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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] コンロンビア大学における名誉学位授与に際しての三木内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1975年8月8日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,122−123頁.
[備考] 
[全文]

 マックギル総長並びに御列席の皆様

 本日ここに,合衆国の歴史より古い伝統と偉大な学問的業績をほこるコロンビア大学から名誉学位を与えていただぎましたことは,私にとって大きな光栄であります。私は,この学位を私の政治信念に基づいて二十一世紀の教育のために献身せよとの励ましの印としてお受けいたします。

 世界に名高いコロンビア大学は,世界の最高水準の学府として日本において馴染みの深い大学であります。また同大学は,日米間の学問交流の中心的存在であり,さらに政治,文化等広汎な分野における日米間の重要なかけ橋であります。私は,この光輝あるコロンビア大学の一員に迎えられたことを心から嬉しく思うものであります。

 教育は,私の生涯の最大関心事であり,また,現在も私の最大の政治課題の一つであります。半世紀も前のことになりますが,私は,明治大学の学生時代に,世界旅行に出かけ,その後,私の人間形成にとって一番大切な二十代の後半四年間を米国の大学生として過しました。私は,この海外生活を通じて,米国では個人の尊厳,自由平等,寛容など民主主義の真の精神を学び,また,欧州では議会主義を学びました。それが,それからの私の人生航路を決定づけたのであります。私は,学窓から議会に直行し,以来三十八年間,他のいかなる職にも就かず,ひたすら日本における議会主義と民主主義のために献身して参りました。

 ところが,今やその議会主義と民主主義が世界のいたるところで,重大なる試練に直面しております。民主的統治の能力が問われているのであります。議会主義も民主主義も歴史の流れにそって時代の変化に適応していかねばなりません。しかし,その基本精神は絶対に死なせてはなりません。これが私の固い信念であります。すでに二十一世紀に活躍すべき世代は,我々と共に生きております。民主主義を守り抜き,彼等の将来への希望と期待とを保障することは,我々に課せられた重大な責務であり,そのためには,真理を追求する自由な立場を確保せねばなりません。学問の世界には国境はありません。イデオロギー,価値観,信仰,人種を越えた全人類の連帯感と相互協力の精神を,自由な研究と活発な相互交流を通じて育くむことは,諸国民の相互理解を促進し,世界平和の基礎を作るものに他なりません。このような考えに立って,わが国は,国連大学の創設にあたり主人役を果す光栄と責任を歓迎し,この事業を大きな使命として受けとめるものであります。

 本日,この学位をお受けするにあたって,私は,民主主義に徹し,教育と学問の振興に尽す決意を新たにし,日米友好と二十一世紀の世界の幸福のため一層の微力を尽す所存であります。