データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 核持ち込み問題について

[場所] 
[年月日] 1977年8月29日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(1.1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」問題関連),文書1-15
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告の際に公開された文書。公開された文書は外務省罫紙に手書き。漢字、ふりがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。1ページ目の欄外の書き込みの記録は、本文の前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。また文中の欄外の書き込みの記録は注釈によって文末に説明した。
[全文]

<1ページ目 欄外上>

本件は過般山崎がシュースミス公使と密談した際、山崎より、両方が現職を去る前に、この問題に関する在京米大の見解をとりまとめて知らせてもらいたい旨要請したところ、「シュ」公使は、文書は渡せないが、とりまとめてお知らせしたい旨約し、8月29日来訪越したものである(山崎)

アメリカ局長{前6文字スタンプ}※{※は花押}

参事官{前3文字スタンプ}

安全保障課長{前6文字スタンプ}※{※は花押}

極秘 無期限 部の内※号{前11文字スタンプ、各ページの欄外右上に押印、※の箇所に1から15号まで連番あり。ただし9ページ目のスタンプのみ左側余白に押印。}

<1ページ目 欄外左>

有田次官(五三、九、五)及び高島外審(五三、九、二)に本件を、八月十日付中島シャーマン会談の記録とともに報告し、本件については、当面これ以上は触れないこととすることにつき御了承を得た。※{※は花押}


核持ち込み問題について

52.8.29 米保長

8月29日、シュースミス前駐日米公使がシャーマン公使とともに山崎米局長を来訪し(米保長同席)、標記の問題についての米政府の考え方を説明するとともに意見を交換したところ、右内容次の通り。

1. シュースミス公使より、現在の米政府の立場を口頭で{前3文字挿入}次の通り説明した。(マンスフィールド大使にもこの通り説明した由)

“The United States considers that the problem of nuclear weapons on naval vessels entering Japanese waters on ports would not constitute “instruction into Japan” of nuclear weapons and would not be subject to prior consultation under security arrangements.

We have this position on our interpretation of paragraph 2c of the classified records of discussions, January 6, 1960, which reads {1語黒塗りあり}in part ‘Prior consultation’ will not be interpreted as affecting present procedures regarding-----{3行半程度黒塗りあり} the entry into Japanese waters and ports by United States naval vessels…”

As a result of Diet {1語黒塗りあり}statements,{1語抹消あり} which seemed{1語黒塗りあり}to contradict{語尾に黒塗りあり}our interpretations, Ambassador Reischauer raised this subject with Foreign Minister Ohira in 1963, in which time Ambassador Reischauer{1語黒塗りあり}explicitly stated our interpretations. On that occasion, Mr. Ohira did not challenge our interpretations, nor has the Japanese Government done so anytime since.

Despite the contradiction in public statements that the entry into the Japanese territorial wasters {wastersの上にwatersと記入あり}for any reason of a naval vessel carrying nuclear weapons would require prior consultations, we understand the Japanese Government*1* positions as expressed to us privately by the Foreign Office to be as follows{1語抹消あり}:

a) The Japanese Government is fully aware of the United States’ interpretations of prior consultations arrangements and of its implications for {1語抹消あり}visits by *1*naval vessels which hypothetically might be carrying nuclear weapons.

b) The Japanese Government has never agreed with the United States interpretations and, if necessary, would be forced to deny publicly any assertions to the contrary.

c) The Japanese Government has never challenged the United States interpretations and does not intend to do so; *1*It also does not intend to ask the United States to change the United States to change our present arrangements.

d) The Japanese government does not intend to ask the United States ti associate itself further with the Japanese Government elaborations, concerning this aspect of prior consultations".

2. 以上に対し、山崎局長より、とりあえずの気付きの点として、

(イ)非公開合意議事録のパラグラフ2C{2文字抹消あり}に関するこのような米側の解釈については、1960年安保改訂交渉時において日本側は何等知らされていなかったこと、及び{(ロ)を二本線で抹消あり}

(ロ)日本側は米側に対しかゝる米側の解釈を公表しないように求めて来ており米側も従来それに応じて来ているところ、米側が今後ともかゝる姿勢を堅持するものと信じている旨述べた。

 これに対しシュースミス前公使は、1960年の安保交渉当時に日本側がかゝる米側の解釈を承知していなかったことはその通りであり、自分が調べたところでも米側においてこの解釈について日本側に説明しようとした形跡はない旨述べた。また、シュースミス公使は、米側の解釈の公表の可能性について、全く反論の余地がない程に明白な証拠が出てしまうといったような極めて起りえないような情況(very unlikely circumstances)下におかれない限り米政府としてはかゝる解釈を明らかにする意図はないと述べるとともに、全く反論の余地がないような証拠が出たような場合に日本側がその従来からの立場を表明したとすれば米側としては(イ)米側に落度があったという立場をとるか、(ロ)自からの立場を守るかのいずれかしかとるべき途はなく、{2文字抹消あり}いずれの途をとるにせよ米政府としては極めて難しい立場におかれることになると述べ、かゝる場合には、日本政府において何等かの立場を表明する前に米政府と協議してもらうことが必要である旨付言した。

3. 上記に関連してシャーマン公使より米政府が核兵器の存在については、肯定も否定もしないとの政策をとっている限りまず問題はないと思う旨述べるとともに、ラロック事件の際にインガソール国務長官代理が表明した米国政府の見解について、その中にある

*2*

“…the pledge{pledgeの上にpledgeと記載あり}contained in paragraph 2 of the 1960 Eisenhower-Kishi Communique and the assurances gives in paragraph 8 of the Nixon-Sato communique as well as the statement in Secretary Roger's letter…of 15 May 1972, have been and will continue to be faithfully honored”

なる文言中の”pledge”等は上述の米側の解釈も含むものである{約4行半黒塗りあり}旨付言した。

*3*

4. シュースミス前公使より、1960年当時非公開議事録のパラグラフ2Cの表現に米側が与えている重要性について日本側が理解しているか否かについて米側にある程度の疑念があったことは事実であり、また、日本側にこの点についての理解を求めるための努力が行われなかったことも事実である旨述べた。

 またシュースミス前公使は、1963年に、日{1文字黒塗りあり}本政府の公式発言に米側の解釈と明らかに矛盾する点があったためライシャワー大使が大平大臣に米側の解釈をはっきり述べ、同大使は大平大臣が米側の立場を了解したと考えた経緯があるが、現在は、自分等はそうではなかったと考えている{1文字黒塗りあり}(We now understand this was not the case)旨述べた。

 さらにシュースミス前公使は、ジョンソン大使が小笠原{約5文字黒塗りあり}に向う機中で、当時の牛島次官に対し米側の解釈を説明したのに対し、牛島次官は日本側が{従来を二本線で抹消}それまでに米側の解釈の是非を問うた(challenge)ことがない以上米側がかゝる解釈をとって{1文字黒塗りあり}いても仕方がないとの趣旨の返事をした経緯がある旨述べた。

5. シュースミス前公使は、上記1の考えは在京米大使館の見解でありこの見解は国務省の外には出していない。国防省に対しては、この点の解釈について日米間に意見の一致がない(there is no agreement)旨説明してある旨述べた。

6. 山崎局長より、かつて、{1文字黒塗りあり}太平洋軍司令官のガイラー提督より米国としては、実際に核兵器を搭載する艦船の数を減らしてゆく方向にある旨聞いたことがあるがその通りかを問うたのに対し、シャーマン公使よりそれは{約4文字黒塗りあり}ガイラー提督の個人的な見解であり、実際にその通りになっているかどうかは承知していない旨述べた。

7. 山崎局長より、上記1の米側は艦船に関するもののみかと{1文字黒塗りあり}質したのに対し、シュースミス{1文字黒塗りあり}前公使より、航空機の問題については{約4文字黒塗りあり}論議の対象になったことはないが、日本を通過する航空機が核兵器を搭載しているということはなく、仮定の問題としてもそのような可能性はない旨述べた。

8. 米保長より、核兵器の存在について肯定も否定もしないという政策が再検討の対象になったと承知しているが右検討の結果はどうなったのかと問うたのに対し、シャーマン公使よりこの問題について、国務省と国防省の間で検討{したを二本線で抹消の}が行われたことはあるが、米政府として正式に再検討したことは{約10文字黒塗りあり}ない旨前置きして、キッシンジャー国務長官は、核兵器の存在を否定も肯定もしないとの政策を再確認(reaffirm)した{ことを二本線で抹消あり}旨、及びカーター政権下ではこの点を再検討する動きはない旨述べた。

 また、シャーマン公使は、米比基地協定については、核兵器の問題及び{1文字抹消あり}日米地位協定への波及の可能性について米側内部で十分注意するよう手だてを講じてありスペインとの場合のような問題が生ずるおそれはない旨述べた。

9. 米局長より、上記1の米側の解釈について日本側部内で検討の上更にコメントすべき点あれば{コメント二本線で抹消あり}追って米側に伝えることとしたい旨述べ、自分としては、当面は本件をtacit disagreementの{約1行半黒塗りあり}状態においておく外はないと考える旨付言した。これに対し、シュースミス前公使、シャーマン公使とも、個人的には同意見である旨述べ、米側解釈についての日本側のコメントは歓迎する旨付言した。

(了)


*1*は左側にチェック印あり

*2*は以下とおり

<5ページ目 欄外左>

1.日本側はtheir present agreementが何であるか識らない(識る立場にない)(上記の)でもimplications…hypothetically might beとなっている)

2.does not intend to といい切ってよいか(現在intendしていないことはことは確か。また、将来intend することがunlikelyなことも間違いなかろうとしても)

*3*は以下とおり

この点シャーマン公使は、obligationsというV{Vはチェック印}表現を用いていたが、かゝる文言はみあたらない。