データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大平正芳総理大臣とジミー・カーター大統領との間の共同声明,1980年代に向つての実り豊かなパートナーシップ

[場所] ワシントン
[年月日] 1979年5月2日
[出典] 外交青書24号,394−398頁.
[備考] 
[全文]

1.大平総理大臣は,米国政府の招待により,1979年4月30日から5月6日まで,米国を公式に訪問した。

  大平総理大臣とカーター大統領は,5月2日にワシントンにおいて会談し,日米両国が分かち合う政治上及び経済上の理念に立脚しかつ世界における両国の責任を反映する1980年代に向つての両国間の実り豊かなパートナーシップの基盤を築くために,日米関係の現状を検討するとともに,地域的及び世界的協力について討議した。討議は,両国間の緊密な友好関係にふさわしく,打ち解けたかつ友好的なふん囲気の中で行われた。総理大臣と大統領は,相互の信頼関係を深めるとともに,緊密な接触を維持することに意見の一致をみた。総理大臣は,カーター大統領夫妻が日本を国賓として訪問するようにとの日本政府の以前よりの招待を再確認し,同夫妻が6月末に,東京で開かれる先進国首脳会議の直前に訪問するよう招待した。カーター大統領夫妻は,これを喜んで受諾した。

(安全保障関係)

2.総理大臣と大統領は,日本国とアメリカ合衆国の相互協力及び安全保障条約を含む日米間の友好協力関係が従来と同様今後ともアジアにおける平和と安定の礎であることを再確認した。両国間の安全保障関係が現在ほど強くかつ双方にとり有益であつたことはない。このことは,同条約に基づく日米防衛協力のための指針が昨年採択されたこと,日本の自衛力の向上に資する日本による防衛装備の米国から調達が増大したこと,米軍の日本駐留について財政的支持を増加するために日本側のとつた措置等最近の重要な進展に示されるところである。大統領は,今後,米国は,東アジアにおける現在の米国の軍事力の質を維持しかつ改善してゆく旨述べた。総理大臣は,日本は,効果的に運用される米国との安全保障体制を防衛政策の基調として維持しつつ,日本の自衛力の質的改善のため今後とも努力するものである旨述べた。

(国際関係)

3.総理大臣と大統領は,日本と米国が,アジア及び世界の他の地域において多くの政治的,経済的その他の関係を分かち合つていることにつき意見の一致をみた。これらの地域における諸問題についての両国間の協力及び協議は,年をおつて発展を遂げ,最近数箇月の間にかつてないほど緊密になつた。また,この協力及び協議は,1980年代において,一層深まつてゆくであろう。

4.総理大臣と大統領は,日本と中華人民共和国との間の関係の最近における発展及び米中外交関係の樹立がアジアにおける長期的な安定に重要な貢献をなすものであることにつき意見の一致をみた。日本と米国の双方は,中国との間に建設的な関係を求めており,協調してこのような方針をとつてゆく。中国との間にそのような関係を進展させることは,日本と米国がそれぞれ他の諸国と良好な関係を発展させることを妨げるものではない。

5.総理大臣と大統領は,ソ連との間の均衡のとれた協力的な関係の維持が日米両国にとり引き続き重要であることに留意した。大統領は,米国が,戦略的な安定及び安全を増進させるため第2次戦略兵器制限協定についての合意を得るための努力を行つている旨述べ,総理大臣は,日本は,このような米国の努力を支持する旨述べた。両者は,それぞれ,自国がソ連との友好かつ互恵的関係の発展を引き続き求めてゆく旨述べた。

6.総理大臣と大統領は,朝鮮半島における平和と安定の維持が日本を含む東アジアの平和と安全にとつて重要であることを再確認した。米国は,韓国の安全につき堅く誓約している。地上軍の韓国からの今後の撤退についての米国の政策は,朝鮮半島における平和と安定の維持に合致した方法でたてられてゆく。日本と米国は,朝鮮半島における緊張を緩和するために協力しこの目的に資する国際的環境を醸成するため努力を続ける。南北間の対話の進展は,このような過程にとつて不可欠である。日本と米国は,対話を再開するための最近の努力を歓迎し,この努力が実を結ぶことを希望する。

7.総理大臣と大統領は,日本と米国が,東南アジアにおける平和と安定に深い関心を有しており,また,ASEANの活力とその経済的及び社会的発展への決意に感銘を受けていることに留意した。両国政府は,地域的結束及び発展のためのASEAN諸国の協力を支持して引き続き協力と援助を行う。

8.総理大臣と大統領は,特にカンボディアにおける外国軍隊の関与する武力紛争の継続及び中国とヴィエトナムとの間の最近の戦闘がもたらしたインドシナにおける最近の緊張の増大に懸念を表明した。日本と米国は,この地域における緊張を緩和するために最善の努力を行い,また,すべての国の主権,領土保全及び独立の尊重と原則に基づく恒久的平和の確立を求める。総理大臣と大統領は,ヴィエトナムにおける施設の外国軍隊による使用に懸念を表明した。

9.総理大臣と大統領は,インドシナ難民の流出がアジア・太平洋地域において不安定要因でありかつ人道的関心事項となつていること,及びこの問題が緊急に対処されるべきであることに留意した。大統領は,米国が1箇月当り7千人のインドシナ難民を同国における定住のため受け入れており,また,悲劇的問題に対処するためこのほかにも大きな努力を続ける旨述べた。総理大臣は,日本が難民の定住枠を設定し,また定住条件の緩和を行つた旨述べた。総理大臣は,更に,日本が引き続き国連難民高等弁務官(UNHCR)に対する協力及び資金的援助を拡大してゆく旨述べた。日本と米国は,難民一時収容センターの設立に関するASEAN発意を歓迎し,両国政府は,同構想が具体化した場合に他の諸国とともにこれに対処し実質的な貢献を行う。

10.総理大臣と大統領は,中東及び湾岸地域における平和と安定が同地域の人々の安寧のみならず世界全体にとつて極めて重要であることにつき意見の一致をみた。総理大臣は,日本はよりよい将来へ向けて努力している同地域の人々に対する協力を積極的に続けかつ拡大してゆく旨述べた。総理大臣と大統領は,包括的な中東和平は,国連安保理決議242のすべての原則に全面的に従いかつパレスチナ人の正当な権利の承認及び尊重によつてもたらされるべきであることにつき意見の一致をみた。この目的のため,エジプトとイスラエルとの間の平和条約の署名後の平和への過程を促進するために最善の努力が払われるべきである。

(経済関係)

11.総理大臣と大統領は,日米経済関係において,より建設的なとりくみ方をすべき時期に来たことについて意見の一致をみた。両者は,より調和のとれた国際貿易及び支払いのパターンを作るため今後数年間にわたつて各々が遂行する基本的政策につき,明確な了解に達した。両者は,二国間の継続的討議のための枠組及び手続について意見の一致をみた。両者は,この討議は,貿易及び経常収支の全般的傾向により焦点をあてるものであつてこのような傾向の背景をなす個々の措置に焦点をあてるものではないことを認めた。かかる措置は各々の政府の国内的責任である。

12.総理大臣と大統領は,日本と米国がきわめて強い経済上の利害により結びつけられていることを強調した。両国の安寧と将来は,かつてないほどに相互に関連している。経済上の協力面で新たなかつ一層強固な基盤を樹立するために共同して行動することは,両国国民の福祉を増進しかつ,貿易の拡大を促進することとなろう。かかる共同行動は,両国関係の前面から二国間の経済上の摩擦要因を除去することを可能とし,また,両国国民間の持続的かつ相互に実り豊かな関係を確保しつつ,両国社会に共通する諸問題を解決するために一層協力して努力することを可能にする。

13.これらの理由によつて,総理大臣と大統領は,国際収支の安定したパターンに寄与する共通のとりくみ方について意見の一致をみた。両者は,1978年における日本の経常収支の黒字及び米国の経常収支の赤字が現下の国際情勢の下においては妥当なものではないことを認めた。両国政府による最近の措置は,それにさかのぼる為替相場の変動と相俟つて,最近数箇月間に両国の国際収支の不均衡を相当程度是正した。両者は,進歩を確保しかつ持続せしめるために適当な措置が取られるべきであることについて意見の一致をみた。

14.この目的のため,総理大臣は,引き続き次の政策を遂行することを確認した。すなわち,

  ・・・日本の経済成長を維持するにあたり,より内需の拡大に依存するような移行を促進すること。

  ・・・日本の市場を外国品,特に製品に対し一層開放すること。

15.日本としては,これらの政策を遂行するにあたり,均衡がとれかつ持続可能な国際貿易及び支払いのパターンと合致した状態となるまで,経常収支黒字幅の削減を引き続き促進する所存である。

16.米国は,インフレ率を低下させ,石油輸入を抑制し,かつ輸出を促進するよう広範囲にわたる政策を遂行する。米国としては,これらの政策を遂行するにあたり,均衡がとれかつ持続可能な国際貿易及び支払いのパターンと合致した状態となるまで,経常収支赤字幅の削減を引き続き促進する所存である。

17.これらの目標の達成には,数年間を必要としよう。両国政府の関係者によつて構成されている現存の日米間の高級事務レベル会議は,定期的に事態の進展と結果を検討する。

18.また,民間からえりぬかれた著名な人物からなる少人数のグループが創設され,日本と米国との間の健全な経済関係の維持に資すると考えられる措置に関する勧告を総理大臣及び大統領に提出する。

19.日本と米国との間の経済関係につきこのような了解に達するにあたり,総理大臣と大統領は,さらに次の諸点に留意した。

  ・・・自由で拡大する貿易が世界経済の発展のために必要であり,多角的貿易交渉東京ラウンドの成功裡の妥結は,重要な前進である。引き続き保護主義を排し,かつ,東京ラウンド交渉の結果を可及的速やかに実施するための国内的措置を進めることが肝要である。

   ・・・両国は,6月東京で予定されている先進国首脳会議において,同会議が一層健全な世界経済の実現のために実質的な貢献を行うことを確保するために他の国々と協力する。

   ・・・世界エネルギー情勢についてより良き展望を得るため先進工業諸国が二国間及び多国間で協力することは,近年従来以上に重要なものとなつている。日米両国を含む先進工業諸国が,エネルギー生産を増大し,代替エネルギー源の開発を増進し,かつ,国際エネルギー機関において達せられたエネルギー節約に関する3月2日の合意を完全に実施することが肝要である。エネルギー及びこれに関連する分野における研究開発のための協力に関する日米両国間の協定の署名は,これらの目的に大きく寄与するものである。両国政府は,基礎及び応用研究の他の分野において共同で努力する可能性につき真剣に検討する。

  ・・・増大するエネルギー需要に対応するため,核拡散防止並びに安全性及び環境保護の要請と合致した原子力の平和利用を一層促進することが緊要である。両者は,原子炉の安全性及び信頼性を高めるため共同研究を拡大することにつき意見の一致をみた。総理大臣は,核拡散の危険性に対する共通の懸念を大統領と完全に分かち合うとともに,日本にとつて原子力が石油に代わるエネルギーとして,短期的及び中期的には最も信頼性のあるものであることを強調した。総理大臣と大統領は,日本と米国が,必要かつ経済的正当性を有する原子力開発計画に不当な制約を課することを避けつつ,緊密な協力の下に核拡散防止政策を引き続き遂行すべきであることにつき意見の一致をみた。総理大臣と大統領は,国際核燃料サイクル評価(INFCE)において進行中の技術的検討に特に留意し,この技術的検討が満足すべき結果をもたらすよう強い希望を表明した。

  ・・・日本と米国は,開発途上国に対する政府開発援助を改善すべきである。特に両国が,人造りの分野における援助を強化し,また保健,食糧,エネルギー等の分野での研究及び開発について支援を強化することが重要である。両国は,両国間の討議及び開発途上諸国との協議を通じ,これらの分野における技術援助並びに研究及び開発に関する協力を促進する方途を探究する。

  ・・・米国の農産物輸出の最も重要な単一の顧客となつてきている日本及び日本にとり最も重要な単一の供給国となつてきている米国は,両国間の互恵的農産物貿易が日本の輸入需要を充すことを確保すべく,緊密に協力する。両国政府の関係当局は,日米両国の貿易上大きな地位を占める農産物の需要状況につき,定期的に情報交換を行い,適宜協議するために会合する。

(文化教育交流)

20.総理大臣と大統領は,文化及び教育の分野における協力及び交流が盛んに行われており,日米両国民間の相互理解及び友情を深めるに当たり大きな重要性を有していることに満足の意をもつて留意した。両国政府は,これらの活動を強化するとともに,拡大されたフルブライト教育交流計画の資金を共同して拠出する。総理大臣は,日本政府がニューヨークのアジア協会の新本部建設に資するため寄付を行う旨述べた。総理大臣は,また,スミソニアン研究所の新東洋美術館及びニューヨーク・メトロポリタン博物館の日本展示場の建設のため並びにマサチューセッツ工科大学の国際エネルギー政策研究のための基金の設立のために資金的援助を行う意向である旨述べた。大統領は,これに謝意を表明した。