データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ホワイト・ハウス南庭(ローズ・ガーデン)における大平内閣総理大臣のスピーチ

[場所] ワシントン
[年月日] 1980年5月1日
[出典] 大平演説集,296−297頁.
[備考] 
[全文]

 大統領閣下

 まず,ワシントンにお招きいただき,短い時間ではありましたが,われわれ共通の関心事について,十分な,かつ非常に建設的な討議を行うことができましたことを感謝いたします。

 私は,世界のすべてのひとびとにとって非常に困難な,そして試練のときであるこの時期に大統領閣下と話し合うために当地を訪れたことに特に重要な意義を感じております。われわれが貴重なものとして共有している自由,民主主義,正義そして平和は,われわれがいま力を合わせて立ち上がらなければ,今後永年にわたり大きく損なわれることになりましょう。

 すべての日本国民は,未だイランに捕われたままの米国民五十人の運命に対する米国国民の深いご懸念は,十分に理解しております。私は,それらのひとびとの安全について,貴国民とともに心からの祈りを捧げます。

 また,私は,大統領閣下の忍耐と抑制に敬意を表するものです。それは,勇気ある人のみが示し得るものであります。状況はあまりにも深刻であります。私は,いまここで,月並みの同情や支持の言葉を並べることはいたしません。しかし,日本は,米国との連帯を示す用意があり,他の友邦と協調して,人質の一日も早い解放を平和的に実現するため,最大の努力をつくすことを申し上げておきたいと思います。

 われわれは,ソ連のアフガニスタンに対する軍事介入とその世界平和に対する挑戦についても,同様に真剣な話し合いをしました。大統領と私は,ソ連の侵略がもたらした挑戦に対処するにあたり,断固とした立場をとり続けなければならないこと,そして中東およびアジアの国々に対し,その平和と安定のために支援の手を差しのべるべきであることに意見の一致を見ました。この点に関し,私は,大統領に現在の状況の下でモスクワ・オリンピックに参加することは望ましくないとする日本政府の立場を伝えました。

 われわれは,また,日米関係についても話し合いました。私は,両国間に存在している固い友情に極めて満足しております。これまでかつて文化,歴史,言語の異なる二国間に,われわれの間に見られるように緊密で強固な絆が存在したことはありません。

 大統領閣下,本日,私に示された心暖まるご歓待に対し,重ねて感謝いたします。われわれは,真の友人がそうであるように,われわれの間にある特別の結びつきが壊れることを怖れる必要なく,お互いの胸にあることを明らかにしていくでしょう。われわれは,必要とされる場合に,また危機にあたって,お互いが必要とする支援を必ず差しのべるでしょう。われわれ日本人は,最も雄弁ではないかもしれませんが,貴国にとって確固たる,そして最も信頼できる友邦の一つであり続けます。われわれは,貴国がわれわれにとって同様の友邦であることを確信しております。