データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 首脳会談終了時における中曽根内閣総理大臣とレーガン大統領の発表

[場所] 東京
[年月日] 1983年11月10日
[出典] 外交青書28号,467ー471頁.
[備考] 
[全文]

中曽根内閣総理大臣:

 レーガン大統領御夫妻を国賓としてお迎えしたことは,日本の国民及び政府,並びに私共夫妻にとって大きな喜びでありました。

 大統領と私は,昨日及び本日の2日間にわたり,極めて実り多い会談を行い,広い範囲にわたる問題について意見交換を行いました。今回の会談を通じ,大統領と私は,自由と民主主義という理念と価値観を共有する日米両国が,世界の平和と繁栄に向けて一層の努力を重ねていくことを改めて確認しました。

 レーガン大統領は,アジア太平洋地域の重要性について明確な認識を有しておられ,今回の日韓両国訪問,明年に予定されている中国訪問,並びに将来予定される東南アジア諸国訪問は,まさにこの証左となるものであります。アジア太平洋地域のダイナミズムは世界経済の拡大に中心的役割を果たしており,大統領と私は,このアジア太平洋地域の一層の発展のために協力していくべきことに完全な意見の一致をみました。

大統領閣下,

 私は去る1日コール西独首相との間で,本年5月にウイリアムズバーグにおいて採択された政治声明の精神に沿って,自由世界が結束と連帯を維持しつつ,自由と平和と安定の維持確保,世界経済の繁栄及び第三世界の発展のために取り組むべきであることを明確にする「東京声明」を発出しました。

 私は,最近,東西関係の緊張の増大に加えて,世界各地における地域的紛争あるいは暴力事件の頻発がみられ,かかる傾向が継続し,増幅す場合には世界平和に対する重大な脅威となりかねないと考えており,このような状況においては,世界各国が平和と安定の確保,世界経済の再活性化及び諸国民の繁栄のために決意を今一度新たにすべきであると信じております。そして,こうした国際的な紛争あるいは懸案に関しては理性に基づく対話と交渉が進められるべきであり,当事者は,究極的目的達成のための段階的措置あるいは斬新的解決策の探究をいとうことなく,あくまで着実かつ現実的な努力を行うべきであると信じます。この点は,特に,軍備管理交渉について妥当するものと考えます。また,西側は自由と平和を守るためには,連帯と結束の下に毅然として対処し,そのために払うべき艱難をいとうべきではないと考える次第であります。以上の諸点は,いずれも「東京声明」に盛り込まれておりますが,今般の会談において,貴大統領が同声明に対し,全幅的な同感を表明されたことは誠に意義深いことと考えます。

 大統領と私は,軍備管理を中心とする東西関係の諸問題,アジア,中東,中米地域等の情勢について意見交換を行いましたが,特に,INF(中距離核戦力)交渉については,同交渉がアジアを犠牲にすることなく,アジアの安全保障をも念頭において,グローバルに行われるとの点が再確認されました。また,われわれは,ビルマにおける爆弾テロ行為は世界の平和と秩序に対する許し難い行為であるとして強く糾弾すると共に,朝鮮半島の永続的平和と安定の実現のために引き続き努力していくことに意見の一致をみました。中東については,レバノン情勢の安定化のために多国籍軍の果たしている役割につき,私から高く評価している旨表明しました。

 日米安保体制は日本及び極東における平和と安全の基礎であります。我が国としては今後とも日米安保体制の信頼性の一層の強化のため努力していく方針であり,我が国の防衛力の整備については,一昨年の日米共同声明に唱えられている通り,一層の努力を行う所存であることを申し述べます。

 国際経済の分野では,大統領と私は,ウィリアムズバーグ・サミット宣言に沿い,世界経済のインフレなき持続成長を達成すること,保護主義を巻き返すこと,また,高い水準にある金利を低下させることの重要性を再確認しました。これらは累積債務に苦しむ開発途上国の状況改善のためにも,資金面での協力と並んで重視すべきことであると思います。

 二国間の経済問題についてもこれまでに達成された成果を確認するとともに,今後とも懸案事項の解決のために引き続き努力を払うことにつき合意しました。この関係において,私は,大統領が米国における保護主義と戦う旨約束されたことを高く評価しました。大統領と私は,円・ドル問題の重要性につき十分な意見の一致をみています。我々は為替レート問題及び投資のそれぞれに関し協議の場を創設することに合意しました。この関連で,私は,米国の金利を低下させるため引き続き米側が努力するよう要請しました。大統領と私は,両国間における相互の投資の流れの増大の重要性を強調し,私は,ユニタリー・タックス制度が日本の米国における投資にとって深刻な障害となりつつある点につき懸念を表明しました。

 また,私から,自由貿易体制を強化し,世界経済に新たな自信を与えるため,新たな多角的貿易交渉の開始の準備を促進していくことが重要であることを強調し,大統領の強い御賛同を得ました。今後広く関係各国に呼びかけていく所存であります。

レーガン大統領閣下,

 現下の国際情勢の下で貴大統領の双肩に担われている全世界的責任は誠に重いものがあります。私としても世界の平和と繁栄を目指してできる限りの貢献を行って行く所存であります。

レーガン大統領:

 アメリカの国民と政府を代表して,私は,天皇陛下,中曽根総理大臣,日本の政府と国民に対し,貴国訪問中に妻ナンシーと私自信,それに私のスタッフに与えてくださいました暖かいご歓待に対して,感謝の意を表します。

 中曽根総理と私は,広範囲にわたる二国間問題と世界の問題に関して2日間の極めて実り多い会談を終えたところであります。二つの偉大な太平洋国家の指導者として,私たちは強力で豊かで多様な関係を擁護しております。日米は,自由民主主義と平和という共通の価値観によって結ばれています。私たちは,広範囲の政治,経済,安全保障,教育,分か及び科学をめぐって今後さらに一層努力することを誓っています。

 私は,平和と繁栄と進歩のためのパートナーシップを強化することを求め,日本の友人として参りました。また,私達のパートナーシップが,これまでよりも強力であることを確信しながら,私は日本を去るでしょう。私たちは,自由な両国民の才能,活力,決意,創造性などの大きな減泉を活用して,進歩のための計画を推進していくことで意見が一致しました。

 私たち,国際,経済及び政治問題における平和と進歩の協力者としての日本による,もっと積極的な役割を歓迎します。私たちはグローバルな諸問題を検討しました。そして私たちは,協力の可能性に関して多くの同じ見解を抱いています。中曽根総理が東京声明として発表された諸原則は,私が全面的に支持する諸原則であります。

 私たちにとっては,共に世界をより安全な場所にすること以上に大きな責任はありません。朝鮮半島,中東,カリブ海地域及び北西太平洋上には平和にとっての大きな脅威が存在しています,また,軍備をめぐる交渉のテーブルで,私たちに敵対する側の態度は,兵器を削減し,より安定した平和を築こうとする世界の意志に反するものです。

 私は総理に対し,両国の相互安全保障関係が円滑に進んでいることに満足の意を伝えました。日本は,4万5千人のアメリカ軍将兵を受け入れており,相互協力及び安全保障条約によって可能になっている日本の米軍基地は,日本の防衛にとって不可欠であるのみならず,極東における平和と繁栄に寄与しています。

 日本の防衛努力についてアメリカは,依然こう確信しています。アジアの平和と安全保障のために日本ができる最も重要な貢献は,日本が自衛をし,かつ我々の相互防衛努力をより多く負担することにある,ということです。

 軍備管理に関する話合いにおいて,私は,中曽根総理に対し,ソ連の中距離ミサイルSS−20をグローバルに可能な限り低い水準に削減することを求めると保証しました。アメリカは,中距離核戦略交渉においてアジアの安全に不利になるような以下なる行動のとりません。核兵器の拡散を防ぐため,包括的な国際保障措置についてコンセンサスに達することが緊要であるという点で,私たちの意見は一致しました。

 中曽根総理と私は,ウィリアムズバーグ・サミットで明確にされた緊急を要する国際的な経済上の責任について話し合いました。日米は共に,国際貿易と金融制度を引き続き自由化するよう求め,保護主義と戦わなくてはなりません。世界の自由企業の発展を奨励することによってインフレを伴わない経済発展を促進し,深刻な債務問題に直面している国を含めた発展途上国を援助する責任を分かち合わなければなりません。私達はまた,対外援助の調整を促進することでも意見の一致を見ました。

 日米関係の中で,貿易問題は大きな存在になっています。貿易問題を一夜にして解決する簡単な方策はありませんが,これらの問題を解決するよう,私たちは最善の努力を続けます。

 アメリカは,日本政府が最近とられた貿易障壁の削減措置を歓迎します。私は、日本の貿易・投資市場を開放するため,一層の措置を講ずることの重要性を強調しました。私は特定の貿易問題を交渉するために来たのではありませんが,私たちにとって差し迫った重要性をもつ一部の諸問題を指摘しました。例えば,貿易と消費者にとっての重要性から私達は,アメリカの競争力が非常に強い一部の製品に対する日本の高い関税の引下げを求めています。日本の農産物割り当ては懸念の種となっています。

 一方,アメリカは国内の保護主義と戦わねばなりません。私はそうすることを総理に誓いました。

 日米貿易諸問題において前進が遂げられれば,全世界的貿易自由化への努力を推進することができます。例えば,総理の多国間貿易交渉の新ラウンドへの呼びかけを私は心から支持します。

 私は,アメリカが日本へのエネルギー,とくに石炭の信頼し得る長期供給国であり得ることの確信を表明しました。そして,中曽根総理もこれと同じ見解を抱いておられることを知って,うれしく思いました。エネルギー貿易の拡大は,アメリカ人により多くの雇用をそして日米両国により大きな安全をもたらすでしょう。

 中曽根総理と私の同意のもと,竹下大蔵大臣とリーガン財務長官は本日,相互の関心事である,円・ドル問題及びその他の金融経済問題に関する共同新聞発表を行います。その声明に盛られたコミットメントと措置が,日米の経済関係をさらに強化するであろうという点で,私達は合意しています。

 それぞれの国における自由で開放された資本市場が円・ドル為替レートにとってもつ重要性に,私たちは留意しました。私達は,両国政府間のより密接な経済協議が必要であることを強調しました。円・ドル為替ルート改善について,合意された措置の進行状況を監視するための閣僚レベルの作業グループが設立されようとしています。

 開放された資本市場を実現するための特定の措置に対する相互のコミットメントによって,円が,自由世界で第2の経済大国,日本の政治的安定と経済力をより十分に繁栄するようになるでしょう。

 さらに,私達は,相互投資を促進するための委員会を組織するよう,経済関係準備閣僚たちに指示することで意見が一致しました。

 日米両国はこうした歩みを,共にとり始めました。今年1月に初めてお会いして以来,ウィリアムズバーグ・サミットにおいても,また今回の訪日においても,私たち2つの偉大な民主主義国はお互いに対し,また世界に対して特別な責務を分かち合っているという点で,中曽根総理と私が意見を同じくしていることに,私は意を強くしました。

 これまでの進展を基に一歩ずつ前進の跡を踏まえつつ歩み続けようではありませんか。そのために私達は里程標を設定し,それによって進歩のための計画の成果を評価し,不可欠なこととして,その計画が実行されるよう保証しなければなりません,この件については,明日,総理ともっと詳細にわたって話し合うつもりです。

 今回の訪日により,偉大な両国の友好の絆が強化されました。その結果,日米両国は,国内においても全世界においても一層平和で繁栄する将来を築くため,パートナーとして協力していく準備がいっそう整いました。私達は,何がなされるべきか,それがどのようになされるべきかを知っています。お互いを信じ合う信念と,仕事を進めていく勇気と,最後までやり抜く決意を抱こうではありませんか。

 御静聴ありがとう。