データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アメリカ合衆国及びカナダ訪問について(鈴木内閣総理大臣)

[場所] 東京
[年月日] 1981年5月12日
[出典] 鈴木演説集,199−202頁.
[備考] 衆議院本会議・1981年5月12日,参議院本会議・1981年5月13日
[全文]

 私は,五月四日から九日まで伊東外務大臣とともに米国を訪問し,レーガン大統領と二回の会談を行ったほか,ブッシュ副大統領,ヘイグ国務長官ほか関係閣僚,米国議会両院の指導者,米国財界人,言論人等と懇談いたしました。さらにナショナル・プレス・クラブにおいて,わが国の外交の基本姿勢,日米関係等を中心に演説を行いました。

 私はまた,五月九日に短時間ながら,カナダを訪問し,オタワにおいて,トルドー首相と親しく意見交換を行いました。

 私の今回の訪米の主な目的は,多くの難問を抱えている国際社会の中で,現下の国際情勢に対する基本認識につき,レーガン大統領との間で,大所高所から意見交換を行うとともに,自由世界の責任ある構成員である日米両国が連帯,協調して,世界の平和と繁栄を目指し,緊密に協力していくべきであるとの姿勢を確認する点にありました。この点は共同声明の冒頭に謳われております。

 レーガン大統領との会談では,相互の信頼感と友好的な雰囲気の中で,東西問題,アジア情勢を中心として国際情勢,防衛問題等,日米二国間関係,国際経済問題等両国の共通に関心を有する諸問題について幅広く意見交換を行いました。会談の成果は,私とレーガン大統領との間の共同声明にて表明いたしましたが,この際特に次の諸点を指摘しておきたいと思います。

 東西関係については,ソ連の軍事力増強,第三世界におけるソ連の動きに対し憂慮の念を示し,ソ連軍のアフガニスタンからの即時無条件全面撤退が実現されるべきであり,ポーランドの問題は,いかなる干渉にもよることなく,ポーランド国民自身により,解決されるべきであるとの立場を再確認しました。

 他方,ソ連との対話の窓口を閉ざさないことが必要であることにも意見の一致がみられました。また,当方より,軍備管理及び軍縮の努力を進めることが,世界平和のために重要であることを強調し,合意をみた次第であります。

 その他国際情勢については,アジアを中心に意見交換を行い,アジアの平和と発展に向け,日米各々がこれまで果たしてきた役割を評価し,今後引き続き互いに協力しつつ夫々の役割を果たしていくことで意見の一致をみました。

 また,日米両国を含む西側先進民主主義諸国は,世界の政治・軍事及び経済上の諸問題に対して互いに緊密に連絡を取りつつ,国力,国情に応じ協力しながら西側全体の安全を総合的に図り,それを通じて世界の平和と繁栄を確保して行くことにつき,意見の一致をみました。

 防衛問題については,日本の防衛並びに極東における平和及び安定を確保するために,日米安全保障条約の果たしてきている役割を再確認するとともに,右目的を達成していく上で,日米両国間の適切な役割分担が望ましいことを確認いたしました。

 なお,わが国がいわゆる集団的自衛権の行使をなしえないことは憲法上明らかでありますので,極東の平和と安定のための日本の役割は,日米安保条約の円滑かつ効果的な運用のほか,政治,経済,社会,文化の各分野における積極的平和外交の展開に重点がおかれることとなります。

 わが国の防衛努力については,第二回首脳会談において,私から,わが国の基本的な考え方を率直かつ詳細に説明しました。すなわち,わが国としては,自主的に,かつ憲法及び基本的な防衛政策に従って防衛力の整備の努力を行うものであることを明言するとともに,世論の動向,財政状況,他の諸政策との整合性,近隣諸国への影響等の要素にも十分な配慮を払う必要がある旨を説明しました。大統領よりは,日本が憲法その他の制約の範囲内で従来より防衛力の整備に努力してきたことに理解を示すとともに,引き続き防衛力の整備に努力されるよう期待する旨の表明がありました。

 経済関係については,世界経済が現在直面している諸問題につき話し合い,両国は自由かつ開放的な貿易の諸原則の維持と強化に引き続き努力する決意を確認し,また,日米二国間の経済関係を今後一層拡大させていくことの重要性につき認識の一致をみました。

 なお,自動車問題につき大統領より,日本側の自主的措置を多としている旨の発言がありました。

 先進工業国と開発途上国との関係の重要性につき意見の一致をみ,オタワ・サミット,南北サミット等を通じ,南の諸国との関係に対処するに当たり建設的な進展がえられることへの期待を表明しました。

 原子力の平和利用問題については,日本にとって再処理が特に重要であるとのわが方見解に大統領の支持が表明され,今後懸案事項の進展が期待されます。

 これらの意見交換を通じて,私とレーガン大統領との間で,日米間の友好協力関係が,民主主義,自由,開放経済等両国の共通の政治・経済上の基本理念に立脚したものであることを確認し,かかる同盟関係にある日米両国が互いに連帯して,世界の平和と活力ある国際社会の実現に向け,協力してゆくことが今強く求められていることを確認いたしました。

 なお,原潜問題については,私から大統領に対し,米側が誠意をもって首脳会談前に中間報告を出したことを評価しつつ,今後できるだけ早く最終報告が行われることを期待すると述べ,大統領は米側としても徹底的に調査を行う考えである旨を明らかにしました。

 私は,今回の訪米を通じて,レーガン大統領との間で親密な信頼関係を築き上げることができたものと確信しております。いうまでもなく,わが国にとって,日米関係は外交の基軸であり,大統領と今後とも率直に話し合うことができることは,日米両国間の関係の発展のみなず,世界の平和と繁栄にとって少なからず重要な意味をもつものと考えております。

 トルドー首相との会談では,カナダが来る七月の先進国首脳会議の議長国であることから,オタワ・サミットが話題の中心でありましたが,お互いに会議の成功のために今後とも緊密に協議を続けていくことで意見の一致をみました。

 また,日加関係の現状と将来の展望についても率直に意見交換を行いました。

 私は,今回の米国及びカナダ訪問を通じて,わが国の国際社会の中で果たすべき役割に対する期待が日増しに強まってきていることを強く感じました。私は総理大臣として,今後とも世界の平和と繁栄に向け,国益をふまえ,わが国にふさわしい貢献を行ってまいる所存であり,引き続き国民の皆様の御支援を賜わりたいと存じます。