[文書名] 対外経済対策
最近における内外の経済動向と世界経済に占める我が国の地位にかんがみ,内需中心の経済成長の達成を図るとともに,自由貿易体制の維持・強化,調和ある対外経済関係の形成及び世界経済の活性化を図るため積極的な努力を行っていくことは,我が国の重要な責務である。
このような観点から,我が国としては,これまでも数次にわたり対外経済対策を実施してきたところであり,その効果は徐々に現れてきている。
今般,国際経済社会において我が国が果たすべき役割にかんがみ,市場の開放,輸入の促進,金融・資本市場の自由化,投資交流の促進等の施策を一層強力に推進することが重要と考え,下記のとおり,対外的な懸案事項についての対策を決定し,実施する。
記
1.市場の開放及び輸入の促進
(1)関税率の引下げ
<1>個別品目の関税率の撤廃叉は引下げ
我が国の関税水準は,既に諸外国に比べ低い状況にあるが,今般,更に別紙1の品目につき昭和60年度から関税の撤廃叉は引下げを行うこととし,所要の手続きを進める。また,ワイン及び紙製品(別紙1付記)については,昭和60年度から関税を引き下げる方向で,できるだけ早期にその具体的内容を確定できるよう努める。
<2>東京ラウンド合意に則った関税引下げの繰上げ措置
東京ラウンド合意に則った関税引下げ措置につき,主要先進諸国における繰上げ措置の実施状況を勘案して,昭和60年度から,鉱工業品については2年,農林水産品については1年繰上げて実施することとし,所要の手続きを進める。
<3>民間航空機貿易に関する協定に基づく免税の対象品目の追加・拡大
民間航空貿易に関する協定付属書の改正を受諾することにより免税の対象となる品目が追加・拡大されるよう所要の手続を進める。
(2)輸入制限の緩和
<3>関係国との協議の結果を踏まえ,次の措置を実施する。
イ.牛肉
高級牛肉の輸入数量を昭和59年度から62年度までの4年間に27,600トン増加する。
ロ.オレンジ
オレンジの輸入割当数量を昭和59年度から62年度までの間,毎年度500万トンずつ増加する。
ハ.オレンジジュース
オレンジジュースの輸入割当数量を昭和59年度から62年度までの間,毎年度500万トンずつ増加する。
ニ.グレープフルーツジュース
グレープフルーツジュースについては,昭和59年度及び60年度の2年間国内需要に即した輸入割当を行い,その後輸入割当制度を撤廃する。
<3>そのほか次のとおり輸入制限の緩和を行う。
イ.輸入の自由化
(i)豚肉調整品(牛肉を含まないもの)(昭和60年度実施)
(豚肉単味調整品には差額関税制度を適用する)
(ii)ハイテストモラセス及びその他の佐藤(昭和59年度中実施)
(iii)フルーツピューレ・ペースト(かんきつ類(レモン・ライムを除く),パイナップル,桃,りんご及びぶどうのもの以外のもの)(昭和59年度中実施)
(iv)フルーツパルプ(かんきつ類(レモン・ライムを除く),パイナップル,桃,りんご及びぶどうのもの以外のもの)(昭和59年度中実施)
(v)プルーン,チェリー,アプリコット及びベリー(ブルーベリー及びストロベリーを除く)の果汁並びにトロピカルジュース(パイナップルジュースを除く)(昭和59年度中実施)
(vi)その他の加糖調整食料品のうち次のaからb以外のもの(昭和59年度中実施)
a.アイスクリームミックス及び育児用調整粉乳その他のミルクを主成分とする調整食料品
b.海草の調整食料品(あまのり属,あおのり属,ひとえぐさ属,こんぶ属叉はとろろこんぶ属のものに限る)
c.もち,米飯,米果生地,みじん粉,寒梅粉,ビタミン強化米その他のこれらに類する米,小麦,大麦叉ははだか麦の調整食料品
d.砂糖の重量割合が50%以上のその他の調整食料品
ロ.輸入割当数量の拡大等
(i)雑豆
昭和59年度及び60年度毎年最低輸入割当数量
5,500万ドル叉は12万トン
(ii)落花生
昭和59年度及び60年度毎年最低輸入割当数量 約5.5万トン
昭和60年度 約6万トン
(iii)コンビーフ(気密容器入り)
昭和59年度 50%増
(iv)フルーツピューレ・ペースト
非自由化部分昭和59年度 2,000トン
(v)フルーツパルプ
非自由化部分昭和59年度 2,000トン
(vi)パイナップル調整品
昭和59年度及び60年度毎年 90万ケース
(viii)非かんきつ果汁
ぶどう果汁 昭和59年度及び60年度毎年最低輸入割当数量
3,500トン
りんご果汁 昭和59年度及び60年度毎年最低輸入割当数量
1,000トン
その他の非自由化部分(パイナップル果汁を除く)昭和59年度
1,000トン(viii)トマトジュース
昭和60年度までに 5,000キロリットル
(ix)トマトケチャップ・ソース
昭和60年度までに 5,000トン
(3)製造たばこの輸入自由化及び流通の改善
第101回国会に提出中のたばこ事業法案等の専売改革関連法案においては,たばこの専売制を廃止するとともに,製造たばこの輸入及び流通につき,次の措置を講ずることとしている。
<1>輸入の自由化
製造たばこの輸入業及び卸売業を自由化する。
<2>流通の改善
イ.小売店に対する激変緩和の観点から,全国一律小売定価制は当分の間維持するが,流通経費等は業者の自由となり,輸入業者は,輸入たばこの価格政策を自由に展開することが可能となる。
ロ.輸入業者は,小売店の中から自由に取引先を選択することができることとなる。なお,専売改革関連法律の施行前においても,輸入たばこの取扱店の拡大等流通の改善に努める。
(4)基準・認証制度の改善
<1>外国検査機関の積極的活用
次の法律の認証制度に係わる検査において,外国事業者が我が国の認証を一層容易に取得し得るようにするため,検査能力等に関し一定の要件を満たす外国検査機関の検査データを受け入れることとし,昭和59年中に検査能力等の要件,受入れ方式等について当該認証制度に即した明確なガイドラインを作成,公表する。
消費生活用製品安全法
液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律
計量法
電気用品取締法
ガス事業法
(以上の法律については,それぞれ,外国検査機関の検査データの活用に関する実施要領を公表したところである。)
高圧ガス取締法(高圧ガス容器に係わる検査については,検査データを受け入れる外国検査機関について指針を作成した。)
工業標準化法(JIS表示承認後の工場検査について,外国検査機関を承認するための指針を作成した。)
農業機械化促進法(外国政府の指名した検査機関がOECDテストコードに従い実施した検査データについて,OECDが承認した場合受け入れる旨公表した。)
家畜改良増殖法(家畜人工授精用精液及び家畜授精卵の譲渡等に際し必要な証明書を発行する外国の政府機関に準ずる者について要件を公表した。)
飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律
農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律
船舶安全法
道路運送車両法
公衆電気通信法(電気通信事業法案が成立し,施行に移された場合も措置する。)
電波法
食品衛生法(輸入食品等に係る検査データの受入れを認め得る外国の公的検査機関について要件を公表した。)
労働安全衛生法
消防法
<2>外国検査データの受入れ,規格・基準の国際化
イ.化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく新規化学物質の審査に係る試験について,GLP制度(適正試験施設規範制度)を導入したところであり,その英文の説明書を早急に作成,公表する。
また,農薬取締法に基づく農薬の毒性試験について,昭和59年度中にGLP制度(毒性試験の適正実施に関する基準)を導入する。
ロ.薬事法に基づく医薬品,医療用具の承認に係る審査における外国の臨床試験データの受入れについて,人種差等の問題に関する諸外国との協議を含め専門的見地から更に検討を行い,昭和59年度中に中間報告を公表する。
ハ.電気用品取締法について,型式認可に係る検査に関し,国際電気機器適合証明委員会(CEE)外国検査データ相互受入れ制度(CB制度)へ加盟したところである。
また,欧州電気標準化委員会(CENELEC)が国際電気標準会議(IEC)規格への整合化を図る品目について,我が国の技術基準のIEC規格に対する整合化を進める。
さらに,IEC規格への整合化を図った技術基準につき,使用電圧差等に起因するIEC規格との差異等を取り扱った英文の説明書を早急に作成,公表する。<3>認証手続きの簡素化・迅速化
イ.輸入自動車の少数台数取扱制度の適用を受ける台数の上限を300台から500台に引き上げる。
ロ.薬事法に基づく新医薬品の承認について,長期安定性試験が完了していない場合でも,その中間結果に加速安定試験データが添付されていれば審査を開始し,審査開始後に完結した長期安定性試験データを提出することを早急に可能とする。
(5)製品輸入の促進
<1>特定外国製品市場浸透促進プログラムの実施
内外の官民合同の下で,我が国への輸出を希望する特定の外国製品の日本市場における販売拡大戦略等を調査するとともに,その普及支援等を行う特定外国製品市場浸透促進プログラムを実施する。
<2>外国製品展示会への支援等
ドイツ博′84,フランス展,オランダ紹介事業等を支援するとともに,名古屋輸入博を始め地方公共団体等が行う外国製品展示会に対し,日本貿易振興会(JETRO)の活用等により支援を行う。
また,昭和59年10月を第2回製品輸入促進月間とし,諸行事に積極的に取り組むとともに,日本貿易振興会(JETORO)及び(財)製品輸入促進協会(MIPRO)による製品輸入促進事業の外国への普及啓蒙を強化する。
2.先端技術分野における市場開放等
(1)通信衛星等
<1>民間企業による外国の通信衛星の購入
第101回国会に提出中の電気通信事業法案等においては,民間企業が電気通信事業を行うことが可能となっているので,これらの法案が成立した場合には,国内法令の手続に従い,民間企業が通信衛星を購入し,電気通信事業を行うことも生じよう。これにより民間企業が外国の通信衛星を購入する途が開かれることとなる。このため必要と認められる措置を講ずることとする。
<2>日本電信電話公社が日本電気電話株式会社に移行した場合における通信衛星の購入及び政府等の衛星購入
我が国としては,衛星の自主技術開発を進める方針であるが,将来,
イ.日本電信電話公社が日本電信電話株式会社に移行した場合,日本電信電話株式会社が需要者となる通信衛星については,宇宙開発政策との整合性を確保しつつ,同会社の独自の判断による内外から購入の途を開くこととし,
ロ.また,政府等が需要者となる衛星については,宇宙開発政策上自主技術開発を必要としないものについて,内外を問わず購入の途を開くこととする。
(2)電気通信事業
<1>第101回国会に提出中の電気通信事業法案においては,電気通信分野に競争原理を導入し,民間の活力を生かすこととしており,第ニ種電気通信事業については,外資規制を行わず,内外無差別を原則としている。また,本法案が成立した場合において,第ニ種電気通信事業に係る登録,届出その他の措置に関し,簡素,透明性の確保及び外資系企業等の第ニ種電気通信事業への自由な参入と自由な事業活動に配意した適正な法の運用等に努めるものとする。なお,同法案では,3年以内に法律の施行の状況について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずることとなっている。
<2>第101回国会に提出されている日本電信電話株式会社法案が成立し,日本電信電話公社が日本電信電話株式会社に移行した場合には,同社の事業の実施に当たり,他の電気通信事業者との間で公正な競争が確保されるよう配慮する。
(3)ソフトウエア保護
コンピュータプログラムに係る権利保護の問題については,第101回国会への法案の提出にこだわらず,より良い権利保護の在り方につき,国際的調和にも留意しつつ更に調整を進めるものとする。
3.金融・資本市場の自由化及び円の国際化の促進
我が国の金融・資本市場は,経済,社会の構造的変化,国際化の進展等に伴い,金利の自由化,公社債発行条件の弾力化,業務の多様化等,その自由化が着実に進みつつあり,また,これとともに,内外資金交流の規模も拡大し,円の国際化も漸次進みつつある。
このような環境の変化に対応して,従来より,我が国は行政面において各般の自由化,弾力化措置を講じてきたところであり,先般の総合経済対策等においても,法律改正事項も含め,各種の措置を講じてきている。
今後とも,金融・資本市場の自由化及び円の国際化については,我が国経済の効率化に資するとともに,世界経済の重要な一翼を担う我が国として相応の国際的責務を果たすとの観点から,内外の経済,金融情勢等を踏まえつつ,自主的,積極的かつ漸進的にその具体的推進を図ることとし,可及的速やかに今後における展望を作成の上,内外に示すこととする。
4.投資交流の促進
(1)情報提供等の体制の整備
日本貿易振興会(JETRO)において,理事長を本部長とする産業協力推進本部を設置し,政府関係機関,地方公共団体,産業界との密接な連携を図りつつ,直接投資交流に係る情報提供機能等の強化を図るとともに,直接投資に係る国内諸手続等に対するきめ細かな支援を行う。
また,各行政機関における対日直接投資に関する情報提供機能を強化する。
(2)苦情処理体制の整備
対日直接投資の手続等に関する苦情処理体制の整備を図るため,別紙2のとおり市場開放問題苦情処理推進本部(O.T.O.)の機能を拡充する。
(3)投資促進ミッションに対する支援等
地方公共団体等が対日直接投資促進のために派遣するミッション,外国政府等が自国への直接投資促進のために我が国に派遣するミッション等投資交流のためのミッションに対し積極的な支援を行うとともに,対外直接投資促進のためのミッションを派遣する。
(4)対日直接投資手続の改善
対日直接投資届出処理の一層の迅速化を図る。
5.エネルギー
長期的なエネルギー需給見通しを踏まえ,民間の自主性を尊重し,経済性と供給安定性に配慮しつつ,長期的観点からエネルギー供給諸国との協力関係の促進に努める。この一環として,民間石炭ミッションの訪米,民間によるエネルギー資源開発可能性調査の奨励等昭和58年11月に出された日米エネルギー作業部会の共同政策表明のフォローアップを行う。
6.外国弁護士の国内活動
外国弁護士の国内おける活動の問題については,日本弁護士連合会において,可能な限り早期に国際的にも国内的にも妥当とされる結論を得るよう一層の努力を払っているところであり,政府としては,日本弁護士連合会の自主性を尊重しつつ,可及的速やかに適切な解決が図られるよう努力する。
{<1>は原文ではマル1}