データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 鈴木善幸総理大臣とロナルド・レーガン米大統領との共同声明

[場所] ワシントン
[年月日] 1981年5月8日
[出典] 外交青書26号,465ー468頁.
[備考] 
[全文]

(1)鈴木総理大臣夫妻は、米国政府の招待により、5月4日から9日まで、米国を公式訪問した。鈴木総理大臣とレーガン大統領は、5月7日及び8日の両日ワシントンにおいて会談し、現下の国際情勢及び日米関係につき包括的かつ充実した検討を行った。両者は、世界の平和と繁栄を目指し、緊密に協力していくことを約した。総理大臣と大統領は、日米両国間の同盟関係は、民主主義及び自由という両国が共有する価値の上に築かれていることを認め、両国間の連帯、友好及び相互信頼を再確認した。

(2)総理大臣と大統領は、ソ連の軍事力増強並びにアフガニスタンへの軍事介入及びその他の地域における行動にみられる第三世界におけるソ連の動きに対し憂慮の念を示した。両者は、ソ連のアフガニスタンへの介入が容認できないものであり、ソ連軍の即時無条件全面撤退が実現されるべきであるとの立場を再確認した。両者は、ポーランドの問題は外部からのいかなる干渉にもよることなく、ポーランド国民自身により解決されるべきであり、ポーランドに対するいかなる介入も世界平和に深刻な影響を与えるものであるとの考えをあらためて述べた。両者は、ポーランドへの介入が起きた場合には、西側先進民主主義諸国は、協力し、協調した政策を遂行すべきであるとの点で意見の一致をみた。

(3)総理大臣と大統領は、アジアの平和と安定に対する双方の関心を確認し、

−中華人民共和国との間で協力関係をそれぞれ引き続き拡大していくこと、

−日本を含む東アジアの平和と安全にとって重要であるものとして朝鮮半島における平和の維持を促進すること、

−アセアンの連帯及びその構成国がより大きな強じん性と発展を追求することを助けるため引き続き協力を行うこと、

につき意見の一致をみた。

総理大臣と大統領は、在韓米地上軍を維持するとの大統領の決定及び本年1月の総理大臣のアセアン諸国訪問に最近みられたように、この関連で日米各々が果しているそれぞれの役割を高く評価した。

 両者は、インドシナの永続的平和回復のため、国連総会決議に基づく国際会議を通じ外国軍隊の撤退を含むカンボディア問題の早期かつ包括的政治解決が行われることが重要であることに意見の一致をみた。

(4)総理大臣と大統領は、中近東、なかんずく湾岸地域の平和と安全の維持が、全世界の平和と安全にとり極めて重要であることを確認した。両者は、同地域の安全がぜい弱な状況にあることに直面しての米国の確固たる努力が安定を回復することに貢献していること、及びそれにより日本を含む多くの諸国が裨益していることにつき意見の一致をみた。両者は、また、同地域の安全を強化するため、包括的中東和平達成のための過程がさらに促進されるべきことについて意見の一致をみた。

(5)総理大臣と大統領は、国際情勢の検討の過程で、世界の他の地域に種々の不安定要因が存在することに留意し、特に、アフリカ及び中米の一部地域において、平和と安定に影響を及ぼす事態が存在することにつき、懸念を表明した。

(6)総理大臣と大統領は、真の意味での軍備管理及び軍縮に向けての国際的努力が世界の平和と安定を前進させ、国際問題における自制と責任を助長し、また、西側全体の安全を促進する上で果たすべき役割を認めた。

(7)総理大臣は、先進民主主義諸国は、西側全体の安全を総合的に図るために、世界の政治、軍事及び経済上の諸問題に対して、共通の認識を持ち、整合性のとれた形で対応することが重要であるとの考えを述べた。

総理大臣と大統領は、すべての西側先進民主主義諸国がその平和と安全に対するこれらの国際的挑戦に対処するに当たり、防衛、世界経済の改善、第三世界に対する経済協力、及び相互に補強し合う外交活動の分野において、一層の努力を行う必要があることを認めた。

(8)総理大臣と大統領は、日米相互協力及び安全保障条約は、日本の防衛並びに極東における平和及び安定の基礎であるとの信念を再確認した。両者は、日本の防衛並びに極東の平和及び安定を確保するに当たり、日米両国間において適切な役割の分担が望ましいことを認めた。総理大臣は、日本は、自主的にかつその憲法及び基本的な防衛政策に従って、日本の領域及び周辺海・空域における防衛力を改善し、並びに在日米軍の財政的負担をさらに軽減するため、なお一層の努力を行うよう努める旨述べた。大統領は、総理大臣の発言に理解を示した。両者は、日本の防衛に寄与することに対する共通の利益を認識し、安全保障問題に関するなお一層実り多い両国間の対話に対する期待を表明した。この関連で、両者は、6月に予定されている大臣レベル及び事務レベル双方での日米両国政府の代表者による安全保障問題に関する会合に期待した。

(9)総理大臣と大統領は、先進工業国と開発途上国との間の関係の重要性につき意見の一致をみた。両者は、各種の手段、特にオタワ及びメキシコで予定されている討議を通じ、南の諸国との関係に対処するに当たり建設的な進展が得られることに対する期待を表明した。

両者は、世界の平和と安定の維持のためには開発途上国の政治的、経済的及び社会的安定が不可欠であることを確認した。総理大臣は、日本政府が新中期目標の下で政府開発援助の拡充に努め、また、同政府が世界の平和と安定の維持のために重要な地域に対する援助を強化していくと述べた。

両者は、また、インドシナ、アフガン及びアフリカの難民に対する援助を通じ、国際的不安定の犠牲者を今後とも支援していくと述べた。

(10)総理大臣と大統領は、世界経済が直面している諸問題につき討議した。この関連において、両者は、多くの諸国において保護主義の圧力が高まりつつあることにつき懸念を表明するとともに、日米両国がガット体制に具現された自由かつ開放的な貿易の諸原則の維持と強化に引き続き努力する決意であることを確認した。これに関連して、大統領は、米国の自動車産業が困難な調整の期間を経つつある時に、米国向けの自動車輸出の抑制のため日本政府によってとられた自主的措置に対し謝意を表明した。

総理大臣と大統領は、世界経済の安定と発展を確保する上で、主要国首脳会議が果している役割を高く評価した。

(11)総理大臣と大統領は、両国間の緊密な経済関係に満足の意を表するとともに、この関係が一層拡大するであろうとの展望に注目した。両者は、両国間の経済上の諸問題について、これまで善意と協力の精神に基づき相互に満足のゆく早期解決が図られてきていること及び今後とも引き続いてこのような解決が図られるべきことにつき意見の一致をみた。

(12)総理大臣と大統領は、日米経済関係の長期的な発展に資する諸提言が盛られている日米経済関係グループの報告書を高く評価した。両者は、両国政府がこれらの種々の提言について可能なものの実施に取り組むべきであることにつき意見の一致をみた。両者は、また、これらの提言が日米財界人会議等の場で検討されるよう希望を表明した。

両者は、日米高級事務レベル会議を含む種々の場を通ずる両国間の対話の重要性を再確認した。

(13)総理大臣と大統領は、エネルギー問題が世界経済の健全な発展にとって引き続き重大であることに留意し、日米両国が他の先進工業国とともに、エネルギー生産の増大、代替エネルギー源の開発・利用の促進及びエネルギーの節約等の分野においてさらに努力することが必要であることを再確認した。

(14)総理大臣と大統領は、核兵器の拡散防止の死活的重要性にかんがみ、引き続きそのための国際的な努力を推進していく必要があることを再確認した。他方、両者は、世界の増大するエネルギー需要に対応するためには、適切な保障措置の下で今後益々原子力の果たすべき役割が拡大されなければならず、日米両国が原子力平和利用の促進のために一層協力すべき特別の責務を有していることにつき意見の一致をみた。この関連において、大統領は、日本にとって再処理が重要であるとする総理大臣の見解を支持した。総理大臣と大統領は、これを受けて、東海再処理工場の運転継続及び新たな再処理施設の建設等の懸案事項の早急かつ恒久的な解決を図るために、両国政府が速やかに協議を開始すべきことに意見の一致を見た。

(15)文化交流が相互理解と友好を育成していく上で重要な要素であるとの両者の信念を強調し、大統領は、日本政府が、日米友好基金に対し資金協力を行ったこと、並びにニューヨークの日本協会及び来財政年度より開始される「ユース・フォア・アンダスタンディング」の日米交流特別プログラムに対し継続的に、相当額の財政的支援を各々行う旨同政府が意図表明したとの総理大臣の発表を歓迎した。

(16)総理大臣は、大統領に対し、訪日の招待を行った。大統領は、総理大臣に対し、丁重な招待につき謝意を表し、双方にとり都合のよい時期に日本を訪問することを希望している旨述べた。