[文書名] 米国太平洋協力国内委員会におけるシュルツ国務長官の演説
(1)今日,太平洋地域は世界的な影響力を増大し,急速に世界における指導的な力の一つとなりつつある。東アジア諸国間に新たな幅広い協力の動きがみられ,また,太平洋共同体という意識(a sense of Pacific community)が芽ばえつつある。米国もこうした協力の精神を分かち合っている一員であり,太平洋地域に対する関心は全国的に高まっている。
(2)太平洋地域の将来の見通しは,政治的にも経済的にも明るいが,他方,同地域は世界で最も軍事力が集積している地域の一つでもあり,ソ連及びその代理国が政治的目的のために軍事力を使用するとの意図を有していることを考慮すれば,この集積は大いに懸念されるところである。また,フィリピン問題,人種間の緊張,地域的紛争,政治的自由化の遅滞等,同地域は多くの問題を抱えている。
しかし,それにも拘らず,この地域は驚くほど安定しており,これは単に力の均衡によるのではなく,中でも経済的活力が大きな要素である。この安定を維持するためには,考え方を同じくする諸国間の協力が不可欠である。
(3)太平洋地域は,人口,経済規模,宗教,文化等において多様性に富むが、他方,発展・成長に向けての平和で安定した環境への関心,市場経済体制,豊富な労働力,高い教育水準,健全な財政運営,強力な技術基盤等多くの共通点を有する。また,中華人民共和国も開放への方向に大きく動き出している。
(4)第二次大戦後,米国のこの地域での主要な関心は,アジア諸国の安全と政治的安定及び民主主義への動きに支援を与えることにあったが,域内における強い経済力の出現に伴い米国の関心の幅は拡大してきている。
(5)今世紀後半のめざましい発展の触媒としての日本の役割抜きにしては,太平洋地域につき語れない。日本は戦争による荒廃から,40年も経たぬうちに自由世界第2の経済力を有するまでになった。
日米の永遠のパートナーシップが東アジアにおける米国外交の要石である。過去40年間にわたって築かれてきた日米間の強力な絆は,太平洋協力と同地域のダイナミズムの基礎となっている。日米間の緊密な外交関係と日米安保条約は地域の平和と安定を強化してきた。しかしながら,両国間には解決されなければならない問題が依然として残っている。日本は解放された貿易・投資システムに対するコミットメントを履行するために具体的行動をとる責任を有する。両国首脳の全面的な支持の下に電気通信,電子機器,木材及び医療機材・薬品の4分野における貿易障壁を明らかにしこれを除去するための交渉を開始した。安倍外務大臣と私が総覧し,5月初めのボン・サミットの時点で両国首脳に対し進捗状況を報告することになっている。
安全保障の分野においては,日本の公けに述べている防衛上の責任とその責任を満たす能力とのギャップが縮められなければならない。日本は,グローバルな経済及び安全保障システムに対する責任を果たさなければならない。
(6)太平洋地域の各国は日本の経験に学び,積極的にその教訓を取り入れようとしている。新興工業国(NICS)に限らず,この地域の諸国の経済は急速に伸びてきており,域内,域外貿易は益々盛んになっている。米国にとりASEAN諸国の重要性も益々高まってきている。太平洋地域諸国の経済的発展は米国に大きな経済的影響を及ぼしている。
今世紀前半の米国の貿易はGNPの4%以下であったが,過去5年間に17%に達し,紀元2000年にはGNPの25%に達することになろう。米国経済の構成要素として貿易が発展し続けるにつれ,米国の外交政策において対外貿易政策及び国内経済政策の果たす役割は益々重要なものとなろう。
過去5年間,米国の東アジア及び太平洋地域との貿易は他のどの地域との貿易をも超えている。その上,同地域との貿易が米国の貿易に占める割合は,1982年の27.7%から1984年には約31%へと増加した。
米国の将来にとり,太平洋地域は,経済的,政治的,戦略的に極めて重要である。
(7)政治的成熟と経済的拡大により,太平洋地域は,世界で最も生産的な地域へと変貌するダイナミックなプロセスにあり,米国はこのプロセスに寄与するつもりである。
二国間関係の健全なネットワークの上に構築された多国間協力は,アジア・太平洋諸国が地域の平和と繁栄を増進するための一つの有望な手段である。米国は,太平洋諸国が経済的潜在力を引出し,域内諸国の強靭化に資する互恵的関係を築くようこれらの諸国と協力することをめざしている。太平洋協力の動きの起源は,多様であり,様々な考え方から生じてきている。しかし,域内協力の展望を探求したいという明確な希望が出現しており,米国は,オープンな態度と意欲的精神をもってこの展望を見ている。
米国の外交政策にとっての太平洋地域の重要性が増大しているとの認識の下,私はフェアバンクス大使に対し,この地域における協力の動きへの米国の寄与のあり方につき各国指導者の見解を聴取するよう指示したが,その取り敢えずの結果は有望であり,今後とも域内諸国と協力していくつもりである。
米国は,協力のプロセスがいかにあるべきかとか,その行きつくところはどこかといった点については,何ら既定の考えを有していない。米国は域内の一員として貢献することを望んでおり,域内協力のプロセスを支配したり,それを特定の方向に強いることを意図も希望もしていない。米国の目的は,他の域内諸国との協調的なパートナーシップを促進することであり,経済的協力の価値及び各々の利益を自由に追求するとの全ての参加国の権利の尊重という共通の信条に基づいて,域内諸国が平和裡に進歩することである。
1月の日米首脳会談において両首脳は,域内諸国の参加とコンセンサスのみによって,こうしたプロセスは進捗し得ることを再確認した。
(8)既に,力強い進展が,特に民間部門で繰り広げられている。民間の貿易・投資関係の増進はこの地域の経済的成功の鍵であり太平洋経済委員会(PBEC)等の組織はこうしたプロセスにはずみをつけている。太平洋経済協力会議(PECC)の設立とその進展は太平洋協力のペースを加速した。4月にソウルで開催されるPECC会議においては更に大きな進展が見られよう。
太平洋経済協力米国国内委員会は,単にPECCにおいてのみならず,域内協力全般における米国の役割に対し多大な貢献を行うものである。同委員会は民間のグループにとどまらなければならないが,政府はこれを奨励・支援していくことを保証する。
政府レベルの協力としては,昨年7月ジャカルタで開催されたASEAN拡大外相会議(6+5)で初めて討議され,手始めに「人造り」協力を行うこととなり,そのフォーローアップも進んでおり,米国は,この有望な企ての成功に寄与するために最善の努力をするつもりである。同会議の際,私は,太平洋協力は排他的なプロセスであってはならず,協力に寄与したい者は全てそうすることを奨励されるべきであるとの見解を表明し,他の出席外相から前向きの反応を得た。
(9)太平洋協力の動きは依然初期の段階にあり,最終的形態や方向を予測することは時期尚早であるが,各国の多様性,文化,遺産,伝統に鑑み,太平洋地域独自なものとなろう。
太平洋戦争終了後40周年を迎えるに当たり,我々が成し遂げてきたことを振り返り,未来を熟考することは当を得たことである。現在の太平洋協力の始まりが,調和,進歩および平和の時代という新しい時代の始まりとなることを希望する。