データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 昭和49年11月9日(在米大使発大臣あて公電)

[場所] 
[年月日] 1974年11月9日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(1.1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」問題関連),文書1-10
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査報告の際に公開された文書。公開されたものは電信写記述用紙にタイプにした文書。漢字、送りがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は本文前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外上>

部内連絡{前4文字印}

*1*

極秘{前2文字斜めに記述}

8{前1文字極秘の右上に記載}

<1ページ目 欄外左>

事務次官 官房長に丸印

米長・保に丸印

条長・条に丸印

<1ページ目 欄外右>

●●{前2文字人名が記載されているが解読不能}

総番号(TA)74521

74年 月 日01時40分 米国 発

74年11月9日{前8文字下線あり}16時10分 本省 着

主管 米局長

外務大臣殿 安川大使

(部内連絡)

極秘 大至急

トウゴウ事務次官へ

本使8日{前4文字下線あり}夕 ハビブ次官補を公ていに招き余人をまじえずこん談したところ要旨次の通り。

1、当方より核兵器問題について在京米{前1文字挿入(手書き)}大使館から何等かの報告に接しているかと問うたところ日本政府が本件をRECONSIDERしているとの報告に接していると答えたので、当方より本件について日本政府がRECONSIDERしていることは事実であるが、未だ何等最終決定には至つていない旨前提した上、ラロック証言をめぐる日本国内のUPROARは一応おさまつてはいるが、次の国会等で問題が再ねんすることは必至であり、その際日本政府は極めて困難な立場におちいることを考慮し、この際黒白を明らかにし条約の意見{前5文字挿入(手書き)}一定の条件の下に{前7文字挿入(手書き)}核武装した艦ていの一時寄港ならびに領海の無害通航を事前協議の対象から除外することを考慮中であると述べたところ、先方は、そのような決定を日本政府が行つた場合、日本国内の反響如何と問うたので、それはUNFATHONABLE REACTIONを生むであろうと答えたところ、先方はそれならば従来通り本件はAMBIGUITYのままにしておいた方が安全ではないかと述べたので、当方より何れの道を選んでも大きなRISKを含むこととなる。AMBIGUITYのままにしておいて、将来再びラロック証言に類じした事例が絶体に起らない保証があるかと問うたところ先方はちんもくした。{前7文字下線あり}

次いで当方より、本件に関する従来の日米間の接触の経緯を説明し、米側は当初、フジヤマ・マッカーサー間で口頭による確認があると主張したが、米側に{前1文字挿入(手書き)}はほんとうにそのような記録があるのかと問うたところ、そのような記録はない。しかし、秘密了解文書第2項は間接的な表現ではあるが米側としてはこれが{前9文字挿入(手書き)}当然のこととしてTRANSITは事前協議から除外されることを意味するものと解釈していると答えるとともに、この事はかつてジョンソン大使からも日本側に申入れたはずであると述べたので、当方よりそのことは承知しているが、日本側がこれに同意した事実はないと答えておいた。

次いで当方より、仮りに日本政府が新な決定を行なつた場合の国内の反響が重大問題であることは当然のことながら、日本政府としては過去の経緯について日本国民に如何に説明するかについて最もく慮している次第であり、かりにも日本国民をだましていたということになれば、それは単に過去の問題に止らず、将来の日米安保条約に対する日本国民の信頼感に重大な悪影響を及ぼすことになると述べたところ、先方は米側としては従来通り事前協議に関する約束はちゆう実に守つてきたと公言することは可能であるし、またTRANSITについて一切秘密約束はなかつた{前22文字下線あり}ということを公言することも可能であると答えたので、当方より、それは最小限の要件であるが、それだけでは十分ではない。

米側にとつて過去においてTRANSITといえども日本に核兵器は持ち込んだことはないと公言することは不可能であるとしても、せめてラロックのNAVAL VESSELS WHICH ARE CAPABLE OF CARRYING NUCLEAR WEAPONS ALWAYS CARRY NUCLEAR WEAPONSという証言は正しくないことぐらいはいえるはずではないかと述べたところ、この証言が正しくないことは事実であるが、それを公式に言明できるか否かは現在自分には言えないと答えた。

次いで先方より、本件はフオード大統領とタナカ総理との会談で取り上げられ{前2文字挿入(手書き)}るのかと問うたので、当方より、冒頭に述べた通り本件については未だ検討中の段階でフオード大統領訪日までに日本側の結論が出るか否か不明である。また結論が出たとしてもおそらく本件は木村大臣と「キ」長官との会談で取り上げられることになるであ{前3文字挿入(手書き)}ろう。フオード大統領訪日の際、とう{前1文字挿入(手書き)}突に本件を取り上げたのでは、米側をEMBARASSすると思いWARNINGのつもりで全く非公式に取り上げた次第であると答えたところ、先方は事情を了とし、でき得れば本使出発前にも本件についての日本政府の立場を確認したいと要請するとともに、若し日本側の政策決定がなされた場合はフオード訪日の時期にこれを公表することになるのかと問うたので、当方より、そのようなことは先ずあり得ないと思う。仮りに基本的な政策決定が行なわれたとしても航空機のTRANSITや領空のOVERFLIGHT、核武装した艦ていの日本近海での演習、航空ぼ艦のMOTHER PORTINGの問題{前66文字下線あり}等があり、これ等の問題について更に米側と接しようとする必要があり、これは時間的にも無理があると答えておいた。(ハビブは以上の様な具体的問題があることについては余り事情に通じていない模様であつた。)

2、当方より、自分は今のところ13日午前当地発帰国の予定であるが、その前に短時間でもよいから「キ」長官との会談を希望している旨述べたところ、先方は、実は{前2文字挿入(手書き)}「キ」長官の日程が再々変るので困わくしている。トルコ訪問が中止となり、本日よる帰国の予定が急に変り、現在チュニジアを訪問中であり、帰国は明9日よるとなり、到着次第大統領滞在中のキャンプ・デービットに直行することとなつている。実は11日に国務省事務当局と長官との間で訪日に関する打合せを予定していたが、キャンプ・デービットで11日12日両日エネルギー問題等につき政府首のうの協議が行なわれるので、「キ」長官が何時ワシントンに帰つて来るかもわからない状態であるので、貴使の出発前の会談は極力努力するが約束できないと答えた。

(了)

(写手交済 17:05){前12文字手書き}

{*1* 下記の4行が各ページ欄外上に記載}

電信写

注意

1.本電の取扱いは慎重を期せられたい。

2.本電の主管変更その他については電信一般問合せ係(TEL2172)に連絡ありたい。