データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 無題(吉野局長宛栗山条約課長作成メモ)

[場所] 
[年月日] 1972年4月12日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査報告対象文書(4.1972年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」問題関連),文書4-9
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査報告の際に公開された文書。公開されたものは外務省罫紙に手書きした文書。漢字、送りがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は本文前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外上>

●●{前2文字解読不能} 愛知

吉野局長 条々長 栗山

昨日の外務委員会における局長の御答弁に関連し、今後左の二点につき(委員会あるいは秘密理事会において)追求がありうるかとも案じられますので、これに対処するためのものとして別紙を準備致しました。必要な範囲でご利用いたゞければよいと思います。

(1)吉野局長の答弁では、本件書簡案は米側の案だというが、電報では、「日本側案」となっているではないか。

(2)本件書簡案が日本側案であるとすれば、わが方も「肩代わり」をのむつもりだったのではないか。

<2ページ目 欄外左上>

秘 無期限{前4文字スタンプ}

<2ページ目 欄外中央上>

欄外のコメントに御注意下さい。米側が一般的態度として本件につきわが方の積極的意思表示を求めていた。

<2ページ目 欄外右下>

外務委員会秘密理事会に提示の外務大臣書簡案の経緯と内容について

昭四七・四・十二

条々長 栗山

一、本件書簡案が問題となった際の交渉において、米側は次の二点を要求した。

(イ)協定第四条3項に「同項に基づく米国政府の復元補償支払が四百万ドルを超えない」旨を明記する。

<3ページ目 欄外右下>

(ロ)「日本政府は、三億二千万ドルの中から四百万ドルを米国政府による復元補償支払のための信託基金設定のために支払う。」との趣旨の外務大臣の不公表書簡の発出(米国政府内部における説明用)

二、前記の米側の要求に対し、わが方は、(イ)の第四条3項の修正は問題とならず(復元補償の金額がいくらとなるかは日本政府は判断しえず、従って、日米間で合意する性質のものではない)、(ロ)の大臣書簡の発出についてもその必要なし(わが国が信託基金の財源を支払うというのは筋違いであり、他方、米国政府が復元補償の財源をどこにどういう形で求めるかは米側内部の問題であり、日本政府の関知するところではない)として反論した。{本パラグラフ中27字目〜180字目にかけて欄外上に弧状の手書き横線あり。それに被って以下の注あり}

この辺の表現は、電報の文言とは多少異るも、交渉においての具体的いゝまわしは交渉技術の問題であり、断片的に捉えたのでは真意を伝えずとして説明可能。

<5ページ目 欄外右下>

三、しかしながら、米側がその要求に固執したので、双方の交渉当事者が試案として作成したものが本件書簡案である。(従って、米側案ではない。しかしながら、「日本側案」というのも必ずしも真相を正確に伝えたものではない。){本パラグラフ全体の欄外上に弧状の手書き横線あり。それに被って以下の注あり}

この点が局長答弁との喰い違いとして指摘される可能性あるも、本件がそもゝ「本質的には米側の要求」によるものであったこと、及び局長が「交渉当事者でなかったため、記憶が必ずしも正確でなかった」ことを理由に説明可能

<6ページ目 欄外右下>

四、本件書簡案は、その後の検討及び愛知大臣と連絡の結果、わが方としては従来よりの基本的立場に基づき、かゝる文書の必要なしとの結論に達し、試案を正式にとり上げることなく終ったものである。しかしながら、交渉当事者の意のあるところを敢えて言えば、この書簡案は、左の諸点において、米側が要求したものとは本質的に異り、わが方の基本的立場を崩したものではないと考える。{本パラグラフ中93字目〜177字目にかけて欄外上に弧状の手書き横線あり。それに被って以下の注あり}

以下は、「日本案であれば内容がけしからぬ」との趣旨の追求に対する説明

<7ページ目 欄外右下>

5‐A

(イ)協定第四条3項は日本案どおりとする。(従っ{次項に続くことを示唆する矢印あり}て、復元補償の支払に限度を設けることはしない。)

<8ページ目 欄外右下>

(ロ)書簡案の内容は、「日本が信託基金のために四百万ドルを支払う。」という趣旨ではなく、「米国が三億二千万ドルの中から四百万ドルを信託基金のために留保することを日本が了知する。」という趣旨とする。(米国の内部の問題であるそのような、一方的措置に対し、わが方として格別異存はないという意味{前27文字傍線あり}){本パラグラフ中46字目〜97字目にかけて欄外上に弧状の手書き横線あり。それに被って以下の注あり}

(イ)の結果、同じ「四百万ドル」であっても限度額の意味でないことに要注意

<9ページ目 欄外右下>

五、このような案が米側が欲したものとは程遠かったことは、米側の交渉当事者が「本国政府の訓令を越えるものである」と述べた旨電報に書かれていることからも明らかである。(かゝる案ですら日本政府の正式の対案となりえなかったというわが方の本件に関する強い交渉態度が米側をして当初の要求を撤回せしめることに成功した原因である。){本パラグラフ中22字目〜80字目にかけて欄外上に弧状の手書き横線あり。それに被って以下の注あり}

この点は、前記四の説明のために有利な点である。

<10ページ目 欄外右下>