データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] キッシンジャー国防長官主催ワーキングランチにおける三木内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1975年8月5日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,86−87頁.
[備考] 
[全文]

国務長官閣下並びに御列席の各位

 本日,私どものためにかくも暖かく御丁重なおもてなしをいただきましたことに厚く御礼申し上げます。

 この激動の時代において,世界における平和と安定の維持がなによりも求められていることは申すまでもありませんが,民主的で自由な社会を建設することもまた重要な課題であります。四十数年前,私が人間形成における重要な時期に欧米に遊学いたした折,最も大きな感化を受けたのは,まさにこの二つの点についてでありました。

 当時は,ケロッグ米国国務長官とブリアン仏外相の手になる不戦条約の成立直後で,世界には恒久平和への期待がみなぎっており,ケロッグ長官は,この功績によりノーベル平和賞を受賞されたのであります。このような時期に,私は,一学生としての旅の途次,国際連盟における軍縮会議の模様を見学する機会を得,その平和への熱意と厳粛さにうたれたのであります。私は,この感慨の中に,将来政治家として立ち,自ら平和へのささやかな貢献を行おうとの志を固めました。

 その後,私は,四年間の留学生活をカリフォルニアで過すこととなりましたが,ここではアメリカ建国以来の理念である自由と平等,そしてそれに基づく民主主義を肌で学ぶことができ,私の志にさらに新たなものが加わるのを感じました。

 こうして,青年時代にはぐくまれた平和と民主主義の追求という志は,現在も私の中に脈々と生き続けております。

 平和と民主主義をめぐる状況は,今日必ずしも安定したものではなく,世界におけるこの二つの目的を達成するためには,日米間において友好と緊密な協力関係を維持することがますます重要となりつつあります。こうした重要な時期に,一九七三年,米国国務長官として五人目のノーベル平和賞受賞という栄誉に輝かれ,また,個人の尊厳と人権の擁護についても多大な貢献をされておられるキッシンジャー氏を国務長官として擁することは,合衆国のみならず,日本,いや世界にとって頼もしい限りであると存ずる次第であります。 最後に,キッンンジャー閣下の御健康とアメリカ合衆国国民の繁栄を祈って皆様とともに乾杯いたしたいと存じます。