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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カーター大統領の原子力政策に関する声明

[場所] ワシントン
[年月日] 1977年4月7日
[出典] 外交青書22号,417−418頁.
[備考] 仮訳
[全文]

 今日において,原子力利用に係わるジレンマほど解決の困難なものはない。多くの国は,原子力を,少くとも,今世紀中は,自国の経済発展の輸入石油への依存度を減少させるための唯一の現実的手段だと考えている。(石油は供給に不安があり,価格の上昇及び枯涸の恐れがあるエネルギー源だからである。)米国は,これらの国々と異なり,国内に大量のエネルギー源−石炭−を有している。しかしながら,石炭の利用には問題がないわけではなく,米国政府の計画もエネルギー生産の一部を原子力利用により賄うことを予定している。

 原子力の利益は,このように非常に現実的であり,実際的なものである。しかし,原子力が広く世界的に利用される場合には非常な危険が伴う−即ち,原子力利用過程のある部分が核兵器製造に転用される危険があるからである。

 米国は,核不拡散条約を通じて,核兵器所有の拡大の危険を減少させるために重要な一歩を進めた。同条約により,100カ国以上の国が核爆発装置を開発しないことに同意している。しかし,米国は更にこれを押し進めなければならない。米国は,核兵器又は核爆発能力の一層の拡散が全ての国にもたらす結果につき深刻な懸念を有している。米国は,プルトニウム,高濃縮ウラン又はその他の兵器転用可能物質への直接の接近を可能とするセンシチブな技術の一層の拡散により,この危険が大いに増大するものと信ずる。私が大統領就任以来検討して来た問題は,いかにして,このことを原子力の具体的な利用を放棄することなく達成できるかという問題である。

 我々は今や,原子力の利用に係わる全ての問題について徹底的な再検討を完了しつつある。我々は,拡散のもたらす深刻な結果及び平和と安全保障への直接的影響にかんがみ,また,科学的,経済的理由からも,次のことをしなければならないとの結論に達した。

 −米国内の原子力政策と計画の大幅な変更。

 −原子力の利用増大に伴なう問題点と危険に対するより良い解答を見出すべく各国との協調努力。

 本日,私は,上記の検討結果より次の決定を発表する。

第1 米国政府は,米国の原子力計画において生産されたプルトニウムの商業的再処理及びリサイクリング(再利用)を無期限(indefinitely)に延期する。

  米国政府は,独自の経験により,原子力計画がかかる再処理及びリサイクリングを行わなくとも,十分経済的に成り立ち得るとの結論を引き出した。

  我々は,サウス・カロライナ州のバーンウェル工場に対し,再処理施設としてその完成のため連邦政府の奨励も,また資金の援助も行わない。

第2 米国の現行増殖炉計画を変更し,別の形の増殖炉の設計を優先させ,増殖炉が商業化される時期を延期する。

第3 核兵器に使用可能な物質に直接結びつかない核燃料サイクルの代替案の研究を促進するため,米国の原子力研究開発計画に関する予算の再編成を行う。

第4 国内及び海外の需要に対して,十分且つタイムリーに核燃料を供給するため,米国の濃縮ウラン生産能力を増大させる。

第5 他国に対し核燃料供給契約を提示し,且つかかる核燃料の引渡しを保証し得るため,必要な立法措置を提案する。

第6 ウラン濃縮及び化学的再処理に関する設備又は技術の輸出を引き続き禁止する。

第7 核爆発能力の拡散を減少させながら,すべての国のエネルギーに関する目的を達成し得る広範な国際的アプローチと枠組につき,供給国と輸入国と一様に協議する。

  その他,米国政府は,代替核燃料サイクル開発を目的とする国際核燃料サイクル評価計画,並びに不拡散という共通の目的を分かち合う諸国のため,核燃料供給と使用済燃料貯蔵へのアクセスを保証する国際的及び国内的措置の確立を探求する。

 米国政府は,核エネルギーが平和的,経済的目的のために実用化されることを保証するために,最も望ましい多数国間及び二国間取極に関して,各国政府と極めて緊密に引き続き協議を行う。

 米国政府の真意は,この死活的に重要な問題に関して,組織的且つ徹底的国際的協議を通じて広範な国際協力を進めることである。