関連活動並びに石油販売業についてはこの限りではない。

 (c) 外国支店による送金

 日本において輸入及び卸売活動に従事する外国企業の支店の資金受領及び送金については上記(b)と同様の例外を除いて原則として自動的に許可するであろう。

 注:上記(b)及び(c)に関しては,例えばフィルム裁断(バルク加工),化粧品の混成(ブレンド)及び混合は卸売活動とはみなされず,製造業とみなされる。

 5. その他の措置

 (1) 自動輸入割当品目の撤廃

 自動輸入割当制度下の品目の数は,1971年中における急激な削減ののち,1972年2月1日をもつてゼロとなつた。(次表参照)

            自動輸入割当制度対象品目数

   1971年1月       73

    〃   6月       47

    〃   7月       37

    〃  10月       11

   1972年2月        0

 (2) 乗用自動車に対する物品税の引下げ

 国会の承認を条件とし,かつ右承認後直ちに,物品税法に対する特別措置として20%の物品税が大型及び中型乗用自動車(現在はそれぞれ40%及び30%)に適用される。

            現行税率  提案税率

   大型乗用自動車   40%   20%

   中型 〃      30%   20%

   小型 〃      15%   15%

 (3) 標準決済方法

 日本国政府は現在のところ現行法令(標準決済方法)を変更しえないが,委託販売または前払い契約に係る個々の輸入申請については,ケース・バイ・ケースにより好意的考慮を払う用意がある。

3.日米通商協議に関する米側書簡仮訳

 拝啓

 この書簡は日本国が合衆国によつてとられることを提案した貿易面における諸措置に関する合衆国政府と日本国政府との間の最近の話合いの内容を記録したものであります。

 1. 改正1930年関税法第402a条(「ファイナル・リスト」)

 ファイナル・リストを撤廃すべしとの日本国の要請に応じて,合衆国は,ガットの多角的枠内における相互主義を条件として,合衆国行政府はファイナル・リストを撤廃するための立法を求める用意があると述べました。

 2. 米国販売価格(ASP)による関税評価制度

 ある種のあさり罐詰及び毛編手袋に対するASPによる関税評価方法を撤廃すべしとの日本国の要請に応じて,合衆国は,ケネディ・ラウンド関税交渉において合意されたとおり,合衆国はあさり罐詰及び毛編手袋に対するASPを撤廃するための法律による受権を求めると述べました。合衆国政府は日本国が相互主義に基づく約束を実施する用意があるものと了解します。

 3. 反ダンピング

 合衆国は,1921年反ダンピング法の財務省による運用から生ずる問題に関し,両国の代表者から成る専門家グループにおいて協議を行なうとの日本国の提案に同意しました。

 4. 政府調達

 「バイ・アメリカン」法規に対する日本国の問題提起に応じて,合衆国は,政府調達に関する多角的討議との関連において,全ての討議参加国の関連法規及び慣行の審査に参加する用意があると述べました。

 5. まぐろ罐詰

 日本国からのまぐろ罐詰の輸入問題について,合衆国政府は,両国の専門家によるこれまでの討議の結果に基づく措置が日本によつて取られていることを認めます。合衆国における現在の検査措置は,日本の措置が肉質分解したまぐろ罐詰に関する合衆国の法規をみたす有効性の度合に従つて緩和されます。

 合衆国政府は,日本国からのまぐろ罐詰輸入に関するいかなる事項についても日本国政府と協議を行なう用意があります。

 6. 通商問題の討議

 合衆国政府は,1972年における日本国政府との通商問題の討議はガットまたは他の多角的枠内において,あるいは通常の外交経路を通じて行なわれるものと考え ます。

 7. 日本国の輸出関心品目の関税

 合衆国政府は,時計,映写機,クリスマス・ツリー用の電球及び同セット,携帯電灯,トラック及び自転車用チューブに対する合衆国の関税を引下げるようにとの日本国政府の要請に留意します。               敬具