データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米共同新聞発表(三木内閣総理大臣、フォード大統領)

[場所] ワシントン
[年月日] 1975年8月6日
[出典] 外交青書20号,93−96頁.
[備考] 参考資料
[全文]

1.三木総理大臣とフォード大統領は,8月5日及び6日の両日ワシントンにおいて会談し,共通の関心を有する種々の問題について包括的な検討を行つた。両首脳の討議は,宮澤外務大臣とキッシンジャー国務長官も参加し,打ちとけた友好的ふん囲気の中で行われた。両者の会談は,充実したものであり,日米両国間の力強く幅広い今日の友好関係を反映するものであつた。

2.総理大臣と大統領は,フォード大統領の日本訪問の際の1974年11月20日の共同声明に盛られている日米両国間の関係の基礎となる基本的諸原則と共通の諸目的を再確認した。この再確認にあたり,総理大臣と大統領は,日米両国が,基本的価値観と理念を共有しつつも,その国民性や置かれている状況を異にしており,両国は,共同して,こうした相違に根ざす力を活用し,成熟した,互恵的かつ補完的関係を築いてきたことに留意した。両者は,日米両国が,世界の平和と繁栄という共通の目標に向かつて建設的かつ創造的協力を行うことこそ,かかる両国にとつて基本的に重要であることを強調した。両者は,両国政府間において腹蔵のない率直な対話が行われてきたことに満足の意を表しつつ,かかる協議を維持,強化することを約した。この目的のために,外務大臣と国務長官は,共通の関心を有する二国間及び世界一般にわたる問題について,年2回検討を行うこととなる。

3.総理大臣と大統領は,インドシナにおける武力紛争終息後のアジアにおける諸情勢につき討議した。大統領は,アジアが世界の平和と進歩にとつて重要であることを認めつつ,米国が同地域において積極的かつ建設的役割を引続き果たすこと,及び同地域における米国の条約上の約束を引続き守ることを再確認した。総理大臣と大統領は,多くのアジア諸国が,自らの政治的,経済的及び社会的基盤を強化する努力を行つていることを歓迎した。両者は,日米両国は,このような努力に対し引続き援助と協力を行う用意があることを述べた。両者は,韓国の安全が朝鮮半島における平和の維持にとり緊要であり,また,朝鮮半島における平和の維持は日本を含む東アジアにおける平和と安全にとり必要であることに意見の一致をみた。両者は,かかる平和を維持するために現行の安全保障上の諸取極がもつ重要性に留意した。同時に,両者は,緊張を緩和させ,ひいては平和的統一を達成するために南北間の対話が進捗することを強く希望した。国連における朝鮮問題に関して,両者は,すべての当事者が,現在の休戦を保持する体制を維持することの重要性を認識するようにとの希望を表明した。

4.総理大臣と大統領は,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約は,極東の平和と安全の維持に大きく寄与してきているとともに,アジアにおける国際政治の基本的構造の不可欠の要素であり,同条約を引続き維持することは,両国の長期的利益に資するものであるとの確信を表明した。両者は,さらに,米国の核抑止力は,日本の安全に対し重要な寄与を行うものであることを認識した。これに関連して,大統領は,総理大臣に対し,核兵力であれ通常兵力であれ,日本への武力攻撃があつた場合,米国は日本を防衛するという相互協力及び安全保障条約に基づく誓約を引続き守る旨確言した。総理大臣は,日本は同条約に基づく義務を引続き履行していく旨述べた。総理大臣と大統領は,同条約の円滑かつ効果的な運用のために一層密接な協議を行うことが望ましいことを認めた。両者は,両国が協力してとるべき措置につき,両国の関係当局者が安全保障協議委員会の枠内で協議を行うことに意見の一致をみた。

5.総理大臣と大統領は,共通の関心を有する種々の国際問題につき討議した。大統領は,米国が,戦略兵器制限に関する米国とソ連との間の第2次協定交渉の早期妥結をはかるべく引続き努力することに留意した。総理大臣と大統領は,現在行われている諸努力を通じて,中東における平和的解決に向かいすみやかな進展がみられるよう強い希望を表明した。

6.総理大臣と大統領は,世界における最近の核拡散の傾向を憂慮し,核拡散防止及び適切な保障措置の発展のための国際的な努力に,日米両国が積極的に参加していくべきであることに意見の一致をみた。両者は,核軍備制限,核兵器非保有国の安全保障及び原子力の平和利用の分野において,あらゆる核兵器保有国が積極的に貢献すべきことを強調した。総理大臣は,日本ができるだけ早い機会に核兵器不拡散条約を批准するための所要の手続きを進める意向を表明した。

7.総理大臣と大統領は,世界各国間の経済的相互依存関係がますます深まりつつあることにかんがみ,日米両国が,安定し,均衡のとれた世界経済の発展のために特別の責任を共に有していることにつき意見の一致をみた。両者は,両国が,緊密な協議を通じ,世界経済の一般情勢,国際金融,貿易,エネルギー及び先進国と開発途上国との間の協力に関する諸問題を,すべての国の利益になるような形で解決するため努力することに意見の一致をみた。両者は,両国間の貿易・投資関係が,着実に,互恵的な形で拡大しつつあることに満足の意をもつて留意した。

8.総理大臣と大統領は,世界経済のために自由かつ拡大的な貿易が重要であることを認め,開放的な国際貿易制度の必要性を強調するとともに,日米両国は,現在ジュネーヴにおいて,関税及び貿易に関する一般協定の枠内で進められている多角的貿易交渉東京ラウンドにおいて引続き積極的かつ建設的な役割を果たすことを確認した。

9.総理大臣と大統領は,世界のエネルギー情勢には依然として不安定な要素が残つていることを認識し,これまで進められてきた消費国間の協力の進展に満足の意を表明した。両者は,この分野及びエネルギー問題に関するそれぞれの国の努力の進展について,日米両国の協力を維持,強化することに意見の一致をみた。両者は,国際エネルギー問題の解決のためには,すべての国による相互理解と協調が基本的に必要であることにつき意見の一致をみ,産油国と消費国との間の調和ある関係の進展が緊要であることに留意した。この関連で,両者は,産油国と消費国との間の対話を再開するために現在とられている措置を歓迎し,両国はこのための協力をより一段と強化し,調整するとの決意を表明した。

10.総理大臣と大統領は,増大しつつある世界の食糧需要を満たすために適正な供給と分配を確保することが望ましいことに留意し,開発途上国の食糧生産力を増強するための農業開発援助の重要性につき意見の一致をみた。大統領は,更に,国際的に調整された国別穀物備蓄制度の早期確立の必要性に留意した。総理大臣は,輸出国と輸入国の間の互恵的協力を通じて農産物貿易が着実に拡大することの必要性を強調した。総理大臣と大統領は,両国間の互恵的な農産物貿易を維持,拡充することが両国の利益となることを再確認した。

11.総理大臣と大統領は,開発途上国が,自国の経済発展を促進するため,及び自国民の人間としての願望を満たすために行つている努力を助けることの必要性に留意し,開発援助,一次産品貿易を含む貿易の分野における日米両国間及び開発途上国との間の協力を促進することの重要性について意見の一致をみた。

12.総理大臣と大統領は,医学,科学及び技術の分野における両国間の現行の協力計画が過去10年間に挙げてきた業績及び日米科学技術協力審査委員会が現在進めている作業を高く評価した。両者は8月5日に外務大臣と国務長官により両国間の環境保護協力のための新しい協定が署名されたことに満足の意を表明した。両者は,さらに,文化・教育面の交流を通ずる相互理解の増進が,日米両国民間の友好関係の強化にとつて基本的な重要性を有することを認識した。この関連で,総理大臣は,日本が,国際交流基金を通ずるものをはじめとし,日本研究の促進等これまで行つてきた事業に加えて,今後とも前記の交流を拡大していくとの意向を表明した。大統領は,総理大臣の意向表明を歓迎するとともに,日本との文化・教育面の交流の一層の促進のためにより多くの資金を向けるよう努力を続けるとの意向を表明した。

13.総理大臣は,米国民が明年独立二百年祭を祝うことに対して,日本国民を代表し心からの祝意を伝達した。大統領は,かかる祝意に対して総理大臣に感謝し,米国民の深甚なる謝意を表明した。