データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣とフォード大統領との間の共同声明

[場所] 東京
[年月日] 1974年11月20日
[出典] 外交青書19号,99−101頁.
[備考] 
[全文]

                I

 アメリカ合衆国のフォード大統領は,日本国政府の招待により11月18日から22日までの日程で,日本を公式訪問した。フォード大統領は,11月19日皇居で天皇,皇后両陛下と会見した。

                II

 田中総理大臣とフォード大統領は,11月19日及び20日に行われた会談において日米両国間の将来の関係の基礎となる次のような共通の目的について意見の一致をみた。

1. 日本と米国は,多くの政治的及び経済的利害を共にする太平洋国家として,平等の原則に立脚した緊密,かつ,互恵的な関係を発展させてきた。両国間の友好と協力は,個人の自由と基本的人権を尊重する政治体制及び創造性のための機会と国民の福祉を確保する可能性を高める市場経済体制を維持していく共通の決意に立脚している。

2. 日本と米国は,国際連合憲章の崇高な目的と原則を反映した平和の維持と安定的な国際秩序の育成を念願しつつ,アジア・太平洋地域において,最もかかわりのある当事者間での諸懸案の平和的な解決を容易にし,国際緊張を緩和し,開発途上国の持続的,かつ,秩序ある成長をうながし,また,同地域の諸国間の建設的な関係を助長するような条件の醸成を引続き促進する。

   日米両国は,それぞれ,自らの責任と能力に照らしてこの課題に貢献する。両国は,相互協力及び安全保障条約の下での日米間の協力関係は,アジアにおける国際情勢の進展の中にあつて,重要な,かつ,永続する要素を構成しており,また,同地域での平和と安定を促進する上で効果的,かつ,有意義な役割を引続き果して行くものと考える。

3. 日本と米国は,すべての国が,一層の軍備制限及び軍備縮減措置,特に核軍備の管理を進めるため,また,平和目的の核エネルギーの一層の利用を容易にしつつ,核兵器その他の核爆発装置の一層の拡散を防止するために,真剣な努力を払う必要があると考える。両国は,かかる努力においてあらゆる核兵器保有国が高度の責任を有することを強調し,核の脅威から核兵器非保有国を守ることが重要であると考える。

4. 日本と米国は,両国の相互依存関係が著しく広範な分野にわたること及び国際社会が直面する新しい諸問題に対して協調して対処する必要があることを認識する。両国は,社会体制を異にする諸国との対話と交流を通じて世界における一層の緊張緩和を助長すべく着実な努力を重ねつつ,先進工業民主主義諸国間の緊密な協力を促進するための努力を強化する。

5. すべての国の間で深まりつつある相互依存関係と現在の世界的な経済困難にかんがみ,国際間の経済面での協力の強化がますます重要になりつつある。日本と米国は,主要な経済問題の解決のために両国の人的,物的能力を建設的に活用することが必要であると考える。開放され調和のとれた世界経済体制を築くことは,国際の平和と繁栄のために不可欠であり,両国にとつての基本的な目標である。日本と米国は,この目的のため,両国間の緊密な経済貿易関係を今後とも発展させるとともに,関税及びその他の貿易障害を軽減させるための交渉を通じて世界貿易の継続した拡大を確保し,安定し均衡のとれた国際金融秩序を創設するための国際的な努力に建設的に参加する。両国は,他国の経済に好ましくない影響を与えるような行動は差控えるという両国の国際的な誓約を引続き遵守する。

6. 日本と米国は,世界の資源のより効率的,かつ,合理的な利用と分配が必要であると考える。両国は,エネルギーの妥当な価格での安定的な供給の重要性を認識し,それぞれの経済に適した方法で,エネルギー供給を拡大し,かつ,分散し,新しいエネルギー源を開発し,限りある燃料の利用にあたり節約を進めることに努める。両国は,消費国間の協力を進めることを重要視し,他の諸国と協調して生産国との間の調和のとれた関係を求めて行く意向である。両国は,経済及び金融上の危機を事前に回避し,創造性と共通の進歩という新しい時代をもたらすため,一層の国際協力の努力が必要であることに合意する。両国は,世界食糧問題の緊急性及び安定的な食糧供給の確保のための国際的枠組の必要性を認識し,農業の分野での開発途上国に対する援助を強化し,農産物の供給状況を改善し,適切な食糧備蓄水準を確保するための方途を探究するための多数国間の努力に建設的に参加する。両国は,食糧生産国と消費国の間の協力が,食糧不足の状態に対処するために必要であると考える。

7. 世界の人々の福祉のためには,開発途上国の技術的及び経済的能力の着実な改善がすべての国にとつて共通の関心事でなければならない。日本と米国は,開発途上国,なかんずく重要な天然資源を持たない諸国に対する援助の重要性を認識し,個別に並びに他の伝統的援助国及び新たに援助能力を持つに至つた諸国の参加と支持を得て,これらの開発途上国が堅実かつ秩序ある成長を達成するよう努力するのにつれ,援助及び貿易を通ずる協力の計画を維持拡大させる。

8. 日本と米国は,自然環境を保全し,また,宇宙,海洋等新しい開発分野を開くよう努力するのに応じて,人類に共通な幾多の新しい課題に直面している。両国は,広く他の諸国と協力して,現代社会の必要に応え,生活の質を向上し,また,より均衡のとれた経済成長を達成するための努力を行うに際し,科学,技術及び環境保全等の分野での研究を促進し,情報の交換を助長する。

9. 日本と米国は,両国の永続する友好関係が国民生活の各層各面での両国民間の相互理解の不断の発展と意思疎通の強化に立脚してきたことと考える。したがつて,両国は,このような理解を涵養し,その増大に資するような文化及び教育交流を一層発展させるよう努力する。

10. 日本と米国は,友好と相互信頼の精神をもつて相互に十分に通報し合い,また二国間の争点となり得るような問題及び両国が共通の関心をもつ緊急の世界的問題についての率直,かつ,時宜を得た協議を行うという慣行を強めていく決意である。

11. 日米両国間の友好協力関係は,人間活動の様々な分野で多年にわたり成長し,深みを増してきている。両国は,これらの多様な関係は,全体として,両国それぞれの外交政策が立脚する主要な礎をなすとともに,安定した国際政治経済関係を支える不可欠の要素となつていることを再確認する。

                III

 現職のアメリカ合衆国大統領による初めての日本国訪問は,両国間の親善の歴史に新たな一頁を加えるものである。