データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 安保条約問題(総理発言案)

[場所] 
[年月日] 1974年11月18日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(1.1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」問題関連),文書1-11
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査報告の際に公開された文書。公開されたものは電信写記述用紙にタイプにした文書。漢字、送りがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は本文前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外左上>

安全保障課長 ※{※は花押}

<1ページ目 欄外上>

49.11.18 ●●{前2文字解読不能}※{※は花押}

極秘 署名まで 10部の内9号の印{前17文字スタンプ}

安保条約問題

(総理発言案)

1 日本政府は、安保条約を日米間の友好協力関係の礎石として引き続き堅持して行く考えである。同条約は、日本の安全に寄与するとともに、更に極東における国際の平和と安全の維持にも重要な役割を果たしており、相互信頼が日米安全保障関係を強固な基盤の上に維持して行くに当たつて緊要である。

2 核の問題は、日本においては、原子爆弾についての独自な体験があること及びこの問題が戦後初期に「米国」の核兵器ということできわめて政治的な問題となつてしまつたことの理由から、きわめて取扱いの難しい問題である。このような背景の下に、1960年の安保条約改訂の際、核兵器の日本への持込みは、両国政府の事前協議の対象とする旨が了解され、それ以降、米国は、この問題に対する日本国民の特殊な感情に十分配慮するとの立場をとつてきている。1960年の交渉当時の関心事は、ほとんど専ら戦略核兵器を日本に置く問題に限られていたが、その後の戦術核兵器の発達は、事態を大きく変えるに至つた。その間に日本においては、非核三原則が定着してきたという事実がある。このような状況において、先般のラ・ロック発言は、いわゆる「核兵器の持込みの問題」を日本において大きな政治問題化したのである。

3 この問題に関する両国政府の立場は、米国としては、核兵器の存否はいつさい明らかにしないということ及び核兵器の持込みは事前協議の対象であるということで一貫してきている。日本政府は、持込みの前提要件である事前協議が行われていな{前1文字挿入(手書き)}い以上、核兵器は日本に持込まれていないとの立場をとつてきた。しかしこの問題は、いまや、安保条約、更には両国間の相互信頼のきずなそのものの信頼性にかかわる重大問題となつている。

4 日本政府は、この問題について、米国のアジアにおける軍事的抑止力の維持の必要性に妥当な考慮を払いつつこの問題に対{前1文字挿入(手書き)}処するための可能な方策を検討しているところ、大統領におかれても、本件の重大性を認識されることを要請する。

<4ページ目 欄外上>

●{●は手書きでチェック}

極秘 無期限 10部の内9号{前14文字スタンプ}

安保条約問題

(総理発言用説明資料)

1 先般のラ・ロック発言を契機として論議を呼んだいわゆる「核持込み」についての問題点は、事前協議が一時立寄りにも適用されるとの政府説明にもかかわらず、一時立寄りは除外するとの秘密協定が存在するのではないかとの疑問、政府の否定にかかわらず、ラロック発言、ミッドウェイ乗組員証言、NYタイムス記事、米上院外交筋言明等々の各般の情況は核の存在を裏づけているのではないかとの議論等が従来になかつた深刻さをもつて生じていることにある。

2 かかる事態に立ち至つた背景については、経緯としては、「いつさいの核を拒絶する」との野党及びマスコミの強い姿勢に対して政府が正面からの対決を回避してきたところに問題はあるが、直接には、安保条約締結当時には存在しなかつた米国の核兵器(特に戦術核)の拡散体制及びミッドウェーの横須賀母港化による頻繁な寄港が主因となつていると見られる。

3 これに対する対応策としては、日米両国政府の間で率直かつ突つ込んだ協議を行つて、最終的には「核の持込み」については事前協議が必ず行われるが、他方「核の持込み」に該当しない場合は、核を積載した艦船の領海通過、寄港それ自体は、原則として事前協議の対象とならないとの立場を打ち出すほかないと考えられる。この場合において、決定しておく必要がある問題点は次のとおりであり、米国と協議するに当たつてはこれら諸点の可否につき我が方の最終的立場をつめておくことが必要である。

(1)該当しない場合とは、艦船については領海通過及び寄港である。

(2)通過中又は寄港中に核兵器を使用する場合は事前協議に係らしめる要がある。

(3)寄港は施設区域のみに限定する。

(4)寄港期間に制約を設ける。

(5)常時核装備のポラリス潜水艦については、上記(1)の例外とし、領海通過、寄港を認めない。

(6)核搭載航空機についても上記の例外とし、上空通過、寄港を認めない。

(7)発生した事故についての米国政府の責任は原潜入港の場合の処理手続きに準じた形で処理する。

4 対応策については、米国と、十分な協議を遂げる必要あるべきところ、その結果については、両政府間の了解をなんらかの方式による合意によつて確認すべきか又は政府の一方的解釈の問題として処理すべきかの問題があるが、安保条約締結の後に進展した新事態に対処するためとの大義名分を据えて、合意の方式を選択することが妥当と考えられる。

5 日米間で合意するに至つた責任について、米国が専ら悪かつたとの立場をとることは対米交渉上米国を引き出すことができず、前記の新事態は米国側の事情によるものではあるが、日本側としてもこれに対応する措置をとつてこなかつた責任を有するとの痛みわけの立場をとることが必要である。