[文書名] 総合経済対策に関する中曽根内閣総理大臣談話
最近の我が国経済は,明るさが見え始めているものの,国内需要は盛り上がりを欠いており,経常収支は黒字が続いております。
また,世界景気は先進国を中心に回復の方向に向かいつつありますが,世界的な高金利の傾向はなお是正をみず,さらに先進各国の失業は依然高水準であり,保護主義的な動きがなお顕著であります。
世界経済の重要な一翼を担う我が国としては,このような情勢にかんがみ,行財政改革との整合性に十分配慮しつつ,内需中心の経済成長を確実なものとするとともに,ウィリアムズバーグ・サミットの合意を踏まえ,自由貿易体制の維持・強化,調和ある対外経済関係の形成及び世界経済の活性化への貢献を図るべく率先して努力することとし,諸外国の要請をも考慮しつつ,このたび,総合的な経済対策を決定いたしました。
本対策においては,まず第一に,内需の振興を図るため,公共投資等の事業規模の拡大に努めるとともに,所得税及び住民税の減税の実施,公共的事業分野への民間活力の導入,民間投資の促進,中小企業対策の推進及び金融政策の機動的運営による金利水準の引下げの促進を図ることといたしております。
第2に,市場開放を一層進めるため,特定品目の関税率の引下げ,鉱工業品の関税率引下げの一括前倒し実施の検討,さらには,鉱工業品の特恵関税枠の拡大を行うとともに,基準・認証制度改善の確実な実施,O.T.O.活動の強力な推進等を図ることとしております。
第3に,輸入金融面における特段の措置を講ずると共に,日本貿易振興会(JETRO)の輸入促進の機能の強化等各般の措置を講ずることにより,単に市場開放にとどまらず積極的な輸入促進を図ることといたしております。
第4に,円の適正な対外価値の維持を図る観点から,世界的な高金利の是正を期待しつつ,積極的な資本流入の促進を図っていくこととし,このため,政府保証外債の発行,国債の海外発行等の途を開くための法改正の準備,金融・資本市場の環境整備等を行ってまいることといたしております。
第5に,国際協力の積極的推進を図ることとし,産業協力,経済協力,国際機関への資金協力を推進するとともに,調和ある対外経済関係の形成の観点から節度ある輸出を行うべく努力していくことといたしております。
以上の措置は,現在の厳しい財政事情の下でとりうる最大限のものであり,これにより,内需中心の経済成長が確実なものとなり,輸入が促進されるものと考えております。
もとより,これらの諸措置を真に実効あらしめるためには,官民挙げての努力が肝要であります。特に,輸入の促進のためには,国民各位が外国品を差別せず歓迎するという態度を堅持されることが必要であります。今回,我が国がとった措置は,「国際社会への積極的貢献こそ日本のとるべき道」という大局的見地に立ったものであり,この点について御理解と御協力をお願いいたしたいと思います。
また,諸外国においてもこのような我が国の積極的な努力を十分理解され,保護主義に対する巻き返しを図り,貿易の拡大均衡による世界経済の調和ある発展と自由貿易体制の維持・強化のため,努力されるよう強く希望するものであります。
国際的な協力が今ほど求められている時はありません。自由主義諸国間が結束して努力することにより,自由主義社会の活力を維持し,新たな繁栄への道を歩むことは可能であると確信いたします。我が国は,このような観点から,その国際的な地位にふさわしい積極的な寄与を行ってまいりたいと考えております。