データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣とニクソン大統領の共同発表

[場所] ハワイ
[年月日] 1972年9月1日
[出典] 外交青書17号,492−494頁.
[備考] 
[全文]

 1 田中総理大臣とニクソン大統領は,8月31日及び9月1日の両日ハワイにおいて会談し,共通の関心を有する幾多の諸問題に関し広範囲の討議を行なつた。会談は,日米両国間の友好関係の長い歴史を反映して,暖かい相互信頼のふん囲気の中で行なわれた。両首脳は,この会談が,日米両国間のきずなを一層緊密なものに発展させていく過程に新章を開くこととなることを希望する旨表明した。

 2 総理大臣と大統領は,現下の国際情勢並びに世界における緊張緩和及び当面の諸問題に対する平和的解決の見通しを,特にアジアとの関連において検討した。日米両国間の緊密な友好関係及び協力関係の維持強化は,進展しつつある世界情勢において,引続き平和と安定のため重要な要素であることが強調された。両首脳は,日米安保条約を維持するとの両国政府の意図を再確認し,同条約の円滑,かつ,効果的な実施を期するため,両国政府が緊密な協議を通じ,引続き協力することに合意した。

 3 総理大臣と大統領は,アジアにおいて平和と安定へのきざしが増大しつつあることを討議するにあたり,朝鮮半島において最近対話が開始されたこと,及び,アジア諸国が自立と地域協力のためますます積極的な努力を払つていることを歓迎し,インドシナにおける平和の早期実現を共に希望した。総理大臣と大統領は,最近の大統領の中華人民共和国及びソ連邦訪問は意義深い一歩であつたことを認めた。この関連で,両者は,総理大臣の来たるべき中華人民共和国訪問も,アジアにおける緊張緩和への傾向の促進に資することとなることをともに希望した。

 4 総理大臣と大統領は,最近米国とソ連邦の間で締結された弾道ミサイルによる防衛の制限に関する協定及び戦略攻撃ミサイルの制限に関する暫定協定について討議し,これらの措置は,戦略兵器を制限し,世界平和に貢献する重要な一歩となるものであることに意見の一致をみた。また,両者は,戦略兵器規制のためさらにとられるべき措置の必要性について協議することに合意した。

 5 総理大臣と大統領は,経済,貿易及び金融問題に関連した諸問題につき,広い視野から意見を交換した。総理大臣と大統領は,日米間の経済関係がきわめて重要であることを強調した。両首脳は,今回の会談が,日米二国間及び全世界的性格の経済問題に対処する上での両国のより緊密な協力に貢献するとの確信を表明した。

 6 総理大臣と大統領は,国際通貨制度の基本的改革が緊要であることについて見解をともにした。両者は,両国政府がこのような改革を早急に達成するため努力することを約した。貿易については,両者は,工業及び農業を対象とする多角的通商交渉を1973年に開始し,これに積極的支持を与えるとの1972年2月の両国間の合意を再確認した。これに関連し,両者は,来るべき通商交渉において,関税及び非関税障壁の軽減を通じ,また多角的無差別セーフガード制度の作成を通じ,貿易のより一層の拡大の基礎を築く必要性に留意した。

 7 総理大臣と大統領は,双方の国際収支及び貿易収支がより均衡のとれたものとなることを指向して両国が努力することに意見の一致をみた。この点に関し,大統領は,貿易及び国際収支を改善するため米国によつてとられた諸措置を説明し,また,米国政府が生産性の向上と市場調査の改善を通じ,特に日本に対して,輸出量を増大するよう米国企業に勧奨している旨を述べた。総理大臣は,日本政府も米国からの輸入を促進するよう努力する意向であり,また,日本政府は合理的な期間内に不均衡をより妥当な規模に是正する意図であることを指摘した。総理大臣と大統領は,進展する両国間の経済関係を検討するため今後高いレベルで会合することがきわめて有意義であること,及び両者の意向として1973年のできるだけ早い時期に日米貿易経済合同委員会を開催することに意見の一致をみた。

 8 総理大臣と大統領は,日米両国が他の先進諸国と協力して,アジアをはじめとする世界の諸地域の開発途上国に安定と繁栄をもたらすよう援助につとめていることに留意し,妥当な規模の政府開発援助を適切な条件で供与することの必要性を認めた。また,両者は,開発途上国の経済発展のために諸国際金融機関の強化を引続き援助するとの両国政府の意図を再確認した。

 9 総理大臣と大統領は,日米両国国民それぞれの文化,社会その他の背景についての相互理解をより深めるための努力を促進する必要性を再確認し,さらに,文化及び教育交流のための新しい,かつ,改善された計画は,右の目的のための重要な手段であることに意見の一致をみた。この関連で,大統領は,本年10月に発足する国際交流基金の活動の成果に大きな期待を寄せていることを強調した。

 10 総理大臣と大統領は,世界の平和と繁栄及び日米両国民の福祉を維持増進するという共通の目的達成のため,ますます多岐にわたりつつある分野において,日米両国間の協力関係が一層緊密化の度を加えている状況に満足の意をもつて留意した。両者は,麻薬その他の危険な薬品の不法取引きの規制についての,すでに両国間で行なわれている緊密な協力を一層強化拡充することに合意した。また,両者は,エネルギー及び鉱物資源の開発とより良い利用,及び,環境保全と公害規制という緊急の問題について,二国間及び多国間の一層の協力が必要であることに意見の一致をみた。両者は,急激な人口増加によつて惹起される問題の解決のため,国連とその専門機関を通じ引続き適切な援助を行なうことを約した。

 11 総理大臣と大統領は,静止衛星等の応用衛星打上げという日本の目標を含めた宇宙探査の分野における協力について討議した。大統領は,地球大気開発計画の一環として日本が気象衛星の打上げに積極的関心を持ち,同衛星打上げの研究を進めていることを歓迎した。

 12 総理大臣と大統領は,今回の会談に満足の意を表明し,引続き緊密な個人的接触を維持することに合意した。