データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 事前協議問題に関する宮沢大臣ホドソン米大使会談要旨

[場所] 
[年月日] 1975年3月19日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(1.1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」問題関連),文書1-14
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告の際に公開された文書。公開された文書は外務省罫紙に手書き、英文はタイプによるもの。漢字、ふりがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は、本文の前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

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極秘 無期限 5部のうち2号{前12文字スタンプ、数字は手書き}


事前協議問題に関する宮沢大臣ホドソン米大使会談要旨

昭50.3.19

アメリカ局長※{※は花押}

 3月18日午后、協議のため一時帰国するホドソン米大使が宮沢大臣{沢の前に1文字黒塗りあり}を来訪会談した際、安保条約における事前協議問題につき要旨次のとおりの話し合いが行われた(山崎アメリカ局長及びピートリー参事官同席)。

{1文字黒塗りあり}1.宮沢大臣{沢の前に1文字黒塗りあり}より甚だ嫌な問題(obnoxious question)であるがと前置して事前協議問題に関する昭43.4.25付日本政府見解(所謂藤山マッカーサー口頭了解)の英訳文(別添1)を示して、国会における審議の模様を説明するとともに、自分がこれを読み上げるから貴大使は天氣の話でもして、その内容に異議を唱えないでもらいたい旨述べられた。

2.これに対しホドソン大使は本件文書の内容につき米国政府{1文字黒塗りあり}として特に異議があるわけではないが、この際、米国政府の考え方を説明したいとして次のとおり述べた。

「米国政府は、核問題に関する日本のsensitivityを十分理解しており、“事前協議がない以上核の持ち込みなし”との日本政府の説明振りにも協力してきた。しかし、米国政府の内部には核のtransitにつき日本政府は同意を与えている(米内部ではこれをgrunt agreement{grantのaをuへ訂正あり}と呼んでいる)と信じてる者が多くおり、日本政府当局者の屢次の国内向け声明にいらだちを感じているものも少くない。日本政府が「持込み」(introduction)につきambiguitiesを維持することにより両国政府間に存する“secret disagreement”をカバーしていることは承知しているが、種々のincidentsを通じて問題が段々pinpointされつつあり、われわれに残された部分(room)は大きくない。このまま事態を放置すれば、何かのキッカケで真実が暴露されることも予想され(例えば米側の責任ある地位にあつた人が議会で宣誓の下での証言を求められ、例え秘密会で行われても、事実が洩れる等の事態が考えられる)、その際には日本政府が同意を与えながら、日本国民に隠していたか、または米国政府が日本政府及び日本国民を欺いて来たかのいずれかと受け取られるであろう。かかる事態は安保条約の根幹をゆるがし日米の信頼関係を悪化させ、更に米のアジアにおけるpostureにも非常な悪影響を及ぼすであろう。従つて、当面ambiguitiesを維持する必要があることは理解するし、また協力する用意{1文字黒塗りあり}もあるが、他方、両国の関係者が一緒に坐って(sit down together){してを二本線で抹消}、時間的制約を設けず、また一定の前提もなしに(昨年10月頃日本政府が検討された試案を基礎とすることでなくともよい)自由に且つ全くconfidentialに話し合う必要があると考える」

3.これに対し、宮沢大臣は、自分は就任直后この問題を知り、三木総理とも協議したが、結論は現在の政策は到底変更できぬということであつた。日本政府が現在の核政策の修正を明かにすれば、日本国民は激しい反応を示し、米艦船の横須賀、佐世保への入港は物理的に阻止され(原子力船「むつ」の例)、米海軍の基地としてまったく使用できなくなるであろう。結局現在のambiguitiesの政策を維持する外なく、ついては(別添2のtalking paperを手交し)、この点につきassurancesを与えるから、前記の昭43.4.25付ペーパーの内容につきno objectionをいつてほしいと述べられた(山崎より米側回答が遅延すると疑惑を招くおそれがあり、またいつ質問が出るか分らないので、なるべく早く回答を欲しい旨付言した)。

4.ホドソン大使は、日本政府の直面する目前の問題は了解したので、帰国后直ちに本国政府と協議してできるだけ早く回答することといたしたいが、先程申し上げた長期的問題については十分御検討願いたいと述べた。

5.これに対し、宮沢大臣は、御趣旨は了解したので、検討することとしたいと述べられ会談を終わつた。


SECRET

1. Against the background of what has taken place in the Diet since Admiral La Rocque's statement last fall, the Japanese Government has been compelled to promise to receive confirmation of the U.S. Government of the so-called Fujiyama-McArthur Understanding, as given in the statement of the Government of Japan of 1968.

2. We are well aware that there is a thorny problem involved in the afore-mentioned Understanding and that its solution is not by any means easy. In this connection, I should like to tell you that the Japanese Government does not intend to change the present policy of maintaining ambiguities for some time to come.

3. It is understandable that your Government feels concerned with our related statements made recently. I take this opportunity to offer to you my assurances that there is not any change in the said policy as was already explained to your Embassy by my officials. I strongly hope that your Government will, on the basis of my assurances, confirm as expeditiously as possible that the United States Government raises no objection to the contents of 1968 statement.